──平沢家
憂「お姉ちゃん、ただいま~」
「・・・・・」
憂「まだ寝てるのかな……」
憂「お姉ちゃん、入るよ~」
ガチャ
憂「!?」
憂「お姉ちゃんがいない!?」
憂「……まさか」
──琵琶湖
律「スゲー!マジで特撮映画の撮影現場みたいだ!!」
澪「いたるところにサーチライトがある……」
和「いったいどうやって捕獲するっていうの?」
紬「巨大ザリガニ専用のスルメを餌に特製の大きな釣竿で釣り上げて
そのままヘリで専用プールまで運ぶ予定よ」
梓「結構力技なんですね……」
紬「でもね、いくら巨大化したからってザリガニの本能には逆らえないはずよ」
律澪(なんだか失敗する予感がするな……)
和「ムギ、きっとそれじゃダメだと思うわ!!」
紬「!?」
律(さ、さすが和だ)
澪(私たちが指摘できないことを平然とやってくれる)
梓(そこにシビれる、あこがr)
和「唯がザリ太を捕まえた時は煮干だったのよ!!」
紬「な、なんですって!?」
律澪梓(そっちかいっ!!!!)
……
「ターゲットが現れました!!」
「よし、攻撃開始」
ズガガガガガガガガガガガ……!!
澪「な、なんか思いっきり銃とか撃ってるぞ」
和「捕獲優先じゃなかったの!? 話が違うわよ!!」
紬「わ、私にも何がなんだか……」
斉藤「お嬢様失礼したします」
紬「斉藤!!これはどういうこと!!」
斉藤「……あの巨大ザリガニは即刻処分しろとの旦那様からの命令でございます」
紬「お父様が!?」
斉藤「はい……」
紬「なんで?どうしてお父様が……!?」
斉藤「紬お嬢様。アレは唯様が飼われていたザリ太ではないのです」
紬「!? 斉藤! 詳しく説明しなさい!!」
斉藤「アレが研究され生み出された目的をご存知ですか」
紬「生きた巨大蟹看板の開発のためじゃないの?」
斉藤「それは表向きでございます。
本当は琴吹研のある研究員が軍事利用のために極秘に研究していたものなのです」
紬「そんな……戦争のため……ですって……!」
斉藤「もちろん、旦那様はその計画を破棄なさりました。
それを自分の能力を評価されなかったと逆恨みした研究員が
自分の研究資料を持ち出し
今の今まで某国の協力を得て地下に潜みながら研究を続けていたのです」
斉藤「旦那様はもし兵器としての巨大ザリガニがこの世に現れてしまったときのために
それ専用の特殊部隊を結成なさったりもされていたのです」
斉藤「しかしつい最近、琴吹家の諜報部がその研究員のアジトを突き止め捕らえました」
斉藤「その裏切り者の研究員の話によると、創り出したあの巨大ザリガニ
ヤツはザリーガーと言っておりましたが
今まで4体を実験のため、この琵琶湖に放したらしいのですが
なぜか帰って来なかったと申すのです」
和「まさか、ザリ太がそのザリーガーを!?」
斉藤「恐らくは……。ザリ太が研究所から逃げ出したのも、
その発達しすぎた知性で自分が軍事兵器になることを察したからでしょう。
そうはなるまいと、他の普通のザリガニ達と一緒に一生を過ごそうと決めた」
斉藤「しかし、目の前に煮干を釣り下げられ思わず掴んでしまい唯様に飼われることになった」
斉藤「ザリガニの悲しいサガにございます」
斉藤「ですが、唯様に愛情たっぷりに育てられたザリ太はいつの間にか
自分が兵器として生み出された事を忘れる」
斉藤「そして、琵琶湖に放されたザリ太は自分と同じ境遇の仲間と接触した」
斉藤「その仲間は最初から兵器としての役割を植え付けられていた」
斉藤「凶暴なザリーガーがもし市街地へ上がれば唯様も危険に曝される恐れがある」
斉藤「そう考えたザリ太は戦うことを決心したのでしょう」
和「そう言えば、2日前にザリ太に会ったとき、唯がザリ太の体はボロボロだって言ってたわ」
斉藤「戦いの傷……だったのかもしれません……」
……
律「急に物語が収束に向かいだしたな……」
澪「ああ。いきなり秘密が明るみに出すぎてついていけないぞ」
梓「もう私たちは話に参加する必要はないっぽいですね」
……
紬「そんな事があったなんて……。お父様からは何も聞いてないわ……」
斉藤「旦那様はお嬢様にいらぬ心配をかけまいとしたこのなのです」
斉藤「どうか、そのあたりを汲んでくださるようお願いいたします」
紬「……ッ!!」
和「今暴れているのはザリ太じゃないって言ってましたけど」
斉藤「捕えた研究員が最強の5体目を琵琶湖に放ったと言っておりました」
斉藤「今までのデータを参考に創り上げた最強のザリーガーを、と」
紬「そのザリーガーにザリ太は敗れた……」
斉藤「恐らくは……」
和「昨日、唯を襲ったのはザリ太じゃなくてザリーガーだったっていう訳ですね」
斉藤「はい」
和「じゃあ、ザリ太はもう……」
斉藤「ザリガニは共食いの習性がございます」
紬「斉藤。それ以上は言わなくてもいいわ」
和「そんな……」
律「なぁムギ。ところであっちの方なんだけど……」
紬「えっ?」
「ダメだ!!武器が全然効かないっ!!」
「隊長!!ヤツの進行を止められません!!」
「メーデーメーデー!」
澪「なんかヤバくないか……?」
紬「なんてこと……!?」
ヴィーン…ヴィーン…
梓「あ、憂からだ」
梓「……もしもし」
憂『あのね! お姉ちゃんがいないの!』
梓「えっ!?」
憂『私が帰ったら家にいなかったの! もしかしたらそっちに行っちゃってるかも』
梓「唯先輩がこっちに!?」
憂『うん! 私も今そっちに向かってるからもしお姉ちゃんがいたら……』
梓「分かった。唯先輩を捕まえとけばいいんだね!」
唯「ザリ太をいじめないでーーーー!!!!」ダーッシュ
梓「って言ってるそばからっ!?」
憂『……くっ!!』
「隊長。一般人が入り込んでしまいました!!」
「撃ち方やめっ!!」
唯「ザリ太ダメだよ、みんなに迷惑かけちゃ!」
紬「ダメよ唯ちゃん、それはザリ太じゃないのっ!!」
唯「へっ!?」
唯「じ~~~~~~~っ」
唯「本当だ!!ザリ太じゃないっ!!」
律澪梓「分かるんだっ!?」
ザリーガー「ぐわっ!!」
和「唯っ! 逃げて!!」
憂「お姉ちゃん!! でも距離が遠すぎる……!!」シュタタタタタ
憂「でも……この足が壊れてもっ!!」
憂「好き好き大好きお姉ちゃん大好きジャ~~~ンプ!!」びゅん!!
ザリーガー「ぐおぉぉぉぉぉ!!」
唯「きゃーーーー!!」
和「唯っ!!」
グァシャッ!!
唯「………!!」
ザリ太「ぐぐぐ……!!」
唯「ザリ太っ!!」
「巨大ザリガニもう一体現れました!!」
紬「生きてた……の」
澪「でも見るからにもう虫の息って感じだぞ」
律「唯を守るために来たんだ!!」
梓「あんな体じゃ戦えるわけありません!!」
憂「いえ、ザリ太がお姉ちゃんを想う気持ちはこの私にすら匹敵すると思います」
憂「だから、ザリ太はきっと負けません!!」
梓「憂!?いつの間に!? そして何を言い出すの!?」
和「そうね……正しい心を持ったザリ太が邪悪なザリーガーに負けるわけないわ」
律「和まで!?」
紬「立って……立つのよ!ザリ太っ!!」
澪「律、梓。ここではこれが正解なんだよ。きっと」
唯「ザリ太、私を助けるために?」
ザリ太「コクコク」
唯「でも、もうボロボロだよ!!」
ザリーガー「ぐをををををっ!!!」
ザリ太「!?」グギギギギギ
唯「ザリ太!ダメっ! それ以上やったら死んじゃうよ!!」
憂「ザリ太が最期の力を振り絞って立ち上がった!」
和「次の一撃で決まるわね……!!」
紬「ええ。どういう結果になっても私たちは見届けなければならないっ!」
ザリ太「くわっ!!」
ザリーガー「ぐおお!!」
グワシャッ!!!
憂「お互いのハサミがっ!?」
和「お互いの体をっ!?」
紬「貫いたっ!?」
律「これは最後まで立っていた方の勝ち……だな」
澪「律?」
梓「ザリ太……あの体で……見事と言う他ありません」
澪「梓までっ!? わ、私だって……」
ザリ太「………」
ザリーガー「………」フラッ
ザリーガー「ドッシーーーン!!」
澪「やった!ザリ太の勝ちだ。ザリ太の唯に対する気持ちが勝たせたんだっ!!」
紬「いえ、澪ちゃん、よく見て」
澪「へっ?」
ザリ太「……フラッ……ドッシーーン!!」
和「相打ち……ね」
憂「ザリ太……貴方のことは忘れないわ」
律「澪、戦いは最後まで解らないんだ」
梓「そうです、その心の緩みが己の死を招く事だってあります」
澪「くそっ……。なんなんだこいつらは……」
和「ザリ太はその身を挺して私達を守ってくれたのね……」キラリ
唯「ザリ太死なないで!!」
ザリ太「ギ…ギ…ギ…」ヒョイ
唯「カスタネット……?」
唯「ザリ太、私があげたカスタネットずっとお腹で抱えて持ってくれてたの?」
ザリ太「コクコク」
唯「また私と一緒にカスタネット叩きたいの?」
ザリ太「コクコク」
唯「……分かった。いくよ」
ザリ太「カタ♪カタ♪」
唯「うんたん♪」
ザリ太「カタ♪……カタ♪」
唯「うんたん♪」
ザリ太「……カタ♪」
唯「うんたん♪」
ザリ太「…………」
唯「……たん」
ザリ太「・・・・・」
唯「たん」
唯「たん」
唯「たん」
・
・
・
ザリ太「・・・・・」
その後もお姉ちゃんはずっとカスタネットを鳴らし続けました
でも、ザリ太のハサミはそのリズムを刻むことはありませんでした……
そして、月日は流れ半年後───
そこにはなんと軽音部の部室で元気にハサミをカチカチ鳴らすザリ太の姿がっ!!
ザリ太「もう、あんな無茶なことはしないよ」
おしまい
最終更新:2010年02月17日 01:16