田井中家前
律「澪さん、ありがとうございました」
澪「オバさんや聡には私から説明しようか?」
律「いえ、両親や弟には自分で説明しますので」
澪「そうか……じゃあ、私はこれで」
律「はい、明日もご迷惑おかけします」
澪「そうだ」
律「?」
澪「携帯に私のアドレスと番号が入ってる」
律「そう言えば、携帯を持っていました」
澪「何かあったら何でも相談してくれ。夜中でもいつでも、遠慮しなくていい」
律「はい、ありがとうございます!」
澪「じゃあ、また明日な」
律「はい、また明日……」
翌日、商店街
梓「まずは楽器屋さんに行ってみませんか?」
律「楽器屋さん……」
澪「ああ、よく行く場所だからな」
唯「レッツゴー!」
楽器屋
澪「ほら、よく来てる楽器屋だぞ? 何か思い出さないか?」
律「うーん……」
店員「いらっしゃいませ」
澪「いつもの店員さんだぞ」
梓「実はこの人が記憶を失ってしまって……」
紬「なにか治す方法を知らないかしら?」ニコッ
店員「(紬お嬢様の目が怖い……)」
紬「どうかしら?」ニコニコ
店員「(ヤバイ……答えなきゃクビって言いたげな目だ……)」
澪「あの、無理しなくて結構ですから」
店員「す、すみません!お役に立てなくてすみませんでした!」←土下座
澪「いえ、そこまで謝らなくても……」
紬「そうよ、ありがとう」
店員「(今日までありがとうって意味ですかぁぁぁ)」
チーン
澪「店員さん……なんかすごく落ち込んでるぞ?」ひそひそ
紬「きっと大丈夫よ。他のお店に行ってみましょ♪」
その後
梓「どこへ行っても律先輩の記憶は戻らず」
律「ごめんなさい……私のために……」
唯「そうだ! 私の家!」
澪「そう言えば、クリスマス会とかやったな」
紬「行ってみる価値はあると思うわ」
澪「よし、唯の家に行ってみるか」
平沢家
律・澪・梓・「おじゃましまーす」
憂「律さん、お姉ちゃんから話は聞いています」
律「憂さんにまで迷惑をおかけしてたんですね……」
憂「そこで、治す方法を調べてみたんです」
唯「ショック療法はダメだよ!」
憂「大丈夫。催眠術だから」
澪「催眠術?」
憂「律さん、この五円玉の先を見つめててくださいね」
ゆらゆら
憂「リラックスして……思い出してくださーい……」
ゆらゆら
憂「ゆーっくり……記憶を呼び覚ましてくださーい……」
律「……」
バタッ
澪「ゆ、唯!?」
唯「ZZZZZ……」
憂「もー、お姉ちゃんったらこんなとこで寝ちゃって♪ 毛布毛布♪」
梓「律先輩、思い出しましたか?」
律「いえ……何も……」
澪「ダメだったか……」
唯「ZZZZ……むにゃ……」
憂「ごめんなさい、お役に立てなくて……」
澪「気にしなくていいよ。それより、ありがとう」
紬「唯ちゃんは寝かせたままにしとこうか」
澪「そうだな。起こすのもかわいそうだ」
梓「ありがとね、憂」
憂「うん、私も応援してる」
律「あ、あの……」
澪「どうした?」
律「な、何でもないです……」
紬「?」
澪「じゃあ、また。唯のことよろしく」
律「……」
紬「でも、どうやったら記憶が戻るのかしら……」
梓「もう、いろんなこと試しましたよね」
紬「このままずっと戻らなかったら……」
澪「……なあ、これから私と律を二人きりにしてくれないか」
梓「二人きりに?」
澪「私と律は小さい頃からずっと一緒だから」
澪「二人だけの時間で思い出すこともあるかもしれない」
紬「……そうね。じゃあ、ここからは澪ちゃんに任せるわ」
梓「では、私たちはこれで」
澪「うん、二人ともありがとう」
律「これからどこへ行くんですか?」
澪「部室だ」
部室
澪「あれはお前がいつも叩いてたドラムだ」
律「ドラム……」
澪「座ってみてくれないか」
律「は、はい」
ドラムの椅子に座る律
澪「お前はいつもそこに座ってドラムを叩いてた」
澪「いつも走り気味でさ、力こめすぎて、みんなの調和を乱すんだ」
律「もうしわけないことを……」
澪「でも」
澪「みんな、律のドラムが好きだった」
澪「お前とは幼稚園の頃からの付き合いだけど」
澪「ほんとに迷惑ばかりかけれてたよ」
澪「ガサツでふざけてばかりで能天気で」
澪「人の嫌がることを嬉々としてやるんだ」
澪「ホントにどうしようもないヤツだったよ、お前は」
律「……」
澪「だけど……」
澪「私の……大切な……最高の……友達だ」
律「……」
澪「今までの思い出、全部忘れちゃったのは悲しいけど」
澪「それでも、律は律だよな」
律「……」
澪「まあ、思い出はゆっくり思い出していけばいいさ」
律「……」
澪「そうだ! 記憶が戻ったら、お祝いにみんなでワンダーパークへ行こう!」
澪「唯もムギも梓も……和も憂も誘ってさ、1日中、思いっきり遊ぶんだ」
澪「フリーパス買って……全部のアトラクション回って……」
澪「そうだ! お前が乗りたがってた超怖いジェットコースター、あれも付き合ってやる!」
律「澪……」
澪「だから……」
澪「私たちのこと……思い出してくれよ……」
律「……くすっ」
澪「……律?」
律「くす……くふっ…・・」
澪「り、律……?」
律「くっ……アハハハハハ!!!!」
澪「ど、どうしたんだ!?」
律「み、澪ったら! 真面目な顔で恥ずかしいこといっぱいしゃべって!」
澪「お前……記憶が戻ったのか!」
律「いや、戻ったっていうか……アハハハハ」
澪「お前……まさか!」
~~
2日前
ガターン
唯「りっちゃん!」
紬「大丈夫?りっちゃん」
律「いたた……(そうだ、ここで記憶がなくなったフリしたら面白いかも……)」
梓「よかった……血とかは出てないみたいですね」
澪「まったく、だから危ないと言っ……」
澪「えっ?」
律「ここは……どこ?」
紬「まさか……」
律「みなさん……誰ですか?」
一同「記憶喪失!?」
律「(ウヒヒ……上手くいった)」
律「(よーし、ちょっと遊んじゃえ)」
~~
律「それで! ウソって言い出すタイミングがわかんなくてさ! ハハハ」
~~
30分ほど前
紬「唯ちゃんは寝かせたままにしとこうか」
澪「そうだな。起こすのもかわいそうだ」
梓「ありがとね、憂」
憂「うん、私も応援してる」
律「あ、あの……」
澪「どうした?」
律「な、何でもないです……」
律「(どうしよう、どんどん言い出し辛くなってきた……)」
~~
澪「こんのバカ律!!!」
ボカボカ
律「ハハハ! ご、ごめん! 反省してるっ! ハハハ」
澪「何が反省だ! 涙目になるほど笑ってるくせに!」
ポカポカ
澪「みんなに迷惑かけて!」
ポカポカ
澪「みんなを心配させて!」
ポカポカ
澪「みんなを悲しませて……」
ポカ
澪「ほんとにお前は……大馬鹿だ!」
……
律「ハハ……だからゴメンって! すっごい反省して……」
澪「ぐすっ……」
律「……」
澪「ぐすっ…うぅ…」
律を抱きしめる澪
澪「本当に……よかった……」
律「……ゴメン、澪」
澪「ぐす……心配……したんだぞ」
律「うん、知ってた」
澪「もう二度と……心配かけないって約束しろ」
律「うん……約束するよ」
澪「絶対……だぞ」
律「うん」
澪「絶対の……絶対だからな」
律「うん……澪」
澪「何?」
律「ありがとう」
澪「……うん」
律「それと」
律「大好き」
翌日
律「いやー、みんなホントにゴメン!」
唯「もー、りっちゃんったら酷い!」
梓「みんなどれだけ心配したことか! ……グスン」
紬「でも、元通りになってよかったわ」
律「ところで澪、昨日の約束覚えてる?ホラ、ジェットコースターの話」
澪「さあな。忘れたよ」
唯「今度は澪ちゃんが記憶喪失!?」
梓「いや、違いますから」
律「何はともあれ、一件落着♪」
澪「まったく……」
バターン(ドアが勢いよく開く)
さわ子「りっちゃん!」
澪「さわ子先生!?」
さわ子「真鍋さんから話は聞いたわ! 記憶喪失なんですって!?」
律「いや、それは実は……」
さわ子「かわいそうなりっちゃん! でも、もう大丈夫! いいモノを持ってきたわ!」
律「いいモノ?」
さわ子「保健室の先生に調合してもらった、にが~~~~い漢方薬よ!」
律「げっ、何その色とにおい……」
さわ子「これを飲めばショックで何もかも思い出すわ! さあ、一気に!」
律「み、澪! 先生に説明を……」
澪「よかったな律! これで記憶が戻るぞ!」
律「ちょ……誰か!」
紬「よかったわね、りっちゃん」
唯「りっちゃん、ファイトで飲み干して!」
梓「グビっといっちゃいましょう!」
さわ子「さあ、口を開けて……」
律「ひっ……ひいいいい」
ゴクッ……
律「ぎょえええええええ!!!!!」
おわり
※
紅茶があると知っていたこと
聡と聞いて、すぐに弟だと言ったこと
会ったばかりの憂の名前を当てたこと
が、記憶を失っていないことの伏線だったりしました
最終更新:2010年02月18日 01:07