でもこれって、一週間もすればまた戻るんだろうなぁ

私はそれで構わないんだけど

何か  何だろう



一週間後


私のニンテンドーDSは無傷で生還し再び王者の座に君臨する

今度は授業中あんなヘマしないように教科書で隠すようにしよう

和ちゃんとの登校中の会話もこの日から再び打ち止めとなり

軽音部の楽しい会話もゲーム優先

だって好きなんだし仕方ないしどうしようもない

これは私の好きなものだから

やらざるを得ないのだ


「律先輩、部長としてガツンと一言やっちゃってくださいよ!」

「もうしらねー・・好きにさせとけ・・」


完璧に見捨てられたようなその言葉を聞いて

心がズキリと痛む

あれこれってどっかで感じたような気がするんだけど

なんで好きな事やっててこんな気持ちになるんだろう

部活はすぐ解散になった

律っちゃんがさっさと切り上げてしまったのだ

部室に一人残ってバトルタワーを昇り続ける

勝って勝って勝って勝ちまくって

1200連勝程した頃 ムギちゃんが戻ってきた


「どしたの?」

「・・・ここ1週間の唯ちゃんは、とっても素敵だった・・」

不安そうな面立ちで話を切り出すムギちゃん

ゲームやってる時は軽音部のみんなと会話する機会は殆ど無いのだが

中でもムギちゃんとの会話はまったくもって皆無である

勿論私はムギちゃんのことは嫌いじゃないしゲームやってなければ笑って話すし

お菓子は美味しいし感謝もしてる

でも現状では会話は無い

「私、ゲームとかしたことないから・・唯ちゃんがやってることがわからないの・・」

私の中で何かが風船のように膨らみ始める

来い来い来い来い 逃がさない


「唯ちゃんのやってるゲーム、教えてほしいな」

来た


その後はボクサーが引退試合最終ラウンド怒涛のラッシュを畳み掛けるように

語りに語りに語りに語った

最も合計種族値の低いヒマナッツの180は現状最高種族値を誇るアルセウスの

4分の1という貧弱な数値だが進化したキマワリのサンパワー発動時の特攻種族値172であり

命の珠装備かつトリックルーム発動時なら止まらない太陽神と化すがその環境を作り出すには

最低でも襷潰しのステロ捲きと天候変化とトリクル発動の手順を踏みかつ4ターン以内に

勝負を決するという天候パの厳しい制限を乗り越える必要があり戦闘参加時に天候変化を引き起こす

バンギラスカバルドンユキノオーグラードンカイオーガはその手順を一つ省略することを可能にするが故に

強力な存在であり特にカイオーガの開幕雨降らし眼鏡潮吹きはハピナスをも二発確定に追い込む作中最強の凶悪兵器

でも私は伝説嫌いだから使わないんだけどだったらどうするかって600族最強のドラゴンを使うんだよね

皆卑怯だとか厨ポケだとか言って使わないんだけどこの子には色んな事できるしやらせてあげたいし

何より強いんだから・・


その後も語りまくって

喉があり得ないくらい乾いたけど私は満足していた

しかし同時にムギちゃんが放心状態になってないか少し不安になって顔色を伺う

このゲームを軽音部に広めて澪ちゃんのポケモンと交尾する必要が無きにしも非ずというか必須なので

放心状態では困るのだ

「どう、素敵なゲームだよね?」

「えぇ、とっても」

想像以上に着いてきてくれている。流石ムギちゃんだ

正直自分でも長ったらしく語り過ぎた気がしないでもなかったので一安心


「つまり唯ちゃんは、ボーマンダなんだね」


「え」

何かよくわからないこと仰ってるけど説明が悪かったのかな


「唯ちゃん、才能あるもの・・音楽の才能、生まれ持った才能」

「それに加えて一番好きなものだった。今はゲームの下にあるけど」

「間違い無く唯ちゃんは才能と興味を兼ね備えてた」

何故か心臓がドクドクしてる

人に図星を突かれた時の、胸の内側が何かに刺されるような感覚 あれが少しずつ私を責め始めた

「でも私、今はゲームが一番好きだし・・・」

取りあえず何か言おうと思ったけど、出てこない

「今の唯ちゃんはボーマンダじゃないわ」

「特性を活かせず何をやっても中途半端」

「自分一人の世界に籠って」

「色んなもの捨てて」

「それを保留扱いしながら殻の中で迷惑も顧みず抜けだせない中毒のような遊戯に囚われてる」

「そしてそれを好きと言い張る」

言うならば・・・

「コモルー」


コモルー

特性石頭 覚える反動技は捨身タックルというドラゴンクローの完全劣化のみ

種族値だけ見ると防御が堅く見えるけど

特性を活かしたボーマンダの方が実質には頑丈かつ安定

見た目はただの殻

龍の蛹

私は悟った 悟ると同時に

枷が外れたような解放感と壁を突破したような爽快感が私を包む

私はどうしようもなく無意義な行動を続けていたのだ

私はゲームを好きと言いつつその好きなことをしながら皆を傷つけていた

好きなものが好きなものを傷つけていたわけであってそれに対し私は「好き」などという

仰々しい称号を与えることはできない

つまり私はゲームなんてやめるべきであり

コモルーは進化せねばならない



コモルーは

空を飛びたいと願い続けた結果

無敵のドラゴンに成ることができた




とりあえずニンテンドーDSを叩きつけて踏みつけて砕いてバラした

粉々にした後ゴミ箱へ突っ込んでおいて明日の掃除当番に処理を委ねる

「ムギちゃん、私、ボーマンダになるよ!」

「がんばって、唯ちゃん!」

傍から見たら間抜けな会話だけれど私にとっては超重要な決意であり

今この瞬間からまた音楽と憂と律っちゃんとムギちゃんと

あずにゃんと和ちゃんとさわちゃんとお父さんお母さんとギー太と音楽室と

マンガとケーキとアイスとその他お菓子諸々と

土曜日と日曜日とクリスマスとお正月と春休みと夏休みと冬休みと誕生日が1位に返り咲く

澪ちゃんは特別枠だ



何事も無かったかのように日常は戻った

つまり明らかに邪魔だったよね、あのゲーム

私は朝憂に起こしてもらってご飯を笑いながら食べて和ちゃんと一緒に前を向いて登校して

授業は無理のない範囲で聞きながら放課後のティータイムは食べて話して笑って感謝して

練習はめいっぱい本気で取り組んでそれをムギちゃんが褒めてくれてあずにゃんが喜んで

律っちゃんが関心してる横で澪ちゃんが嬉しそうな目で見てくれてるので心臓とか色々ヤバくて

もうゲームの中なんて馬鹿馬鹿しいこと言わずに今を生きるこの現実世界で

二人の子作り出来ないものかなぁなんて思いながら帰り道の星空を眺めてる



こうやって空を眺めていれば

いつかはまた ボーマンダになれるかな


おわり



最終更新:2010年02月19日 00:47