澪「ちょっ…律?どうしたんだよ?」
律「なんでもいいから!なんでもいいから思い出してくれ澪!」
澪「う、うーん…」
澪「…」
澪「…あ…れ…?何でだろう…思い出せない…」
律「…」
律「実は私もなんだ…。澪がさっき言った話以外、全く覚えてないんだよ」
澪「…どういう事だろう…」
律「…なあ澪…もしかしたら…覚えてないんじゃくて、本当は最初から何もなかったんじゃないか…?」
澪「え?…ど、どういう意味?」
律「だ、だからさ…」
律「私たちは…私たちは…!」
平沢家
唯(私の知らない歌…)
唯(私の知らない映像…)
唯(…)
唯(何が起きてるんだろ…)
唯(アニメキャラ…)
唯(まさかねー…)
憂「お姉ちゃーん!ご飯できたよー」
唯「あ、うん。今行く」
唯(憂…。そうだよ、憂だって子供の頃から一緒だし…)
唯(…子供の…頃?)
憂「いただきまーす」
唯「いただきまーす…」
憂「えへへ、今日は新しい味付けに挑戦してみたんだー♪」
唯「そうなんだ…」
憂「パク。…ん、おいしーい♪お姉ちゃんも食べて?」
唯「うん…」
憂「…お姉ちゃん?食欲ないの?」
唯「あ、そういうわけじゃないんだけど…」
憂「じゃあどこか具合悪いの…?」
唯「ううん、大丈夫。…ねえ憂…」
憂「なあに?」
唯「私たちって子供の頃何してた?」
憂「えっ…?どうしたの急に?」
唯「いやあ憂は何か覚えてるかなーって」
憂「…そうだなあ。クリスマスの時にお姉ちゃんがクッションの中身でホワイトクリスマス!ってやってたのとか」
唯「あははーそんな事もあったねー」
憂「あとはねー…うーん…」
憂「うーん…」
憂「…?」
憂「あれ?思い出せない…」
唯「…」
唯「私もね、憂との思い出が全然思い出せないんだよ…」
憂「お姉…ちゃん…?」
翌日
音楽室
ガラッ
紬「遅くなってごめんなさ…」
梓「やめてください律先輩!そんなわけないですよ!!」
律「…でももうそれしか考えられないだろ!」
澪「二人とも落ち着け。ここで言い争ってもなんにもならないよ…」
紬「え…?な、何?どうしたの?」
唯「ムギちゃん…あのね…」
律「ムギ!ムギにも聞きたい事がある」
紬「な、なあに?」
律「…」
律「なあムギ…ムギは…子供の頃…どんなだった?」
紬「え?子供の頃…?」
澪「…答えてくれムギ…。どんな些細な事でもいいから…」
紬「うーん…」
紬「…?」
紬「あれ…?思い出せないわ…」
唯「やっぱりムギちゃんも…」
紬「やっぱり?やっぱりってどういう事?」
律「実は私も澪も唯も梓も…子供の頃の記憶がほとんどないんだ」
梓「や、やめて…聞きたくないです…」ブルブル
紬「…?」
澪「なんていうか…思い出せないっていう感じじゃないんだ…元々記憶が存在してないっていうか…そういう感覚なんだよ」
紬「言われてみれば…確かにそんな感じがするわ…」
唯「それだけじゃないんだよ。ムギちゃんは桜高にどうやって入ったか覚えてる?」
紬「え?」
紬「……お、思い出せない…どうして…?」
梓「…うう…聞きたくない…」ブルブル
律「私たちも思い出せないんだ…」
唯「私以外のみんなは、お父さんとお母さんの顔もわからないの…」
紬「あ…!わ、私も…」
律「ムギ…昨日ネットに書かれてた事覚えてるか?」
梓「もうやめてくださいっ…!そんなわけないです…そんなわけ…」ブルブル
紬「私たちはアニメキャラクター…って話?」
澪「うん…」
律「私たちは…記憶がないんじゃない。元々私たちには幼少期も…親も…軽音部以外の過去はほとんど存在してなかったんだよ…」
梓「違う…そんな…そんなわけ…うぅ…」ブルブル
紬「…私たちはアニメのキャラクターで…架空の存在…て事…?」
澪「たぶん…ね」
紬「…でも、私もみんなも、現に今こうして存在してるわよ?」
澪「それは多分、実在する誰かが私たちを想像というか、描写というか…キャラクターとして動かしてるからだ」
唯「私たちは、数ヶ月ぶんのアニメ…「けいおん!」っていうらしいんだけど…そのためだけに作られた存在だったんだよ…」
梓「イヤ…!違う…違います!そんなわけないです!!」
紬「ま、まさかそんな…みんな私をからかってるの…?」
律「ムギ、この記事を見て」
【放課後ティータイム、アニメキャラ初のオリコン一位!!】
紬「…これは昨日の…」
澪「記憶にない歌、映像…これらは私達の存在…いや、私達という記号を使って作られたものだったんだ」
紬「…で、でも…」
唯「ムギちゃん、今日の朝ご飯はなんだった?さっき部室に入ってくる直前までは何してたの?」
紬「…」
紬「…わ、わからない…思い…出せない…」
紬「……」
紬「………そっか…」
紬「……私は…私たちは…誰かに表現されない限り、過去も現在も、自分自身さえも存在しないんだ…」
唯「うん…そういう事みたい…」
梓「やめて…もうやめてください…ぐすっ…」ブルブル
律「アニメの世界…「けいおん!」の世界は既に終わっているらしい」
澪「多分、今の私たちは、本物の私たちじゃない。誰かに定義された、二次的な存在なんだ」
紬「…」
唯「アニメは漫画を基にしているから、本当の私達は漫画の世界に存在しているみたいだよ…」
律「漫画自体はまだ続いているから、私達はそこで存在できる」
澪「今の私達と漫画の私達は、別の存在であると同時に、同じ存在でもあるんだ…記号みたいに、知覚する人々が「私達」と認識してくれればだけど」
紬「…そうなの…」
紬「…!」
紬「ね、ねえ、待って…!」
紬「漫画が終わって…いつか二次的にも、私達を表現する人がいなくなったら…私達はどうなるの?」
澪「多分、存在した痕跡だけが残って、消えるんだと思う…」
律「その時私たちは…もう歌う事もできない。練習をする事も、紅茶を飲む事も、こうして会話する事も…何もできなくなる…」
紬「………」
梓「う…うぅ…嫌だ…怖い…怖いです…」ガタガタ
唯「ムギちゃんごめんね…。私達もショックだったし…気付かなかったらそれはそれで幸せだったのかもしれないけど…」
紬「ううん…いいの。教えてくれてありがとう…」
律「梓…怖がらせるつもりはなかったんだ。わかってくれよ…」
梓「うぅ…」ガタガタ
紬「梓ちゃん、仕方ないわよ。人間はいつか死ぬの…。私達はそれがちょっと早かっただけ。人生が刹那的だっただけよ…」
唯「でも普通の人よりも幸せな時間ばっかりだったよ」
紬「そうね…楽しい記憶ばっかりだわ」
律「聡なんて映画に行った記憶しかないぞ」
澪「『けいおん!』の世界はほのぼのがウリらしいからな」
律「まー冒険とかできる世界でも良かったかなー。無人島とかさ!」
唯「『けいおん!』は日常系みたいだからねー」
紬「…梓ちゃん、元気出して?」
梓「うぅ…ム、ムギ先輩…」
紬「今の私達も…もうすぐ消えちゃうのかな?」
律「…たぶん」
唯「でも誰かが私達を描いてくれれば、また違う形で私達は存在する事が…生き続ける事ができるよ」
澪「そうだな。ゲロ吐いたりとかはゴメンだけど」
律「梓、私達が消えるって決まったわけじゃないんだ。この世界の私達は…世界の法則に気付いてしまったけど、次はきっともっと幸せな世界になるよ」
梓「律…先輩…」
律「でもやっぱり凹むよなー。澪なんて昨日電話で泣きまくって大変だったよ」
澪「だ…だって…。ていうか律もすごい剣幕で電話してきただろ!」
梓「…」
梓「…すいませんでした…取り乱しちゃって…」
唯「気にしないであずにゃん!」
唯「でもさー少しでも私達が長く存在するには…どうすればいいんだろう…?」
梓「…」
梓「オリジナルの私達が復活すれば…いいと思います…」
律「なるほど。それは確かにそうだな。そうすりゃみんなが私達をより長く覚えててくれるし」
唯「そうだね。もしかしたら新しい記憶が生まれるかも!」
澪「…」
澪「…そうだ…。みんな、パソコン室に行こう?」
パソコン室
唯「ねえねえ澪ちゃん、何するの?」
澪「私達はどう足掻いても表現の通りにしか動けない。今の私も多分そうだ。現実を動かす事はできない」
澪「でもただ消えるよりは…。だから…書き込むんだよ」
紬「もしかして2ちゃんねるに?」
澪「ああ。昨日見たスレッド…あれが今の私達の世界だ。だからあそこに書き込むんだよ」
梓「なんて書き込むんですか?」
律「ははーん、わかったぞー」
澪「…よし、じゃあ書き込むぞ。半角キーでひらがなにして…と」
カタカタカタカタ
335 :放課後ティータイム:2009/07/29(水) 20:52:19.82 ID:nNLGoYJm0
私たちはみなさんのおかげで…みなさんの力があって初めて存在できます。
だからもし良かったら、これからも私達を応援してください。
私達を思い描いてください。
私達の世界に来たいって人もいるみたいだけど、
私達を好きでいてくれる人達までこっちに来ちゃったら、
私達を描いてくれる人が…私達を生かしてくれる人がいなくなってしまいます。
願わくば「けいおん!二期」をお願いします。
私達に、生きる世界をください。
それを叶えられるのは、現実に生きるみなさんだけです。
私達のこれからをよろしくお願いします。
[[秋山澪]]
[[田井中律]]
[[平沢唯]]
[[琴吹紬]]
[[中野梓]]
完
最終更新:2010年01月22日 15:54