真夜中!
唯「Zzz……」
澪「おい、唯。起きろ」ユサユサ
唯「はっ……!!」
唯「澪ちゃんどうしたの…?」
澪「これを付けてくれ」
唯「なにこれ……?」
澪「暗視スコープだ。これがあれば夜でも外が昼と同じに見える」
澪「あと、これも」
唯「これは……?」
澪「麻酔銃だ。律の姿を視認出来たら躊躇なく撃つんだぞ」
澪「間違って私やムギを撃ったりしないでくれよ」
唯「なんでこんなものを……?」
澪「律の姿がさっきから見えないんだ。多分、私達を殺す準備をしているんだと思う」
唯「………!!」
軽音部の合宿だから律ちゃんは私達を殺そうとはしない。
そう考えていた時期が私にもありました。
澪「ムギとは森で落ち合う事になってるから」
唯「な、な、ななな……!!」
澪「くれぐれも私とはぐれないように」
澪「しっかりと着いてきて
ドゴォォォォン!!!
唯「!?」
澪「始まったな……。唯、こっちだ!!」
そう言って澪ちゃんは私の手をとり、走り出しました。
唯「澪ちゃん、どっ、どっ、どこに行くの!?」
澪「森に隠れる。姿を隠さないといけないからな」
森の中!
唯「(なんでこんな事に……)」
澪「しっかり私に着いてきて」
唯「う、うん……!!」
ガサガサッ!!
澪「律かっ!?」
紬「待って!澪ちゃん」
澪「なんだ、ムギか……。無事だったんだな 」
紬「ええ、なんとか」
紬「さっき、律ちゃんと戦闘になったわ」
紬「律ちゃんはもう森の中にいるみたい……」
澪「そうか…、唯、防弾チョッキは着てる?」
唯「ごめん、急いでたから着てない…」
紬「じゃあ私のを使って?」
唯「いいの?ムギちゃん」
紬「ええ。私にはもう必要ないもの」
唯「どうして……?」
紬「さっき、律ちゃんに銃で撃たれたんだけど、弾丸がゆっくりに見えたの」
紬「だから、全部弾き落とす事が出来たわ」
唯「…………!!」
どうやら澪ちゃんだけでなく、ムギちゃんにも銃は効かなくなったみたいです。
唯「(ど、ど、どうしよう……!!)」ガタガタ
唯「(この三人の中で真っ先に殺されるのは確実に私だ……!!)」
私は震えが止まりませんでした。
澪「はは、大丈夫だよ、唯」
澪「律は夜戦があんまり得意じゃないんだ」
澪「だからよっぽどの事が無い限り、殺されはしないと思うよ」
澪「多分……」
唯「(そこは断言して欲しかった……)」
澪「それじゃあ二手に別れよう。一ヶ所に固まってると狙い撃ちされるからな」
澪「ムギ、また後で会おう」
紬「ええ。またね、澪ちゃん、唯ちゃん」
そう言って、ムギちゃんは森の奥へと消えて行きました。
それから私と澪ちゃんは、律ちゃんの攻撃を受け続けながら森の中をさまよいました。
唯「(足が痛い……、もう帰りたいよぉ……)」
澪「もうすぐ夜明けだ。唯、あと少しの辛抱だからな」
唯「うん……」
澪「唯、ちょっとここで待ってて」
澪「罠が仕掛けられてないか確認して来るから」
唯「うん…、分かった」
そう言って、澪ちゃんは先に進んでいきました。
その時です。
ドガァァァァン!!!
澪「襲撃だっ!!唯っ!!逃げろっ!!!」
唯「え……、え……!?」
澪「早く逃げろ!!逃げないと死ぬぞ!!!私はここで律の相手をするから!!」
唯「いっ、いやぁぁぁぁ!!」
私は叫びながら森の中を走りました。
唯「(早く逃げないと…!!遠くへ……!!!)」ハァッ、ハァッ
私は途中で転んだりしながらも、懸命に走りました。
唯「ハァ、ハァ……!!」
唯「(ここまで来れば、大丈夫だよね……)」
唯「って、あれ…?ここ、どこ……?」
私は一人で暗い森の中を歩き続けました。
唯「うぅ…、さっき転んだ時に暗視スコープ落としちゃったから何も見えないよ……」
唯「澪ちゃんともはぐれちゃったし……」
唯「どうしよう……、今襲われたら死んじゃう……」
ガサガサッ!!
茂みが音を立てて揺れました。
唯「だっ、誰……!?」
唯「澪ちゃん……?それともムギちゃん…?」
唯「お願いだから返事をしてよ……」
その時、私の背後で声がしました。
律「唯、見ーつけた♪」
唯「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
唯「いやぁぁぁぁ!!律ちゃん、やめて、殺さないで!!」
律「ごめん、それ無理」
唯「うわぁぁぁぁ!!」バンバンバン!!
私は律ちゃんに向けて麻酔銃を撃ちました。
けれども私の腕が震えているせいなのか、一発も当たりません。
カチャッ、カチャッ!!
唯「(た、弾切れ!?そんな……!!)」
律「弾がもう無くなったみたいだな」
律「じゃあ観念しろって」
唯「ああ…、あああ……」
澪「唯っ!!伏せろっ!!」
唯「澪ちゃん!?」
ガキィィィン!!
澪「唯っ!!ここは私に任せて早く逃げろっ!!」
澪ちゃんが日本刀で律ちゃんに切りかかりました。
律「澪……!!邪魔すんなよ!!」
澪「ぐっ……!!」
ガキィン!!ガキィン!
澪「逃げろっ!!唯っ!!!」
唯「う、うん……!!」
律「隙ありっ!!」
澪「しまっ……!!」
ドゴッッ!!
唯「澪ちゃん!!」
澪「ぐっ…、はっ……!!」
澪「ゆ……い…、逃げ…ろ…」バタンッ
唯「(澪ちゃんが、律ちゃんにやられちゃった……!!)」
律「さーて、邪魔者もいなくなった事だし、ゆっくりできるな。」
そういって、律ちゃんは私にだんだん近づいてきました。
唯「(あわ、あわわわわ……!!!)」
唯「(腰が抜けて、立てない……!!)」
唯「や、やめて!!殺さないで!!」
律「だからさっきも言っただろ?無理だって」
唯「………!!」
唯「(もう……駄目だ…!!)」
私は思わず目を瞑りました。
―――バキッ!!!
唯「(………あれ?)」
唯「(痛く……ない……?)」
私が恐る恐る目を開くとそこには
唯「ムギちゃん!!」
紬「よかった…。間に合ったみたいね」
ムギちゃんが目の前にいて、律ちゃんが倒れていました。
唯「ムギちゃん、澪ちゃんが!!」
紬「大丈夫、澪ちゃんも律ちゃんも気絶してるだけよ」
唯「そうなんだ……、よかった……」
唯「うっ、ううっ、ムギちゃぁ~ん!!」ダキッ
私は泣きながらムギちゃんに抱きつきました。
紬「よしよし、よく頑張ったわね唯ちゃん」ナデナデ
唯「怖かったよ~~!!うわぁぁ~~ん!!」
そうして私はひとしきり泣いた後、ムギちゃんと一緒に森を出る事にしました。
澪ちゃんはムギちゃんがおぶっています。
唯「夜明けだ……」
空が白み初めて来ました。
唯「生きててよかった……」
唯「ムギちゃん、私、こんなに夜明けが嬉しかったのこれが初めてだよ……」
紬「ええ、私もよ」
澪「う、う~ん」
澪「はっ!!ゆ、唯は無事か!?」
澪ちゃんが目を覚ましました。
唯「私もムギちゃんも無事だよ、澪ちゃん」
唯「ムギちゃんが私の事助けてくれたんだ」
澪「そうか……。よかった」
澪「それにしても律の奴、また強くなったみたいだ……」
澪「唯に気を取られてたとはいえ、私が気絶させられるなんて……」
そして、私達は別荘に戻り、ムギちゃんが作ってくれた朝ごはんを食べました。
ただのおにぎりと味噌汁があんなに美味しいものだとは知りませんでした。
唯「(つ…、疲れた……)」
唯「(でも生きててよかった……)」
唯「(これでやっと帰れる……)」
月日は流れ、学園祭も無事、成功を収めることが出来ました。
相変わらず私達は律ちゃんから命を狙われています。
澪ちゃんが私の事をかばって2tトラックにひかれたり、
紬「左足の複雑骨折。全治2ヶ月だそうよ。」
澪「ミスちゃったよ。まさかあんな手を使ってくるとは思いもよらなかった」
唯「(なんでトラックにひかれたのに骨折だけですんだのかな……?)」
ムギちゃんが青酸カリを紅茶に入れられて入院したりしました。
澪「よかったな~、あの場に私達がいなかったら結構危なかったぞ」
紬「ええ、カップはしっかり洗ったと思ったのに……」
紬「油断しちゃったわ」
唯「(あの紅茶の中に青酸カリが入っていたとしたら、ムギちゃんは全部飲んだんだから完全に致死量越えてるはずなんだけどな……)」
それから2年が経ち、私は卒業の日を向かえました。
唯「もう卒業かぁ……」
唯「あっという間だったな……」
私は刀をもって、音楽室で律ちゃんを待っています。
―――バァン!!
音楽室の扉が勢いよく開きました。
律「……ここにいたのか」
唯「律ちゃん、待ってたよ」
律「唯……、あとは唯だけなんだ」
あずにゃんは1ヶ月前に、ムギちゃんは2週間前に、澪ちゃんは一昨日、律ちゃんに殺されてしまいました。
私の持っている刀はムギちゃんの遺品で、律ちゃんの持っている刀は澪ちゃんの遺品です。
唯「律ちゃん、一つ聞いてもいい?」
律「何?」
唯「律ちゃんはなんで仲良くなった人を殺したくなるの?」
律「なんでだろうな……。私にも分かんないや……」
唯「そう……」
律「でも確実に分かる事が一つあるよ」
唯「何それ?」
律「私がその人を殺したいって思うのは、私がその人が好きで好きでたまらないからなんだ」
律「私は梓もムギも澪も大好きだった」
律「だから、殺したんだ」
唯「そうなんだ……」
私は刀の柄に手をかけました。
律「唯……」
唯「……何?」
律「私、唯の事大好きだよ」
唯「……私もだよ、律ちゃん」
律ちゃんも刀の柄を握りました。
律「…………」
唯・律「うおおおおお!!!!!」
私達の戦いはまだ始まったばかりだ!
完
最終更新:2010年02月20日 00:29