憂が死んだ…
さっきはあれほど『繰り返してほしくない』と思っていた金曜日に『またきてほしい』と唯はおもった。
―――その時だった。
『また金曜日をくりかえしたいのか?』
唯(なにこれ?頭の中に直接語りかけてくる…)
唯「気のせいだよね…」
唯(きっと私、憂が死んで疲れてるんだ…)
『また、金曜日を繰り返したいんじゃなかったのか?…』
唯「!?」
唯「あなた誰なの!?というか、また繰り返すって…?」
唯「ねぇ!答えてよ!」
『わたしは…そうだなセカイとでも言っておこうか』
セカイ『お前が望むなら、また金曜日を繰り返させてやろう…』
唯「ねぇ!憂は!?」
唯「もしまた繰り返す世界にもどったら、憂は…憂は生き返るの?」
セカイ『そうだな、また9月18日金曜日の朝に世界を戻すことができる。もちろん
平沢憂も"生き返る"』
セカイ『ただし…』
セカイ『お前の記憶はリセットされない』
唯「私の記憶がリセットされないって?」
セカイ『つまり、お前は毎日がくりかえされると知りながら、同じ日を生き続けるのだ』
唯「…っ」
セカイ『さらには、お前は9月18日どおりの生活をする必要がある。』
セカイ『まわりに気づかれて、お前と同じ苦しみを与えたくないだろ』
セカイ『まぁ、じっくり考えるんだな…。』
それから数日が過ぎた。
正しくは、数日が過ぎたように平沢唯には感じられた。
それほど唯は悩んだ。
唯「わたし、憂が生き返るなら…同じ日でもいい」
唯「一緒に…憂と一緒に生きるじかんがほしい」
セカイ『わかった。だが、本当にいいんだな?』
唯はただうなずいた。
セカイ『お前の親しい人間の未来を潰すことになるが…』
覚悟は決まっていた。
唯「お願いします…」
セカイ『では、目をとじるがよい』
―――りっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん、さわちゃん、和ちゃん、みんなごめんね…
チュン チュン…
唯「う…朝かぁ」
唯は気がつくと自宅のベッドに寝ていた。
唯「夢だったのかな…?」
すると、ずっと聞きたかった声が聞こえた…。
憂「お姉ちゃん、起きて~」
唯「(憂よかった…生き返って)」
唯はいまにも涙を流して、憂に抱きつきたい気分だったが、必死で自分の気持ちをこらえた。
憂にここがくりかえされる世界だということを悟られないためだ。
唯「(憂にこんなつらい思いをさせるわけにはいかないもんね)」
唯「(それにしても、あの声はなんだったんだろう…)」
唯「うぃ~、おはよう」
憂「おはよう、お姉ちゃん」
憂「今日文化祭でライブやるんでしょ!頑張ってねぇ~!」
唯「うん、絶対成功させるよ~」
唯「じゃあ行ってくるね~。」
こんな普通の会話でさえ唯とっては、とてもうれしかった。
学校
1-3
唯「おはよう」
女生徒2「おはよう唯」
女生徒1「おはよう」
女生徒4「唯ちゃん声ガラガラだね~」
女生徒2「大丈夫なの?今日のライブ」
唯「あ、うん私コーラスだから~」
女生徒2「ボーカル誰なの?」
唯「澪ちゃんだよ~」
友達「あ、ねぇねぇ唯!これ着てみてよ」
唯「(やっぱり、くりかえされる世界に戻ってきたんだ…。)」
その後、和がきて教室を抜け出し
音楽室
律「またせたなー!澪ー!」
紬「一人にしてごめんなさい」
唯「私達も練習するよ~」
澪「お、おそいぞっ」
さわ子「みんなー衣装を作ってきたわよ!」
唯「(りっちゃんも澪ちゃんもムギちゃんもさわちゃんもいつもどおりだ)」
唯「(でもよかった、みんなはこの世界がくりかえされることに気付いてないみたい)」
その後ライブは無事成功におわり(澪は転んだ)唯は帰宅した。
唯「ただいまぁ~!」
憂「お姉ちゃんお帰り~文化祭どうだった?」
唯「うんもう大成功!澪ちゃんもボーカルすっごく頑張ってくれてさ~」
憂「よかったねお姉ちゃん!私も見に行きたかったなぁ」
唯「憂も来年は桜ヶ丘に入って見に来てよ~!」
憂「うん!頑張って合格して絶対見に行く!」
唯「えへへ~」
夜
唯の部屋
唯「(はぁ…。なんか疲れたなぁ)」
唯「(でも、憂のためだもんがんばらないと)」
唯「(私は憂といられるだけで幸せなんだ…。ほとんど同じ内容しか話さなくとも…)」
唯は眠った。
「どうか明日が9月19日土曜日で、憂と幸せな日常を過ごせますように」とわずかな希望をこめながら。
しかし、その希望は届かなかった。
翌日もその翌日も同じ9月18が繰り返された。
そして、30回ほど9月18日が繰り返されたころ…
平沢家
朝
唯「おはよう、憂」
憂「お姉ちゃん…」
憂「お姉ちゃん、もうがまんしなくていいんだよ…。」
唯「…」
憂「お姉ちゃん、もうがまんしないで!」
唯「な、なんのこと?」
唯はだれにもきづかれないように最大の努力をしてきた。
自分以外の人にはこんな日々をおくってほしくなかったからだ。
だが、くりかえされる世界の中で唯の神経の衰弱は妹の前では隠せなかった。
いや、正しくは…
憂「この世界が、9月18日が繰り返されてること、お姉ちゃんも気がついてたんでしょ!?」
唯は耳を疑った。憂はたしかに『お姉ちゃんも』と言ったのだ。
もしかして憂はずっと前から気付いていたのだろうか。
唯「憂、きっと夢だよくりかえされる世界なんて」
唯「ほら、正夢っていうじゃん、ははは…」ガシッ!
憂は唯を抱きしめ
憂「もう私、つらそうなお姉ちゃん見てられない!」
憂「どうして?どうして世界がくりかえされること隠すの?」
唯はもう涙をがまんできなくなっていた。
唯「ううっ…辛かった…」
唯「この世界には私しか生きていないような気がして…」
唯「ううっ…ううっ…」
涙が止まらない。
憂「お姉ちゃん…。私も私も生きてる気がしなかったよぅ…」
なかなか、泣かない憂も泣き続けていた。
何時間泣いたのだろう。
この日初めて唯は学校を休んだ。
その夜
平沢家
憂の作る夕食は、いつもより数段美味しく感じられた。
久しぶりに憂と一緒にお風呂に入った。
風呂
唯「ねぇ、うぃ~」
唯「憂はいつから気がついてたの~?」
唯は気軽にこの質問をした。
憂「えっとね~。15000日くらいまえかな~?」
唯「えっ!?」
おかしい、おかしい。
何かがおかしい。
あれ私がセカイと会話してから、1ヶ月くらいしかたってないはず。あれ?
憂は続けて話した。
憂「でもね」
憂「でもね。お姉ちゃん」
憂「明日でこの毎日もおわるよ」
憂「いや、今度こそ終わらせる」
憂「お姉ちゃん、今日はありがとう」
憂「楽しかったよ…」
唯は直感的に悟った。
これじゃくりかえされる。
この世界のおわりが。
憂が死ぬことで…
唯「まって憂!」
唯「私から離れないで!」
唯「私の話を聞いて!」
唯「あなたセカイを知ってるの?」
憂「!?」
憂「お姉ちゃん、なんでそれを…」
唯「なんで、なんで記憶があるの?」
憂「え?何いってるの、お姉ちゃん」
憂「この世界は繰り返されたままじゃない」
憂「とても前から」
唯はセカイの言っていたことを思い出した。
セカイ「平沢憂を『生き返らせる』ことはできる。」
そうか、憂は生き返ったんだ。
死んだ記憶は残したまま。
くりかえされる世界の中で。
最終更新:2010年02月23日 02:22