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米澤「初めまして、憂さんとお付き合いさせて頂いております、
    米澤と申します、よろしくお願いいたします」

憂「そんな丁寧に挨拶しなくて良いよ。
  ほら、こっち来て。お姉ちゃんも」

米澤「おじゃまします」

唯「う、うん……」



リビング。

憂「……で、昨日の続きなんだけど」

唯「うん」

米澤「……」

憂「私は米澤さんと結婚するから、
  もうお姉ちゃんの面倒は見られません」

唯「うん」

憂「……?」

米澤(……おい憂、お姉さんワガママで横柄だって言ってたけど、
    ずいぶんおとなしいじゃないか)

憂(う、うん……昨日は凄かったんだけどね……
  多分あなたがいるからだと思うけど)

唯「憂?」

憂「あ、いや、なんでもないなんでもない」

米澤「……憂さんは、私と一緒に暮らすことになります。
    ですから、憂さんはもうお姉さんとは一緒にはいられません」

唯「うん」

憂「だからお姉ちゃんは自立して。
  なんでもいいから仕事見つけて、
  自分ひとりの力で生きて行けるようになってよ」


憂「私は私の人生を歩むから」

唯「……」

憂「お姉ちゃんも自分の人生を進んでよ」

唯「……」

憂「……」

米澤「……」

唯「……」

梓『練習すればきっと結果はついてくるから。
  頑張りなさい』

唯「……」

律『馬鹿、仕事もしない人間が生きていけるほど
  社会は甘くねえんだよ」』

唯「……」

紬『この世界において、働かない人間は死するのみです。
  分かっているのですか!』

唯「……」

澪『いえ、親にはずっと迷惑ばっかりかけてきましたから……
  それくらいしないと』

唯「……」

憂「お姉ちゃん」

唯「…………でも……」

憂「でも?」

唯「……どうしたらいいか分かんないよ」

憂「どうしたら、って?」

唯「何も分かんないよ……
  どうやって仕事を見つければいいのか、とか……
  どうやって応募したらいいのか、とか……
  どうやったら採用されるのか、とか……」

憂「……」

唯「どんな仕事が自分に合ってるのか、とか
  自分にできる仕事なんてあるのか、とか」

米澤「……」

唯「このままニートでいたらどうなるのか、とか
  ニートから脱するとしてどうするか、とか
  自分の将来とか……」

憂「……お姉ちゃん」


何も分からなかった。
分かろうとしなかった。
分かりたくなかった。
ただひたすら時間を無駄するだけの人生を送ってきた自分が、
これからどんな将来に向かっていくのか。

社会に出て、
自分を試されることが恐ろしかった。
今までのすべてを冷酷に否定されるような気がして。
もう絶望しか与えられない気がして。

唯「だから……開き直ってニート生活に徹するしかなかった」

憂「……」

米澤「お、お義姉さん、なんですか、自分を正当化しようとして……!」

憂「あなたはちょっと黙ってて……!
  お姉ちゃん、話して。
  ぜんぶ聞いてあげるから」

唯「私だって……働きたくないわけじゃないよ」

憂「……」


唯「あずにゃんみたいに、
  みんなから愛されたいし」

憂「うん」

唯「和ちゃんみたいに
  デキル女って感じになりたいし」

憂「うん」

唯「ムギちゃんみたいに100億稼ぎたいし」

憂「うん?」

唯「りっちゃんみたいに家庭も持ちたいし」

憂「うん」

唯「澪ちゃんみたいに……」

憂「澪さんみたいに?」

唯「……いや、なんでもない」

米澤「……」


唯「でも私には無理だよ……
  私なんて社会に出ても、採用すらしてもらえないよ……
  こんな職歴なし学歴なし資格なしの30歳なんて」

憂「そんなことない……やってみなきゃ」

唯「やってみてダメだったらどうするの!?
  『要らない人間だ』って烙印を押されて……
  お前はもう社会に出るなって言われたらどうすればいいの……」

憂「そうだね、確かにショックかも知れない……
  私も会社で言われたよ、『お前なんかもうこなくていい』って」

唯「……憂はいいじゃん、仕事できるんだし、
  それで取り返せるじゃん」

憂「そうだよ、私はマイナスになった分を取り返さなきゃいけないんだよ。
  でもお姉ちゃんは?」

唯「?」

憂「面接に落ちて失うものは何かあるの?
  ないでしょ?」

唯「……」


憂「面接に落とされるのはショックだけど、
  そんなの数をこなせば慣れるもんだよ。
  私も就活の時に何十回と落とされたけど、
  最後の方はもうお祈りメール見ても鼻で笑えるようになってたよ」

唯「嘘だ、切羽詰ってたクセに」

憂「そうだったっけ……?
  でもまあとりあえず、
  何でもいいから一歩踏み出してみないとなにも変わらないよ」

唯「……」

憂「私はもうお姉ちゃんの面倒見ないって言ったけど、
  お姉ちゃんが就職するために頑張るなら、
  いくらでも応援するよ」

唯「……」

憂「だから、ね」

唯「でも……怖いよう」


憂「お姉ちゃん……」

唯「働くのも怖いけど、
  このままずっとニートでいるのも怖いよ……
  どうしたらいいのかもう分かんないよ……
  憂ぃ……」


そうだ。
よく考えてみれば、
ずっと誰かに縋って生きてきた。
子供のころは和ちゃんに、
高校時代は軽音部のみんなに。
そして大人になってからは憂に。

「一人で生きる」なんて、今まで経験がなかった。
憂がいなくなる。
一人になる。
自分ひとりで生きていかなくてはならなくなる。
それがどうしようもなく怖かった。

唯「嫌だよう……怖いよ……」

憂「……お姉ちゃん……」

米澤「お義姉さん!!」


唯「!?」

憂「ちょっと……」

米澤「いや、言わせてくれ。
    俺も……俺もそうだったんだ!
    大学時代、自分に自信が持てなくて、
    自他共に認めるダメ人間で……
    当然ながら就活でも負け続きだったっ!!」

唯「はァ」

米澤「そして、ついに採用された会社で、
    俺は……憂と出会ったんだ!」

唯「……」

米澤「一目惚れだった」

憂「ぶっ」

唯「ほほう」

米澤「俺は憂とお近づきになりたかった!
    しかし今の自分のままではダメだと自覚していた!
    俺みたいなダメ人間では無理だとわかっていた!」

憂「ちょ、ちょっと……」

米澤「俺は仕事でも失敗続きで、
    上司に怒られる度に憂から哀れみの視線をもらった!
    それが俺には悔しかった!」

唯「へえ」

米澤「俺も仕事が怖かった、社会が恐ろしかった!
    その恐怖は日々増していった!
    しかし俺は負けなかった。
    憂を手に入れると言う目標があったからだ」

唯「はあ」

米澤「だからお義姉さんも、
    何か目標を持てばいい。
    それに向かってまっすぐ突き進めば、
    恐怖など敵ではありませんよ」

唯「……目標か……」

米澤「そして俺は憂を手に入れて!!
    こうして結婚にまでこぎつけた!!
    憂!! 愛して……ぐはっ!!」

憂「それ以上恥ずかしいこと言うな!」

唯「目標、か……」



澪『え、はい……私、ずっとひきこもってて、
  人前に出るのが怖かったんですけど……
  でも、今はもう大丈夫です。
  将来はどうなるかわかんないですけど、
  今はこのバイトでお金貯めて、
  親に恩返ししようかなって』

澪『いえ、親にはずっと迷惑ばっかりかけてきましたから……
  それくらいしないと』


唯「……」

憂「お姉ちゃん?」

唯「憂……」

憂「なあに?」

唯「……私にもできる仕事って……何かな」

憂「お、お姉ちゃん……!」

唯「憂……私、頑張るよ……
  まだ社会は怖いけど……」

憂「うん、うん……」

唯「まだ憂に迷惑かけるかも知れないけど……
  私……私……!」

憂「お姉ちゃんっ……!!」だきっ

唯「憂~!」

憂「お姉ちゃん……!」

唯「憂……ごめんね、今までごめんね……」

米澤「うんうん」

――
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和「あ、もうニートじゃなかったわね」

唯「そうだよ、まったくもう」

和「まさか本当に働き始めるとは思わなかったわ。
  いつまでも憂に頼って生きて行くのかと」

唯「もー、そんなわけないじゃん!
  今の私は、立派なフリーターなんだから!!」

和「誇らしげに言うことじゃないわよ。
  ……っと、そろそろ子供を幼稚園に迎えに行かないと」

唯「そうだ、私ももうすぐバイトだった。
  じゃねー、和ちゃーん」

和「はいはい、またね」



ねぇ、私、あの頃の私、心配しなくていいよ。

すぐ見つかるから。

私にもできる仕事が、夢中になれる仕事が。

大切な大切な大切な、大切な目標が。


唯「平沢唯、ただいま出勤いたしました!!」








        おわり



最終更新:2010年03月02日 01:07