全員無事を確認している時、
遠くから響鬼が走ってきた。


響鬼「おーい!皆ー!」

轟鬼「響鬼さぁん!」

響鬼「派手にやられたねー。で、澪ちゃんは?」

威吹鬼「大丈夫です。律ちゃんが助けてくれてたんですよ。」

響鬼「ええ!?」

律「へへ、えへへへへ。」

苦笑いを続ける律に唯と紬が駆けより、
再開を喜び合う。

律「そうだ、澪!澪は?」


澪の周りには硬い根が這っており、
それが澪を捉えていたが、
鬼達の力によって事無きを得た。


響鬼「さて……この森を放置してるとまたコダマ湧いてきちゃうからねぇ。潰しておかないとなぁ!」

斬鬼「じゃあ、ここは響鬼に任せた。俺達は琴吹さんの所でフォローしてくるから。」

響鬼「はいっ!よし…やるかぁ!」




唯「りっちゃん、澪ちゃん、大丈夫?」

律「私は全然平気だよ。それより澪は……。」

澪「怖かったー!すごい怖かったー!」

律「この分なら大丈夫そうだなー。」

澪が連れ去られた時のへこんだ雰囲気はどこ吹く風、
今の宿には和やかなムードが流れている。


香須実「紬ちゃん。もう渡したのね?」

紬「はい。限界と判断しました……。すいません。」

香須実「紬ちゃんは何も悪くない。むしろナイス!」

紬「はい。」


その場の和んだ雰囲気に似つかわしくない、
真面目な声で香須実は話し始めた。


香須実「軽音部の皆、聞いてもらっていいかな?」

唯「はい。なんでしょうか?」

香須実「うだうだ説明しても伝わらないと思うから、簡潔に言うわね。」
   「簡単に言うと、あなた達の演奏には、鬼の音撃に通じる清めの力があるみたいなの。」

本当に唐突に語り始める香須実。

香須実「紬ちゃんがそれに気づいてね?一か月くらい前に解析したら、
    本当に清めの力があったのよ。」

澪「清めの……力?」

香須実「そう。清めの力。軽音部の皆にはその力があるということを前提に、
    今から提案することに同意してもらいたいんだけど……。」

律「私たちで、あの化け物共をブッ倒せってことですよね?」

香須実「掻い摘んで言うとそう言うことね。」
   「あなた達には、山頂でライブをしてほしいの。もちろん鬼の人達が守る中でね。」

唯「山頂でライブ…?」

破天荒というか、型破りな唯でもそれは驚く。
山頂でライブをするなんて試みは前代未聞だ。


唯「で、でもあずにゃんが居ないと軽音部じゃないっていうか……。」

香須実「そのことなら、心配いらないわ。」



そう言って香須実は合図をした。
別室に居る誰かに語りかけるように。

そのすぐ後、扉の隅からひょっこりと顔を出したのは
今病院で療養中であるはずの梓であった。

唯「あずにゃん!?」

律「大丈夫なのか!?」

梓「お医者様には止められたんですが、皆さんの危機なら動かないわけないです!」

澪「梓……。」

香須実「今出発できるなら出発したいんだけど、皆大丈夫?」

軽音部「はい!」


善は急げとばかりに用意を済ませた軽音部メンバーは、
演奏道具と共に山頂へと移動を開始した。


道中あったはずのコダマの森はただの道へと戻っており、
唯が香須実に聞くと「響鬼がどうにかした」のだそうだ。


香須実「ここが山頂なんだけど……。」


何故か道中全く魔化魍会わないと思ったら、
山頂にワラワラと湧いてしまっていた。

このままでは危険な上、進むことができない。

と、グネグネと動いていたイッタンモメンの一匹が一行の存在に気づき、
襲いかかってきたのである。


轟鬼「もう気づいたっすか!?」

威吹鬼「変身が間に合わないっ!」



その時


響鬼「タァー!」

短刀を持ち、鎧のように体を変化させた響鬼が後ろから飛び込んできたのである。

イッタンモメン「ピィィィイーイイイイ!!」

響鬼「ヤァー!」

短刀で一閃。イッタンモメンは一撃で塵と化した。

響鬼「しっかし、生まれたもんだねぇ。」

香須実「皆、軽音部の演奏スペースだけでも確保してあげて!」

響鬼「分かってます!ハァアアアアアア!!」

そう言うと、短刀を口元へ持って行って気合いを入れ始めた。

響鬼「音撃刃・鬼神覚声!!」

オーラを纏った短刀を響鬼が振りおろすと、
目の前に居た魔化魍達が全て砕け散った。

響鬼「ふぅ……ほら!威吹鬼!轟鬼!ボサっとしてないで、戦闘戦闘!」

轟鬼「ああっ!はい!」

威吹鬼「わかりました!」

轟鬼「セイッ!セイィ!!」

威吹鬼「ハッ。ハッ!ハッ!」

響鬼「ヤッ!タァーッ!」


凄まじい勢いで魔化魍を倒していく鬼達。
まさに「鬼神」の勢いに、軽音メンバーはしばし唖然としていたが

唯「ほら!皆、演奏の準備だよ!」

律「お、おう!」

澪「そうだな!」

梓「やってやります!」

紬「行くわよ!」



各々、機材の設定を始める。
いつもは落ち着きのないこの部の皆はこの時は何故か、
素晴らしい落ち着きを持っていた。
テキパキと準備をこなす


その間にも

轟鬼「音撃斬!雷電激震!」
  「ヤッ!ハッ!セッ!ハァッ!ヤァッ!」

ジャンジャカジャカジャンジャカジャカジャンジャカジャカジャラジャラジャラ

ジャーンッ!

クンクンクンクンクンクンクン! パァン!

轟鬼「はぁ……はぁ……はぁ……。セッ!」


威吹鬼「ハッ。ハッ。」

ピピピッ!ピピピッ!

ウブメ「クエエエエエーッ!クエエーッ!」

威吹鬼「スーッ……!はっ!」
   「疾風一閃!」

パパーッ!!!!!


ウブメ「クエッ!クエエエエエーッ!」


パァーン!

ウブメ「グエェーッ!」
バァン!


轟鬼「これ、どんだけ居るんすかね……?」

威吹鬼「分かりません。でも、今はとにかく彼女らを守らないと!」

轟鬼「はい!セッ!」


響鬼「音撃刃・鬼神覚声!」
  「ハァアアアーッ!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

パァンパパパァン!!!


響鬼「ふぅ……本当にキリが無いな……。」
  「タァッ!」


無限に沸くようにすら感じる魔化魍達を、
音撃によって倒していく鬼達。

そうこうしている間に、軽音部の用意が完全に整った。


唯「皆さんありがとうございます!用意が整いました!」


香須実「演奏を開始して!皆、もうもたない!」


紬「分かりました!じゃあ、りっちゃんお願いね!」


律「おう!任せろ! いくぞーっ!」


全員、一旦目を閉じ、瞑想する。
ほんの少しの時間を経て、彼女達は演奏を開始した。


全員、一旦目を閉じ、瞑想する。
ほんの少しの時間を経て、彼女達は演奏を開始した。

律がスティックを頭上で叩く。
カッ!カッ!

律「ワン、ツー、スリー、フォー!」

ジャーンジャーンジャーン!
ジャンジャジャンジャンジャンジャンジャンジャーン

ジャーンジャーンジャーン
ジャンジャーンジャーンジャンジャーン
ジャンジャーンジャーンジャンジャーンジャーンジャーン


紬「今私の願い事が叶うならば翼が欲しい」
唯「この背中に鳥のように白い翼」


香須実(選曲が凄いわね……。でも、澄んだ歌声。これなら大丈夫かもしれない!)


唯「つけーてーくーださーいー!」



魔化魍「ギャアアアアアアアア!!!!」


轟鬼「魔化魍が苦しんでる……?」

威吹鬼「今です!」

轟鬼「音撃斬・雷電激震!」
  「セッ!ハッ!ヤッ!ウオラーッ!」

威吹鬼「音撃射・疾風一閃!」

響鬼「音撃刃・鬼神覚声!!!」


軽音部「この大空に!翼を広げ!飛んでゆきたいよ!」
   「悲しみの無い!自由な空へ!翼はためかせー!」
   「ゆきたいー!!!!!」


軽音部の演奏、鬼達の音撃
その二つが反響し、そこかしこで魔化魍の爆発が起こる。

ヤマビコ「ギュキイイィイイイイ!!!ガアア!!!」

オトロシ「グモォォオオオオ!!」


パァン!!!




唯「はぁっ……!はぁっ……!はぁっ……!」

律「ふぅ……ふぅ……」

澪「はぁ……はぁ……はぁ……。」

梓「ぜい……ぜい……」

紬「はぁ……はぁ……。ウフフ。」

こうして、大波乱で幕を開けた軽音部の夏合宿は
大波乱の内に幕を閉じた。


……帰りの飛行機内で


唯「澪ちゃん寝ちゃってるよ…!」

紬「疲れたのね。」

屋久島を少し離れた上空。
軽音部メンバーと鬼達が乗った飛行機内で、
互いの健闘を労いつつ唯がぼやく。

唯「結局、ほとんど演奏できなかったねー。」

紬「あら、したわよ?演奏。」

律「え?ほとんど楽器に触ってなかったけど、してたっけ?」

紬「ほら、最後の山頂で!」

唯「ええー!?あれが練習!?」

ウフフと笑う紬の横から、香須実が顔を覗かせる。

香須実「紬ちゃんは、結構前から皆の素質を見込んでたのよ?」

唯「そうなんですか?」

香須実「小さい頃から猛士の人間と関わってたから、鬼の鍛錬はよく見てたの。」
   「だから、軽音部の練習体系も、少し鬼の鍛錬に近い物をとりいれてたみたい。」

梓「そうなんですか!?紬先輩!」

紬「うん。鬼の人達は、食べる事を怠らないの。
  きちんと練習して、きちんと食べる。
  私のティータイムを挟むことで、少しでも近付けばなぁ と思っていたんだけど…。」
 「想像以上に近づきすぎちゃったみたいで、
  皆には危険な目に会わせちゃったわ。ごめんなさい。」


唯「いや、全然大丈夫だよ!私も、他の人達の力になれてうれしいもん。」

香須実「じゃあ、みんなも猛士に入っちゃう?」

唯、律、梓「ええー!?」



澪「うるさい!せっかく気持ちよく寝てたの……に……」


唯「寝言?」

律「みたいだな。そっとしておいてやろう。」




高校夏。
夏合宿という当たり前すぎる行事から、
化け物退治という非日常にシフトチェンジしてしまった軽音部一行だが、
彼女らに大きな影響を与えた二日間となった。


その後、軽音部から角と金が出るのだが
それはまた別のお話。




終わり



最終更新:2010年03月14日 00:34