砂漠に種を蒔いても、芽は出てきません
ヘドロにお花を活けても、すぐに枯れてしまいます
でもお墓に植えた植物は きっと綺麗に咲いてくれます
「憂はどこがいいかなぁ・・」
天気は快晴 空は青くて
涼しい風も吹いてくる
地平線が見えそうな広い広い土地で
私は種を蒔く場所を探します
時々木陰で一休みして空を眺めたりするけれど
小鳥達の声が聴けないのは少し寂しいかもしれない
小鳥だけじゃなくて
この地球上に動物が
私一人しかいないは
少し寂しいかもしれない
種を蒔くと可愛い芽が出て
そのあと恥ずかしがり屋な蕾になって
綺麗な花が咲いて 優しい顔した実がなって
そこからまた種が生まれる
種を蒔くっていう事は
命を創るってことなんだね
「おっ ふかふかな土だ!」
良い感じだよー
さっそく憂を蒔いてあげる
いつも一番身近にいてくれた愛しの妹
やっぱり一緒にいないと寂しいよぉ
種を巻いたら水をかけてあげる
土が盛りあがったと思えば
ぴょこっと地面から憂が飛び出してきた
「おはよう、お姉ちゃん!」
「おはよう、憂!」
頭のてっぺんから小さな葉っぱが伸びてて
まだ産まれたての芽ということを示してる
「調子はどう?しっかりお水飲んだ?」
「大丈夫だよ。お姉ちゃんがいい土選んでくれたから!」
その後他愛も無い世間話をして
笑って話せる相手がいるって素敵だなぁって痛感したよ
「まだ私だけなの?」
「うん。これからお父さん達や軽音部のみんなを蒔いてあげて、それから・・」
思い付く限りの人名を挙げていく私を見て
憂はクスッと笑った
「いきなり全部やらなくても大丈夫だよ」
「何年何十年・・少しずつ時間をかけて、ゆっくりやればいいんだよ」
憂がそう教えてくれると
ついつい私の悪い癖が出てしまう
「憂~ じゃあ最初の種蒔きも手伝って~」
なかなか私も疲れる仕事なので
憂に助けを求めてしまう
でも憂は少し残念そうに言うんだ
「ごめんねお姉ちゃん・・そうやって1から種を蒔けるのは・・」
「お姉ちゃんだけだから・・」
その言葉を聞いて
急に胸が哀しくなった
とても哀しくなった
何故だかはっきりわからないけど
いや、まだ理由を言葉にしたくないだけかも・・・
翌日も良い天気でした
私は憂にお水をあげると
一緒にお散歩しながらいい土を探しました
「お姉ちゃん、見つかった?」
「うん、この辺りはすっごい良い感じだよ!」
広い範囲で素敵な土が広がってたので
私は両親と軽音部のみんなの種を蒔きました
「わぁ 賑やかになったねぇ」
「サンキュー唯!」
律っちゃんがブイサインを決めながら私に微笑んだ
お父さんとお母さんとも久々に話せたし
あずにゃんにも抱きつくことができたよ
「ま、まだ私は生えたてなんですよっ!」
「でも可愛いよあずにゃーん!」
みんなと話して笑って
もっともっと沢山種を蒔こうと決心する
優しい人 怒りっぽい人 面白い人
いっぱい種を蒔いて
木陰で休憩したときに 小鳥達の存在が恋しくなった
だから
人間以外の種も蒔いたよ
鳥さん犬くん猫ちゃんも生まれて 賑やかな世界になってきました
「沢山産まれたねー!」
「おねえちゃん頑張ったもんね。もうしばらく蒔く必要もないよ」
蒔き過ぎも良くないみたいだね
余裕ができたので
軽音部のみんなとティータイムをしよう
こういう友達とのお食事会を ずっとやりたかったんだぁ
「ねぇみんな、お菓子食べながらお話しようよ!」
期待に胸を弾ませた私の声が響く
でも、律っちゃん達は少し気まずそうな顔で言うんだ
「それは・・・無理だよ、唯」
「え?」
「私達は植物なんだ。水を飲むことくらいしかできないよ」
すっかり忘れていた
勿論私だってみんなが植物だってことくらいわかってる
でも律っちゃん達の笑ってる顔見ながら一緒に話してると
そんなことは頭から抜けてしまっていたんだ
「そ、そっか・・・」
「ごめんな。でも水でも楽しく話せるから大丈夫だよ」
澪ちゃんは優しく言ってくれた
でも私がお菓子を食べながら みんなが水を飲みながら
一緒に話していると
否が応でも見えない壁の存在を意識してしまう
日が暮れて来て 空が茜色に染まっていく
私は別れるのが寂しくて
「ねぇみんな、今日は夜通し語ろうよ!お泊まりだよ!」
パジャマパーティーを持ち掛けた
でもムギちゃんが少し残念そうに言うんだ
「ごめんなさい・・私達はもう寝ないとダメなの」
「あ・・・そうだよね・・・」
そう
今までずっとそうだったし これからもずっとそうなんだ
夜起きていられるのは私一人で
みんなはスヤスヤ眠らなきゃいけない
一人ぼっちの夜は ずっと続くんだね
「また明日話せばいいんですよ」
あずにゃんはそう言うけど
やはり種族の違いは 私の心に突き刺さる
沢山の仲間に囲まれたように見えて
結局わたしは一人ぼっちなのかな
いっぱいいっぱい頑張って
沢山沢山種を蒔いて
やっぱり孤独のままなのかな
そう思うと なんだか涙が止まらなくて
私もみんなと一緒になりたいなって
思わずにはいられなくなった
どうすればいいんだろう
やっぱり、人間やめればいいのかな
それは
今生きる事をやめて
次に種から産まれますようにって
お祈りするしかないのかも
ナイフは冷たかったし鋭かったし怖かった
おバカな私はこうするしか思いつかないんだね
首筋に当てて
シュッ
と引き裂けば 血がいっぱい出て死ねるのかな
「お姉ちゃん!何してるの!?」
憂が飛び出して 私のナイフを取り上げた
「だって・・だって私・・・」
私は涙が止まらない
「頑張っても・・一人ぼっちだよぉ・・・・」
憂はそんな私を見て
とびきり優しい顔で言ってくれた
「大丈夫だよお姉ちゃん。きっと、まだみんなと一緒に素敵なことができるよ」
私は鼻をすすって頷いた
「それに・・・お姉ちゃんがいなくなったら・・・・」
それから
私は色々なことを みんなと一緒にしようとした
けど、どれをやっても植物と動物の差が出てしまう
どうしようかな っていつもの木陰で途方に暮れていると
頭上から綺麗なさえずりが聴こえる
鳥さんの声だね
しばらく聞いていると
頭の中に電球マーク 閃きが生まれました
「ありがとう、鳥さん!」
わたしはすぐさま軽音部の元へ向かった
「どうしたー唯ー」
律っちゃんが私に気付いた
頭に蕾が付いていて
そろそろお花の咲く時期なんだね
「音楽だよ律っちゃん!みんなで音楽やろう!」
「音楽?」
首を傾げる皆の前で
わたしはギー太を取り出しジャラランと軽く弾いてみせる
調子は良好だね
「で、でも私達は楽器なんて弾けないし・・」
「大丈夫だよ!みんなは歌ってくれればいいんだよっ」
担当が変わるくらいどうってことない
私がリードギター みんながボーカル
それでいいんだから
ひとしきり演奏し終わって かつてない安心感が私を包む
ようやくみんなと一緒の舞台に立てた
寂しくなんかなくなったよ
気付けばみんなの頭には 素敵なお花が咲いていました
「そうだ!」
「どうした?」
「世界中のお花達とも、一緒に歌えばいいんだ!」
名案に違いない
その後はいっぱいいっぱい歌ったよ
世界中が一つの生物みたいに
心を合わせることができたんだ
とっても幸せだったけど
気付けば数か月が経っていた
私はすっかり忘れていたんだ
冬の到来を
冷たい木枯らしが吹き荒ぶ
いつもの木陰に腰掛けようと 大きな樹に近付いてみたら
緑の葉っぱは無くなって 茶色い枯葉が数枚付いてるだけだった
私は不安になって
すぐ憂や律っちゃん達の元へ向かう
「憂、大変だよぉ!」
「どうしたの?」
憂は至って落ち付いて 私の瞳を不思議そうに見つめていたけど
私の眼には
今にも倒れそうな痩せ細った憂が映っていた
「憂、大丈夫!?すっかり弱ってるよ!?」
憂達はもうみんな花を落として
次の世代の種を残している
役目はとうに果たしていたんだ
「冬だからねぇ。お姉ちゃんも風邪に気を付けてね!」
憂自身はまったく気にして無いようで
心配してる私がおかしいのか
まったく安心してる憂がおかしいのか
もうなんだかわからない
ほかのみんなの様子を見に行くと
やっぱり全員弱っている
私は焦る
どんどん孤独が近づいてるよ
また一人ぼっちにはなりたくないよ
「みんな、死んじゃうの・・・?」
哀しくて寂しい質問をする
「なーに泣いてんだよ?」
律っちゃんも憂と同じように
当たり前のように冬を受け入れている
「だって・・そんなに弱っちゃって・・・」
「しょうがないよ、もう役目は果たしたんだし」
「嫌だよ・・まだ死ぬことないじゃん・・・」
「いいか、唯。お前のした仕事の中で最初にして最大の仕事は何だ?」
「種蒔き・・・?」
「そう種蒔き!私達が一年かけてようやく作った種を土に蒔く仕事だ」
律っちゃんはそこまで言うと
どさりと地面に座った
もう立っているだけでも疲れるらしい
「私達の作った種は、唯が蒔くんだ」
なんだか嫌な予感がする
「唯にしか蒔けないんだ」
とっても怖い予感がする
「唯がいてくれるから私達は安心して枯れていける」
律っちゃん・・・
「だからさ、悲しまないでくれよ。とっても素敵なことなんだから・・」
律っちゃんは そう言うとうつ伏せに倒れた
気付けば周囲の植物はみんな枯れていた
澪ちゃんムギちゃんあずにゃんも
倒れたまま動かない
溢れる涙をそのままに
私は走って憂の様子を見に行く
「憂!?」
憂は倒れたままで
話しかけても返事をしない
もう枯れちゃったのかな
せめて最後に
何か話しておきたかったんだけど・・
「憂ぃ・・・起きてよぅ・・・」
「ほらお水だよ憂・・・」
「憂・・・」
「・・・・・・」
「もう一人ぼっちは嫌だよぅ・・・」
小さな声が聞こえたよ
「一人ぼっち・・?」
「憂!」
「お姉ちゃんは一人ぼっちじゃないよ・・?」
「大丈夫、お水飲む!?」
「お姉ちゃん、私達の作った沢山の種を持ってるよね・・」
憂は弱々しく微笑んで
静かに囁いた
「それを蒔けるってことは、一人じゃないんだよ・・」
「お姉ちゃんはいつだって一人じゃないんだよ・・・」
「憂・・・?」
それっきり動かなくなって
枯れてしまう
私はお水の入ったコップを落として
めいっぱい泣いた
春が来ました
砂漠に種を蒔いても、芽は出てきません
ヘドロにお花を活けても、すぐに枯れてしまいます
でもお墓に植えた植物は きっと綺麗に咲いてくれます
天気は快晴 空は青くて
涼しい風も吹いてくる
地平線が見えそうな広い広い土地で
私は種を蒔く場所を探します
時々小鳥のいない木陰で一休みして 空を眺めたりするけれど
私は寂しくありません
この沢山の種は 私の友達で
きっと綺麗なお花を咲かせてくれるから
おわり
最終更新:2010年03月17日 01:15