アドルフ「現代の先進国は、交換および分配に生じる不平等を
     低発展な諸国に押し付けている。」

アドルフ「その世界経済の状況を維持することで、裕福な生活を送っている。」

アドルフ「まあ、私に言わせれば、そのような状況に甘んじる民族など
     そのような発展なき隷従のもとの生活がお似合いだが。」

和「それは、多分ちがうわ。最近は中国や、インド、東南アジアの国々は、
  経済力は馬鹿にできないものがある。国際援助やそういう助け合いだって!」

アドルフ「しかし、きみたちが、私が先ほど言った矛盾の上に生きているのは
     変わらないだろう?」

アドルフ「約二十数億の国が富めるようになったとして、
     さて、その国の内部の汚濁、また、あいかわらず低級なままの諸民族は??」

和「話にならない!」

アドルフ「いいかね?ユダヤの金貸しに、慈悲や全体利益の話をしても、
     彼には全く理解されない。」

アドルフ「彼は自分の欲望にしか興味がないからだ。」

アドルフ「貧しい土壌には、ほとんど作物は育たない。
     では、貧しき精神にいったいどんな価値があるだろうか。」

アドルフ「滅ぶに任せればよいが、それが血を同じくする民族の堕落を
     誘うものであったとしたら??」

アドルフ「腐肉は早めに取り除こう!そうせねば疫病が国の方々を覆ってしまう!」

アドルフ「そうなっては、もう遅いのだ!」

和「…」

和「みんな、改めてわかったでしょう?
  この男は狂ってる。そんな男と唯を一緒にしておいたら…」

澪「ゆい!ヒトラーを相手にするな!」

唯「なんで、なんでそういうこと言うの??」


唯「アドルフはドイツの人たちのこと心から考えてるんだよ??」

唯「それに、日本だって自分のことしか考えない、それに
  良いことを口にするけど、自分ではやろうとしない…」

唯「そんな人ばっかりでしょ…??」

唯「わたしはぜんぜん勇気がないから、今までいろんなことから逃げてきた。」

唯「でもそれじゃ駄目なんだと思う。
  妥協とかそんなのしてたら、もっと酷いことが待ってるかもしれない…」

憂「おねーちゃん…」

梓「もう、そんなとこまで唯先輩を引き込んでるなんて…」

澪「唯はまっすぐだから、疑いもせず。」

アドルフ「そうだ、それが君たちと唯との違いだ。」

アドルフ「この娘は、ドイツの強い乙女たちに劣らぬ何かを持っているのだ。」

さわ子「総統閣下。」

アドルフ「この前のあばずれ教師か。」

アドルフ「その姿は勇者にのみ許されたものだ。
     その姿で私を"総統閣下"などと呼ぶなっ!!」

さわ子「そ う と う か っ か 。」

アドルフ「きちがいめ…」

さわ子「それはお互い様でしょ??」


さわ子「総統閣下は、"ディ・エンド・レーズング"の計画と実施については
    唯ちゃんに話してるの?」

アドルフ「…」

さわ子「やっぱりね。」

律「さわちゃん、そのディなんたらって何?」

さわ子「日本語でいう最終的解決。ユダヤ人問題についてのね。」

梓「それってもしかして…」

梓「ホロ…コーストのこと…ですか…?」

さわ子「そういうこと。 まあ、ホロコーストはその一部だけどね。」

唯「?」

アドルフ「…」

さわ子「総統閣下。」    

さわ子「戦後、あなたのお姉さんは、"最終的解決"をあなたが進めたことを
    信じようとしなかったわ。」

アドルフ「!!」

さわ子「『アドルフがそんなことをするはずがない。
    彼はそれに気付いていたら絶対に止めさせただろう』って。」

アドルフ「…」

さわ子「アンゲラやパウラに隠し通したかったこと、ばれちゃったわよ?」

アドルフ「…」グッ

さわ子「総統閣下。あんたは、あんたの姉妹、あんたの姪、あんたの奥さん…」

さわ子「身内の女性でも、これだけの人間不幸にしてるわね。」

さわ子「…」

さわ子「甲斐性なし。」

アドルフ「だまれっ!!」

アドルフ「ユダヤ人を地上から消すのは、われ等ドイツ人のいや
     地球人類の発展と健全化のために絶対に必要なことだったのだ!!」

アドルフ「だのに…だのにやつらは、シオニズムを実現させてしまった!」

アドルフ「現代に住まうお前たちは、かならず、その報いを受けるぞ。」

唯「アドルフ、最終的解決って何??」

アドルフ「…」

アドルフ「ゆい、このまえに話したね。」

アドルフ「ユダヤ人はドイツ人、ヨーロッパ人社会を蝕んでいた。
     多くの人たちを苦しめていたんだ。」

アドルフ「だから罰を私が下そうとしたんだよ。」

唯「でも、やっぱりたくさんの罪も無い…」

アドルフ「ゆい、罰を下されるのは罪があるからなんだよ?」

梓「ほんとうに救いようがない…
  自分が神様になったつもり!?」

アドルフ「神の命令だ。」

アドルフ「それに、君たちは同胞や隣人に対して同じようなこと、
     いや、それ以上のことをしているんだよ。」

律「はぁ??なにねぼけてんだよこの七三分けっ!!」

アドルフ「神に変わって、私が言おう。」

アドルフ「君たちは他者への無関心と搾取で、
     それ以上の人間を死なせているのだ。」

アドルフ「勇気をもたず、自分のことしか考えない。」

アドルフ「ユダヤ人問題を放置したのと同じく、
     君たちは、君たちの精神的腐敗のために醜い滅びの道をたどることだろう。」

アドルフ「君たちにはこれ以上何をいっても無駄なようだ。」

アドルフ「ゆい、いこう。私の姿を衆人がみることができるようになった以上、
     私の仕事を先に進ませねばならない。」

さわ子「ちょっと待った。」

さわ子「和ちゃん、舞台のスクリーンに例のパワー○イントを。」

和「は、はい…」


アドルフ「君たちに付き合っている時間は無い!」

さわ子「ふふ、総統閣下。何がはじまるか薄々気付いてるんでしょ?」

アドルフ「…」

律「なにが始まるんだ、さわちゃん?」

さわ子「鈴木さんと和さんの作戦は
    成功するかどうかわからなかったから。」

さわ子「唯ちゃん説得用にね。」

和「このデータですよね?さっきもらったばかりだから、私も見てないんですけど」

さわ子「いーからいーから!」

和「は、はい…」ポチ


スクリーンに次々と映像が映し出される。

澪「あ、あ、あ…」

梓「ひ、どい…」

唯「これ、なに…」

唯「な、んでたくさんの人たちが…」

その情景に心から慄く少女たち。

さわ子「世界史の○○先生にもらったデータをちょっと補強したやつよ。
    教育委員会の指導で、未成年には見せちゃいけないみたいだけど。」

さわ子「…」

さわ子「そう。」

さわ子「ホロコーストの映像資料集。」

さわ子「この男がしでかしたことの一部を納めた映像。」

アドルフ「あ…あ…ああ…」

アドルフが震えている。
目前のスクリーンに映し出される、
無残に殺され打ち捨てられた人々の写真を見て。

さわ子「その男は何百万人ものユダヤ人、東欧やロシアの人々、
    自分に歯向かった人間たちを殺したの。」

さわ子「この映像は収容所で殺された人たちの映像。」

さわ子「この男は"収容所"と呼ばれる刑務所よりも劣悪な場所にユダヤ人を集めて
    管理的、機械的に殺させていたのよ。」


唯「ひどい…」

アドルフ「否っ!!ちがうぞ唯!!」

アドルフ「私は、私はむしろ慈悲を与えてやったのだっ!
     苦痛無く彼らが死を迎えるように!!」

さわ子「あんたの部下連中には、実験材料やおもちゃにしたやつ等も結構いたわよ?
    まあ、ユダヤ人をおもちゃにした連中は、発覚すれば、
    あんたが粛清していたみたいだけど。」

唯「どうして、どうしてこんなことをしたの!?」

アドルフ「それはっ!!それはユダヤ人が、我々の社会にはびこる寄生虫だったからだ!!」

唯「わからない…」

唯「わからないよアドルフ!!」

唯「アドルフみたいな純粋で優しくて夢を追いかけてるひとがこんなこと…」

アドルフ「ゆい、きいてくれ、ゆいっ!!」

さわ子「アンゲラやパウラも、真相を理解したら、唯ちゃんみたいな反応を見せたかもね。」

アドルフ「だまれ!!!だまれ売女め!!」

さわ子「売女でけっこう。好きな男にはこっちから股開くわ。」

さわ子「和ちゃん、パワ○ポイントのフォルダに入っている画像開いて。」

和「はい。」


大きく映し出されたのは、母子の映像だった。
子供のほうは三歳ぐらい、女性のほうは二十代半ば。
銃で殺されたようで、死後数日たった様子だった。

澪「う、うう…ひ…どい…」

さわ子「SSの隊員の手にかかった、あるポーランド人の親子だわ。」

アドルフ「あ…あ…あああ…」

梓「せんせい!!もう、止めてくださいっ!!もう…」

紬「梓ちゃん、目を背けちゃ駄目。」

紬「この男と同じじゃ駄目よ。」

アドルフ「うわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

さわ子「子供好きでフェミニストのあなたには耐えられないでしょう。」

さわ子「でも、この親子はあなたが殺したのよ?」

アドルフ「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

唯「あ、どるふ…」

さわ子「ムギちゃん、唯ちゃんに貸したピックの
    持ち主について話してあげて。」

紬「はい。」

紬「あのピックは、ヒトラーさんのお姉さんの、子孫のものです。」

紬「持ち主は、ギタリストとして有名になるまでは、
  あなたと自分の関係を知りませんでした。」

紬「けれど、その方の名が世に出始めると、
  あるマスコミがその出生をかぎつけて…」

紬「あなたの親戚だということがばれてしまったんです。」

紬「音楽家にとって、狂気の独裁者の親戚であるということを
  喧伝されることがどういうことになるか。」

紬「その方は言われない中傷や迫害を受けました。」

紬「その方はアルコールに走って、志半ば、
  身体を壊して亡くなってしまいました。」

紬「事情が暴露されてからの、その方の日記や曲にはたくさんのあなたへの恨みと
自分の血からくる、ユダヤ人や、あなたの犠牲になった人たちへの懺悔のことばでいっぱいだったそうです。」

アドルフ「…」

アドルフ「わ…た…しは…」


※もちろんフィクションです

アドルフの顔がたるみ始め、皮膚に光沢が無くなっていく。
髪型もいつのまにか、我々に馴染み深い1:9分けになっていた。

憂「ヒトラーの姿が…?」

純「よ、よわっているわ…私たちに見えている姿が…
  老化していっているのが証拠…」

憂「じゅんちゃん!」

さわ子「確かにあなたを霊体としてよみがえらせたのは神様の意思かもね。」

さわ子「あなたの精神が地獄の業火で
    焼くつくされねど炙られ苦しむように…」

アドルフ「あ…あ…」

突然に、アドルフのこめかみから鮮血が走る。

唯「!!」

アドルフ「ば…つ…」

さわ子「ええ。」

そして、炎のようなものがアドルフの身体を包む。

アドルフ「あ…つい…」

唯「あ…ど…るふ…」

アドルフの身体はどんどん炎につつまれ、
黒く焼け焦げていく。

アドルフ「そう…だった…のか…」

さわ子「そうよ。ダンテ・アリギエリの描く、
    その罪のため、死後苦しめられる人々のように。」

炎の中、黒く焼け焦がれゆく中、
その青い両の瞳が強く唯を見つめる。

アドルフ「Yui, mein reizend und mitfühlendes Mädchen…
       Leben ist Mengen Kämpfe.Seien Sie stark und mutig…!」

(ゆい、愛しく心優しき娘…生きることは闘いの連続だ。君が強く勇気あるように…!)

唯「あ…」

その言葉を残すと、煤が空中に舞い消えるように、
アドルフの姿も消えていた。


こんばんわ、平沢憂です。
あの事件から数週間が立ちました。
おねーちゃんは、まだ、心ここにあらずというか…
クラシックの曲を聴きながらぼーっとしていることが多くなりました。

純ちゃんは、御祖母ちゃんに無断で"儀式"をおこなったことがばれて
こっぴどく叱られ、こちらも心ここにあらずです。

あの後、さわ子先生が言っていたんですが…

律「さわちゃん、こんなのも用意してたんだな。」

さわ子「さっきも言ったでしょ、唯ちゃん説得用。」

さわ子「まさかこうまでうまくいくとは思わなかったわ。」

さわ子「で、あとは、彼のメンタル面の弱いとこを突いただけ。」

さわ子「まあ、摺れてない良い子ちゃんのあんたらじゃ、
    あの男を相手にするのは、まず無理よ。」

律「へいへい…」

澪「おい、唯、大丈夫か??」

澪が唯を揺さぶると、唯の懐から、
いくつかのかけらになったピックが、地面に落ちる。

紬「あのピック、壊れちゃったのね…」

憂「あの、弁償とかは?」

紬「大丈夫よ、気にしないで。」

梓「なんとか…解決…でしょうか?」

さわ子「さーてどうかしら?」

さわ子「少なくとも、あの男の言っていたことのいくつかは
    人間個人や社会の核心をついてるわ。」

さわ子「問題なのは、手段がえげつないとこだけど。」

さわ子「あたしらパンピーは、
    『見たいものしか見ず、見たくないものを見ない。』」

さわ子「某作家の受け売りだけど。
    そういうふうに、あたしらがちんたらしてるうちに…」

さわ子「状況が悪化してとんでもないことになる、ってのは、これからもありえる話だわ。」

澪「大きすぎる問題のような…」

律「ま、気楽にやるしかないだろ?」

唯「…」

今日もおねーちゃんは、自分の部屋で、なにやら音楽を聴いているようです。

憂「おねーちゃん、ごはんだけど…」

唯「…」

憂「おねーちゃん!」

唯「あ、憂。ごめんね…」

憂「もう…」

憂「…」

憂「この曲、なんだか優しい曲だね?」

唯「うん、ワーグナーの『ジークフリート牧歌』っていうんだって。」

唯「アドルフの勧めてくれた曲では、一番好きな曲なんだ。」

憂「…」

憂「おねーちゃん、あの…」

唯「うーん?」

憂「…」

憂「なんでも、ない。」

憂「ご飯だから、その曲が終わったら、早く来てね?」

唯「うん。」

そういうと、唯はまた、そのやさしく暖かい調べに、耳を傾けはじめた。


おわり。



補足

ヒトラーは腹心の人間のアドヴァイスのもと、
1936年か1937年に、アメリカやイギリスのヒトラーやナチスを風刺した絵や漫画を集めた本を
ドイツ国内で出版しています、おそらく、これらの国のマスコミのやり方を相対的に弱める狙いがあったと思われます。

参考文献:このssの種本は
J.トーランド『アドルフ・ヒトラー』
H.トレヴァー=ローパー『ヒトラーのテーブルトーク』上・下
あとは、ショーペンハウアーやニーチェの諸本とその他諸々です。

ヒトラーの言葉は『ヒトラーのテーブルトーク』を参考にしましたが、
ヒトラーが日本建築について語る部分だけは全くの私の独創です。

最後にピックとの関連で。
アンゲラの子孫についてですが、娘のゲリが死んだ後、
アンゲラには息子一人と娘ひとりがいました。
それぞれ子孫がいますが、息子レオのほうは80歳ぐらいの方で子供はいません。
アンゲラの娘にも、60前後の子供がいますが、こちらの子孫についてはわかりません。

※このssに出てきたピックの持ち主は、まったくの想像上の人物です。



最終更新:2010年03月22日 04:24