「んー梓の匂い」

「そんなのあるんですか」

自分ではわからないだけにすごく気になる。


「私さ…」

耳をすまさないと聞こえないような声で、律先輩の独白が始まる。
なんとなく、寝たふりをしてしまう。

「梓に会えなくなるの、やだよ…
 いつか必ず帰ってくるから、待ってて欲しいな」

「よく考えたら、別に一生の別れってわけじゃないし
 こんなに悩んだりすることじゃないのかもしれないけど」

「梓が他のやつにとられたらやだな…」

「うー…なんかわかんないけど泣きそう」

そう言って抱きしめる力を強くする先輩は、さっきと違ってすごく幼く見えた。

先輩が少し震えていたから頭をなでてみたけど、余計に腕に力がこもるだけだった。

「私は律先輩一筋ですよ」

「……」

長い沈黙。
もしかして私何か悪いこと言った? 心当たりはないんだけど…

「…あずさー!」

泣いてるのかと勘違いするほどしおらしかった先ほどまでと打って変わって急に首に飛びついてくる。

「うぐっ」

うわ変な声出た。

「梓かわいい!」

叫びながら抱きつかれてちょっと困ったけど、やっぱりこの人は元気がいちばん似合ってる。


「梓に告白されちったー♪」

本当にさっきまでの雰囲気はどこに行ってしまったのか。
にやにやしながら見つめてくる律先輩。さっきの方がかわいげがあるかも。

「今日はいい夢見れそうだ! おっしゃ寝るぞー!」

寝るつもりなはずなのにばんざいしながらものすごく叫ぶ。

「隣も近いんですからあんまり騒がないでください!」

「これで聞こえるんだったら梓の声も」

「ちょ…セクハラ発言はやめてください!」

恥ずか死してしまいそうだ。

「よしおやすみ!」

「おやすみなさい」

まだ昼間なんだけど、たまにはこんな日があってもいいんじゃないかな。


結局2人とも夕方の5時まで寝ていた。
せっかく丸1日一緒にいれる日だったのに…

「明後日出発かあ」

「準備もうできてますか?」

準備といっても最低限のものしか持っていけないから、あんまり手間はかからないと思う。

「なんか下着も柄物だめでさ~ わざわざ白とかベージュとかの探して買ったんだぜー」

やっぱりそういうの厳しいんだ。

そのあとも寝転がったまま話していたらいつの間にか8時になっていた。
時間感覚が鈍いのか、それだけ楽しかったのか…どう考えても後者だね。
1人寂しさを感じていると、突然律先輩が言った。

「今日梓んち泊まる!」

田井中家に連絡を済ませてきた先輩はまたふとんにもぐりこんできた。

「おなかすきませんか?」

「何か食べたいな」

家にはちょうど買い置きのカップラーメンがあるし、それでいいなら…

「梓の手料理食べたい」

予想外の発言。
私、料理はできません。

「いつか食べさせてくれよな」

「はい、いつか」

夏休みにでも料理を覚えようかな。

お湯を注いで待つこと3分。

チーン

トースターの音と共にカップラーメンのふたがはがされる。

「やっぱりカレーヌードルだな」

「シーフードもおいしいですよ」

ラーメン談義を交わしながら麺をすする2人はなんだか中年サラリーマンのようだ。

「先輩…汁全部飲む気ですか?」

「飲みたくないけど細かい具材の話聞いてから全部食べようと思ったんだよ」

偉いけどあんまりマネしたくない。


それから一緒にお風呂に入ったりもした。

「おっキスマークまだ残ってんじゃん」

嬉しそうに指をさす律先輩を見て私もどんな気分か知りたくなったから
先輩につけようとしてみたけど、うまくつけられなかった。

「梓へたくそ~w」

初めてじゃ普通できませんよ。

お風呂からあがって髪を乾かして…もうやることがなくなった。

これでいちゃつくのに専念できる!

「昼間寝ちゃったから全然眠たくないですね」

「そうだな…誰だよ寝たの!」

「お互い様です!」

テレビを見ようかと思ったけど、特におもしろい番組もしていなかったので
つけただけでただのBGMになってしまった。

「梓は将来なにになるんだ?」

「一応ギタリストになりたいとは思ってます」

まだはっきりと言い切れないけどこれ以外考え付かないかも。
みんなどうやって決めたんだろう。

「先輩はどうして自衛隊に入ろうと思ったんですか?」

「いろいろあるんだよ! それよりのど乾いた」

自分のことになると話してくれない。もどかしいな。

「ごまかさないでくださいよ」

「浄水器の水もらうね~」


たぶんわざとその話題を避けてるんだろう。
空気を悪くしたくなかったから私も他の話に切り替えた。

「あっ今日付変わりましたよ」

「私たちちょっとワルだな」

いつもはしないことってわくわくする。

「なあなあ、キスマークもっかい見せて」

「いっ いやです」

服を脱がしにかかりながらそう言われるとつい抵抗してしまう。

「じゃいいや」

でも嫌でやってるわけじゃなくて、反射っていうのかな。
本当は脱がされても全然構わないんだけど……

どう言ったらいいのか全くわからなくて、悩みぬいた挙句の一言。

「えっ見ないんですか?」

「嫌なんだろ」

「先輩ならいいです」

これが律先輩のスイッチだったらしい。

急に無言になって私の服をはぎ取った。

何度もされていることだけど、この少し乱暴な律先輩には慣れない。

まじまじと私を見た後、

「つけた時より薄いな」

切なそうにつぶやいて、私の鎖骨の下に口をつけた。

一瞬だけ針でつっつかれたような感触のそれは、
私に先輩と一緒にいた印を残してくれた。

「へへっ2個目だ!」

得意げに言う先輩もかわいいな。

「友達に自慢していいぞ!」

「恥ずかしくてできません」

でも、ずっと消えないでほしいとか思っちゃったり。

「脱いだし勢いでまたしちゃう?」

「ううっ…好きにしてください」

にやにやしてる律先輩。
自分からOK出すのは恥ずかしい。聞かずにやってほしかった。

先輩のいじわる!


どちらも荒い息の中行為にふける。
変な言い方だけど、いつも1か所ずつしかいじられることがない。
たいていは快感に喘ぐ私を上から律先輩が眺めてる感じ。

「なあ、キスしていい?」

「んっ…はい」

片方は気持ち良くないから普通に話しかけてくるけど、されてる方は喋るのがつらいです。
指は動かしたまま、口を口でふさいでくる。

「あっ…んぅ」

快感がさらに増したような気がして、つい律先輩にしがみつく。

「梓、かわいい」

普段言われないからか、一気に体温が上がってしまった。

「りつ…せんぱいっ…!」

ぎゅっと抱きしめると、律先輩も片腕で抱いてくれた。

「せんぱい…んっ」

先輩はすごくあったかくて、安心できる。

「ごめんそろそろ限界」

私たちの行為は先輩の腕が疲れるか、私が痛いと訴えたら終わる。
どっちも男性経験はないから、それで満足できる。

「はぅ…」

余韻に浸りながら、2人でまったり。
私を胸に抱いて髪をなでる手が優しい。

「どうだった?」

そしてまた私いじめが始まった。

「どうでしょう」

恥ずかしいからごまかす。

「気持ちよくなかったかな…?」

捨てられた子犬のような目で見てきた。
私がいじめてるみたいじゃないですか。

「すごく気持ちよかったですよ!」

照れ隠しに声を張る。

「えへへ」

にやにやじゃなくってにこにこ。
よくわからないけど本当に嬉しいんですね。

いつの間にか2人とも眠っていて、起きたら朝の10時。
そんなに疲れていたのかな。

「そろそろ帰らないと」

「明日出発ですよね」

寂しいけど、私がぐずっても迷惑かけるだけだからあえて何も言わない。

「寂しいか?」

「…全然平気です!」

私の悪い癖でつい虚勢をはってしまう。

「私は寂しい」

なんて言ったらいいのかわからなかった。

「しばらくしたら、また会いにくるからな」

「待ってます」

「浮気するなよ」

「先輩こそ」

軽口をたたき合って、最後のお別れ。

「よしよし、寂しくても泣くんじゃないぞ」

「先輩こそ寮で泣いたりしないでくださいね」

「それじゃ、またいつか」

恋人にとっては長い長い別れだけど、あんまり湿っぽくならなくてよかった。
あんまり連絡は取れないみたいだけど、公務員なんだからちゃんと休日くらいあるよね。

帰宅をお見送りして、私の部屋に戻った。

1人ってこんなに寂しかったかな。

ピリリリ

急に携帯が鳴った。
電話の着信音。律先輩からだった。

「もしもし」

『一つ言い忘れた』

「どうしたんですか?」

『梓、大好きだぞー!』

「私も…大好きです」

なんでだろう、涙が出てきた。

電話越しに小さく『ねえちゃんうるさい』と叫ぶ声が聞こえた。



おしまい


最終更新:2010年03月25日 00:32