まわりを過剰に気にして。
まわりにばれるのが怖くて。
あずにゃんは勇気を出して告白してくれたのに。
あずにゃんに迷惑をかけたくないのは本当だけどそれも言い訳にしてしまった……。
そうしてまわりの目やあずにゃんから逃げて……
私は何時からこんなに臆病になっちゃったんだろう。
それでいてあずにゃんの事を気にしている。
今だってそう。

あ……あずにゃんのことで泣いたの久しぶりだな。
動画のあずにゃんは楽しそうに演奏している。
一緒に演奏しているのが私や放課後ティータイムのみんなじゃない。
そのことがとても……あれ。
なんだろ、この気持ち。
……悔しいんだ。
私がこうなることを望んで応援してたのに。
仕舞いには逃げ出したのに。

でも……
私だってあずにゃんと一緒に音楽やりたかったよ!
だけどそんなこと言える訳ないじゃん!
それを言ってしまったら好きな人の夢を壊してしまう。
そんなことは絶対にしたくない。
でも逃げたのは私。
ああもうわかってる。
わかってるよ!
わかってるけど……


……はぁ。

泣いたらちょっとすっきりした。
こういう時は間違ってることもそうでないことも
思ったり口に出したりするのが一番いい。
人には聞かせられないけどね。

ああ、こんなんじゃあずにゃんに失望されちゃう。
私も……
私も何かしなくちゃ。
何もしないでいるよりはずっといいよね。
レポートは……とりあえず置いといて。

私が今やりたいこと……
そういえば高校に入ってからも同じこと考えたなあ。
その時は偶然軽音部のチラシを見て決めたんだっけ。
そしたらりっちゃんと澪ちゃんとムギちゃん、それからあずにゃんに会うことが出来た。
それから私の毎日は軽音部が中心になったんだよね。
今でも軽音部に入って本当に良かったと思える。

やっぱり私にはこれしかないかな。


きっかけはあんなだったけど、それでも毎日練習してきた。
それは単純に楽しかったから。
ギー太はいくら弄ってても飽きないし。
練習した分だけみんなと合わせるのが楽しくなる。
こんな私でも少しずつ上達していくのがわかった。

そういえば和ちゃんに「唯は軽音部に入って変わった」って言われたことがある。
確かに変わったのかもしれない。
なんとなく生きていた時とは違う。
当時は気付いてなかったけど今ならよくわかる。

それから、音楽は私に新しい出会いをくれた。
ムギちゃんりっちゃん澪ちゃん。
他にもライブのおかげで他のクラスの子に話しかけてもらえたり
ライブハウスに行って他のバンドの人とも仲良くなった。
大学でもそう。
サークルには放課後ティータイムしかいないけれど、
学園祭を通して他のサークルや音楽が趣味の人とも知り合えた。
あずにゃんにも。

夢は武道館、なんて子供の約束で始まった軽音部だけど
私は今でも出来たらいいなと思っている。

それに……

同じ道ならいつか交差するかもしれない。

あずにゃんがいなくなってから改めて解った。
私はやっぱりあずにゃんが好きだった。
今更遅いし、それがわかってて逃げたんだけど。
それでも、どうしても忘れることが出来ない。
いつかまた出会えた時、
私はあずにゃんのような勇気を出せるだろうか――



あずにゃんが演奏している映像をもう一度再生する。
ギターの音に耳を澄ませて。
このギターでないとだめなんだ。
このギターと一緒に演奏がしたい。
あずにゃんと一緒に演奏がしたい。
あずにゃんのことが好きだから。

それに……

私も……私だって音楽が大好きなんだから。


私は今まで以上に音楽に打ち込み始めた。
練習量も増えたけどそれだけじゃなくていろいろと。
大学の成績はすれすれだったけど、
そのかわり音楽の知識や経験や人脈は増えたと思う。
相変わらず憂には頼ってばっかりだけど、それでもなんとかやっていけてる。

それから、あずにゃんの情報はなるべくチェックするようにしている。
やっぱり気になるし、あずにゃんを見ていたかったから。

あずにゃんは忙しいながらも順調そうだった。
ライブも好調でデモテープを買ってくれる人もどんどん増えているらしい。

そんな感じだったから、
あずにゃんのバンドがメジャーデビューしてもあんまり驚かなかった。
もちろん嬉しかったけど。
あと悔しさもちょびっと。

あずにゃんの頑張りと夢を叶えたことは
私にとっても大きな励みになった。

やっぱり私にはあずにゃんが必要なんだと思う。
でも、私の過去の弱さを許してくれるだろうか。


いつの日か再び抱きしめあえたなら、もう離しはしない。
そんな願いとあきらめの狭間で揺れている。

砕けてしまった夢の欠片がまた胸に突き刺さる。

流れ行く涙は未来へと続く。





また時間がつもり、街の色が静かに変わりゆく。


私はあずにゃんのバンドのファーストアルバムを買いに大型レコード販売店へ来ていた。
あずにゃんのCDは今のところ全部集めている。

……あ、あった。
ジャケットが見えるように置いてあったから見つけやすかった。
CDの帯には『スマッシュヒットを記録したシングルを収録』と書かれている。
なんだか嬉しい。

CDを手に取ってレジに行こうとした時、丁度そのCDの曲が耳に入る。
音のする方を向くとモニターでPVを流していた。
思わず見とれてしまう。

そこには私の目標であり、愛すべき人がいて――



ときめきながら走りだした

君がまだ輝いてる

君とそして

僕の影を踏み

新たな扉を開け

未来へと向かう……





――――

――――――――

――――――――――――


――君を想いだす この場所で僕はただ目を閉じて歌う 君の歌



唯「……ふぅ」

始まりと殆ど同じフレーズで締め括った。
通して演奏してみたけど……うん、いいかな。
私の想いを詰め込めるだけ詰め込んでみたつもり。
あずにゃんと出会ってからひとつの終わりまでを綴った歌。
この場所で形にすることができた。

はぁ、それにしても懐かしいな……。
みんなのことやあずにゃんの事を考えながらこの場所で紅茶を飲む。
ちょっと切ないけど、すごくいい……。

唯「……あれ、紅茶が冷たくなってる」

……今何時だろう?
窓の外を見ると日の光に少しクリーム色が混じっている。
もうすぐ夕方だね。
えっと、ここに来たのが昼過ぎくらいだから……だいぶ熱中してたみたい。
そういえばさわちゃん戻ってこないや。
カップはそのままでいいんだよね。

歌も出来たし、もういい時間。


やっぱりここに来てよかった。
いい曲が出来たと思うし、今のこの気持ちは中々味わえない。
いつもここで曲を作ろうかと思うくらい。
……といってもこれで最後なんだけど。
私にとっての最後の曲か……でも、寂しさは感じてない。
むしろいい曲が出来て嬉しい。
その誰のためでもない曲だけど、自分が気に入った曲だし
聴いてくれる人がどんな気持ちになるか気にはなってる。
やっぱり悲しい感じかな。多分みんなそうだよね。
まあ曲を完成させることが出来たし、それはいっか。



これで思い残すこともなくなった。

これからどうなるかわからないけれど
私は精一杯生きよう。






さてと、そろそろ行かなきゃ。

そう思った時、扉をノックする音が聞こえた。



唯「え……?」







梓「いい曲ですね」


扉の方を見るとあずにゃんが立っていた。
いつの間にか部室の中に入ってたんだ。

唯「あずにゃん……来てたの?」

梓「はい、ちょっと前から。集中してて気が付かなかったみたいですね」

唯「……そっか」

梓「その曲……」

唯「うん、私の最後の曲なんだ」

唯「少し悲しい感じに作ったんだけど」

唯「……どうかな?」

梓「……」

梓「そうですね」

梓「確かにそう感じる人もいると思いますけど」

梓「私には違って聞こえました」

梓「悲しいというより……嬉しい、ですね」

唯「そうかな?」

梓「私は、ですよ」

誰のためでもない歌だけど、これは君の歌だから。
あずにゃんがそう思うのならそうなんだろう。

梓「それにとても素敵な曲です」

唯「えへへ、ありがと」

梓「いえ」

唯「……」

梓「……」

唯「……」

梓「……あっ」


唯「ん?」

梓「唯先輩の曲に聞き惚れてて忘れてました!」

唯「あははっ照れるよ」

梓「そうじゃなくて時間!」

唯「おわーーたいへんだあ」

梓「……唯先輩気付いててのんびりしてたんですか?」

唯「えへー」

梓「えへー」

梓「じゃないですよ!早くしないと!すぐにギターも仕舞って下さい!」

唯「あずにゃん!!」

梓「なっなんですか」


唯「先輩ってつけるのそろそろやめない?」

梓「なんですかいきなり……」

唯「ほら、なんていうか行き詰るのが目に見えてるよ」

梓「それは……そのうち……あ」

梓「それを言うなら先輩こそ私のことをあだ名で呼ぶのそろそろやめて下さい」

唯「え~」

梓「流石に恥ずかしいですよ」

唯「大丈夫だよ~」

梓「いや高校生じゃないんですか――ああっ!」

梓「先輩早く!!」


唯「準備出来たよ」

梓「講堂まで走りますよ!」

唯「うんっ」

梓「あー……私澪先輩に怒られそうです」

唯「あはは」

梓「笑い事じゃないです!唯先輩だって律先輩に怒られますよ!」

唯「大丈夫だよ~きっとムギちゃんが何とかしてくれるよ」

梓「もぅ……」

唯「……そういえば」

梓「なんですか?」


唯「あずにゃんさあ、部室で私が使ってた机に何かした?彫刻刀とかで」

梓「……さ、さあ、どうでしたっけ」

唯「う~ん、やっぱり相合傘つけたの私かなぁ……」

梓「そ、それより!唯先輩が再結成後初ライブはここでやりたいって言い出したんですからね!」

梓「……まあ私も桜高がなくなっちゃう前にもう一度講堂でライブしたいと思いましたけど」

梓「今日はリハーサルだからまだ良いものの……」

梓「明日は遅刻したら洒落になりませんよ!」

唯「わかってるよっ」


唯「ねえあずにゃん」

梓「まだ何かあるんですか?後にしましょうよ」

唯「これで最後だから」

唯「……これから頑張ろうね」

梓「あ……はいっ!」

唯「ふふっ……あずにゃん、もう離さないからねっ!」



思い残したことは何もない。

これからどうなるかわからないけれど
私は私の愛する人と精一杯生きよう。





君とそして 僕の影を踏み 新たな扉を開け 未来へと向かう



END



最終更新:2010年03月25日 22:25