―教室

和「…さて、帰ろうかしら」

がらっ

澪「唯ー、一緒に部室行こう」

唯「澪ちゃん…いいよ。行こう」

和「あ…」

ぴしゃん

和「…そっか…そういうことか」

和(…唯には別に好きな人が出来たんだ…)


それから月日はあっという間に過ぎ、気がつけば私達は進級していた。


和「あ…澪…」

澪「和…同じクラスになったんだな…」

和「…そうみたいね」

澪「…まぁ、これからよろしくな」

和「………」



―昼休み

澪「なぁ和、一緒にお昼食べないか?」

和「…いいわよ」

澪は話してみると意外と気さくで、それにとてもしっかりしている人だということが分かった。
なるほど…、これなら唯が好きになるのもわかる気がする。
こんな嫉妬深くてダメな私より、澪の方が全然いいものね…。

そしてだいぶ打ち解けてきた頃、私はあのことについて聞いてみることにした…。

和「ねぇ澪…一つ聞きたいんだけど…」

澪「どうした?」

和「…澪と唯って、付き合ってるの…?」

澪「……うん」

和「…そうなんだ」

澪「うん…ごめん」

和「そんな…謝らないでよ」

澪「でも…唯と和はずっと…」

和「…いいのよ、もう前のことなんだもの」

澪「…ありがとう」

和「それより、二人のことを聞かせてよ」

澪「…うん!唯のやつな…」

私はこの時、唯のことを諦められた気がした。
いつまでも前のことに囚われてちゃいけない。今は唯と澪のことを応援してあげなくちゃ。
…でも、やっぱり少しだけ寂しい…。

澪「~でさ、……和」

和「ん?どうしたの?」

澪「どうして泣いてるの…?」

和「…泣いてる?私が…?」

目元を指で拭う。すると、少し暖かいものが指につく。
…私は泣いていた。

和「…本当だ。私…泣いてたんだ」

澪「…ごめん、やっぱり唯のことで…」

和「違うわよ!…ちが…」

それ以上は否定できなかった。どうして?
私は唯のことを諦めた筈なのに…、今は澪と付き合っている筈なのに…
わかっている…筈なのに…

和「……ち…が…」ポロポロ

涙が止まらない。

澪「和…」

澪が私を心配そうな目でみつめている。
私にはそれが同情されている様に思えて…
自分があまりにも哀れに思えて我慢ならなかった。

和「…私…ちょっとお手洗いに行ってくるね…」

澪「…うん、本当にごめん…」


和「………」ポロポロ

こんな泣き顔、唯に見せられないな…。
唯のことだからきっと、こんな私を見たら…

唯「…和ちゃん、泣いてるの?」

和「…!唯…」

気がつくと、唯が私の前に立っていた。
とても心配そうな顔で私を見つめている。

唯「どうして泣いてるの…?」

和「な、泣いてなんか…!」

私は制服の袖で目元をごしごしと擦った。
唯に泣いているところを見られてはいけない、唯を守れなくなるとあの日誓ったから。
でも、今の唯を守るのは私の役目ではない、澪の役目だ…。

唯「なにかあったの…?」

唯はまだ私を心配そうな顔で見つめている。
その顔を見たら、やっぱり唯の前では泣けないなと改めて思った。

和「…なんでもないわよ。目にゴミが入っただけ」

唯「嘘つかないでよ…どんなゴミが入ったらそんなに涙が出るの?」

和「うっ…それは…」

正論だ。

和「とにかく…なんでもないのよ」

唯「…どうして隠し事するの?」

和「別に隠してる訳じゃ…」

唯「嘘だよ!お願いだよ和ちゃん…話してよ…」

和「………」

唯が今度は泣きそうな顔をして私を見る。
そんなに心配するなら…最初から別れようなんて言わないでよ…

和「…なんでも、ないのよ」

唯「でも…!」

和「なんでもないって言ってるでしょ!!!」

唯「ひっ…!」ビクッ!

和「あ……ごめん…」

唯「………」

和「…もう、私達二度と話さないほうがいいわ…お互いの為に…」

唯「………」

和「それじゃ…さようなら…」

…本当にこれで良かったのだろうか。
いや、いいんだ。どのみち唯も私も…もう昔のようには戻れないから。
それなら…会わないほうがずっといい。

和「……唯」ポロポロ

私はまた、泣いていた。

和「それじゃ…さようなら…」

まって…行かないで和ちゃん…
私、まだ和ちゃんに言いたいことがあるのに…

唯「…まっ…て…」

…だめだ、うまく言葉が発せない。
私はまだ和ちゃんにちゃんと謝っていないんだよ。

唯「お願い…まって…」

和ちゃんとの距離が、徐々に開いていく。
ここで引き止めなければ、私は和ちゃんとまた話す機会を失ってしまう。
大きな声で呼びとめなきゃ…

唯「和ちゃん…まって…!」

…やっぱり大きな声がでないよ…どうして?
多分、私はあのことに罪悪感を感じているから…
和ちゃんに責められるのが怖いから…

…そして、和ちゃんは私の前から消えてしまった。


―部室

がちゃっ

唯「…お邪魔します」

梓「唯先輩、遅かったですね」

澪「…唯、和のことなんだけど…」

唯「…和ちゃんがどうしたの?」

澪「…私、和に唯と付き合ってるって嘘ついちゃったんだ」

唯「…え?なんでそんな嘘を?」

澪「………」

唯「どうして!?」

澪「…ごめんなさい」ポロポロ

唯「だからどうしてそんな嘘を…」

律「唯…私の話を聞いてくれないか?」

唯「話ってなに…?」

律「…ここじゃなんだ、帰りに私の家で三人で話そう」

唯「わかったよ…」

律「それじゃ今日はもうお終いだ。唯、澪、行こうぜ」

唯「うん…」

澪「……わかった」


がちゃっ ばたん

紬「………」

梓「………」

紬「…私達も帰りましょう」

梓「…はい、そうですね」



―律の家

唯「それで、話って…?」

澪「………」

律「…実はな、澪は唯のことが好きなんだよ」

唯「え…?本当なの澪ちゃん…?」

澪「うん…」

唯「そうなんだ…」

律「…あとはお前が言うんだ、澪」

澪「ありがとう律…、唯…私と付き合ってくれ!」

唯「………」

澪「…初めて部室で会ったときからずっと気になっていたんだ」

澪「どうにかして付き合いたいって…そう思っていた」

澪「でも…お前が和と付き合ってるって言った時、私は無理なんだなって思ったんだ…」

澪「だから唯と和が別れたって聞いた時…私はすごく嬉しかったんだよ。…こんなこと言ってごめん」

律「………」

澪「でも私は、唯に告白する訳でもなくずっと今日まで過ごしてきた…ふられるのが怖かったから…」

澪「…だけどそれも今日でお終いだ、私は逃げない」

澪「唯、もう一度言う!…私と付き合ってくれ!」

唯「…すこし、考えさせて…」

澪「…返事、待ってるから」


私はそれから、家で告白のことについて考えていた。
澪ちゃんのことは確かに好きだけど、でも私が本当に好きなのは…

でもダメだ、あの時私は和ちゃんよりも部活を選んでしまったんだから。
今更よりを戻そうなんてそんな都合のいいこと…出来るわけがない。

唯「ふぅ…どうすればいいのかな、ギー太…」

ギー太「………」

ギー太は返事をしてくれない。当たり前か…。
私はもう一度ため息をついた。

prrrrrrr…

唯「…電話?誰からだろう?」

唯「…はい、もしもし…」

律「…唯、今大丈夫か?」

唯「りっちゃん?どうしたの?」

律「…実は私、唯に謝りたいことがあって」

唯「謝りたいこと…?」

律「ああ、私が部活と恋人…どっちを取るかって言ったことだ」

唯「………」

確かあの時は、りっちゃんが部活を疎かにするなら和ちゃんと別れろって言ったんだっけ。
その時私はまだ部活に入りたてで、みんなに迷惑かけちゃいけないと思って…それに、両立させるのに疲れていたから、だから別れたんだ。
…でもそれは、心のどこかで和ちゃんと別れても、私達二人ならきっとまたよりを戻すことができると思っていたから。


…今思えば、私は最低だ。

律「…そのことで謝らせてほしい」

律「…実はあの時、私が唯と和が別れるように仕向けたんだ」

唯「え…?」

律「どっちかを選べって言えば、唯は部活を選ぶって信じていたから…」

唯「…どうしてそう思ったの?」

律「見ていたらわかるよ。お前は和と付き合うことに疲れていたんだろ?」

唯「………」

…否定はできない。

律「だから、唯と和が別れてくれれば澪はお前と付き合うことができるって…そう思ったんだ」

唯「…そうなんだ」

律「だから…その…ごめん!」

唯「いいよ…謝らないで…」

…悪いのは私の方だ、和ちゃんと付き合ってるって自覚がなかったんだから。
何とかなるって…和ちゃんの気持ちも考えないで、そう一人思いこんでた私が悪いんだよ。

唯「…ひとつ聞いていい?」

律「なんだ…?」

唯「りっちゃんはどうして澪ちゃんの為にそこまで必死になれるの?」

澪「…さぁ、なんでかな…たださ、あいつは放っておけないんだよ」

唯「…そうなんだ」

…きっと、りっちゃんは澪ちゃんのことが好きなんだ。
なんとなくだけど、そんな気がした。


律「ごめんな急にこんな話して…でも、澪のこと真面目に考えてやってくれ」

唯「…うん」

律「じゃあまた明日…おやすみ」

唯「おやすみ…」ピッ

唯「…ふぅ」

…どうしようかな、私は今でも和ちゃんが好きなんだよ…。
でも、和ちゃんとよりを戻すことなどもう出来ない。

それならいっそ…



―次の日

唯「澪ちゃん、ちょっといいかな?」

澪「…どうした?」

唯「昨日のことなんだけど…その…私と付き合ってほしいの」

澪「…え?いいのか!?」

唯「うん、こんなことで嘘なんかつかないよ」

澪「…やった、やったー!」ガバッ

唯「わっ!?急に抱きつかないでよ…びっくりするじゃん」

澪「だって…すごく嬉しいんだもん…」グスッ

唯「…澪ちゃん、これからよろしくね♪」

澪「うん!こちらこそ…よろしくな♪」

唯「………」


…私は、やっぱり最低だ。

それから私と澪ちゃんは付き合うことになり、軽音部のみんなにもそのことを知らせた。

梓「えっ!?唯先輩と澪先輩が…!?」

紬「付き合うですって…?」

澪「あぁ、今日からな。みんなにも知らせとこうと思ってさ!」

唯「そうなんだ~、よろしくね」

紬「まぁまぁ…素晴らしいわ…♪」

梓「驚きました…すごく…」

律「………」

澪「律もありがとな、唯と付き合えたのはお前のお陰だよ!」

律「…え?あ…あぁ!二人とも、仲良くやるんだぞ!」

澪「言われなくても!」

律「…私ちょっとトイレ行ってくるわ!」


……

和「………」

私は生徒会室に行く為、一人廊下を歩いていた。
そしてトイレの前を通った時、誰かのすすり泣く声を聞いた。

「…寂しいよぉ…えっぐ…」

…この声は…私は知っている。
面影はないくらいに弱々しいが、これは、いつも明るい軽音部の部長の…


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最終更新:2010年01月04日 02:16