―さらにさらに数分後。

紬「では、ゲームをしましょう」

律「勉強会じゃないのかよ」

紬「息抜きも必要よ」

唯「なにやるの、ムギちゃん?」

紬「これよ」

 そう言ってムギ先輩が取り出したのは、可愛らしい花柄のトランプ。

紬「今から皆にはポーカーをしてもらいます」

憂「ポーカーですか……」

紬「人数が多いので、一人二順までよ」

 カード交換のチャンスは二回きりということだ。
 最初のカードの運に左右されると言っていい。

紬「最下位の人は、笑い数+3のペナルティに処されるから、がんばってね」

律「もはや笑ってはいけないとか関係ないな」

紬「では、配ります」

 ムギ先輩の手により、各自に五枚ずつのカードが配られる。
 当然伏せたままなので、相手のカードは見ることができない。

紬「りっちゃんから時計回りでお願い」

律「はいよ」

 私も手元のカードを取る。

 ふむ。

 ダイヤの4、ハートの4のワンペアに、
 あとはクローバーの9、スペードの2、ダイヤの6と、バラバラ、か。

 ふと正面に目をやると、唯先輩が、ぷるぷると肩を震わせていた。
 どうしたんだろうか。まさか、トランプに何か仕掛けが……?

唯「……ふ、くくく……」

紬「唯ちゃん、アウト」

唯「あははははははは!!」

 アウトという声に、我慢する必要がなくなったのか、普通に爆笑しだす唯先輩。

憂「お、お姉ちゃん?」

唯「ふふ、だってこれは、ふはは、ずるいもん」

 そういって、唯先輩はカードを見られないように伏せて、
 おとなしくエージェントに連行された。

 さわさわ。

 一人だけ四回とか。頑張りすぎです唯先輩。
 だけど……。だからこそ、これは、絶対に負けられない。

 そういえば。
 心なしか澪先輩と憂、それに和先輩も笑いを堪えているような……。
 やっぱり、カードに何か仕掛けがあるのかな?

一順目の私の番。
 当初の予定通り、揃っていない三枚を切り、新たに三枚を取る。

 クローバーの2、ダイヤの8、スペードの8。
 これでツーペア。二順目は2を捨ててフルハウス狙いかな。

 最後に順番の回る唯先輩は、一枚だけを捨てた。
 私と同じツーペアでのフルハウス狙いか、あるいはストレートやフラッシュだろうか。

 二順目でカードを拾った律先輩が、ちょっと笑いそうになっていた。
 やはりか。
 カードに何か仕掛けてあるのは間違いない。

 二順目で8か4を期待したが、アタリは来ず。
 結局私はツーペアで上がりとなった。

紬「全員終わったかしら。それじゃあ、りっちゃんからカードを見せてもらえる?」

律「分かった」

 律先輩がカードをオープンして、皆に見せる。

律「私は、3のワンペアだ」

 開かれたカードの中に、私の手には一度も渡らなかった『絵札』が存在した。
 絵札は、「ジャック」、「クイーン」、「キング」の三枚x四種の計十二枚。
 これらには、通常その名のとおり「王子」「女王」「王様」が描かれているものだが。

 律先輩の手持ちカード「クイーン」には
 『ナガレワ・ロス』という歴史上の偉人(或いは異人)が描かれていた。


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.        ヽミ:::::::::::ヾヽ.  ヾ::::::/l!
 ナガレワ・ロス [Nagarewa Ross]
    (1968~ アメリカ)


澪「……」

憂「……」

和「……」


梓「……ふふ」

紬「梓ちゃん、アウト」

梓「いや、これ誰ですか!! 何やった人なんですか!? 知らないですよ、こんなファニーな名前の偉人!!」

 連行される私。
 なるほど。だから皆笑いを堪えていたのか。
 私の手には絵札が無かったから、他の人に高確率で絵札が渡っていたのは頷ける。
 ていうか、耐性もてなかった分、私だけ不利だ。
 でも、クイーンはもう大丈夫。残る絵札はジャックとキング。
 気を引き締めな「ひゃん!」……いと。
 お尻をなでなでされた。

 今更だけどこの罰ゲームどこかおかしいと思う。

紬「じゃあ、次は澪ちゃんね」

澪「私は……クローバーのフラッシュ」

律「なっ!?」

憂「澪さんすごーい」

 手札を公開した澪先輩。
 言葉通り、クローバーが五枚揃っていた。
 むぅ。この時点で私の勝ちは無しか。


 しかし、澪先輩のカードの中には、
 またしても『ナガレワ・ロス』が混入されていた。

梓「……」

澪「……」

憂「……」

和「……」

律「……ふふっ、お前……こいつでフラッシュ作るなよ……」

唯「……ふ」

紬「唯ちゃん、りっちゃん、アウトぉ♪」

唯「ああああっ!!」
律「ちくしょおおおおっ!!」

和「唯、本当弱いわね……」

 それは私も思ってたこと。
 だけど、そんなことより。

 憂、強え!!

 未だに0回とか。いや、ちょくちょく笑いそうにはなってるみたいなんだけど。
 憂をここまでさせるのは、やはり勝利への執念か。

憂「お姉ちゃん……」

 否。姉への執念だ。

 前方ではおしおきされる唯先輩と律先輩。
 唯先輩に至っては、すでに慣れてきている感じさえする。

紬「……唯ちゃん」

唯「ふぇ?」

紬「十回超えたら、おしおきもパワーアップするから」

唯「まじですか」

紬「大まじです♪」

 嬉しそうだなぁ、ムギ先輩。

紬「次は、和さんよ」

和「私も律と同じ。ワンペアよ」

 カードがオープンされる。
 確率的に見て、ジャックかキングのいずれかが紛れ込んでいてもおかしくない。
 私は、ゆっくりとオープンされたカードに目をやった。
 揃っているのは5。この段階で最下位は律先輩となる。

 そして私は、そこに混入されている絵札を見つけてしまった。



        ,.-─ ─-、─-、
      , イ)ィ -─ ──- 、ミヽ
      ノ /,.-‐'"´ `ヾj ii /  Λ
    ,イ// ^ヽj(二フ'"´ ̄`ヾ、ノイ{
   ノ/,/ミ三ニヲ´        ゙、ノi!
  {V /ミ三二,イ , -─        Yソ
  レ'/三二彡イ  .:ィこラ   ;:こラ  j{
  V;;;::. ;ヲヾ!V    ー '′ i ー ' ソ
   Vニミ( 入 、      r  j  ,′
   ヾミ、`ゝ  ` ー--‐'ゞニ<‐-イ
     ヽ ヽ     -''ニニ‐  /
        |  `、     ⌒  ,/
       |    > ---- r‐'´
      ヽ_         |
         ヽ _ _ 」

     ググレカス [ gugurecus ]

   (西暦一世紀前半~没年不明)


律「……」

唯「……」

梓「……」

澪「……」

憂「……」

和「……」


 どっちだよ!?
 ジャックなのかキングなのかどっちだよ!?
 わかんないよ!!

 だけど、クイーンの時とは違う。
 覚悟していた分だけ、ダメージは低い。

 奇しくも全員セーフとなった。

紬「じゃあ次、憂ちゃんね」

憂「はい。ええと、私も一緒で、7のワンペアです」

 憂のカードは、7のワンペア。
 『ググレカス』と『ナガレワ・ロス』が一枚ずつ混入していたが、
 そこにキングの姿は無かった。
 いや、『ググレカス』がキングなのかもしれないけど。

 ……となると、残り一種の絵札を所持するのは唯先輩か。

紬「次は、梓ちゃんね」

梓「はい」

 私はゆっくりとカードをオープン。
 絵札もないし、数字だけのツーペアだ。

 これほどこのゲームに優しい上がり方はあるまい。

和「ツーペア。ということは、唯か律のどちらかが最下位になるわね」

律「唯、私はお前を信じてる」

唯「任せて、りっちゃん」

紬「では、最後。唯ちゃんお願い」


唯「私はねー」

 唯先輩は、自分の手札を裏返す。
 大丈夫。覚悟は十分できてる。
 たとえどんな偉人が来ても、私は耐え切れる!

唯「ポーション高杉のフォーカード」



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  ポーション高杉【P.Takasugi】
   (2006~   日本)
   


 アッサムティー吹いた。


紬「全員、アウトね」

 ああ、唯先輩は、一発目からこれに出くわしていたのか。
 カードを開けば、おんなじ顔した東洋のおっさんが四人で腕組んでコンニチワ。

 そりゃ笑うよ。ずるいもん。
 フォーカードって何気に凄いけど、
 四人の英雄(ポーション高杉)のインパクトが強すぎてそれについて誰も触れない不思議。

 お尻をさわさわされたり、耳たぶを甘噛みされたり、
 息を吹きかけられたり、ハリセンでしばかれたりして、
 各々が自分の席へと戻る。

 私も席に戻ろうとしたところで、
 隣の席(唯先輩)のテーブルにおおっぴろげにされている四人の勇者と目が合った。

 やべえ。

梓「あの、唯先輩」

唯「なんだい、あずにゃん?」

梓「それ」

唯「……どれ?」

梓「その、……四人の高杉さん」

唯「…………」

梓「そ……れ、片付けて……もらえませ……っく……ふふ」

唯「……ふふ」

紬「唯ちゃん、梓ちゃん、アウト」

梓「だああああ、もう、なんですぐ伏せてくれなかったんですかあぁぁ!!」

唯「だ、誰か笑うと思って……」

梓「自爆してるじゃないですか! もう、馬鹿!唯先輩の馬鹿ぁぁぁ!!大好き!!」

澪「……ふふっ」

紬「澪ちゃん、アウト」

澪「梓、爽やかに告白しないでくれ」

 もはや泥試合だった。

 ここまでの成績
 律 3
 澪 3
 唯 7
 憂 1
 梓 4
 和 2

紬「ポーカーの最下位はりっちゃんだから……ペナルティはこうなるわね」

 律 6
 澪 3
 唯 7
 憂 1
 梓 4
 和 2

唯「りっちゃん!! りっちゃんなら追いついてくれるって信じてた!」

律「うわあああ、最下位は嫌だぁぁっ!!」

澪「(律が最下位なら、私が頑張れば……)」

 ていうか。
 ていうか、地味にやばい。
 唯先輩が最下位独走なのは願ってもない展開だけれど、
 憂と和先輩が強すぎる。
 二人の笑いのツボを見つけ出して、ピンポイントで攻撃でもしない限り、私に勝ち目がない。

紬「次は、大貧民をしましょう」

澪「トランプは……そのままなの?」

紬「ええ」

律「キツいなー」

紬「それに加えて、この大貧民では、日本語を禁止するわ」

唯「え?」

紬「会話は英語のみ。日本語を喋ったら、その時点で笑い数+1のペナルティを科すわ」

和「なるほど。遊び感覚で英語を勉強するのね。ステキな案だわ」

憂「絶対違うと思いますよ」

 英語のみというのはなかなかきつい。
 それ以前に。ひとつ聞いておかなくてはならないことがある。
 笑いそうになるかもしれないけど、誰かが聞かなきゃゲームにならないのだ。

梓「質問、いいですか?」

紬「どうぞ、梓ちゃん」

梓「……絵札、の強さの順位がわかりません」

 ナガレワ・ロス、ググレカス、ポーション高杉。
 寧ろ、分かる方がおかしいと思う。

紬「ナガレワ・ロス<ポーション高杉<ググレカスよ」

梓「なるほど」

 ナガレワ・ロスがジャックで、
 ググレカスがキングだったか。
 ……あれ?

律「え?」

澪「……」

憂「……」

唯「……」

和「……」

梓「……」

 誰も突っ込まないのなら、私がいきますよ? 
 そう考えたところで、澪先輩が口を開く。

澪「ムギ」

紬「なにかしら、澪ちゃん」

澪「ポーション高杉さんは、その……クイーンなのか?」

 律先輩が、おい、やめろ!という目つきで澪先輩を睨む。

紬「Yes」

澪「いや、これ普通のおっさんだろ!!ていうか、僅か三年で老けすぎだろ!!」

憂「……」

唯「……」

和「……」

梓「……」

律「……くっ」

紬「りっちゃん、アウトー♪」

律「バカ澪ぉぉぉぉ!!言わなくていいのにッ!!」

 スパーン!!

律「ってえええぇぇぇ!!」

 律先輩、実質笑った回数は4回なのに、最下位タイ。
 一人だけハリセン。
 なんだか可哀想になってきた。

紬「他に質問がなければ、カード配るわね」

 そして、偉人トランプ第二回戦『日本語禁止の大貧民』が開始された。
 六人だから、一人当たり手持ちカード八枚か九枚ということになる。
 短期決戦になるだろう。

紬「それでは開始します。 今度は、澪ちゃんから、反時計回りにお願いね」

澪「わかった」

紬「澪ちゃん、アウトー」

澪「あっ!!」

和「……ふふっ」

 不覚にも。
 かわいいなぁ、澪先輩。
 日本語禁止って言われたばっかりなのに。

紬「和さんも、アウトね」

和「日本語ダメって言われたばかりじゃないの」

澪「そうだっ――ひゃっ!?」

 さわさわ。

 ゲーム終わんないで、皆さんもうちょっと頑張ってください。
 英語で言おうとしたけど、間違えたくないので心の中だけにとどめた。

 おしおきされた澪先輩と和先輩が戻り、大貧民再開。

 澪先輩が最初に捨てたカードは、『3』を二枚。
 和先輩は、『4』を飛ばして『5』を二枚。
 憂は『9』を二枚。

 ちくしょう。8出そうと思ったのに。

梓「pass」

唯「pass too !! I don't ...card」

梓「……」

澪「……」

和「……」

憂「……」

唯「りっちゃん's turn!」

律「……」

憂「ふふっ」

梓「……ふ」

紬「憂ちゃん、梓ちゃん、アウトー」

梓「うわああああ!!もう、やめてくださいよ唯先輩!!」

憂「お姉ちゃん、haveくらい分かるでしょ……」

 せっかく憂が笑ったのに、私まで笑ってしまった。
 隣で自信満々に『私は使わない』とか言い出すんだもん。

 はむっ。

憂「きゃん!?」

 さわさわ。

梓「ひっ!?……、あ、ちょっと慣れてきた」

しかし、マズイ。
こういう種目では、逆に唯先輩の英語力が脅威だ。



最終更新:2010年05月13日 17:16