紬「あなたがギガロマニアックスの力を使って、妄想によって作り出した存在なのよ」


唯「え・・・?ギガロマニアックスの力・・・私の・・・?
  ギガロマニアックスの力って、ディソードを出すものじゃなかったの?
  それに、私はまだギガロマニアックスとしては覚醒してないって・・・」

紬「ディソードを出してどう使うかが重要なのよ唯ちゃん。
  本来これは、妄想を現実にできる力をもつものなの」

唯「妄想を・・・現実に・・・?」

紬「例えば唯ちゃん、磔の現場で血まみれの梓ちゃんに会ったわよね?」

唯「あ、うん・・・」

紬「このノアⅡっていうのは、ギガロマニアックスの力をもっと簡単に、広範囲に渡って使え
  る装置なんだけど・・・
  あの梓ちゃんは磔の実行犯がノアⅡの力を使って唯ちゃんに見せた妄想なのよ。
  つまり、本当はあんなところに血まみれの梓ちゃんなんていなかった。」

唯(妄想を現実にっていうのはよく分からないけど、磔の現場に居たあずにゃんは偽者だったってことだよね・・・。 やっぱりあずにゃんも事件の犯人じゃなかった・・・疑ったのは悪いけど、違っててほんとによかった・・・)



紬「とにかく唯ちゃんはね、その力を使って梓ちゃんっていう化け物を生み出したの。中野梓なんて本当はこの世にいなかった」

唯「そんなの信じられないよ!だって実際にあずにゃんはいるし・・・」

紬「あのね唯ちゃん、ちょっと冷静に考えてみて?」

紬「どうして唯ちゃんと同じくギターが弾けて、しかもとっても上手くて、唯ちゃんに懐いて
  て、憂ちゃんとも仲が良くて・・・
  そして何より、こんな事件のことを全部知ってる、唯ちゃんにとって何もかも都合の良い
  後輩が存在するの?おかしいとは思わない?」

唯「そんなの・・・」


紬「たまたまなんて言わせないわよ。唯ちゃんが生み出したの。
  まだ上手くギターを弾けない自分に教えてくれるためにギターが上手くて、
  何も知らない自分の代わりに自分が知りたいことを何でも知ってる、そんな後輩を」

唯(あ・・・そういえば、ヴァンパイ屋事件の次の日、りっちゃんから逃げた私の前に現れてくれたのも・・・私がそう望んだから・・・?)

紬「そして、さっき唯ちゃんは自分はまだギガロマニアックスとして覚醒してないって言った
  わね。
  そう、その通りよ。その上で、人一人、しかもギガロマニアックスの力を持った人間を生
  み出すなんて普通じゃない。
  普通は覚醒していても、妄想から人を生むなんて無茶をしたらエネルギーの使いすぎで倒
  れてもおかしくないわ。
  こんなの無意識にできるレベルじゃないの」





紬「梓ちゃんのこと化け物って言ったけど・・・その梓ちゃんを生み出した唯ちゃんも充分化け物よ」


唯「そんな・・・私もあずにゃんも化け物・・・」

紬「そう。分かってくれた?唯ちゃんのこと化け物って言ったのはともかく、梓ちゃんはほん
  とにもともとはこの世にいないはずなの。
  というより、いちゃいけないの。 だから、もう殺しちゃうわよ?」

唯「化け物・・・私もあずにゃんも・・・」

紬「あらあら、もう聞こえてないのね」

紬「それじゃ、梓ちゃんを殺してみましょう」パチン

紬が指を鳴らすと、ノアⅡの前に十字架のようなオブジェが運ばれてきた。梓はそこに張り付けられている。
紬はそれに近付きながら、手を横に伸ばし、何かを掴むように動かした。すると、そこに剣、ディソードが現れる。

紬「そうそう、私もギガロマニアックスなの。
  澪ちゃんが覚醒した時、剣なんて見えないって嘘ついてごめんね?」



梓「唯・・・先輩・・・」


唯(あずにゃんが殺される。化け物だから・・・)

唯(ほんとはこの世にいちゃいけない・・・)

唯(だから殺される・・・)

唯(そんなあずにゃんを生み出した私も化け物・・・)



梓「唯先輩ーっ!!!!」


唯「!」

紬「あら、気付いた?」

唯(ムギちゃん・・・ディソードを持ってあずにゃんを・・・早く止めなきゃ・・・)

唯(でも、すぐ目の前に見える剣・・・のようなもの・・・これは?)

唯(こんなのに構ってる場合じゃないのに!早くムギちゃんを追わなきゃ!)

唯(でも・・・)スーッ

傍から見れば唯は空中をぼーっと眺めて手を伸ばしているだけに見える。

しかし、その手を握った瞬間、先ほどの紬と同じように、そこに剣が握られていた。



唯「これが、私のディソード・・・?」

唯「ムギちゃん!」

紬「あら唯ちゃん、まだ梓ちゃんを殺す前だっていうのに、もう覚醒してくれたの?嬉しいわ」

唯「そう、覚醒したよ。だからあずにゃんを開放して」

紬「それはできないわ。だって梓ちゃんは多くのことを知りすぎてるんだもの。このまま生かしておくと危険だわ。 もちろん唯ちゃん、あなたもCODEサンプルさえ取ったら殺してあげるから」

唯「そんな!」

紬「それに梓ちゃんだって妄想からなんて生まれ方して、生きてるのが辛かったこともあるはずよ?ここで殺してあげるのが梓ちゃんのためじゃない?」



唯「あずにゃん・・・そうなの・・・?」

梓「・・・・・・」

紬「沈黙ってことは肯定ね」

梓「いえ・・・」

唯「!」

梓「辛かったことがあるのは事実です・・・私はそんなことのために生まれたんだって・・・。 でも唯先輩と触れ合っていくうちに、唯先輩ともっと一緒に居たいって思うようになって・・・」

梓「だからここで死にたいなんてことは絶対ないです!
  それに唯先輩と約束しました!また一緒にケーキ食べてギター弾くって!」

唯「あずにゃん!」

紬「あらあら」

紬「まあ、梓ちゃんが何を言おうと唯ちゃんのCODEサンプル取って二人とも殺すのには変わりないんだけどね」

唯「あずにゃんは殺させないよ!」

紬「ええ、それより唯ちゃんを捕まえる方が先だわ。その後二人仲良く殺してあげる」

唯「ふざけないで!そんなことはさせな・・・?」

唯「りっちゃん・・・?」

気がつくと、唯と紬の間に律が割って入っていた。


唯「りっちゃん!?なんでこんなところに!?いつの間に連れて来られてたの?」

律「そんなことどうだっていいだろ。それより今の話聞いてたんだけど・・・唯って化け物だったんだな」

唯「!」

律「唯が化け物で、後輩の梓も化け物・・・何だよこれ・・・けいおん部って化け物ばっかりじゃないか!」

唯「りっちゃん・・・なんでそんなこと・・・」

律「何でもなにも、化け物の相手ばかりさせられてた私の身にもなれって! 唯・・・いや、化け物はもう消えろ!」


唯「りっちゃん・・・」ヘタリ

梓「唯先輩!」

紬「いくら呼んでも無駄よ。唯ちゃんは私の見せた妄想にとりつかれてるから」

梓「そんな・・・」

紬「さて、それじゃあゆっくり唯ちゃんのCODEサンプルを取らせてもらうとするわ」

梓「いやああああ!唯先輩!唯先輩っ!」


唯(りっちゃん・・・私・・・)

律「化け物が気安く私の名前呼んでんじゃねーよ! 早く死ねって!」

唯(りっちゃんにこんなひどいこと言われて・・・
  せっかくあずにゃんと澪ちゃん助けて今まで通りのけいおん部が復活すると思ったのに・・・)

律「はあ?化け物が二人もいて今まで通りもクソもないだろうが!」

唯( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )


唯(りっちゃん・・・さっきはあんなに優しく話してくれたのに・・・)

唯(そうだ・・・さっき・・・りっちゃんは、私の味方って・・・また明日って・・・)

唯(じゃあ、このひどいこと言うりっちゃんは・・・)




唯(妄想?)


唯「えっ!?」

突然唯の目の前から律の姿が消えた。
そして代わりに、紬が唯の目の前まで迫っていた。

紬「そんな・・・私の見せた妄想が・・・どうして?」

唯(ムギちゃん・・・なんか驚いて・・・
  いやそれより!ムギちゃんはあずにゃんと私を殺すって!)

唯「うわああああああ!」

自分と梓が危ない。
唯はその危機本能だけで、目の前にいる紬がもともと友達であったことを考える前に、思い切り前にディソードを突き出した。

紬「きゃああああああっ!!」


紬(完全に不意をつかれた・・・唯ちゃんのディソードが・・・私の身体をつき破ってる・・・か。 もう助からないわね・・・)


紬「私の負けよ・・・唯ちゃん。私がこのプロジェクトの責任者だから・・・
  ここで私が死んでノアⅡを壊せば・・・このプロジェクト・ノアは終わりよ・・・」

唯「えっムギちゃん!?
  死ぬだなんて!いつもの優しいムギちゃんに戻ってよ・・・」

紬「自分で・・・刺しておいてよく言うわ・・・。
  それに、いつもの優しい私・・・ね・・・」

唯「そうだよ!ムギちゃんはそんな・・・私たちを殺すとか、人間の家畜化だとか、そんな怖
  いこと言う人じゃないよ!
  それに・・・さっきこの装置を人類の夢って言ってたよね・・・どういうこと?」

紬「家畜化なんて・・・人聞きの悪い・・・ノアⅡで人々の心を浄化して・・・世界を平和にするのよ・・・」


唯「世界を平和に?」

紬「そうよ・・・人間から負の感情を消し、争いをなくす・・・そんな世界を夢見てたの・・・」

紬「まあ・・・争いを消す前に殺人まで犯してるんだから・・・説得力ないかもしれないけどね」

唯「そんなこと・・・」

紬「じゃあね、唯ちゃん・・・けいおん部で過ごした日々は楽しかったわ・・・
  澪ちゃんとりっちゃんにもよろしくね・・・?」

唯「ムギちゃん・・・息が・・・」


唯「そうだ、あずにゃん!」

梓「唯先輩!」

唯「そうだ、その十字架から下ろさなきゃ・・・」


梓「ありがとうございます唯先輩」

唯「とにかく、あずにゃんと澪ちゃんが無事でよかったよ・・・ムギちゃんは・・・死んじゃったけど・・・」

梓「いえ、仕方ないです・・・」

唯「いくらひどいことしようとしたっていっても、ムギちゃんを・・・友達を私が・・・」

梓「唯先輩・・・」

唯「うわああああああああああん!!!」


唯「グスッ・・・あずにゃんの前で思いっきり泣いたのは三回目だね・・・」

梓「いいんです唯先輩。それより、ノアⅡですけど・・・」

唯「ムギちゃんが・・・世界平和のために作った装置・・・」

梓「このままにしておきますか?」

唯「いや、壊そう。いくら平和のためでも・・・人の心にこんな機械で干渉するなんてよくないよ」

梓「そうですね・・・私もそう思います。唯先輩と同じ意見で安心しました」

唯「じゃあさっさと壊して、澪ちゃんと一緒に帰ろうか」

梓「はい!」


ノアⅡがあったビルから帰って、行方不明になってた澪ちゃんとあずにゃんは保護され、入院することになりました。

澪ちゃんは精神的にかなりまいっていたようです。

でもそのおかげか、幸い捕まってからムギちゃんにされたことは、というよりムギちゃんに捕まってたということ自体覚えていませんでした。

ギガロマニアックスの力のことも覚えてないようなので、今後もまた多くの人にパンツを見られるかそれ以上のことがない限り覚醒はしないはずです。

そしてりっちゃんと澪ちゃんには、死んだムギちゃんのことは遠くに引っ越したと言ってあります。

澪ちゃんとあずにゃんを助けに行く前の「ムギちゃんへの話」がその引越しについての話だったんだと嘘をつきました。

もちろんりっちゃんは怒りましたが・・・



数日後 病院前

唯「今日はあずにゃんと澪ちゃんの退院日かー。無事でほんとによかったねー」

律「まったくだ。澪に何かあったら私も後を追ってたかもしれね」

唯「もうりっちゃん!怖いこと言わないでよー」

律「はは、悪い悪い」

唯「あ、出てきたよ」

澪「おー、唯、りつー!」

梓「すみません、わざわざ病院まで来て頂いて」

唯「何言ってるのー。あずにゃんと澪ちゃんの退院に立ち会わないわけないでしょ?」

律「そうだぞー。これでようやくけいおん部復活だな!
  ・・・今度はムギがいないんだけどさ。これは仕方ないことだし」

唯「ムギちゃんはいないけど、私たちがバンド続けてもっと有名になって、ムギちゃんのところまで曲が届くようにするんだよ!」

澪「・・・そうだな。退院もしたことだし、いつまでも落ち込んではいられないな。
  よし律!明日からの部活ではこれまで以上に気合い入れて練習するぞ!」


日常(といってもムギちゃんは居ませんけど)が戻ってしばらく経ちました。

澪ちゃんの言ったように、皆ほんとに気合いの入った練習をするようになり・・・

このままこの状態がずっと続けば本当にメジャーデビューもできるんじゃないかって思います。

他のバンドがどれぐらい練習してるのかは知らないけど。

ムギちゃんはノアⅡで世界を平和にしようとしたけど、私は放課後ティータイムの歌で、人々の心を少しでも動かせたらと思います。




ある日の帰り道

唯「ねえあずにゃん・・・ほんとに妄想からあずにゃんを生み出したりした私を、少しも恨んでない?」

梓「どうしたんですか突然」

唯「改めて考えてね、やっぱり私ってひどいことしたんじゃないかって思って・・・。
  だってあずにゃんは、無意識とはいえ私のただの思いつきから生まれて・・・」

梓「いえ、あそこでも言いましたよ。私は唯先輩ともっと一緒にいたいです。」


梓「初めは唯先輩の「こんな後輩がいたら」っていう妄想だったとしても・・・今の私は独立
  した一人の人間です。
  私は自分の意志で、唯先輩と一緒にいたいって思ってるんです。
  恨むどころか・・・寧ろ私を生んでくれて、感謝しないといけません」

唯「あずにゃん・・・。
  私も、あずにゃんがギターが上手いとかいろいろ知ってるとかそんなこと関係なしに、
  あずにゃんっていう一人の女の子のことが大好きなんだよ。」

唯「だから、これからも私と一緒に居てほしいの」

梓「こちらこそ・・・これからも一緒に居させてくれますか?」

唯「うん、もちろんだよ・・・!」ダキッ




以上です



最終更新:2010年04月05日 01:41