梓「あーぁー、追い出されちゃった」テクテク
梓「でも結構時間潰せた。人といるとあっという間だね」
澪先輩は特に突っ込んだ事を聞いてきたりしない人だ。
ぼっちっぽいから自分自身、あんまり深い事を聞かれたくないタイプなんだろうな。
聞く方も同様に慣れてなさそう。一人っ子だからかな。
自分は自分、他人は他人。まさにそれ。
そういう点では一緒に居ても凄く気が楽だ。
梓「でもまだ1時間以上あるや…何しようかなぁ」
梓「……」ピタ
梓「公園」
何の気無しに夜の公園を眺めてみる。
梓(最近のベンチって寝られないように真ん中にひじかけついてて意地悪なんだよね…)
と、しばらくぼーっと園内を見回していた私に突如ある閃きが走った。
梓「そうだ。家作ろう」ポン
梓「善は急げだね。まずはスーパーに行こう」タッタッ
…
梓「うーん、あんまりいいのがないなぁ…」ガサガサ
梓「とりあえずマシなのだけいくつか取って持って行っとこ」ゴソリ
梓「そうだよね。今日完成しちゃったらつまんないよ。 明日からのいい時間潰しになるかもだし」
私がスーパーで探してきた物はダンボールだった。
ドサドサッ
梓「ふー!闇雲に作っても仕方ない、今日は組み立てには手を付けないで…そう、設計図だ!」
梓「設計図を考えるぞ~。なんだかわくわくしてきた」
梓「……でもここじゃ暗いなぁ…明るいとこ……」
梓「はぁ。コンビニ脇かなやっぱり。商店街は今の時間は大人の人がうるさそうだし」
梓「よーしコンビニに移動だぁ」タッタッ
…
梓「んん……あ、この室外機机代わりにいい感じだ。やったねー」
梓「よーし、まずはコンセプトを決めよう。うーん……」
梓「やっぱりこれかな、のらねこハウス!決まりだね。野良猫達の別荘だ」
梓「じゃあ早速間取りから考えていこう」カキカキ
梓「ここが私の部屋で…ここが……猫ルーム!野良猫が来たら入れてあげよっと」
梓「ってそんな大きいの作れるかーい」ペチ
梓「へへ、今のノリつっこみ澪先輩のギャグより面白い」
梓「でも確か前にテレビで見た大阪のホームレスさんは、二階建てでBSアンテナまでついてるの作ってたなぁ…」
梓「夢はでっかくだね。やっぱり大きいの考えよう」
梓「二階建ては無理でも部屋みっつは欲しいなぁ……」カキカキ
…
梓「…ここがこうで……んー、ダンボールは二重とか三重にした方がいいのかなぁ」
梓「……はっ!?しまった熱中しすぎた!じ、時間っ」ゴソゴソ
梓「うっ」
梓「11時過ぎてる……もう12時前だ」
梓「どうしよう、家に入れないよ…」
梓「…な、なんてまさかね。ほんとに入れないわけないよね。とりあえず帰ってみよう」
梓「……」テクテク
…
梓「…居間の電気も消えてる……ママも寝ちゃったんだ」
梓「……」グッ
ガチャチャッ
梓「やっぱり閉まってる。どうしよう」
梓「野宿なんてしたことない…」
梓「……」
梓「玄関で寝よう。それしかないよ…」
梓「夏で良かった~。冬だったら死んじゃうかもね」
猫「ニャーン」
梓「なんだよぅ。もう寝るからきみも寝なよ」
梓「おやすみ」
梓「……」
―――
――
―
梓「ムニャ……」
ガンッ!
梓「はがっ!?」ビクン
梓「あぃった……」
背中に走った衝撃に目を覚ました私。
起き抜けのまとまらない頭で何事かと振り向くと、
どうやらママが開けたドアにぶつけられたようだった。
母「……何してるの」
梓「あっ、おはようママ」
母「やめて頂戴。帰ってこないならどこか他で寝て。玄関で寝たらご近所に見られるわ」
梓「ご、ごめんなさい」
梓「すぐ学校行くからその前にシャワー浴びていい?」
母「…早くしなさい。お父さんが起きる前に済ませなさい」
梓「ありがとうママ」タッタッ
梓「急がなくっちゃ」ヌギヌギ
ガラッ ピシャ
梓「ふーーー」ジャーーー
ママは別に私を嫌ってるわけじゃないんです。
ただ私の存在がパパにとって良くないと思って、だから家から遠ざけているんです。
パパはジャズ奏者です。私のギターはパパの影響で始めました。
でも高校に入った頃からパパはなんていうか…心を病んでしまいました。
どうも音楽で上手くいかなくなっていたみたいなんです。
本当はもっと前からだったみたいだけど、ずっとがまんしてたみたい。
でもついに溢れてきちゃったんだ。かわいそうなパパ。
そんなパパに、高校に入ってバンドを組んで
ますます楽しく音楽にのめり込んでいく私の姿を見せる事は悪影響だと
ママはそう判断したみたいです。
以来私はあまり家に居させてもらえなくなりました。
音楽をやめれば済む話なんだろうけど、
私はせっかく出会えた素敵な先輩達と大好きな音楽を続けていたいんです。
だからやめません。
つまりこの状況は私のわがままによるものなんです。私が選んだ扱い。
だからがまんします。
…
梓「はぁ、さっぱりした …あっ」
髪を乾かしてお風呂場を出ると、廊下の棚の上に食パンとお小遣いがおいてありました。
梓(やった、今日は外でご飯食べられるぞー)ガサッ
梓「いってきまーす…」ガチャ
リビングまでも届かないぐらいの小さな声で、形ばかりに挨拶すると家を出ます。
猫「ニャーン」
梓「おはよー。朝にゃんだよ。食パンわけてあげよう」ポテッ
猫「…」モグモグ
梓「いってきますよー」タッタッ
―――
梓「早く着きすぎちゃった。いつもの事だけど」
梓「そうだ、設計図の続き考えようっと」カリカリ
…
憂「梓ちゃんおはよ~」
梓「んん、おはよう」
憂「なにしてるの?」
梓「ひみつ。(秘密基地的な意味も含めて。ププッ)」
憂「えー、教えてよ~」
梓「だめ。でも出来たら教えてあげるよ」
憂「ほんと?やったぁ!楽しみだな~」
梓「…ねぇ憂、憂には『家にはこれがないと!』っていう物ある?」
憂「お姉ちゃん!!!」
梓「…(なんて歪み無い即答…)いや、同意だけど物でお願い」
憂「うーん……お姉ちゃんのアイスを貯蔵しておく冷蔵庫かなぁ」
梓「冷蔵庫かー」
梓(ダンボールハウスには流石に無理かなぁ…)
梓「他には?」
憂「お姉ちゃんのご飯を作るキッチン!」
梓「キッチンねぇー」
梓(無理過ぎ)
梓「もっとこう、コンパクトな物で何か無い?」
憂「えぇ?うーん……ならお姉ちゃんが座る椅子とか…」
梓「椅子…(ダンボールハウスだから座布団の方が合うなぁ)」
憂「なんでそんなこと聞くの?それと関係あるの?」
梓「まぁね~へっへぇ」
憂「あ!もしかしてそれ家の間取り?」
梓「」
梓「ち~が~う~よぉ~」ユサユサ
憂「あははは」
憂「梓ちゃん大工さんになりたいの?」
梓「んなアホなー」バッサバッサ
梓「あほーあほー」バサバサ
憂「……あ、あの…何してるの?それ」
梓「何って、繁殖地へと旅立つあほうどりの真似…あっ!」
梓「……」モジモジ
梓(こういうの好きなのは律先輩だった。やってしまった…//)
憂(梓ちゃんってたまにヘンになるなぁ……)
…
キーンコーンカーンコーン…
先生「おっ。では今日はここまでー」
ガヤガヤ…
憂「お腹すいたぁ。梓ちゃんお昼食べよ~」
梓「あ、パン買ってくるね。ちょっと待ってて」
憂「うん」
純「へへ、やっとお昼だね」ガタン
憂「あっ、梓ちゃんパン買ってくるみたいだから待ってよう」
純「そうなの?分かった」
梓「すぐ行ってくるよ」ガチャ
―――
「おばちゃんメロンパンちょうだーい!」
「やきそばパンとハムチーズサンド二つ!!」
「コッペパンを要求する!」
ギャアギャア…
梓「ふぁーしまった。前の休み時間に行くべきだった…昼休みの購買なんて戦場だよ」
梓「私みたいなのが割って入ったらあっという間に肉竜巻の餌食だね」
梓「…でもこれじゃパン無くなっちゃう……」
唯「あっ、あずにゃん!やっほー」
梓「! 唯先輩!!」
唯「あずにゃんもパンなのー?」
梓「そうなんですよぉおお先輩もですかお揃いじゃないですかぁあ」スリスリスリ
唯「ちょっ は、恥ずかしいですぞーこんなとこで…ぅぷ」
唯「ねぇりっちゃん、あずにゃんもパンだって!」
梓「」
律「あ、あぁそうなんだー。おっす梓ー…」
梓「ど、どうも」
唯「私あんぱんにするんだ!アンパンマンごっこするから」
梓「そうなんですかぁ(何するんだろう、具体的に)」
律「梓は何にするんだ?」
梓「てりやきサンドが欲しいんですけど、残ってるか見えないです」
律「んー……まだあるぞ。もうなくなりそうだけど」
梓「えっ!ホントですか!」
律「どした、急がないとなくなるぞ」
梓「……肉竜巻がこわいので」
律「は?」
梓「私みたいなちんまい複翼機がこんな肉の乱気流に揉まれたら一瞬で空の塵です」
律「ま、まぁ大体言いたい事は分かるけど何その例え…」
唯「あっ!私のあんぱんも無くなりそうだよ~!りっちゃんおねげえします!」
律「んっ?よっしゃ任せろい!」グイッ
律「フンフンッ!フンハッ!どけどけおらぁああああ!!」グイッ ズパッ
律「…ぷぁっ!おばちゃんアンパンとお好み焼きパン!」
唯「やったぁ、りっちゃんすごいよぉ~!」
梓「うぅ、いいなぁ…」
律「あともう一つ、てりやきサンドねー」
梓「あっ」
律「ほら唯、梓!パース」ポイッ
梓「あわわ」パシ
唯「ほっ!」パシ
唯「ナイスきゃっち!平沢選手本日のえむぶいぴーです!」
律「よっ……」グイグイ スポッ
律「こらMVPは私だろうがどう考えても」
唯「りっちゃん名あしすとだったよ!」
梓「あ、えと…ありがとうございます……」
律「いいってことよー」
梓「いくらでしたっけ」ゴソゴソ
律「あーいいよ、おごりで」
梓「」
梓「えっ、でm」
律「唯もおごりでいいからなー、ノリだノリ。ノリおごり」
唯「本当!?わーいやったぁあありっちゃん大好きだよぉおお」スリスリ
律「ちょちょ、唯やめっ……」
梓「……」
梓「…いいです私は払いますです」
唯「えーっ、あずにゃんが払ったら私も払わなきゃって空気になっちゃうよぉ」ブー
律「そうだぞー」
梓「そんな」
梓「……じゃあごちそうになります」
律「素直でよろしい」ポンポン
梓「は、恥ずかしいですやめてください」バッ
唯「おやおや?」
梓「じゃあ憂が待ってるから行きます、また放課後です」タッタッ
唯「またねぇ~。 …りっちゃん私達もいこうよー」グイグイ
律「…そうだな」
唯「へへ、はやくりっちゃんにアンパンマンになってもらわないとね!」
律「なぁもうやめようぜー恥ずかしいよ~、たまには唯がアンパンマンやれよ」
唯「私かばお君って決めてるからだめ!おなかすいたよぉーあんぱんまん~」ユサユサ
律「はぁ」
…
唯「どうもです!」ガチャ
律「おっす唯」
唯「おーっすりっちゃん!あっ、澪ちゃん今日も来てるね!」
澪「な、なんだ居ちゃ悪いのか」
唯「違うよー嬉しいんだよぉ~」
澪「はぁあーッ!?」ガタンッ!
唯「やっぱり皆揃って軽音部だもんね~」
澪「あ、そういうこと」ホッ
律「つか何今のオーバーリアクション」
澪「いや別に……(好きとか言われでもしたらまた吐くところだった…)」
紬「皆お待たせ~、今日のおやつよ」
唯「こ、これはどーなっと!!やったぁああ」
律「ドーナッツな」
ガチャ
梓「おつかれでーす」
律「よー梓」
唯「あずにゃん遅いよー、今日はどーなっつだよ!」
梓「ほんとですかぁ、いいですね~私大好きです」ガタン
梓「さっそくいただいちゃいます」モグモグ
紬「はい梓ちゃん、お茶」カチャ
梓「ろうもれひゅ」モグモグ
律(…………)
律(澪と梓、昨日の事とか何か話したりしねーのかなぁ…)チラ
澪「……」ソワソワ
律「ん、澪なんかそわそわしてんな」
澪「えっ!?あ~律気付いた!?ははっ、そっかー気付いちゃったかぁ!」
律「は?いやただ何かそわそわしてんなって…」
澪「実は皆に見てもらいたいものがあるんだ~」ゴソゴソ
澪「はいこれ!新しい歌詞出来たんだよね!」
澪「もぉ~律気付いちゃうんだもんなぁあw」
律「あ、そうなの……(つか普通に出せよウゼェ)」
唯「すごーい!見せて見せて~」
澪「へへへ、自信作だぞぉーっ」
律「どれどれ」ガサ
律「……タイトル、『ぼっちなぼんぼち』?なんだこりゃ」
律「『ぼっちなぼんぼち今日もお余り~』『串に♪刺されず♪(コーラス)』」
唯「『七輪の上じゃ どんな鳥も焼ける』」
紬「『ぷりぷりしてるぼんぼちも コリコリしてる砂肝も』」
梓「『そうだ竹串に刺しちゃおう』……」
梓(なんじゃこりゃ)
唯律紬「…………」
最終更新:2010年01月24日 01:57