――アメ横の奇跡から数日後。
私はアッサリとまた元のぼっちの鞘に納まっていた。
また一人で散歩をするだけの休日。
澪「…………」テクテク
考え事をしながら足の向くままに散策する。
いつもならお気に入りのめし屋のことなどを考えるのだが、
その日私が考えていたのは珍しく、自分の身の振り方についてだった。
澪「唯は私が誘ったら遊んでくれるんだろーか」
澪「でももし二人で遊んで楽しく感じてくれなかったらどうしよう……」
結局余計なことを気にしすぎて誘えない。
まさにぼっちの思考である。
澪「消極人間ぼっちここに極まれり、か……」テクテク
澪「はぁ…だめだ、お腹が減って頭が働かないや」
澪「とりあえずめし屋だ……どこか適当なところで飯でも入れよう」
と、そこでやっと気が付いた。また知らない場所に迷い込んでしまっていたことに。
澪「あちゃー私っていっつもこうだなぁ…どこなんだろここ」
澪「まぁいいか。もしかしたらいいめし屋と巡り会えるかもしれないぞ」
澪「そう考えると迷子も悪くないなって思えてくるよなー、ははは」テクテク
住宅街…学生街かな?アパートがそこかしこにある。
そんな中にもめし屋がぽつぽつと。
澪「へぇ~、こうして見ると結構面白そうな店が多そうだぞ」
澪「中華!うーん……悪くないんだけど……とりあえずあの先にも店があるぞ」
澪「ここはイタ飯かぁ。パスタ……スパゲッティ…そうだなぁ…でも他にも見てない店がまだありそうだ」
澪「とんかつ……蕎麦屋……定食屋……」
澪「参ったなぁ、もう無いかと思って少し歩くと次のめし屋がある」
澪「最初の中華でもいいかと思えてきたけど戻るのが面倒だ……」
澪「これじゃきりが無いや、もう次のめし屋に決めよう!」
澪「……お、ここめし屋だぞ」
澪「なんて読むんだ?薔薇…“ばらえてい”……ん、バラエティーって読むのかな?ダジャレ?」
澪「しかし何の店なんだろう。欧風家庭料理とあるけどいまいち分からないな」
澪「でも逆におもしろそうだな!よしここに決めたぞー」
カラカラン♪
澪「おや、いきなり階段ですかー」トントントン
店員「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」
澪「あっ。ハイ……(毎度この瞬間だけは何か嫌だ)」
店員「こちらへどうぞ」
澪「ふぅ」ギッ
澪「……あ、ランチセットがあるぞ。ボルシチ?ロシア料理の店なんだろうか」
澪「うーん…ボルシチって食べた事無いんだ。少し気になるなぁ」チラ
澪「あっ。若鶏のクリーム煮つぼ焼き風ってこれどうだろう。これもよさそうだ」
澪「ま、迷うなぁ……」
店員「いらっしゃいませー」
澪「新しい客だ…うぐ、先に頼まれると来るのが遅くなっちゃうぞ。早く決めよう」
澪「……すいませーん!」
店員「はい、おうかがいします」
澪「えと…このBのランチをください」
店員「若鶏のクリーム煮つぼ焼き風ですね。デザートはいかがいたしますか?」
澪「あ…じゃあこの3種のデザートプレートっていうのを」
澪「ふ~……焦って注文しちゃったかな…でもいいや」
澪「あっ。サラダが来た」
澪「一応コース料理なんだね。へへへ」カチャカチャ
澪「キャベツがメインか。見た目には普通のサラダだなぁ」
澪「お、皿がちゃんと冷やしてあるや。いただきまーす」モグモグ
澪「んー、いいね。素直な味付け。優等生…和みたいな味だ」
澪「このドレッシングは自家製なのかな?気に入ったよ」モグモグ
カラカラーン
店員「いらっしゃいませー」
澪「……」チラ
澪(しかしさっきから来ている客層……年配の小奇麗な人が多めだなぁ)
澪(そういえば近くに大学があるみたいだった。そこの教員の人達だろうか…雰囲気がそんな感じだ)
澪「浮きまくってるなぁ私……でも同年代ばかりの店よりはぼっち感無いぞ」モグモグ
店員「お待たせしました、こちらつぼ焼きです」
澪「わぁー、来た来た!ポットパイって好きなんだ、私」
サクサク
澪「このパイのドームを破る瞬間が楽しい!」
澪「さて中は……んんっ」
澪「大きい野菜がごろごろしてるぞー。あはは凄い凄い。おいしそー」
澪「でもこれだけで足りるかなぁ…」モグモグ
澪「ん?シチューかと思ったけどチーズがいっぱい入ってて…こりゃ結構重たそうだ」
澪「おいしい!んん~いいね、チーズがすきっ腹にガツンと響くね」モグモグ
澪「シチューに入ってるにんじんの甘さってなんか優しくっていいよなぁ」モグモグ
澪「……」モグモグ
澪「……これ底が見た目より大分深いな…美味しいけどちょっと飽きてきちゃったぞ……」
澪「やっぱりボルシチにしとけばよかったかな。ピロシキもつくみたいだったし…」
店員「お待たせしました、こちらボルシチとピロシキです」
澪「ん?」チラッ
澪(あのお客さんのがボルシチかぁ)
澪(でか!でもおいしそうだなぁ。なんだろう、赤っぽいビーフシチューみたいな感じだ)
客「……」チラ
澪(あっ!見られてしまった…恥ずかしい。失礼な子って思われたかなぁ……)モグモグ
澪「ふう。かなりお腹にたまったぞ…」ポンポン
店員「食後の紅茶です」
澪「あ、どうも」
澪「……」カチャカチャ
澪「…デザートはまだかな。食後の紅茶といったらデザートだろうが」
店員「お待たせしました」カタ
澪「きたきた!うわぁー」
澪「バニラアイスにフルーツケーキに…プリンかな?どれもおいしそう」
澪「まずはフルーツケーキから…へへ、ムギがよく持ってくるやつに似てるな」トン パク
澪「おいしい!ちょっと硬めの食感で私好みだ。今日のランチは当たりだよ」
澪「お次はプリンかな。これとか唯が好きそうだな」
澪(……唯達は今日は何してるんだろうか)
―――
唯「おいひい!このケーキおいひいよぉ~」モグモグ
律「はははホントか唯ぃいおいしいかー!よーし私も食べ…」
唯「うん!澪ちゃんにも食べさせてあげたいなぁ」
律「えっ。なんで澪?」
唯「なんでって。うーん…これ澪ちゃんが好きそうだなって」
律「ど、ど、どの辺が…?」
唯「えぇ~、どの辺て言われてもぉ……なんとなく!」
律「……唯ぃいいい~っ!」ガバァ
唯「わぁっ!?ちょっとりっちゃんお店の中だよぉ~っ」
律「そうだこの店の壁にも唯最高って書いとこう……」キュポ キュキュー
唯「」
―――
カランカラーン♪
澪「ふぅ~っ、満腹だぁ……」ゴソゴソ
ショッポをポケットから取り出すと口にくわえる。火は点けない。
“エア一服”(勝手に命名)だ。
―今日は久々にいいめし屋に出会えた。
ぼっちでふらふらしているとどこに入るも自分の意思次第、
当たったら嬉しいしハズしても自分が落ち込むだけで実に気楽だ。
こういう点ではやっぱりぼっちがいいかなって思ってしまう。
…な~んて考えを持つから私はいつまでもぼっちなのだろうか……
ふと唯の顔が浮かんだ。先週のアメ横は楽しかったなぁ。
澪「…よし!今後思い切って唯を誘ってみようかなぁ。お気に入りのめし屋にでも」
私は唾液でフィルターがくちゃくちゃになったショッポを箱に戻すと、
また道をぶらぶらと歩き出すのであった。
澪(ところでこれ帰り道どっちなんだ……)
キリのいい所で終わります、ありがとうございました。
最終更新:2009年10月31日 01:42