「えっと今日は、ごめんね」

「なっなんで謝ってるんだよ、唯は何も悪い事してないぞ?」

「だって今日のライブで私歌詞忘れちゃったでしょ?澪ちゃんあんなに歌いたくないって言ってたのに迷惑かけちゃって・・・」

「唯・・・」

普段は天然で笑っている印象が強いからここまで深く考え込んだりはしないと思っていた
そんな唯に私は普段表に出さない一面を見た気がした

「だからそれを謝りたくって・・・」

「良いんだよ唯、元はと言えば私の我が儘で押し付ける形になったようなものだし。それに・・・唯と一緒に歌えて嬉しかった・・・」

そう言いながら私は唯の頭を撫でてあげた
「澪ちゃん・・・ありがとうっ」

「うひゃっよせ抱き付くなぁ!」

あーしあわへ


‥‥

唯とのやり取りを終え
私達は部室に戻ってきた

「おっ唯!澪!みろみろ!」

「えっと・・・その子は?」

すると見慣れない少女がいた
その背が小さく黒髪ツインテールの人物はこちらに向かって礼をした

「はじめまして中野梓と申します」

「もしかして入部希望かな!?」

目を輝かせながら唯は言う

「はいっ」

「やったー!新入部員だー!」

「にゃっ!?」

やったーっておいィ・・誰にでも抱き付くなよ唯ぃ
さっき喜んでた私が馬鹿みたいじゃないかぁ・・・

「あだ名はあずにゃんだね!」

「ぐるしいです・・・」

軽音部に新入部員が入ってきてくれた
一つ下の一年生で名前は中野梓
ギター歴は唯よりも長いようで我が部としては申し分ない逸材だ
そして身なりが小さく可愛いから唯もべったりだ
「あ~ずにゃんっ」

「やめてくださいよ唯先輩ー」

「そう言いつつも満更でもない梓であった」

「変なナレ加えないで下さい律先輩」

そう・・・べったりなのだ・・
なんで梓にだけなんだよぉ・・
私にはあれ以来抱きついて来ないし・・
寂しい・・



~♪

「おい澪、今日は調子悪いのか?」

「いや・・そうじゃないけど」

確かに新入部員が入ってきた事は部全体としてはプラスになり喜ばしい事なのだが

唯が私を見てくれる時間が減ってしまった
「ねぇあずにゃんここはどうやるの?」

「ここはですねー」

唯と梓は本当に仲が良いなぁ
私もあんな風に唯と接する事が自然に出来たらなぁ

「はぁあぁぁあ・・・」

「でっけー溜め息だな」

「あらあら・・・・?」

うらやましい


結局何の進展も無いまま下校時間を迎えてしまった

「はぁあぁぁあ・・・」

「また溜め息かよ、辛気臭いぞー」

今日は全然練習に身が入らなかったなぁ
せっかく梓が入ってきてくれたのに
まともな先輩を見せてやれてないなぁ
私はだめだめだ・・・

「じゃあわたし達はこっちだからまた明日ね!行こっあずにゃん」

「はいっ唯先輩」

そう言って唯は梓の手を握り歩き出す
梓も恥ずかしそうな顔しながら足並みを揃えた

「なぁ澪、そろそろ元気だせよ」

「うじうじうじ」

「唯と梓が仲良いからってただうなだれるだけじゃ駄目だろこのヘタレメルヘン」

「う・・だれがヘタレだ!そしてなんで私の悩み事が分かるんだよ」

「そのくらい見れば分かるさ、お前梓が入ってきてから二人の事ばっか見てたしな」
バレてた・・・

「うぅ・・律ぅ・・私やっぱり唯が好きだ・・最近唯が私から離れて行く気がして・・その距離は縮まることなくただ伸びていくばかりで・・」

「バカやろう、私に話してどうするんだよ、それを直接唯の奴に言ってやれ!」

「りつ・・・」

「あいつもバカだから面と向かって言ってやらないとわからないからな!」

「うん・・・私今度唯に話してみるよ」

もういじけてる私は誰にも見せられない



最近澪ちゃん元気ないなぁ

あずにゃんがせっかく入ってきたのにずっと溜め息ばかり

悩み事であるのかな

話してくれても良いのに

私まで溜め息が出そうになるよ

「どうかしましたか唯先輩?」

「へ?なっなんでもないよあずにゃん!」

澪ちゃん・・・大丈夫かなぁ・・・

はぁあぁぁあ・・・


唯の事が好きだ
でもこの想いを伝えてしまったら
唯はどう受けってくれるのだろうか
一つだけ分かるのは良くも悪くも今までの関係ではいられなくなる事だけだった
私はそれが

ーー♪

その時携帯の着信音が鳴った

もう夜中だというのに一体誰だろう

私はゆっくり携帯取り出し画面を確認するとそこには


と表示されていた


一呼吸置いて電話をとった

「も・・・もしもし」

『あっ澪ちゃん、急にごめんね今大丈夫?』

「うん、大丈夫だよ」

電話の向こうから柔らかい声が聞こえてくる

「それで何か用か?」

『う・・うん わたしの思い過ごしなら良いんだけれど、最近澪ちゃん元気無さそうだからどうしたのかなぁって思って・・・』


唯が・・・気付いてくれた
私の変化を感じ取ってくれた
それだけで私の心は軽くなった気がした

『・・・澪ちゃーん?』

「あっ・・大丈夫だよ、なんでもないからっ」

『ほんとにー?無理してないよね?』

涙が出そうになった目を擦る

「唯・・今度さ どうしても二人だけで話がしたいんだけど良いか?」

『おっけい任されよ!あっでも宿題の事とかだったらちょっと苦手かな・・・』

「ばか、私が唯に宿題教えて貰う訳ないだろ」

『あーひどいよ澪ちゃんー』

「ははっごめんごめん」

電話越しとはいえ、久しぶりの二人きりの時間を過ごした





~♪

「澪・・・いつになく酷い」

「面目ない・・・」

いつもの放課後の部活動
だが私は唯に告白する事を考えると緊張して練習どころではなかった

「大丈夫ですか澪先輩?少し休憩されたらどうですか?」

「ありがと梓、そうするよ」

そういって私はベースを置きソファーの上に座る

「・・・」

その時私の方を見る不安を浮かべた唯の顔が見えた

壁のシミは一つもなかった


「ゆゆ唯・・話があるんだけど、少し残って貰って良いか・・・?」

「んー?・・・あっうん良いよ!」

唯は少し考えた後何かを思い出したかの様に返事をした

「じゃあな澪、私らは先帰ってるぞ」

「お疲れ様です先輩方」

「澪ちゃん澪ちゃん」

「んっどうしたムギ?」

「ファイト!!」

「・・・」

鼻からふんすと息をしながらムギは力強く言い放ち
律達と共に部室から出て行く後ろ姿を見送った


部屋には臆病な私と夕日を浴びて淡いオレンジ色に染まった唯、それと静けさだけが残った

「それで・・・お話ってなに?」

綺麗だった
普段はあんなにあどけないのに
しんとした部屋と夕日の相乗から
今の唯からはどこか儚げな美しさを感じた
「えと・・その、突然だけど唯って好きな人っている?」

なんという回りくどさ
相変わらずのヘタレ具合
自分でも嫌になる

「・・・どうして?」

「私の悩み事、実は恋愛に関係してたりするんだ・・・」

「澪ちゃん・・・好きな人が出来たの?」
「う・・・ぅん・・まぁそんな所・・・」
何言ってるんだ私
その好きな人が目の前にいるんじゃないかちちっちゃんと 言わない・・・と

「ねぇ澪ちゃん 私も聞きたい事があるんだ」

唯が聞きたい事?
何だろう?

「恋って一体なんなのかなって・・・」

「こ・・恋!?」


「それは・・・誰かを好きになって一緒にいたいって思う事じゃないかな・・」

「それって友情とは違うの?私は軽音部のみんなが好き、だけどそういうんじゃ・・・ないんだよね」

「ゆ・・・唯」

どうしたんだろう唯
こんなに思い詰めたように話す唯は初めて見る

「私ね最近ずっとある人の事考えてた、その人の事思うといつも上の空なんだ」

唯の顔にはまた不安が張り付いていた

「恋って大変だね、相手が傍にいないと身体の半分が無くなったみたいになって、不安で寂しくてどうしようもなくなるんだもん」

「唯っそれって誰の事なんだ・・・」

「澪ちゃんだよ」


えっ
私?
そんな・・唯が私の事
嬉しくて浮きそう・・
こんなドリームタイム・・・
ふわっふわ

「言ったよね?澪ちゃん元気無さそうって、私ずっと心配してたんだよ、だから昨日いてもたっても居られなくなって電話しちゃったの・・・」

「ゆ・・・唯・・・」

「変な話してごめんね、でも私はこう思ってるから・・・澪ちゃんからの恋の相談は聞いてあげられないや、ほんとにごめんね・・・」

違うよ唯
私は伝えに来たんだ
私は・・・唯を、、、

「ゆ・・・唯っ!!」

私は初めて自分から唯を抱き締める事が出来た

「みっ澪ちゃん!?」

「違うよ唯、違うんだ」

強く強く抱き締める
もう遠くへ行かないように
この距離を確かめるように

「私が好きなのはゆゆゆ唯なんだ!」

「え・・・」

「私はずっと唯が好きだった・・・だけど唯との距離を感じて不安だったんだ・・・心配かけてごめん・・・」

「澪ちゃん・・・わたし・・わたし」

唯の目から涙がポロポロ落ちている
溢れ出る勢いは止まらない

「うわぁあん澪ちゃあん」

「唯・・・・・」

私は唯の涙が枯れるまで抱いていた


ーー

「ねぇ澪ちゃん、もっかいちゃんとプロポーズして?」

「えぇっもう一回?」

唯が落ち着いた後
私達二人は
部室のソファーに
肩を並べて座っていた

「うんっはやくぅー」

あの時は必死だったから自分で何を言ってるか分からなかったのにそれをもう一度とな
どどうしようプロポーズってなんて言えばいいんだよぁ
助けて律
えーっと えと

「けっ結婚・・・しよう!」

「えぇー!?」

声が裏返ってしまった・・・
しかも色々間違った気がする
やっぱり私はダメダメ

「いいよっ」

「えぇー!?」


「ごめん今の忘れて・・・」

「だーめっ」

唯はこてんとこちらの肩に頭を預けてくる
「あぅ・・そんなぁ・・・」

「えへへ、でもそれだけ私が好きって事だもんね?」

ふわっと甘い匂いがした
同じ女の子と言うのが信じられないくらいだよ・・

「うぅっじゃあ唯もやってくれよ、プロポーズ」

「んーしょうがないなぁ・・・」

唯は頭を起こし私の肩を掴んだ、そして向きを自分の方に向かわせ・・・ってあれ ちょ 近

「ちゅっ」

「うぷあぁああっ!!」

「ふぅ・・・しちゃった」

「ふぅ・・・じゃない!!なんで今キキッスを・・」

唯にキスされたああ
でもちょっと舌が入って来そうになったから
ビックリして離しちゃった
かなりもったいなかった・・・

「私恋の事はまだまだ未熟だけど、キスは好きな人とするものだってくらい分かってるつもりだよ」

「えっじゃあもしかして今のが・・・」

「そうっわたしのプロポーズだよっ」

「んなっ・・あ・・・」

ぷしゅー

「あっ澪ちゃんしっかり、ダメだ!ここは王子様のキスで!」

「うわわっ起きてる!起きてるからやめろぉー」

「えへへ・・・」

唯「澪ちゃん大好き!」



おしまい



最終更新:2010年04月18日 22:53