唯「えぇ! 澪ちゃん、ちゃんと任せたじゃん! なんで澪ちゃんもいたのに病院行かなかったの!?」
律「……え?」
梓「あの……それは」
律「梓、病院行かなかったのか?」
梓「あ、いや、行こうとは思ったんですけど……、澪先輩が別にいいって」
唯「澪ちゃんひどーい」
律「……どういうことだよ、澪」
澪「ちっ、違う! 梓は病院に行く必要がないから……」
律「梓、そうなのか?」
梓「え……、分かりません」
律「なぁ、梓は自分の右手の痛みの原因を知ってるのか?」
梓「あ、それなら……私、
澪「梓!」
梓唯「!」ビクッ
澪「そのことは言うな……」
梓「え? どうして……」
律「澪、どうしたんだよ?」
澪「…………」
律「梓はなんかの病気なのか?」
澪「……そうだ」
紬「!」
唯「あずにゃん病気なの?」
梓「え……」
律「ならなんでそれを隠す?」
澪「……言えない」
律「なんでだよ! 私たちは今まで五人でやってきただろ! 誰かの問題はみんなの問題だろ!」
紬「りっちゃん、落ち着いて!」
律「澪!」
澪「…………」
梓「…………」
律「……もういいよ!」
唯「りっちゃん」
律「ばか澪! お前なんか……
梓「中二病なんです!!」
澪「!」
律「へ?」
紬「梓……ちゃん?」
梓「私、中二病っていう病気なんです! 自覚はないんですけどかかってて、病院に行って治る病気じゃなくて、それで……」
澪「梓! もういい!」だきっ
梓「それで、うっ……、ぐすっ……」
澪「もう、いいんだ……」ギュッ
律「へ? どゆこと?」
唯「ん」
―――――――――――――
―数分後―
唯「へー、あずにゃん中二病なんだぁ」
紬「唯ちゃん、中二病がなんだか知ってるの?」
唯「ううん、知らない」
澪「それで、普通なら中二病だっていうことはすごく恥ずかしいことで……」
梓「だから澪先輩は私が中二病だってこと言わなかったんですね!」
澪「ああ……」
律「……そうか」
澪「律……」
律「澪は梓のことを思って黙ってたんだな」
澪「うん……、まぁ」
唯「澪ちゃん優しーい」
律「……ごめん! 私、勘違いしてて」
澪「……私も、ごめん。……分かってくれたなら、あとはいいんだ」
唯「仲直りだぁ」
紬「…………グスッ」
梓「……すみませんでした! 私のせいでこんな……」
律「いいっていいって! それより、梓の中二病を早く治せるように頑張ろうぜ!」
梓「はい! 中二病の克服目指して頑張ります!」
澪「え?」
梓「? どうかしましたか、澪先輩?」
澪「いや、克服っていうか……、やめればいいんじゃないのか?」
梓「?」
律「へ?」
紬「どういうこと?」
唯「澪ちゃん、病気はやめようと思ってやめられるものじゃないんだよ」
澪「あれ?」
梓「だから頑張って克服しようと……」
澪「こいつは重症だな……」
律「重症?」
紬「もしかして澪ちゃん、中二病の治し方を知ってるの?」
澪「まぁ、治し方を知ってるというか、梓がどうすべきかは知ってる」
梓「本当ですか!? 私はどうすれば!」
澪「梓、もっかい確認するけど、中二病をやめたいか?」
梓「だから、やめられるものならやめたいです!」
律「それで? どうすんだ?」
澪「こうなったら、……黙って梓が自覚するのを待つ!」
梓「へっ?」
紬「それだけでいいの?」
澪「それだけ、っていうか……、それしかないかな……?」
律「なんだ。じゃあ入院とか手術とかはないんだな!」
唯「あずにゃん」
紬「良かったわー」
梓「良かったです!」
澪「でも一番大切なのは梓が目を覚ますことで……
律「よーしっ、そうと決まればー!」
梓「練習を……
律「ムギ! ケーキだ!」
梓「先輩!」ぶー
一同「ははははは!」
第一部 完
―――――――――――――
―平沢家―
憂(家に帰ってきたお姉ちゃんは、梓ちゃんの話ばかりをしています)
唯「そんでねぇ、あずにゃんは中二病って病気にかかっててねぇ」
憂「うん、うん」
憂(やっぱり梓ちゃん中二病なんだぁ。幻覚見てないかなぁ)
唯「そんでねぇ、右手が痛くってねぇ」
憂(本当に梓ちゃんの話ばっかりです。お姉ちゃん、梓ちゃんのこと好きなんだなぁ)
―――――――――――――
―翌日の学校―
憂「あ、梓ちゃーん」
梓「ん? 何?」
憂「中二病はどうだったの?」
梓「実はさ、あれっきり中二病は発症してないんだよね」
憂「え、そうなの?」
梓「うん、案外もう治ってるもんだったりして」
キーンコーンカーンコーン
梓「あ、放課後」
―部室―
ガチャッ
梓「こんにちはー。あ、もう皆さんお揃いですね」
律「おー、梓!」
澪「珍しく遅かったな」
梓「ええ、ちょっと」
紬「今お茶淹れるわね」
唯「あずにゃん」
梓「? なんですか、唯先輩?」
唯「中二病は?」
梓「それなら最近は全然発症してませんよ」
唯「! 澪ちゃん」
澪「うん、だいぶよくなったのかもな」
唯「うへへ、あずにゃん」
律「本当か! なら完治の前祝いで今日は練習なーしっ!」
梓「それはだめです!」
律「だってー」
梓「だってじゃないです! 最近ずっと練習してないじゃないですか!」
澪「そうだぞ、律。今日こそは練習だ」
律「へいへーい」
―――――――――――――
律「それではっ、可愛い後輩の意見を尊重して、練習するぞー!」
唯「おー」
梓「れっ、練習するのが普通です!」
紬「あらあら、うふふ」
澪「…………」
律「ん? どうしたー、澪?」
澪「えっ! あ、いや、大丈夫。練習だ、練習!」
澪(梓……、やっぱりやめたのかな。それならいいんだけど……)
梓「?」
律「んじゃー、まず一回合わせてみるか!」
唯「ほーい」
梓(久し振りの練習、不安です……)
律「1、2、3!」
――――――♪
――――――♪♪
梓「!!」ズキッ
澪(……あれ? 意外と……)
紬(上手くまとまってる……)
唯「ほー」
律「…………おい!」
唯「!」ビクッ
律「おい! 梓!」
澪「!」
梓「うっ……右手が、痛い……!」
律「ストップ! 中断しろ!」
梓「痛っ……」
律「梓! 大丈夫か!?」
唯「あずにゃん」
澪「…………」
梓「すみません、ちょっと休ませてください……」
律「当たり前だ。……救急車呼ぶか?」
澪「律! ……それはいい」
律「! なんで澪が決めるんだよ! それは梓が……
梓「だっ、大丈夫です! ……痛みもひいてきました!」
律「ん、そうか……」
唯「あずにゃん」
梓「大丈夫ですよ、唯先輩」
唯「ん」
紬「でも、本当に大丈夫なの?」
梓「はい。もう全然痛くないです! あ、でも今日の練習は控えてもいいですか……?」
律「ああ、休んでていいぞ」
澪「梓……、本気で言ってるのか?」
梓「え?」
澪「本気で、練習しないつもりか?」
梓「え、はい……」
澪「……どういうことだよ」
梓「えっ……」
澪「こんなことは言いたくないんだけど、梓は……、中二病を理由に練習をサボってるんじゃないのか?」
梓「…………わっ、私は」
律「おい待てよ! そんなわけないだろ! さっきまで梓は練習したがってたじゃんか!」
澪「まぁ、そうだけど」
梓「ち、違います、私は……、本当に右手が、痛くてぇ……」ポロッ
唯「あずにゃん」
紬「梓ちゃん、大丈夫。そんなこと思ってないわ」
律「そうだぞ、梓」
澪「……悪かった、梓」
梓「いえ……、いいんです」
律「梓の右手は中二病のせいなんだろ? 澪は、梓が練習をサボるために中二病にかかったふりをしてるとでも言いたいのかよ!」
澪「そういうわけじゃ……」
律「それならちゃんと説明しろ!」
紬「りっちゃん……」
澪「そうだな……、この際だからみんなには中二病のことを説明するよ」
梓「!」
律紬「……ゴクリ」
唯「ん」
澪「中二病ってのはな、正式には病気とみなされないんだ」
梓「え……!」
澪「そういう症状を持った人を蔑視して中二病患者と呼んでるだけにすぎなくてさ」
紬「蔑視……」
律「その症状ってのは!?」
澪「例えば……、漫画やアニメの世界に憧れを抱くあまり、まるで自分にも何かの能力が備わっているかのように振る舞ったり……」
律「中二病患者は自分でも分かってて、そういう行動をとってるのか?」
紬「じゃあ、梓ちゃんが、右手が疼くって言ってたのは……」
梓「ちっ、違います! 私は、本当に痛くて!」
律「ん? 澪、梓は本当に痛いみたいだぞ?」
澪「うーん、そこがややこしくてさ」
律「?」
澪「なんて言うか……、梓は中二病にドップリ漬かってるせいか、自分が中二病だってことを頑なに認めないんだ」
梓「なにを……!」
律「はっはーん、なるほどぉ。中二病ってこと自体をとぼけてるのか」
梓「そんなんじゃ……ないです……」
律「確かに、それなら病院に行く必要はないなー」
紬「梓ちゃん……、そうだったの……」
澪「分かってくれたか」
梓「ちがっ……い、ますっ……、グスッ」
律「あー、泣くな泣くな!」
紬「別に攻めてるわけじゃないの。ただ、嘘をついてたならやめて欲しいな、って……」
梓「…………う、うっ」ポロッ
唯「あずにゃん、泣かないで」
梓「……唯先輩」グスッ
唯「みんなヒドいよ。あずにゃんだって本当に痛いかもしれないじゃん」
律「あのな、唯」
紬「梓ちゃんは中二病って言ってね……
唯「あずにゃん、痛がってた」
律紬「う……」
梓「私……、中二病かもしれないですけど、右手が痛くなったのは本当ですし、練習もしたいです……」
律「澪ー……、やっぱり梓は……」
澪「違う! 梓は本当は痛くなんかない!」
梓「!」
澪「目を覚ませ、梓! いい加減、私たちに迷惑かけるのはやめろ!」
律「澪……」
梓「…………」
紬「澪ちゃん……」
唯「違うよ、澪ちゃん
澪「違くなんかない!」
唯「!」ビクッ
澪「みんなもうんざりだろ!? 練習しようとする度、右手が痛いとか言って中断させられるのは!」
律「そ、そんなこと……
澪「私はうんざりだ! 私は
梓「もういいです!」
梓「澪先輩がそこまで言うのなら、もういいです!」
律「梓……」
梓「右手が疼くのなんて嘘です! 練習したくないから……、したくないから嘘ついてました……!」ポロッ
唯「あずにゃん」
澪「……やっと認めたか」
律「! 澪!」
澪「さっきから言ってるだろ、中二病ってのは自分からおかしな行動をとるんだ」
律「梓は、本当は!」
梓「……私、もうやめます」
澪「そうだ、中二病なんてやめて、ちゃんと練習を……
梓「私、この部活をやめます!」
律唯紬「!」
澪「お、おい、何もそこまで……」
梓「こんな疑いをかけられてまで、楽しく演奏なんて出来ません……!」
律「梓、私たちは疑ってなんか……」
梓「第一! さっきの練習の時、私は右手のせいでほとんど弾けなかったのに、演奏はまとまってたじゃないですか!」
紬「!」
律「う……」
最終更新:2010年04月22日 22:39