―病室―
梓(早く復帰したいとは言ったけど、いつになったら治るのかなぁ)
梓(先生も詳しく教えてくれないし……)
梓「はぁ……」
ガラッ
看護士「中野さーん、診察室に来てくださーい」
梓「あ、はーい」
梓(あれ? 今日の検査は終わったのに……。……なんだろう)
─────────────
梓「あの……、今日の検査は終わりましたよね……?」
医者「ああ、そうなんだけどね、実は話しておくことが……」
―――――――――――――
―平沢家―
唯「そいでねぇ、澪ちゃんとあずにゃんが仲直りしたからねぇ」
憂「へぇ、良かったね!」
唯「うん! あ、あと……、あずにゃんには秘密なんだけど、もしかしたらあずにゃん、さいきふのうかもしれないんだって……」
憂「ええっ! 梓ちゃんギター弾けなくなっちゃったの?」
唯「もしかしたら、だから大丈夫だよぉ」
憂(そんな……、梓ちゃん)
憂「私も、お見舞いに行きたいな……」
―――――――――――――
―教室―
律「うん、いいんじゃないか?」
唯「だよねぇ!」
紬「なんの話しかしら?」
唯「あ、ムギちゃん。なんか憂もあずにゃんのお見舞いに行きたいんだってぇ」
澪「へー、それはいいかもしれないな。梓もうるさいばっかじゃ大変だろうし」
律「おい」
唯「じゃあ今日もあずにゃんのとこ行こうよ!」
澪「いいけど……、梓には例のこと、ばらすなよ?」
唯「おっけー」
―――――――――――――
―病院―
紬「二日連続は迷惑じゃないかしら……」
澪「昨日の様子を見るに、迷惑そうではなかったよ」
紬「そうかしら」
唯「憂、あのことは言っちゃだめだよ」
憂「私は大丈夫だよぉ。お姉ちゃんも気をつけてよ?」
唯「はいはーい」
律「おー、着いた着いた梓の病室!」
ガラッ
律「フォッフォッフォ、調子はどうかね、中野くん」
澪「またそれかい!」
梓「…………」
律「……あり?」
唯「……あずにゃん?」
梓「えっ! あっ、先輩っ!」
律「どうしたんだよ、ぼーっとして」
梓「いえっ、なんでもありません!」
紬「ふふっ、変な梓ちゃん」
澪(……まさか、梓)
梓「あ、憂もきたんだ」
憂「梓ちゃん、大丈夫?」
梓「だ、大丈夫大丈夫! こんなの何でも……ないから……」
澪(……梓、やっぱり)
律「そうなのか?」
紬「なんか無理してるような……」
憂(……梓ちゃんもしかして)
梓「実は……」
澪「!」
梓「医者の先生が手術するって言うんです……」
唯「えぇ!」
梓「し、心配しないでください! 大した手術じゃありませんから!」
唯「そうなんだぁ」
澪(自分が音楽を続けられるかに関わる手術なのに……。私たちに心配かけたくないからって……)
律「そっかー、じゃあ気楽にやれよ!」
紬「手術はいつなの?」
梓「あ、それは―――」
憂「…………」
憂(梓ちゃん、分かってるんだ。自分の腕のこと……。それなのに……)
梓「……とにかく心配しないでくださいね!」
唯「うん。私たちあずにゃんがいなくても練習がんばるから、早く戻って来てね」
梓「……!」ポロッ
律「えっ! あ、梓?」
梓「はいっ……、はい! 絶対です……!」
律「どうしたんだよ、梓?」
澪「律!」
律「へっ?」
ガラッ
看護士「中野さーん、検査の時間でーす」
梓「あっ、じゃあ行ってくるんで……」
律「お、おう」
ガラッ
律「……どうしたんだ、梓のやつ」
澪「ばか律」
律「え?」
憂「梓ちゃん、たぶん全部聞いたんですよ……」
紬「全部って……」
律「全部か!?」
澪「あの様子じゃほぼ間違ないな」
唯「?」
律「だから唯が『戻って来てね』って言ったときに……」
澪「……梓」
唯「手術って大変なの?」
澪「たぶん、梓の音楽生命のかかった手術になるだろうな……」
紬「そんな……」
唯「あずにゃん」
澪「なにか、できないかな」
律「え?」
澪「梓の手術を成功させるためにさ」
紬「私たちに出来ることなら、なんでもやりたい!」
唯「うんっ」
律「そうだな、私も賛成だ!」
紬「でも何を……」
澪「んー……」
憂「やっぱり、梓ちゃんは軽音部が好きなんですよ」
律「え?」
憂「自分が辛い状況にいても、軽音部の皆さんには心配させないように気を使って……」
澪「…………」
憂「表には出さないけど、梓ちゃんは不安でいっぱいなんだと思います」
紬「梓ちゃん……」
唯「……そうだ!」
―――――――――――――
―――数日後
―病室―
梓「…………」
梓(今日は手術の日か……)
梓(この前先輩たちには心配しないで、って言ったけど……)
梓(怖いよぉ……)
梓(もっと放課後ティータイムで音楽してたいよぉ……)
梓(先輩……)
ガラッ
律「ファッファッファ、調子はどうかね、中野くん」
澪「いいかげん違うパターンで入ったらどうだ?」
律「笑い方が違いますぅ」ブーブー
紬「うふふ、元気そうね」
唯「また来たよぉ」
梓「先輩たち……」
澪「今日は梓の手術だからさ、みんなで励ましに来たんだ」
梓「…………」
紬「梓ちゃんなら大丈夫よ!」
律「ま、手術って言っても大したことないんだろ?」
梓「…………私」
梓「先輩……、私……」ポロッ
梓「私っ……、強がってたけど本当はすごく怖くって……」
唯「うん」
梓「ごめんなさい……、大した手術なんかじゃないんですけどっ」
律「…………」
梓「私、頑張ります……!」
澪「……ああ」
梓「……頑張りますから、待っててください」
紬「ええ、もちろん」
唯「あずにゃん、プレゼントだよ」トン
梓「これは……、テープレコーダー?」
―――――――――――――
梓(先輩たち、帰っちゃった……)
律『頑張れよ梓ー』
澪『……絶対戻って来るんだぞ』
紬『美味しいケーキ用意して待ってるからね』
唯『これは私たちが帰ってから聴くんだよ!』
梓「……聴いてみるか」
カシャッ
『ジジジジジジジジ』
『ほい、押したよぉ』
『よし、いいぞ唯』
『コホン。あずにゃん、聞こえる?』
梓(唯先輩の声……?)
『入院中のあずにゃんに私たちの演奏をプレゼントします』
『本当は病院で演奏したかったんだけど、楽器は持って行けないからさ』
『それじゃあ、梓ちゃんの手術成功を願って!』
『1、2、3!』
――――♪
――――♪♪
梓「!」
梓「……先輩」
――――♪♪
――――♪♪
梓(……私だって)
――――♪♪
――――♪
梓(……終わった)
『ふぅ……』
『唯ー、止めてくれ』
『うんー』タッタッタッ
『……これかな、えいっ』カシャ
『……あー! なんとか録り終わったな!』
梓(あれ? 止まってない……)
『ねぇねぇ、あずにゃん喜んでくれるかなぁ?』
『当たり前だろ? こんな感動的なプレゼント、他にないって!』
『自分で言うな』
『……でもやっぱり』
梓「?」
『梓がいないと物足りないよな』
梓「!」
『ええ。演奏的にも、雰囲気的にも……』
『あずにゃん、手術うまくいくといいなぁ』
『……もし、手術が上手くいかなかったら』
『梓は軽音部を辞めるだろうな……』
『ギター弾けないんじゃいる意味がないって言ってたしな……』
『…………』
梓(先輩たち、全部知ってて……!)
『ってー、なに辛気臭くなってんだよ!』
『あずにゃんも戻ってきたいと思ってるはずだよ』
『唯ちゃん……』
『だから絶対大丈夫!』
『……そうだな』
『……それじゃ、今から梓んとこ行って
ガチャッ
梓(あっ……、切れた)
梓(先輩たち、なにも知らないふりして……)
梓(気使ってるのは先輩たちの方だったんだ……)
梓(……私は、あの部室に戻りたい)
梓(放課後ティータイムの一員として、あそこで先輩たちと一緒に演奏がしたい)
ガラッ
看護士「中野さーん、そろそろ時間でーす」
梓「……はい!」
梓(待っててくれてる先輩のためにも……!)
梓(……手術を成功させる!)
―――――――――――――
―平沢家―
憂(その日も、お姉ちゃんは泣きながら帰って来ました)
唯「憂……、あずにゃんがぁ……!」ボロボロ
憂「どうしたのっ!? お姉ちゃん?」
唯「あずっ、あずにゃんがぁ……、ギター弾けるってぇ……」ヒック
憂「ほっ、本当に!?」
唯「う゛ん……! 少し、休めばっ……、いいってぇ」ボロボロ
憂「……そう、良かったね、お姉ちゃん」ギュッ
―――――――――――――
―数週間後―
紬「今日はいつもよりお菓子を豪華にしてみたの」
律「おお!」
澪「さすがだな」
唯「ケーキだぁ」
律「なぁなぁ、私お腹空いちゃったんだけどさぁ」
澪「だめだ。全員そろうまで待ってないと……」
唯「バナナは残しておいてね。きっと……
ガチャッ
唯「!」パァァァ
梓「遅れてすみませんっ!」
律「やっと帰ってきたがったか……」
梓「先輩……、ただいま戻りました!」
紬「うふふっ、おかえりなさい」
澪「おかえり」
唯「あずにゃん、おかえりっ!」ギュッ
梓「わっ……」
唯「あずにゃ~ん」
律澪紬「ふふふっ」
律「よーし、梓が復帰したことを祝って、ムギのお菓子だーっ!」
梓「待ってください!」
律「ギクッ。……な、なんでしょう?」
梓「あ、いや、お菓子は構わないんですけど……、うわっ!」
紬「?」
梓「こら、勝手に出て来るなって言ったでしょ!?」
澪「へ?」
梓「あ、すみませんっ! ……実は最近、私の人形が勝手に動き出すんで困ってるんですよ」
唯「…………あれ?」
おわり
最終更新:2010年04月22日 22:42