私と律は幼馴染で親友だ
それだけであって、それ以上でも以下でもない
このけいおん部に入部してから、私と律の距離はより縮まった気がする
他の3人とも凄く仲はいいけれど
律のそれとはやっぱり違う
なんというか、本当に心を許すことができる唯一の人物
うん、そんな感じ
もちろん、唯や梓やムギも親友だと思っている
でも律は・・・・・・なんでだろう
わからないけど、やっぱり特別なんだ
律「おーい澪ー!一緒に帰ろうぜー!」
澪「わかったわかった」
唯「りっちゃん隊員!今日も一日お疲れでござった!」
律「唯隊員!また明日な!」
唯「うん!また明日!あずにゃーん!帰ろー!」
梓「ちょ、唯先輩!急に抱きつかないでくださいよ!」
紬「うふふ♪」
紬「澪ちゃん、りっちゃん、またね♪」
律「おうムギー!またなー!」
澪「また明日」
紬「うんっ!明日っ」
毎日のように行われる一通りの挨拶を終わらせ、私は律と一緒に帰り始めた
律「澪ー、ちょっとゲーセンよってこうぜ!」
澪「昨日も行ったのにまた行くのかー?」
律「いいじゃんいいじゃん!ほら!」
澪「あ、ちょっと律!」
そして入店したゲームセンターで、私と律は対戦型のゲームをした
律「うっしっしー!また私の勝ちだー!」
澪「う、うるさいっ!」
律「ほんとに澪はいつになったら私に勝てるんだよ
毎日やってるだろー」
そういいながら律は嬉しそうに笑う
その顔を見ているだけで、私の心はとても落ち着く
律「ん?私の顔なんかついてる?」
澪「な、なんでもないっ!」
律「?・・・・・・変なやつだなー」
澪「い、いいから!早く帰るぞ!」
律「えー!もう帰るのかよー!
あ、そうだ!プリクラ撮ってこうぜ!プリクラ!」
澪「ダーメーだ!
帰って歌詞を書かないといけないんだよ」
律「少しくらいいいじゃねえかー」
澪「大体昨日も撮っただろ
いいから早く帰るぞ!」
律「ちぇー、澪のケチ」
最近はこんな感じ
部活の後、毎日ゲームセンターに行って、決まった対戦型ゲームをして
どちらかに用事があれば帰り、何もなければプリクラを撮って帰る
すごく幸せで、楽しくて、かけがえのない時間だ
律「ところで澪」
澪「んー?」
律「最近ベースの調子悪くないか?」
そう
最近、私はスランプに陥っていた
何度演奏しても、どこかしっくりこない
その度にバンドの演奏が止まってしまい、迷惑をかけっぱなしだった
同時に、そのことに対して私は深く自責の念を感じていた
澪「そうなんだ・・・・・・なんでだろう」
律「まあ弾いてる内にまた元に戻るだろー」
澪「だといいんだけど」
律「だいじょぶだいじょぶ!」
澪「ありがとう・・・・・・」
その後は、いつものように何気ない会話をしながらお互い帰路に着いた
私は、少しでも早くスランプから抜け出せるように
運指やメトロノームを使用したリズムキープの練習など、基礎的なことを家でやっておくことにした
早く前みたいに納得のいく演奏ができるようになりたい
ただそれだけだった
次の日、遅くまで続いた自主練の影響で、夜更かしをしてしまった私は
眠たい目をこすりながらも、どうにか登校し
いつものように授業を受け、部室へ向かった
唯や梓がムギの持ってきたお菓子を食べている間、私は1人で練習することにした
これもやっぱり、早く元に戻りたいから
唯「澪ちゃん!やってるねー!」
澪「早く前みたいにならなくちゃな」
ベースをチューニングしている最中に、離れたテーブルから唯達が話しかけてくる
梓「澪先輩、無理はしないで欲しいです」
澪「わかってる、ありがとう」
唯達の会話を邪魔しない様に、アンプに繋ぐのはやめておいた
紬「焦らなくていいからね」
澪「うん」
律「早くしっかり演奏できるようになるといいなー」
澪「ああ・・・・・・」
結局その日も、私は変わらず皆の足を引っ張ってしまった
本当に、腹立たしい
なんで弾けなくなったのか、わからない
今までできていたこともできなくなってしまっている
これほど悔しいことはない
考えれば考えるほど悔しくて、目にうっすらと涙が浮かんでくる
そんな自分を必死に隠したくて、律に「帰ろう」と言われたのに
今日は1人で残って練習をすると言って、断ってしまった
その時の、背中越しに聞こえた律の寂しそうな声が、いつまでも頭の中で反芻していた
その後、私は1人でただがむしゃらにベースを弾いた
何度やってもうまくいかなくて、指で弦をむちゃくちゃに掻きならした
その度に、汚い音が部室内に響いた
イライラする
悔しい
弾けない
何よりも、皆と楽しく演奏できないことが、悔しい
なんで、私は・・・・・・どうして・・・・・・
今日はこれ以上弾いても無駄だろう
そう思って帰宅することにした
それから、次の日も、また次の日も、そのまた次の日も、私はスランプから脱出することができなかった
けいおん部もここ数日、私の所為でまともに練習できていない
唯やムギは、大丈夫と言ってくれたけど、どう考えても私が悪い
そうに決まっている
ここ数日、私は律とは一緒に帰らず、放課後は1人で練習をするようになっていた
何度も律が一緒に練習すると言ってくれたんだけど、私はその都度断っていた
自分の弱っている姿を律に見せたくない
この時の私は愚かだった
変に意地を張っていたんだと思う
そして次の日
放課後、部活動が一通り終わり、私が自主練の準備を進めていると、律が話しかけてきた
律「なあ、澪」
澪「なんだ?」
律「今日は、一緒に帰らないか?」
澪「・・・・・・私、練習があるから」
律「ほ、ほら!たまには息抜きも必要だろ?」
澪「このままじゃダメなんだ
これ以上皆の足を引っ張ったままじゃ」
律「澪は、最近がんばりすぎてるぞ?
今日はゲーセン行こうぜ?な?」
律「そ、それに!最近私ずっと一人で帰ってるしs
澪「うるさいなっ!そんなに一人で帰るのが嫌なら唯達と帰ればいいじゃないか!!」
律「み、澪・・・・・・」
やってしまった
私は最低な人間だ
自分の至らなさを、あろうことか律にぶつけてしまうなんて
確かにここ最近、スランプのせいでずっとイライラしていたけど
律にあたる理由は、何一つないだろう
律「わ、わかったよ!!澪なんかもう勝手にしろ!!」
そう言って律は勢いよく飛び出して行った
当然だ
あした、しっかり謝らなくちゃな
その翌日、私は朝一で律に謝ろうと、勢いよく教室に入った
でも、そこに律の姿はなかった
唯に聞いてみたけど、わからないらしい
いつもの待ち合わせ場所にもいなかったし、どうしたんだろう
やっぱり私の所為なのかな
決めた
放課後、お見舞いに行こう
そこで、しっかり謝ろう
そして放課後
部室に先に来ていた梓に用件を伝え、私は1人律の家へ向かった
律の家までの道中、私は律に謝る言葉を必死に考えていた
何パターン考えたのかもう分からなくなったところで
ようやく律の家に辿り着いた
呼び鈴を押したのに、反応がない
澪「いないのか?」
不安が広がり、ついつい声に出してしまう
この声は律に届くはずがないのに
ダメもとでドアノブを回してみた
開いてる・・・・・・?
昔からこの家には何度も遊びに来て、律の家族とは仲良くなっていたので
勝手に上がらせてもらってもいいだろう
澪「おーい、律ー!上がるぞー!」
律は、その声を自室のベッドの中で耳にした
―――――澪が来た
一瞬弾んだ彼女の心も、昨日の放課後のことを思い出すと、急激に落ち込む
律は、怒っていた
当たり前だ
何度手助けを申し出ても断られ、息抜きを提案しても断られ、挙句怒られた
あまりにも理不尽すぎるだろう
そんな思いが募っている時に、自室のドアがゆっくりと開く音がした
律「何しに来たんだ」
澪「り、律!なんだ、起きてたのか?」
眠れるはずがない
あんなことを言われたんだ
私の気持ちが分からないのだろうか
澪「し、心配したんだぞ!なんで学校休んだりしたんだ!?」
律に、「私の所為で休んだ」という可能性を、否定して欲しかった
この時の私は自分のことしか考えていなかった
もしそうだったら安心できるから
本当に最低だ
律「なんで休んだか分からないのか?」
澪「あ、いや・・・・・・」
澪「り、律!ごm」
律「帰って欲しい、今は1人がいい」
澪「り、律」
律「明日は学校に行くから」
澪「・・・・・・わかった」
次の日
律は部室に来なかった
学校にはちゃんと来ていたけど、一言も会話をしていない
こんなはずじゃなかった
早く謝りたい
謝って、元の関係に戻りたい
それだけだ
その日は、律が来ていないことで全体練習もなく、早めに切り上げた
心配そうな顔で帰って行く唯達を見送った後、私はいつものように自主練に取り掛かる
やっぱり、調子が悪い
いや、調子が悪いなんてものじゃない
意味はないとわかっていながら、爪を切ってみたり、弦を張り替えたりしてみたけれど
やっぱり何も変わらなかった
ただただ、懸命に弾き続けていた
気がつくと、もうあたりはうす暗くなり、帰らなければならない時間帯だった
帰りの準備を行い、下校する
帰り道の途中、ふとゲームセンターに寄ろうと思った
なんでかは分からない
もしかしたら、そこに律の姿を探していたのかもしれない
しかし、ゲームセンターに着いても、律は見当たらなかった
澪「もうこんな時間なんだ、家に帰ってるに決まってるか」
私は、いつも律とやっていた対戦型のゲームを始めた
同じ色のスライムを、淡々と積み上げていく
赤・・・青・・・赤・・・紫・・・緑・・・・・・
気がつくと熱中してしまっていた
何度も立ち向かってくる敵を倒し、ステージを進めていった
ついにラスト
ここまでやってきたのは、初めてだった
しばらくの死闘の末、私はなんとか勝った
自分の成長と、勝利したことに歓喜し、自然と笑みが広がっていった
何かが「できた」と実感したのは、何日振りだろう
この調子でスランプから脱出できているといいな
スランプってのは、突然脱出できるものだと、聞いたことがあるしな
その時、目の前の画面が急に光った
「対戦者あり 挑戦しますか?」
今の私なら勝てる
いや、これに勝てなければスランプなんて脱出できない
私はゲームとベースを重ね合わせていた
何かにすがりたかったんだと思う
迷わず「挑戦する」を選んだ私は、相手がどれほどのものなのだろうと、身構えた
とても長かった
相手の妨害をしては、やり返されの繰り返しで、一向に勝負がつかなかった
長引く対戦に苛立ち、集中力が切れてしまった私は、簡単なミスを犯してしまった
結局、それがキッカケとなって勝負には負けた
やっぱり私はこんなものなんだな
もう帰ろう
そう思い、立てかけてあったベースと、床に置いた鞄を手に取った
その時、私の頭の上で、何やら聞き覚えのある声がした
「帰るぞ、澪」
ハッと顔を上げた
私の目が捉えたのは、黄色いカチューシャと、さらけ出された額
澪「り、律!!」
律「へへ、やっぱり澪は私には勝てないな!」
澪「り、律ぅ・・・・・・」
急激に、まさに滝のように私の胸に安堵感が広がり、私は泣きだしてしまった
何故かはわからないけど、今回は律に私の弱い部分を見せることに抵抗はなかった
律「お、おい澪!泣くなって!」
澪「だって、だってぇ~」
律「と、とりあえず店を出よう!」
澪「ごめん~!律ごめん~!」
律「・・・・・・ふふっ、もういいから!」
澪「だって、だって・・・・・・」
律「私は気にしてないから、もう帰ろうぜ」
澪「律・・・・・・」
その帰り道、いまだに泣き続けている私を律は笑いながら見守ってくれた
律「みーおー!いつまで泣いてんだよー!」
澪「う、うるさい!安心したんだ!」
律「なっ、また怒る気かー?」
澪「い、いや!ご、ごめん」
律「へへ、冗談だよ」
しばらく歩き、ようやく泣きやんだ私を見て、律はさらに笑った
でもその顔は、本当に楽しそうで、本当に嬉しそうで、本当に私の心を安心させてくれた
澪「もう律と仲直りできないと思ってた」
澪「ありがとう、律」
律「い、いいってことよぉ!!///」
私達は、薄暗い夜道を、街頭にあたりながら
いつまでも肩を組んで歩いた
肩を組んでと言っても、律に一方的に組まれているだけだけどな
でもその感触が、律の暖かさが、妙に懐かしくて、私はとても嬉しくなった
再び瞳に溜まるそれを、律にはばれない様にしないとな
終わり
最終更新:2010年04月24日 22:23