~第二地区~

姫子「全赤軍兵士諸君、ただいまより突撃を行う!一歩も退くな!退けばこれすなわち祖国への裏切り...射殺する!」

ワイワイガヤガヤ

同志C「(神様...どうか家族と、仲間と、梓ちゃんをお守りください......)」

姫子「とつげきーーーーーーー!!!!!!!!!」


Ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!


ウラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!

ババババババババババババババババババッバ(ドイツ軍射撃)


赤軍兵「もときた陣へ走って逃げるぜっ」
赤軍兵「うわー逃げろー!!!」
赤軍兵「ハッハッハァハァ.....え?」


姫子「のこのこと逃げ帰ってきた反革命の敗北主義者め!撃て!」


ダダダダダダダダダダッダッダッダッダダダダダ(ソ連軍射撃)



同志C「(さよ.....う......なら.....梓ちゃん.....いま母なるロシアに.........)」


シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン



赤軍は督戦という戦術を各所で行った。これは味方の士気を極限まで高めるためのものだったが、
実際にはかなり多くの赤軍兵士が督戦で死んだ。




~1943年1月3日 スターリングラード郊外の雪原!~

澪「死ぬ」

澪「このままだと確実に死ぬ」

澪「あ、足の指先の感覚がない」

澪「もしかして、今けっこうあったかい?」

澪「(誰に話しかけてるんだ私)」

澪「(師団の隊員はみんな戦死したし、隣の兵隊さんと最後に話したのは...そうクリスマス)」

澪「あ、兵隊さん腐らずに済んだみたい」

澪「凍ってる」


澪「意識が遠のく...」

澪「(駄目だ、いま寝たらソ連兵に何されるか...)」

澪「.....ううぅ」



~野戦病院~

?「大丈夫ですか?気づかれましたか?」

澪「むん...ううここは...病院?生きてる?」

?「先生!軍医様!兵隊さんが目を!」


軍医「どうれ...まあ順調な回復を見せとるよ、これも全部君のおかげだよ、ツィムギャーくん」

紬「は...はい///ありがとうございます!」

澪「あ、ありがとうはこっちの言葉です、本当にありがとう!」ウルウル

紬「はい!栄養失調と軽度の凍傷で倒れていたんですよ、雪原で救助されるなんて...キセキです!」

澪「わ、わたしミヒャエンデ・ライスナー、ミオって呼んでください」

紬「私はフローリア・ゲルトハルト・フォン・ツィムギャーです、ツムギでいいわよ」

澪「ええっ!まさかああああのツィムギャー製薬の!しかもフォンって貴族の名称!?」

紬「ええ、まあそうね」

澪「でで、でもあなたがほんとに看護婦さんでよかった...」

澪「つ、つむ、ぎ.....」グズッ

紬「よしよし...」ムギュ


紬はしばらくベッドのかたわらで澪にやさしく語り続けた。
彼女はベルリンの高級住宅街から出たことがなかったということ、ナイチンゲールにあこがれて
従軍看護婦を目指したこと、ギムナジウムをトップで卒業し、ベルリン医大に進学したこと。
親のコネをいっさい使わずにツィムギャー製薬に就職したこと。

トレブリンカやマイダネク、ダッハウで医療助手をしていたこと、アウシュヴィッツでヨーゼフ・メンゲレ
という名医に師事していたこと。澪にはそれらの聞きなれぬ地で紬が何をしていたのかなど知る由もない。


紬「そういえば最近、トラクター工場の戦場あたりでものすごい腕前のスナイパーがいるそうです」

澪「へぇー、ヴァシリ・ザイツェフってやつか?よく敵が宣伝してるが」

紬「違います、ドイツ軍のほうにいるんですよ、その名も」

澪「その名も?」

紬「リロードのリッツ」

澪「リロードの...リッツ!?」



~トラクター工場!~

梓「最近は赤軍が優勢です!」

梓「100万人もの援軍、強い意志、そしてなによりこの寒さ!」

梓「ざまあみろです!」

梓「あ、あれはチェカの...ヒミェーナさん、何してるんだろ」

姫子「工場の第二セクターは奪取した!あと少しだ!頑張れ!」

梓「なんとまあせいのでること」

ヒュッ


梓「ん?」

梓「あ」

姫子「...........」プルプルプル

バタッ

梓「音もなく、正確に頭を打ちぬいた......」

パァン

梓「いや、今音がしたってことは.......何ヤード離れてるんだっ!?すごい...」



~スターリングラードの臨時司令地下室!~

パウルス「唯君、もう限界だ、リストの軍集団を逃がすために今日まで耐えてきた」

パウルス「そしてもうカフカースにドイツ軍はいない...」

パウルス「このスターリングラード市内および市外は完全に倍以上の赤軍に包囲され」

パウルス「死者、負傷者、病人の数はおびただしい」

パウルス「泣き叫ぶ兵士も出てくるありさま」

パウルス「凍傷で手足を失い、空腹で即座に倒れるものもたくさんいる」

パウルス「なあ、ドイツ軍人は本来名誉ある野戦や要塞戦で雌雄を決する英雄ではないのか」

パウルス「これでは犬以下だ、なぜ兵士がアパートの1階と2階、隣の部屋を巡って半年も戦うのだ?」


パウルス「全権を委任されたものとして言う、降伏しよう」



唯「それは無理だよ」


パウルス「?」

唯「ドイツ第3帝国の主権者は誰か」

唯「ドイツ国防軍および武装親衛隊の最高指揮権を持つのは誰か」

唯「全アーリア人種の栄光とゲルマン民族の未来を確約してくださるのは誰か」

唯「神にも等しい知恵と正義をもってユダヤ人を排除せんとする勇気ある方は誰か」

唯「私は誓った。必ずや総統の御意志を貫徹すると」

唯「私は退かぬ。鉤十字(ハーケンクロイツ)の旗はためくところ」

唯「私の総統に対する忠誠は何があっても揺らいではならんのだよパウルスくん」

唯「ハイル・ヒトラー」


通信兵「い、いやだ!お、俺は逃げる!死にたくない!」

唯「和、撃て」ニヤリ

和「Ja(ヤー)」タン!タン!

唯「うむ、ルガーの硝煙の臭い...朝のいれたてのコーヒーを思わせる」


パウルス「く、狂ってる...」

唯「確かに私は狂人かもしれぬ...だがこの街にいれば誰しもが狂人になるのだ」

唯「ニーチェ曰く、超人こそが理想の人類」

唯「私には総統が超人に思えてならんのだよ、元帥」

パウルス「部下の命を考えたことは?戦略の限界を顧みたことは?」

唯「ない、ドイツに同情や遠慮などいらぬ要素だ」

唯「それと、総統から直々に電文が来ている」

唯「絶対に降伏は許さない」

唯「私とパウルス上級大将を元帥に昇級させる」

パウルス「...」

唯「この街とともに滅べということさ」



~病院!~

紬「あとでお薬もってきますわ」

澪「ありがとう、ああそうだ、後方移送明日になったんだ」

紬「奇遇ですわ、私も明日ウイーンへ転勤に」

澪「なんだか鉄道ももうすぐ完全にストップするみたいだし、よかったよ」


ガタ


澪紬「誰?」

律「じゃっじゃーん!律様のおかえりでーい!」

澪「りつぅ!」

紬「感動の再会ですわ!」


3人はその夜、お互いの苦労をねぎらいながら、昔話に花を咲かせた。
ちょっぴりお酒ものんで、ほろ酔い気分で律が切りだす。

律「じゃあそろそろ”狩り”に」

澪「また....会おうな、ハンブルクで」

律「おう!じゃな」


これが今生の別れになるとも知らずに........



~病院の外!~

梓「特殊爆破任務.......肩の荷が重い」

梓「とりあえずあの建物を爆破すればいいんですね」

梓「(随分大きくて静かだけど...兵器庫かな?)」

梓「四隅に設置完了!」

3,2,1,0

ボガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!


梓「やったぁこれでレーニン勲章は私のものっ!」


チャキ


梓「え?」


律「てめぇかこのドブネズミ.......」グズッジュルンズズズ

律「てめぇのせいで澪は.................」

律「紬やお医者様や故郷に帰れるって願ってた負傷兵たちは!!!」

律「死んだ」



タァーーーン



私のこの一発で私のすべては終わった。もう、帰る故郷なんてどこにもない。
ここはドイツからはるか数千キロはなれた地獄に一番近い街。

私は、ソ連兵に投降した。



パウルス元帥は1月31日、ようやく司令部を出てシュミロフ中将に投降した。
その後ろには地平線まで続く、哀れな、ドイツ兵たちの列が雪原につらつらと
ならんでいたのであった。

唯元帥も投降した兵士に交じって歩いていた。

しかし、その姿は完全に白痴と化していた。ナチズムの幻影に一生を捧げんとして
殉じえなかった、哀れな末路であった。

唯元帥は戦後までシベリアの強制収容所で労働させられていたというが、ある朝看守が気付いた
時にはもう首を吊っていたそうだ。壁に指をかみちぎって書いた文字があった。


「総統万歳、ドイツ万歳、そして憂、早くアイスを」




~シベリア!~

律「はっ、はなせよ!気持ち悪いんだぁよっ!」

赤軍兵「いいじゃねぇかよ、ドイツのねえちゃんだぜぇ」

赤軍女兵士「ふん、こういう女狐みてると虫唾が走るんだ、犯しな」

律「いやああああああああああああああ!!!」

赤軍兵「うへへへへへ」

律「臭ぇんだよぉお前ら!」

赤軍女兵士「このクソ女!オラオラ!」ガッガッバキ

律「あっ....痛い....くっ」

赤軍兵「ぬへへへへ戦争終わっても帰れねえなんてかわいそうだねぇ、温めてやらあ」

?「待ちなさい!あなたたち、それでも革命の闘士なの?」

赤軍兵「ア、ど、同志アカーネスカヤ!」

赤軍女兵士「アカーネスカヤ!」

律「?」

茜「あたしの名前はアカーネスカヤ・イリイチ・ハラジョフ、極貧の身から赤軍の女英雄になったの」

茜「革命によって実現するのは男女の平等、女性を乏しめる行い、断じて許さないわ」

茜「敵といえど、彼女はもうすでに過酷な罰を体験した」

茜「いわれのない性暴力や虐待は倫理にもとる、自己批判しなさい!」

赤軍兵「ご、ごめんなせぇ」

赤軍女兵士「ふん、やっぱりドイツは嫌い!」

茜「さあ、人数はぐんと減ってしまったけど......この最果ての地、流刑地から故国へ」

茜「新しいドイツがあなたを待ってるのよ」

律「......友人が、ボリシャビキに....ごめんなさい....殺されたんです」

律「生きる意味なんてない」

茜「それは私たちも同じよ、ドイツに攻め込まれてことごとく壊された」

律「..............」

茜「あなたはスターリングラードという地獄で一度死んだの」

律「よく私生き延びれたよな...」

茜「互いを憎しみ合うよりは、愛し合いたいものよ、人間って」

茜「困難とはなにかを公園に住んでた私が言うのよ、正しいに決まってるじゃない」

律「.....そうだ、ドイツに帰ろう、あのうるわしのドイツへ」



律「澪のいる、ドイツへ!」


―完―



最終更新:2010年04月27日 23:59