律「これは私のだから」
「おい、唯・・・?」
「先輩、どうしたんですか?」
澪ちゃんの声もあずにゃんの声も聞こえてるよ。
ただ返事をする余裕が私の心にないだけ。
赤いドラゴンが何かを叫んでる。
だけど私は人間だから。
何を言ってるのかはわからない。
あなたを捨てた私を恨んでいるの?
それとも再会を喜んでくれているの?
・・・ごめん、それは都合のいい解釈だよね。
‐‐‐‐‐‐
‐‐‐‐
‐‐
私は嬉しいよ。
あなたが元気だってわかって嬉しい。
でも同時に悲しい。
あなたに会えなかった日々を走馬灯のように振り返って記憶から引っ張り出してきた悲しさと、
もう私がいなくてもあなたは平気なんだということに気付いてしまった悲しさで。
私は今にも泣きそうだ。
ねぇ、あれで終わりだったんじゃないの?
もういつのことかわからないけど、あなたは私の目の前から消えたんでしょう?
終わりの始まりが見えたような気がして。
やっと私は私に戻れると思ったのに。
そうやって悪戯にまた私を揺さぶるんだ。
嫌いだよ、そういうところ。
おはようからおやすみまで、私はあなたといつも一緒だった。
ねぇ、覚えてる?
朝は寝ぼけ眼で散歩して。
丸くなって太陽の下でお昼寝して、気付いたら夕方になってて。
そのくせ夜更かしが苦手な私は夜になったらすぐに寝ちゃうんだ。
そのことで寂しい思いをさせちゃったこともあるかも。
ごめんね。
やめて。
急に私の目の前に現れないでよ。
不意打ちでこんなのってひどいよ。
でも一番酷いのはあなたが私を全く覚えていないっていうこと。
ずっと一緒だったんだよ?
二人の関係は終わったかもしれない。
それでも・・・。
私はあなたの思い出の中で生きることすら許してもらえないの?
そんなの悪あがきだよ。
だってあなたには私が初めての人っていう証拠がしっかりと残ってるから。
それはどう足掻いても消えないんだよ?
今のあなたにとっては傷跡のように疎ましいものかもしれないけどね。
あの日置き去りにしてしまった何かに影を踏まれていたみたいで、
ずっとあの場所から動けなかったけど・・・。
あなたが変わったように、ようやく私も変わり始めたんだよ。
これは意地を張ってるとか、そうじゃなくて。
あなたに会えなかった理由がたくさんあったから、
だからあなたを避けていたのは認めるけど。
それだけじゃない。
本当に大切にしなきゃいけないものに気付き始めたから。
私は自分の心に区切りをつけようとしたんだ。
ねぇ・・・。
いつまでそこにいるの?
恨んでいるわけじゃないけど。
むしろ、恨まれるのは私の方だと思うけど。
退けてくれないなら・・・力づくで行こうか?
なに・・・その目。
臨戦態勢って感じだね。
いいよ、おいでよ。
何の躊躇いもなく私を見据えるその目に、私が少しだけ傷ついたことなんて気にしなくていいから。
あなたを操っているその子、それが新しいあなたのパートナー。
わかってるよ、その子はきっといい子だよ。
でも・・・やっぱり悔しいや。
・・・。
・・・。
ねぇ、りっちゃん。
返してよ。
それは・・・私のだよ。
「りっちゃんのばかぁー!」
「なんでだよ!?」
「もー!私のヒー太返してよー!」
「この間、私のとっておきと交換してやっただろ!?」
「やだよー、あんなデッパやだよー!」
「デッパじゃない!ビッパだ!」
「どっちも一緒だよ!」
「律!唯にリザードン返してやれ!」
「えー」
「ついでにポッポと交換したカメックスも返してあげてください。見てるこっちが居たたまれないので」
「ちぇー」
おわり
最終更新:2011年10月13日 20:57