澪「あ、あのな、唯……
  昼休みは私は、購買に行ってた。
  教室にはいなかった。
  だから唯のお弁当を盗ったりしてない。
  以上だ。オーケイ?」

唯「オーケイなわけないよ!
  何その言い訳!
  もっと納得できるように言ってよ!」

澪「納得できるも何もこれで納得してもらわないと、
  これが事実なんだから!」

唯「じゃあ私の言ってることは嘘だっていうの?」

澪「少なくとも私にとっては嘘だ!」

唯「もう、ふざけないで!
  私のこと嫌いなんでしょ?
  それなら最初からそう言いなよ!」

澪「はあ? 何いってんだ、何でそういう話になる!
  今は嫌いとかどうとか関係ないだろ!」

唯「関係あるよ!
  澪ちゃんが私のこと嫌いだから
  あんなことしたんでしょ!?」

律「落ち着けふたりとも……」


唯「あとこれ! 返すから!」ばんっ

澪「な、何だこの本」

唯「澪ちゃんが私に押し付けたんでしょ!」

澪「こ、これって……
  高橋さんが持ってた本じゃないか!」

紬「高橋さん?」

澪「同じクラスの高橋さんだよ!
  高橋さんが、今朝、私の机にこれを押し込もうとしてたんだ」

律「高橋さんなんていたか?」

紬「んー、名前だけなら聞いたことあるかも」

梓「クラスメイトくらい把握しておきましょうよ……」

澪「そうか……全部高橋さんの仕業だったんだな……
  彼女、何が目的で……!」

唯「あっ、今度は人のせいにするの!?」

澪「だから私はやってないって――――」



ガチャ
憂「どっせい!」

風子「はあはあ、平沢さん、走るの早いよ……ん?」

唯「えっ」
律「なっ」
紬「まっ」

風子「平沢さんが……2人!?」

唯「澪ちゃんが……」
律「澪が……」
紬「澪ちゃんが……2人!?」

澪「なんだこいつら……」

梓「あ、この人ですか。澪先輩のソックリさん」


唯「な、なんで澪ちゃんが2人もいるの!?」

律「ドッペルなんたらってやつか!」

紬「ええっ、ドッペルゲンガーを見たら死んでしまうって……」

澪「落ち着けお前ら!
  この人が高橋風子さんだっ!
  それより、高橋さん! 一体どういうことなのか説明してくれ!
  なんでこんなことをしたんだ!」

風子「え? え? え?
   何を怒ってるの? 私にも何がなんだか……!
   それになんで平沢さんが2人も……」


梓「とりあえず、いったん落ち着きましょうか……」



10分後。

梓「やっと混乱が収まりましたね」

唯「落ち着きはしたけど、分からないことだらけだよ。
  なんで澪ちゃんが2人もいるの?」

風子「それはこっちのセリフよ、
   なんで平沢さんが2人もいるのよ」

憂「あ、私は平沢唯の妹で、平沢憂です」

風子「い、妹?」

澪「それで、この人は高橋風子さん……
  私たちのクラスメイトだ」

風子「あ、高橋風子です」

律「いたっけ、こんな人」

紬「さあ、私りっちゃん達以外とは関わらないから、
  クラスメイトのことはよく分からないの」

唯「私もそうだよ」

梓「……」


澪「……まあ、察するに、
  唯たちが高橋さんを私と間違え、
  高橋さんが憂ちゃんと唯を間違え、
  色々こんがらがってこうなったということか」

梓「でしょうね」

唯「あれっ、私が漫画を返したのは澪ちゃんだよね?」

風子「それ私」

憂「私がお姉ちゃんのお弁当を預けたのは高橋さんでしたね」

風子「うん、で、そのお弁当を渡しに行ったら……」

律「……盗んだと誤解されたってわけか」

紬「ごめんなさい……」

唯「……ごめんなさい。澪ちゃんもごめん……」

澪「いや、もういいんだよ、誤解が解けたんなら」

風子「あ、昼休みに廊下で私が誤解を解いたのは……」

憂「ああ、あれ私でした」

風子「そうよね、髪くくってたし」


唯「あれっ、放課後、私に謝りに来たのは……」

風子「あれも私よ。
   今考えたらむちゃくちゃな会話だったわね……
   ごめんなさい」

唯「ああうん、誤解が重なってこうなったんだから、
  仕方ないよ。気にしないで」

風子「ありがと」

律「いやー、でもこれで一件落着かあ」

紬「ふー、良かったわ。
  一時はどうなることかと」

唯「あれ、でも……なにかひとつ、忘れてるような」

澪「あ、そうだ!
  この本だよ、この本!!」

憂「!」

唯「おー、忘れてた」


澪「そもそも高橋さんはなんでこんな本を
  持ち歩いていたんだ!?
  しかもそれを私や唯に押し付けたりして……!」

風子「ち、違うのよ!
   それはもともと平沢さん……平沢唯さんが持ってたの!」

唯「私こんなの持ってないよ!」

風子「今朝、私に漫画を返したでしょ?
   あれがこの本だったのよ」

唯「ええっ、なんでこんな本が……!?」

澪「……それを私の机に入れようとしてたのは……?」

風子「いやー……面と向かって渡すのは恥ずかしかったし……
   秋山さんのものなら机に入れとけば間違いないかなって」

唯「なんで私に押し付けたの?」

風子「秋山さんに返しそびれちゃったから……」

唯「ふーん……」

律「ていうかなんで唯はこんな本持ってたんだよ」

唯「し、知らないよっ!」



風子「隠さなくったっていいのよ、平沢さん、秋山さん……
   私は趣味で人を差別したりしないから」

紬「そうよ唯ちゃん澪ちゃん、素直になって……ハアハア」

澪「なんで私もなんだよっ!」

唯「私はほんとに知らないよ、こんなエロ本!」

憂「まあまあまあ……落ち着きましょう」

梓「憂?」

憂「聞けば、残った問題はこのエロ本ひとつだけ……
  こんな些末なことでいつまでも揉め続けるのは
  まったくもって時間の無駄……そうでしょう」

澪「え、ああ……」

風子「そうねえ」

憂「ということでここはひとつ、
  このエロ本、私が責任を持って処分いたします。
  それでもうエロ本は無かったということにして……
  ここで平和的解決と、参りましょう」

律「ああ、そうだな。エロ本なんてどうでもいいし」

澪「うん、問題が減るならそれで」


憂「ではこのエロ本は私が引き取ります」

梓「えらいね、憂」

憂(はーよかった、無事に回収できた……
  行方不明だと思ってたらお姉ちゃんのとこに行ってたのか……
  この前の古書整理の時に紛れちゃったのかな……
  まあ何にせよ誰にもバレずに戻ってきて良かった)

律「あー、じゃあこれで全部解決だな!」

風子「私のせいでお騒がせしました」

律「いやいや、高橋さんは悪くないよ」

唯「そうだ、ふーこちゃんもここでお茶していきなよ!
  解決の記念に!」

風子「えっ、いいの?」

紬「ええ、構わないわ。人数が多いほうが楽しいもの」

澪「ああ、そうだな」

風子「えへ、じゃあお言葉に甘えて……」

梓(今日も練習はできなそうだな)


紬「どうぞ、紅茶とケーキよ」

風子「ありがとう」

律「しっかし、見れば見るほど澪にそっくりだな」

風子「そ、そうかな……
   髪型とかも微妙に違うと思うけど」

唯「いやーそっくりだよ。
  でもふーこちゃんのほうがちょっと優しそう!」

澪「私は厳しいってか……」

律「はは、合ってんじゃないか」

風子「でも、平沢さん姉妹だってそっくりよ」

唯「そうかな~」

憂「まあ、似てるとは昔からよく言われますけど……
  髪をくくった状態で間違われたのは初めてですよ」



風子「あはは、でもホントに似てたからさ」

紬「憂ちゃん、ちょっと髪おろしてみて」

憂「いいですよ……んしょっと」ふぁさっ

風子「おお、ホントに瓜二つ……」

梓「律先輩も、カチューシャ取ったら唯先輩みたいになりますよね」

澪「あー、そういえばそうだな」

律「よーし、唯3号だぜ!」ばっ

風子「あはは、本当に見分けつかないわ」

唯「ふーこちゃんもメガネ取ってさ、
  澪ちゃんと並んでみてよ!」

風子「うん、いいよ……こんな感じ?」

澪「似てるか?」

唯「あはは、似てる似てる!」

律「鏡みたいだ! あははは!」


澪「ふふっ、鏡みたいだって」

風子「あはは、なんか照れるね」

澪「た、高橋さん……あのさ」

風子「何?」

澪「これも何かの縁だし……
  私と、友達になってくれないかな」

風子「うん、勿論いいわよ。よろしくね、秋山さん」

唯「あ、澪ちゃんだけずるーい!
  私もふーこちゃんと友達になるー!」

律「はいはい、私も友達になりまーす!」

紬「私もいいかしら~」

梓「あ、わ、私も……」

憂「私もなりたいです」

風子「うん、みんな友達になろう!」


こうして軽音部のみんなに新しい友達ができたのだった。



和「澪、ちゃんと仲直りできたかしら。
  また喧嘩になってたりして……心配だわ。
  音楽室に行ってみましょう」



音楽室。

和「澪~、大丈夫……?」
ガチャ

澪「あっ、和。
  紹介するよ、クラスメイトの高橋……」

和「……」

澪「和?」

和「そ、そ、そ、そんな!!
  唯が3人に澪が2人もいるなんて!
  一体どういうことなの!!
  何が起こったの!! 誰か説明してええええええ!!」

澪「もうええわ」



   お   わ   り



最終更新:2010年05月03日 20:53