幽霊は現世の後悔から、幽体のまま現世にとどまるらしい

そして幽霊を成仏させてあげるには、思い出溢れる物を渡せば大抵は満足し、成仏すると聞いたことがある


唯「女の子も助けてあげなきゃ・・・!」

私だったら大切なものはどこにしまうだろう?

私にとって大切なものは・・・ギターと、家族みんなでとった写真と・・・他にもたくさんある

皆何かにしまっている。ギターはケースに、写真は額縁に、大切なお守りは引き出しに・・・

大切な思い出は心にしまえるけど、物は心にしまうことはできないよね

けど、可能な限りなくすことなく、安全に保管できる場所がほかにあるとしたら・・・?


唯の視界には、小さな金庫があった


梓「唯先輩」


唯「何・・・?」


唯の手元は焦りに手汗を握っていて、強固な金庫を開けることはそう容易くなかった

そうして返事もぶっきらぼうに返してしまい、苛立ちと焦りにどうにかなってしまいそうだった


梓「唯先輩に大切なものがあったなら、どこにしまいますか?」


唯「・・・?」


梓「私、いろいろと理由があって、この部屋の持ち主の大事な物を届けなきゃいけないんです、それで・・」


唯「あずにゃん、これ!」


梓「これは・・・金庫・・・!」


梓「よし・・・!開いた!」


唯「ね、ねぇあずにゃん、ペンチなんてどこで手に入れたの?」


梓「私がこっちに来たとき、手元にあったんですよ」


梓「もっとも目の前はおそらくこの世で一番危ない平均台でしたが・・・」


唯「うん・・・?」


梓「さ、思い出の品も手に入れましたし急ぎましょ・・・」


言い切る前に眼と脳が理解した

唯一の出口である扉の前に、目を覚ましたらしいハンマー男が立ち塞がっていた


梓「もう目を覚ました・・・!」


唯「くそぉ・・・あずにゃんのさっきの仇!」


梓「唯先輩!(・・・間に合わない!)」


居合い抜きの範囲内に丸腰で突っ込むのと同義な程に、唯は感情だけで突っ込んだ

ハンマー男はそれをただうすら笑い、槌を振るうだけである

梓は断定している、あと数秒足らずで唯先輩が深手、下手したら死ぬこともわかる

手に持っている金属のそれを思いっきり顔面に投げることを試みた


梓の試みはあえなく失敗という形で終わりを告げる


梓「もう駄目なの・・・っ!?」


しかし、ハンマー男が狙って降ろしたはずの槌は床を強く打ち付けるばかりであった

そう、唯の姿がない

そして同時に、ターゲットを梓に切り替えたらしいハンマー男が一歩踏み出した瞬間

ハンマー男は見えない力か何かに押され、部屋の壁に頭を打ち付けた


「あずにゃん!今のうちにここを出て屋敷へ!」


近くから唯の声がして、梓は走り出す


どうして唯が突如として消えたか、ハンマー男が壁に押し込まれたのか

また、何故唯の声が空気中から聞こえたきたのか

謎だらけの梓であったが、先輩がなにかうまくやってくれた、そう信じて屋敷へひた走る

懐中時計を両手に包んで・・・


梓「あの女の子の元へ急がないと・・・!」

屋敷の入り口に着いたとき噴水の近く、女の子が立っていた

金髪と制服の姿から、紬先輩かと思ったが、どうやら違うようだ

髪はそれほど長くなく、何より制服も見たことがない

と、くればあの男の一味かと少し警戒してみるものだろう


梓「・・・」


「待ってたよ」


梓「待ってた?」


「そう、その懐中時計がくるのをね」


梓「邪魔しようってことでいいんですか?」


「そうね」


「それをあの女の子に届けるなら、少し待ってもらわないと」


梓「なら力づくでも・・・!」


「いや、別に成仏させたくないわけじゃない ただ」


「私の力であの大男を倒してから・・・ね」


梓「大男を倒すことと懐中時計、何の関係があるですか?」


「私の力の発動条件がそれなだけよ」


梓「だからそれがどういうことだって・・・!」


「・・・時間ないから簡単に話すけど、納得してね」


簡潔にまとめるとこうだ


彼女の名前はアリッサ

ルーダーと呼ばれる一族であり、年頃の女にしか扱うことができない聖なる力で、

邪悪な者を限定された条件下で浄化することができる

そして、その条件が邪悪なものが危害を加えた者の思い出の品を持つこと


梓「・・・」


アリッサ「にわかに信じられないかもしれないけど、今は時間がないの」


信用できるわけじゃあないが、時間、迷っている暇がない

梓にとって二者択一であった


梓「・・・わかりました でも、女の子に必ず返してあげてください」


アリッサ「もちろん」



「あずにゃーん!!!」


またなにもいないところから、また、驚くほど近くから声が聞こえた


「あずにゃん、どう!これすごいでしょ!」


梓「その声は唯先輩なのはわかりますが・・・」


アリッサ「指輪外さないと姿が見えないわよ」


その瞬間、梓の目の前に唯が突如として現れる


梓「うわああっ!!」


唯「この指輪ねー、インビジィブルって言うんだって!」


アリッサ「姿を消すことができるのよ」


梓「ああ、それであの時・・・」


唯「ムギちゃんが教えてくれなかったら大変なことになるとこだったよ!」


アリッサ「・・・あなた、ルーダーじゃないの?」


唯「ルーダー?」


梓「ますますわけがわからなく・・・」


唯「ええっ!?私そんな力もってるの!?」


アリッサ「邪悪なものは、ルーダーの生き血を啜ることが目的らしいから」


アリッサ「それに追われているあなたもルーダーなのかと思ったけど・・・」


梓「でも、私も狙われましたよ?」


アリッサ「そりゃそうよ、元殺人鬼だもの・・・いや、今も殺人鬼に変わりないわね」


唯「私、どうしたらいいのかな?」


「俺の正体ヲ知ったヨウダな」

噴水を飛び越えて、屋敷の扉の前にハンマー男、邪悪な者は立ち塞がった


アリッサ「リチャードモーリスね」


ハンマー男「イかニモ」


ハンマー男「俺の正体ガドウコウってノは興味ねェガ・・・」


ハンマー男「見つケタ奴は皆殺し、ダ・・・ハッ・・ハッ・・!!」


アリッサ「皆、下がって!」


梓「唯先輩、こっち!」


唯「うわああっとと!」

なにか光の弓のようなものでアリッサがハンマー男と戦っている


しかし、詰められると弱い弓の性質上、体格差も大きい二者では厳しい戦いだった


唯「どっ・・どうしよ・・・」


梓「私達がいってもきっと駄目です・・・私達ができるのは見守ることだけ・・・」


唯「そんなぁ・・・」


アリッサはそれでも、少しずつ相手の体力を削っていった


ハンマー男「ウォオオアアアアア!!!」


大きく大地を揺るがす一撃は、辺り一体に広がる


一番近くにいたアリッサは、それだけ大きく影響を受け体制を崩す


アリッサ「くっ・・!」


ハンマー男「死ねェェ!!」


ハンマー男がアリッサに詰めよったその時、遠くから再び何か矢が突き刺さった


ハンマー男「ッアアアア!!」


紬「間に合った・・・!」


唯「む、むぎちゃん!?」
梓「むぎ先輩!?」


紬「大丈夫ですか?」


アリッサ「あなたは・・・」


ハンマー男「なンだ・・・サッキノ小娘かァ・・・ハッ・・・ハァハッ・・・」

ハンマー男「まトメて殺してテヤルヨ!!ヒッヒィ!!」


紬「来ます!」




勝負の結果というべきなのだろうか

”浄化”は、アリッサから放たれた巨大な光の矢の雨で終結し

かの大男は空遠くへと消えていった




梓「じゃあ・・・あとのことはよろしくお願いします」


アリッサ「うん、まかせて」


唯「それじゃあ・・・いこっ!」


紬「またね、アリッサちゃん」


梓「お世話になりました」


唯「ばいばーい!」



ハンマー男が消えた跡には、噴水広場に空間の歪ができていた


覗き込めば学校のトイレの一角が見えたので、恐らく元の世界に戻れるだろう


アリッサ「私も、もう少しでもとの世界に返れるかな・・・」




唯「ねぇ、むぎちゃん」


紬「なぁに?」


唯「ムギちゃんも、アリッサちゃんみたいに光のしゅばーってやつできるの?」


紬「違うわ、私の撃った弓はただの鉄矢、拾い物よ?」


梓「それにしてはうまかったですね・・・とても初めてとは思えないです」


紬「えっ・・・? あ、ほら、私武芸の習い事もしてるから」


唯「おぉ!むぎちゃんかっこいい!」


梓「あ、そろそろ着きますね」




といれ!


唯「うわぁ!」


梓「いたっ!」


紬「きゃっ!」


地面が低く唸りを上げた場所は、よく見慣れた・・・


唯「学校のトイレだ!」


梓「やっともどってこれたんですね・・・」


紬「よかったわ~」


学校のトイレにあった歪は消え、普段どおりのトイレになっていた


しかし、ここのトイレはもはや軽音部の誰も使うことはないだろう・・・



唯「澪ちゃんと律ちゃんのとこいこ!」

紬「そうね!」


豪快に足音を踏み鳴らしながら階段を駆け上がり、音楽室の扉を開けた


唯「みんなー!」


意気揚々と扉を開ける、が、部室にいたのはさわ子先生だけだった

唯「あれ・・・さわちゃんだけ?」

さわ子「唯ちゃん・・・梓ちゃん・・・紬ちゃん・・・」


梓「・・・?どうかしたんですか?」

さわ子「皆おめでとう、よく帰ってきたわね」

唯「へへ、それほどでも~」


さわ子「でも、同時に帰ってきて早々言いたくはないけど」

紬「・・・先生?」

さわ子「澪ちゃんと律ちゃんが、誘拐されたわ」

唯「えっ・・・?」



未完




※その後のネタバレ 反転

この後、誘拐された澪と律の元へ唯達が探し誘拐犯の正体を明かしながら去年の奇怪事件との関連また今回の事件の発端についてと繋げる予定でしたがry

後半前のめりになりつつも、ひとまず書きたいところまで書けたので今日はこれで終わろうと思います
少し荒れましたが保守、支援ありがとうございました

スレが残っていれば、明日の夕方あたりに再開になるかもしれません(4/25)
最終更新:2010年05月04日 23:48