言葉の意味がわからず律の
口から出る次の言葉を待ってみる。

「だって犬だってご主人様にぞっこんだろ~?」

「なっ…」

私の読解力が乏しいだけなのか全く意味がわからない。

「律、言ってる意味がわかんないんだけど」

素直に言いたいことをいってみる。

「おいおい~ここまで言ってわかんないのかよ?」

ああわからない。
律のことならなんだってわかると思っていたのに。

「…私は澪がいないと駄目だぞ」

律は私をまっすぐに見てそう言った。
私が大好きな優しい笑顔で。

「……///」カアアアア

ああ、やっぱり律には勝てない。

私の気持ちなんか全然知らない癖にそうやって

期待させるようなこと言っちゃうんだから。

「あはは澪、顔真っ赤」

律はまだ、あの優しい笑顔で私を見ている。

……私だって、律が居なきゃだめだもん。

「…律」

「ん?」

「ありがとう、私も律と同じだぞ」

私は律を真似て、最大限優しいの笑顔で返した。

「あー…のぼせたぁ」

律は私のベッドでぐったりとしている。
確かに長風呂だったしな。結局あの後さっきのお返しだーとかいって私の髪を
洗ってくれた。

「律ー、大丈夫か?」

ちょんちょんと律の頭をつついてみる。

あ、そういえば旋毛のこと忘れてた。
私は何だか悔しくなって
律の二つ目の旋毛を探すことにした。

「お?何してんだー?」

「ん、ちょっとな。」

律の柔らかい髪を撫でるように書き上げる。

律はやっぱり犬みたい。
本人に自覚があるかどうかは知らないけど、
髪をさわるとすごく嬉しそうにする。

うーん、なかなか見付から。
しょうがない諦めるか。
突然止んだ私の撫でに律が不満そうにこちらをみる。

「えー、澪しゃんもう終わりー?」
「何だよ、まだしてほしいのか?」

ちぇーと律は拗ねていたけどやがて何かを思い出したのかニンマリした。

「そっかーそういえばまだ決着ついてなかったな」

あ、そういえばそうだったな。
先に寝た方が負けだったっけ。
……何かすごく地味だな。

「まあ昨日さっさと寝たやつが相手じゃ負けようがないな」

「おおっと!私をなめるなよ!24時間テレビを徹夜で見たことあるんだからな」


いやいや、そのくらい誰だってあるだろう。
しかもこいつ全部見たとは言わなかったな。

「澪ー、眠かったらねていいんだぞー?」

律はまだまだ寝る気配がない。
のぼせたのが治ったせいか、寧ろさっきより眠くなさそうだ。

あーやばい。何だか眠くなって来た。
昨日遅くまで勉強してたせいかな。
……ん?勉強…?

「あ―!」
「うおっ!いきなりどうしたんだよ!!?」

しまった。すっかりテスト勉強のことを忘れてた。

「律!勉強しないと!!」
「あー…思い出しちゃった?」

思い出しちゃった?って…。覚えていたのに言わなかったのかよ!
まったく、後で困るのは自分なんだぞ。

「さあ、勉強するぞ!」
「えー…今はゲームの最中じゃん」
「それとこれとは別問題だ!!」

はぁ、私としたことが…。律に欠点とられたら私が困るんだよ。

「あー…この勝負私のまけだろうな」
「なんだ、諦めるのが早いな」

沢山の教材を前に律はあからさまに嫌そうな顔をしている。

「だって勉強してると眠くなんじゃん!」

まあその気持ちはわかるけど。


10分後

……おい律、いくらなんでもそりゃ早すぎるんじゃないか?
律は私のベッドの上でゴロゴロと漫画を読んでいる。

「おーい律、勉強するんじゃなかったのかー?」
「あはは、この漫画面白いな~。澪も一緒にみようぜ」

あ、こいつ明らかに話反らした。

「ったく、誰のためにここまでやってると思ってるんだ」

私は律の為に作った小テストを眺めて溜め息をついた。本当に空回りなんだよな。

「なあ澪、少しぐらいいいじゃん」

律はそういいながら自分の寝ている横のスペースを叩いている。……隣に来いということか?

「ったく、ほんの少しだけだぞ」

ああ、やっぱり私は律に甘い。今だってやっと勉強を始めたばかりなのに。

律に促されるまま横に寝転がる。やばい、一緒に漫画だなんて超至近距離じゃないか。

「澪、見てみろよ!こいつらすっげー青春してるぞ!」

律が読んでいるのは世にいう少女漫画。内容は暗くて恥ずかしがりやな主人公が明るくて
人付き合いがうまい自分とは正反対の男子を好きになる。というものだ。
主人公の境遇が私とかなり似ている。

今律が見ているシーンは、2人がお互いを好きなのに、 素直になれなくて
すれ違いが起きてしまう。と、まあ少女漫画のお約束的な場面だ。
何度見てもこの場面は胸を締め付けられる。

「しっかしさーこの主人公もどうかと思うけどなあ」

私が感傷にひたっていると律はいきなり話かけてきた。

「どうしてだよ?」
「だってさー、好きならもっとアピールしなきゃ!」

澪もそう思わないか~?
と律は私に同意を求めて来たけど私は何も言えなかった。
振り返ってみると私は律に対して何もアクションをとっていない。

……そうか、待ってるだけじゃだめなんだよな。

「律、」

私は熱心に漫画を読んでいる律に抱きついた。

「わわっ、いきなり何すんだよ!?」

律は突然のことに目を白黒させて読んでいる。
読んでいた漫画もベッドから落ちてしまった。

「だって、律が言ったんじゃん。」
「律が、待ってるだけじゃ駄目だって言ったから」

私は律に抱き着いたまま、そう続けた。
さすがにこれではあからさま過ぎただろうか。
行動に出たのは良いけどこのあとどうしていいかがわからない。

ギュ

「へ?」

不意に律の手が私の腰にまわり、ひきつけられた。

ああ、今私は律に抱きしめられてるんだ。
…言うなら、今しかない。

「律、私…律のことが」
「待って、澪」

続きを言おうとして口を開いたが、律に制止をかけられる。

「なあ澪、そのことなんだけどさ」

律の言葉にさっきまでの勢いをかき消されてしまう。
やばい、拒絶される─?
そんなことを思ったが律は私から放れることはない。

「まだ、決着がついてないだろ?」

律は私の耳もとで優しく囁く。

「……それとこれとどういう関係があるんだ?」
「澪がゲームに勝ったら聞いてやるよ」

…何なんだそれは。せっかくここまで言えたのに…。

「んでさ、」

律は僅かに赤面しつつも続けた。

「私が勝ったら私の言うことを聞いてくれよ」

律の言いたいこと…?何なんだろう。気になるけどそれよりも告白のほうが大切だ。

「じゃあ律、勉強始めよっか」

私はそういって律から手を放すが律はなかなか私を解放しない。

「へへっどうせならこのまま勝負しようぜ!」

大抵ベッドの上で寝転がると言うことは眠気を催す。
しかし今まさにその状態の私は眠気など逆にふっ飛んでしまった。

ベッドの上で律と私は抱きしめ合っていた。

トクントクン…

いつもより早めの心音が律から聞こえてくる。

この勝負ますます負ける気がしない。
こんなんじゃドキドキして眠れるわけがない。

「─ミを見てるといつもハートDOKI☆DOKI」

いきなり律が歌いだした。ふわふわ時間は私たちが
最初に作った、思い入れのある曲である。

ああ…そういえばこの曲律を想いながら作ったんだったな。
子守唄のつもりなのか律は私の背中をトントン叩いている。

「いつもがんばるキミの横顔~♪ずっと見てても気づかないよね」

あ、何だかまた眠くなってきた。
よし、私だって…!

「夢の中なら二人の距離ー縮められるのにな~♪」

私も律と一緒に歌い出す。

「あぁカミサマお願い二人だーけのDream Timeくだーさい☆」
「お気に入りのりっちゃん抱いてー♪今夜もオヤスミ♪」

自然と自分の口からアドリブがでてきた。
律の方を見てみると案の定ポカーンとしている。

しばしの沈黙。私はいてもたってもいられなくなって律をギュ-と抱きしめた。

…あれ?律の耳、真っ赤?律の顔色を確かめようと体をずらした。
が、律は顔を私から背けてきた。

「律ー?どうしたんだ?」

日頃の恨み?を晴らそうと私は律をからかってみる。

「あー…もう!澪の勝ちでいいよ!!」

だからさ、と律は続ける。

「子守唄、歌ってくれよ」

「ふでペンFUFU~ふるえるFUFU~♪」

私は律のリクエストでふでぺン~を歌うことにした。
子守唄には不適切な気もするが、律はどうしてもこれが良いという。

律は瞳を閉じて私の歌を聞いている。
早く眠るようにと頭を撫でてやれば律は嬉しそうに身をよじった。
律が眠るのも、時間の問題のようだ。

「キミの笑顔想像していいとこ見せたくなるよ情熱をにぎりしめ振り向かせなきゃ!」
「…澪ー」

サビに入ろうとしたところで律に名前を呼ばれた。

「なんだ?」

私は歌うのを中断して、律の方をみた。

「ごめん、やっぱさっきの取り消し。先に私に言わせてくれ」

いきなり何を言い出すんだこいつは。

さっきこそ負けを認めると言ったのに。
私の告白を聞くのがそんなに嫌なのか…?

「大丈夫、私の言いたいことはたぶん、澪と同じだ」

律は起き上がって私の方を真っ直ぐに見つめる。

さっきまでの寝ぼけ眼とはうって変わって真剣な顔。…ってあれ?私と同じことって?

「笑わずに聞いてくれよな」

律は私の返事なんか聞かずにどんどんすすめてくる。

「澪、私はお前が大好きだ」

……はい?いまこいつ何て言った?
律から発せられた言葉の意味が理解出来ず、目を見開いてしまった。

ああ、今私はどんなに間抜けな顔をしていることだろう。

「あれ?反応薄いな?……もしかして澪、違った?」

うわっ私めっちゃ自惚れ屋じゃん!と律の声が聞こえて来て
私はようやく律の言葉の意味を理解した。

「律…今の、本当か?」

そんな都合のいい話があるわけない。律が私のことを好きだなんて…そんなこと…

「ああ、本当だぞ。私は澪が好きだ」

何だ信じてないのかよ~
何て律は不満そうに言ったが信じられる訳がないじゃないか。

「嘘だ、律が私を好きだなんて」

私がそう言ったのを聞いて律は苦笑いしている。

「じゃあ澪、お前はあの時何て言おうとしたんだ?」
「へっ!?そ、それは…」

やっぱり律は意地悪だ。
そうやってすぐ私にとって都合の悪いことをいう。

「どうしたんだ澪ー?早く言わないとちゅーしちゃうぞ?」
「バカ律…なら、してよ」

私が、信じられるように。

律は冗談のつもりだったらしい。だってほら、目を白黒させている。

「とっとりあえずだな~澪の返事の方が先じゃないのか?」

あーもう本当にこいつは…。

「律、」

信じて、良いんだよな?

「こっちむいて」
「なんだー?」

くるりとこっちを向いた律の頭に手を回して固定する。

「なら、私からしていいか?」

律の顔はとたんに赤くなり私から目を反らす。

私はさっきの律みたく、返事をまたずに律にどんどんせまった。

「ちょっと待て、澪」

すると律から制止がかかった。…何でこいつはこんなに焦らすんだよ。

「お前、結局返事はどうなんだよ?」
「返事?何のだ?」
「もう忘れたのか?」

はぁ…と律に溜め息をつかれる。…何だかすごく傷付くんだけど。

「お前なぁ、人が決死の覚悟で言った愛の告白を無かったことにするつもるか?」

ああ、そういえば返事して無かったっけ
でも、そんなの答えは解りきってるはずだ。

「返事してくんないとキスはさせないぞ?」

律は幸せそうな顔でこちらを見てくる。
ほら、やっぱり言わなくてもわかってるじゃないか。

「律、私も大好きだぞ」
「ん、」

律は目を閉じた。
私も律を真似て、目を閉じる。

「ん…」

ただ触れるだけのフレンチキス。
私が律とこうすることをどれだけ望んだことか。

たぶん私は今この世で一番の幸せものだ。

私がしばらくこの余韻に浸っていると今度は律の方からキスをしてきた。

「んー……ぷはっ」

さっきより少し長めのキス。顔の火照りがなかなか収まらない。

「あはは、澪、顔真っ赤」

そういう律だって真っ赤じゃないか。
あ、そういえば勉強─…。まあ、いいか。

「澪ー膝枕してくれよー」

律はまた私の返事を待たずに、私の膝に頭を乗っけた。

「澪、」
「なんだ?」
「私今すっげー幸せだぞ」

律は甘えるように私の膝にすりよってくる。

「もう、くすぐったいよ律」

私なんであんなに悩んだり嫉妬したりしてたんだろ。
しばらくすると律から小さな寝息が聞こえた。
こいつ、やっぱり眠いのを我慢してたんだ。
あー…私も眠くなってきたな。



「お、澪!」

…あれ?もう朝か?
重い瞼ををあければ、
律が瞳いっぱにうつる。

「みーお!おはよっ!」
「ん…おはよ」

いつもは律より私の方が起きるのが早いのに。今日はどうしたんだろう。

「さあ!今日はどこに行こうか?」
「いやいや、勉強だろ!」

昨日しなかった分を取り返さないと。

「むー、つれないなぁ。昨日はあんなに積極的だったのに」
「紛らわしいこというな!」

…何だか変な感じ。私たちは昨日、想いを告げあった筈なのに以前と
全くかわらないやり取りをしている。

それが嬉しく感じる反面、何だか不安になってくる。

「どうしたんだ?」

その不安を取り除きたくて私は律にすりよった。
上手く言葉に表せずに俯いている私を、律は優しく
抱きしめてくれる。

「ねぇ律、私ずっと律の側にいていいんだよね?」
「なんだ、やっぱりそんなことか」

やっぱり?律は私の考えていることがわかるのか?

「おおかた、昨日のことは夢だったんじゃないか、とか思ってるんだろ?」

ああ、やっぱり律は超能力者だ。私の考えていることなんててにとるようにわかるんだ。

「大丈夫だよ」

律は微笑んでいった。

今の私の不安を取り除けるのは律しかいない。いやこれからさきもずっとそうだろう。

それにさ、と律は言葉を繋げた。

「たとえ昨日のことが夢であっても私が澪を好きなのにはかわりはないからな!」

やっぱり律は優しい。私は愛しい気持ちを押さえられなくなり、力を込めて律を抱きしめた。

「ちょっ澪しゃんギブギブ!」

暫くこの気持ちは収まりそうもないので、この際律には我慢してもらうことにする。

「もう!怒ったぞー!!」

律が力を込めて抱き返してくる。

「なぁ律」
「ん?」
「大好きだよ」



FIN



最終更新:2010年01月06日 03:09