むぎんち!

紬「斎藤!斎藤ー!」

斎藤「はい、お呼びでしょうか紬お嬢様」

紬「今すぐイギリスから紅茶とケーキを取り寄せて!」

斎藤「はい。……い、今から…でしょうか?」

紬「今すぐ!明日の部活に間に合うように!」

斎藤「しかし…すでに21時ですが……」

紬「……」ウルウル

斎藤「う……」

紬「……」ウルルルー

斎藤「よ、喜んで!」

紬「はあ///」ニコッ

斎藤(紬お嬢様にあんな顔をされて断る男はおりません!)




つぎのひ!おんがくしつ!

澪「リツガ、ブカツニ、コナイ」

梓(澪先輩が壊れた…)

唯「本当にやめちゃうのかな…りっちゃん…」

紬「話しかけようとしても私達を避けるし…まさかドラムだけじゃなく、軽音部までやめちゃうなんて…」

澪「和と話したときは考え直した風だったらしいから安心してたんだけどな…」

唯澪紬梓「……」

梓「あのう…」

唯「なぁに?あずにゃん」

梓「このメンバー的に考えてドラムが抜けるって割と致命的ですよね……」


澪「そうだよな…私達の中でドラムに向いてるのは律だけだし」

唯「そうそう!私達を置いてりっちゃんが辞めるはずないよ!」

紬「りっちゃんなら、おいしいお菓子を用意してればその匂いを嗅ぎ付けてくるはず!」

梓(みんな自分に言い聞かせてる…)

澪「……」

澪「万一のこともある。律が戻るまでドラムは私が担当する」

唯「ええ!?どうして澪ちゃんが!?」

澪「みんなをこの部に引き入れたのはあいつだろ。
  もし、本当にもしだけど、あいつがいなくなったらその責任は私が取るべきだと思うんだ。
  律は私の親友だから。私があいつのケツを拭いてやらないと……みんなにも申し訳ないよ…」

紬「澪ちゃん……」

紬(澪ちゃんがりっちゃんのお尻を!?///)プシュー…


梓「でも澪先輩、ドラムできるんですか?」

唯「そうだよぉ。それに澪ちゃん、前にベース以外はやりたくないって」

澪「うん、正直自信はない。でも…見てたから」

紬「見てたって何を?」

澪「あいつのこと、ずっと隣で見てたから。みんなよりちょっとだけ長く、な」

唯「ふふ、そっか」

紬「幼馴染だものね」

澪「そ、それは別に……」


紬「そうそう、澪ちゃんの代わりにベースも必要よね」

唯「私ギー太以外弾けないよ……」

梓「わかってますよ唯先輩」

唯「あずにゃん!」

梓「澪先輩だけに苦労させるわけにいきませんからね!ベースなら多少知識もありますし!」

澪「ありがとう梓。それじゃあ悪いけど臨時ベースを頼むよ」

梓「任せてください!ベースは家にたくさんありますから!」

紬(ふふ、りっちゃんがいなくなってどうなるかと思ったけど、意外に澪ちゃんがリーダーでうまくまとまってるわね。
  でもやっぱり……この部はりっちゃんが上に立っていないとダメよ。
  みんなりっちゃんが部長だからここまで付いて来たんだから…)


澪「みんな、私がドラムでやり辛いだろうけど……。
  あいつが戻ってくるまでなんとかついてきてほしい」

唯「大丈夫だよ澪ちゃん。
  澪ちゃんのこともりっちゃんのことも信じてるから」

紬「私達も澪ちゃんに負担がかかりすぎないようにサポートするわ」

梓「きっとすぐ戻ってきますよ!律先輩のことだもん」

澪「そうだな。そうだといいな」

澪「……」

澪(バカ律……みんなにこんなに心配かけて……。
  帰ってきたらゲンコツじゃ済まないからな)



つうがくろ!

律「今日一日みんなを避けてしまったな……」

律「……」

律(とりあえずこの空いた時間を何に使うか……。
  受験勉強でもするか?いやいや、そんなバカな。
  だったら部活してたほうがマシだっての)

和「律!」

律(それともバイトでもすっかなぁ…そうすりゃ私もあいつのように……)

和「ちょっと律!」

律「うわ!の、和!?」

和「聞いたわよ。結局今日は部活に参加しなかったそうじゃない」

律「うん……」

和「はぁ……どうしてそうなっちゃったのよ…軽音部のみんなにも言えない事なの?」

律「……」

和「…みんなに言えないなら私が聞くわ」

律「和……」

和「私も律には軽音部の部長でいて欲しいのよ。
  だって唯の世界を広げてくれたのは律だもの。
  律がいなかったらきっとあの子は今でもダラダラした生活を続けていたと思うわ。
  だから…これからもあの子を支えてあげて欲しいの」


律「う、うわああああん!和あああ!」ダキッ

和「うわっと」

律「うわーん!ああーん!」ポロポロ

和「律……こんなになるまでどうして一人で悩んでいたのよ…」

律「だって…!だって私、音楽なんてやる資格ないんだ……!
  こんな曖昧な気持ちでドラム叩いてたらあいつに…あいつに失礼なんだ…!」ポロポロ

和「あいつ?ねえ律、詳しく聞かせて?」

律「うっぐ…ひぐ…」ポロポロ



律「実はな…」

和「ええ……」

和(心の準備は…できてる!)


律「というわけなんだよぉ…」ポロポロ

和「……」

和「は?」



おんがくしつ!

~♪

じゃがじゃん!

澪「ふぅ……」

唯「うーん、なんて言うか…澪ちゃん、もっとパワーでないかなぁ?」

澪「ごめん、これでも精一杯叩いてるんだけど…」

紬「梓ちゃんももう少し周りの音に合わせてリズムキープしてもらわないと」

梓「す、すみません……」

唯澪紬梓「……」


唯(やっぱり…放課後ティータイムのドラムは…)

澪(周りに合わせるのが苦手でも迫力ある演奏ができるのは…)

紬(この部屋を明るい雰囲気にしてくれるのは…)

梓(お腹…すいたな…)

唯澪紬梓「……」

ガチャ

唯澪紬梓「!?」

澪「律か!?」

和「ごめんなさい、私よ」


澪「和か…」

和「ふふ、律もいるけどね」ポイッ

律「ぐぇあ」ベチャ

唯紬梓「りっちゃん(律先輩)!」

澪「律…お前…」

律「……」

澪「な、何しに帰ってきたんだよっ!もう部活は辞めるんじゃなかったのか?」

律「……」


唯「んもう!澪ちゃんたらまたそんなこと言って!
  りっちゃんが戻ってきて一番嬉しいのは澪ちゃんのくせに!」

澪「そ、そんなことは…」

梓「律先輩!もう軽音部を辞めるなんていいませんよね!?
  これからも私達を引っ張っていってくれますよね!?」

律「それは……」

和「それについては大丈夫よ。律の退部は絶対許可できないから」

唯「どういうこと?」

律「……」

紬「りっちゃん、私達に話してくれない?どうしてこんな行動をとったのか……」


律「音楽をな…好きで好きで堪らない子がいたんだ…」

唯(おお…!何か語りだした!)

律「その子はな…頭もよくてどんな大学でも入れるような子だった……!
  けれどその子は先生の説得に耳も貸さず、卒業と同時に上京して音楽で生きていくと言い放ったんだ」

澪「一体誰だ?私達の同級生か?」

律「いや……多分この場でその子を知ってるのは私だけだろうな…。
  話を続けるぞ。その子がなぜそこまで音楽に固執したのか、それはそこ子が音楽に救われたからだよ。
  飲んだくれの父親との生活に嫌気が差していた彼女を救ったのはSAD MACHINEというバンドと、
  ゴミ捨て場にあった一本の汚いギターだった。
  彼女は弾いた。来る日も来る日も、雨の日も風の日も、飽きもせずな。
  しかも親に頼りたくないってんで、彼女は卒業後のためにバイトをしながらそんな生活を続けていたんだ。けれど…」

梓「けれど…どうしたんです?」

律「ある日、両親の喧嘩を止めようとした彼女は、父親が振り回した酒瓶が頭にぶつかり脳梗塞で倒れてしまったんだ…!」ポロッ

紬「そんなことって…!?」

和「…………」


律「彼女は…脳梗塞の影響で失語症になり…ひぐ…大好きな歌もギターも弾けないまま死んでしまったんだよぉ…」ポロポロ

唯「うえーん!」ポロポロ

澪「ちょ、ちょっと待て。それはそれとして、律が部を辞めるのとどう関係が…」

律「うっぐ…だってさ…そいつの生き様を見てたら、今までこんな適当な気持ちでドラム叩いてきたのが恥ずかしくてさ…。
  それを思うと……おーいおいおい!」ポロポロ

梓「た、確かに……下手すれば1週間楽器に触らずお菓子食べてるだけですもんね…」

律「ああ…私がこのままドラムを続けてるのは岩沢には申し訳ないよ…」ポロポロ

澪「律……」

澪(そっか、そういう奴だもんな律は。
  相手の気持ちを察してあげられる優しい子。
  だから私は今まで律と一緒にやってこれたんだよ)

澪「律、その岩沢さんのためにもこれからも頑張ってドラムを続けていくのが岩沢さんに対する供養になるんじゃないのかな」

律「へ……?」ポロポロ


澪「だってそうだろう?きっと岩沢さんだって律にはいつまでもドラムを叩いてて欲しいって思ってるはずだよ」


律「は?何言ってんのお前…?あ、唯ティッシュちょーだい」

唯「あいあいさー…」ポロポロ

澪「いや、友達なんだろ?その岩沢さんて子」

律「ずびびー!いや、岩沢はアニメのキャラだぜ」

唯澪紬梓「え?」

和「…………」

律「いやー久しぶりにいいアニメ見たなー。まあ~私はあそこまで音楽にのめり込むのは無理だけど。
  お!なんだムギ!今日のケーキはいつもより豪華じゃね?
  いっただきまーす!もぐもぐ、うまー!やっぱりこれだよな!
  あ、ごめんみんな。軽音部辞めるのやめるわ。
  ムギのお菓子がないと生きていけまへん」


澪「くぉらぁーーー!」

ググググ

律「うご…!く、くるし…!」

澪「私が…私がどんな気持ちでドラムを叩いてたと思ってるんだ……!」ギリギリ

律「だ、だから戻ってきたじゃないか…!梓たすけ…!し、死ぬ…!」

梓「律先輩、私ドロリッチと湖池屋のガーリックチップスで」

律「今はそんなこと言ってる場合じゃ…!唯…!」

唯「今回はりっちゃんが悪いよー」

紬「りっちゃんは1ヶ月お菓子抜き!」

律「そ、そんな…!」


パシイ

澪「あ!こら逃げるな!」

律「げほげほっ…。なんだよお前ら!昨日はあれだけ私のことを心配してたくせに!」

梓「そんなくだらない理由だと知っていたら心配なんてしてませんよ」

律「んなっ!?」

唯「ねえねえ、そんなことよりアイス食べに行こうよー」

紬「いいわねー♪」

律「行こう行こうー」

澪「り~~~~つ~~~~。何ちゃっかり溶け込んでるんだ~?まだ話は終わってないぞ……!」

律「ひいっ!?」

澪「絶対に許さなーい!」ガバッ

律「ぎゃああああああああああ!!!」

和「やれやれ…」


おわり!



最終更新:2010年05月08日 00:13