_ _ ー- イ /::::::::::i:::::::::::::::::人:::::::: ヽ:::::ヽ::::::::::::::
ー- ´ ´::::::::::::::::::/:/:::::::/::::::::::::::::i::::ヽ:::::::::::`ヽ::::ヽヘ:::::::::::
`ヽ´::::::::::::::::::::::::,::l::::::::::::ハ ,:::::::::::::l ー‐-ヽ、:::`:::::;ヽ::ヽ、::::::
/:::::::l:::::::::::::::::::イ i::::l:::::ハ レ、:::::/     ヽ:::::::::::ヘ:::::::ヽ:
::::::i ::∧ ヽ:::::::::::::∧ヽ i ´  ヽヘ  ,ィ=ミァ、 ヽ,::::乂ヽ::::
::::::l / iノ ヽ、::::::::::i ` ヽヘ ィ=ミ、         ヽ:::〉::::::::::
::::::::::i ´     ヽ、l ,ィ=ミァ ,   ,""    ""   ヽ::::::::::
::::l::::::, ,ィイ=ミ、       .ヘ ""         /:::::::::::/
::::l::::::l        '  ""  ヽ   -~'    /::::::::/ ヽ
::::::::::::ヽ ""         ∧`イ´  ̄  ` ー‐- ´ー
::::人:::::,       ´`   / ´   `ヽ    
::::::::::ヘレヽ、       /      
:::::i::::ヽ:::, i `>ー, <  ー-     i 
- -‐ー- ゝ -ー- ´                 



別れは必ずやってくる。そんなこと分かっていたはずだった。



タタタタ

ガチャ

唯「あずにゃん!もうすぐ出番だよ、どうしたの?」

梓「唯…先輩」

唯「もうみんな先に行っちゃって後はあずにゃんだけだよ」

梓「……」

 今日、先輩達はこの学校を卒業する。
『卒業式が終わったら、卒業ライブをしましょう』と提案したのは私からだった。

 どうしても別れるのが辛かった。一分一秒でもいい。軽音部のメンバーとして先輩達と一緒にいたかった。
 さわ子先生や、他の先生方が快く許してくれたのには正直驚いた。絶対断られると思ったから。

 先輩達も喜んでくれた。学祭が終わってから、先輩達は事実上引退した。
 それでも部室に私1人だけという現状を考えてか、受験勉強しにきたといって何度も来てくれた。

 「軽音部は図書室じゃないんですよ!」 と強がって言ったけど

 本当は凄く嬉かった。私のために来てくれてるって分かっていたから。



梓「この演奏が終わったら、私達の部活も本当に終わりなんですよね……」

唯「あずにゃん……」

梓「す、すいませんっ!なんか感傷に浸っちゃって…」

梓「今日は先輩達の卒業の日なのに…」




 私は本当に駄目だ。自分で提案しておきながら、もうまともに演奏できる自信がない。
 ステージに立ったら前を向けるだろうか。たぶん無理。今でさえこんななのに。




唯「いいんだよ。私たちのためにライブをしようって言ってくれて本当に嬉しかった」

唯「今日は精一杯演奏するから。あずにゃんも楽しんでね」ニコッ

梓「………ッ!」



 唯先輩の顔が見れない。泣いてしまうから。

 先輩ごめんなさい。本当は先輩達のためと言っておきながら…実は私のワガママなんです。
 自分が別れたくないから提案しただけ…。 少しでも先輩達と一緒にいたかったから…。



梓「……ぅ……ひっく…先輩…ごめんなさっ…」ポロポロ

唯「なんで謝るの…?あずにゃん……」

梓「私っ…ほんとは……うっ…」ポロポロ



 もう我慢できなかった。色んな感情が溢れてくる。

 先輩達は私に色々なことをしてくれた。私は先輩達に何もできなかった。

 いつももらってばかり。今日でお別れなのに、最後まで何もあげられなかった。



ガラガラ


律「おーい、そろそろ始まるぞー」

澪「ミイラ取りがミイラになってどうする」ヤレヤレ

紬「なにかあったの?」


梓「あ……」ポロポロ

唯「えへへ……」


律「唯…なに泣かせてるんだよ」ポリポリ

澪「梓……」

紬「……」


 やってしまった。
 今日は先輩達の門出なのに…笑顔で送り出すべきなのに。

 笑顔でいようとすればするほど、涙が止まらない。



律「ほ……ほら!私達軽音部に涙は似合わないっていうかさ!」

澪「最後も……笑顔で演奏しようよ…な?梓…」グスッ

紬「最後……本当に今日で……」ポロ


律「お……おい。ムギまで…」ポロポロ

澪「うっ…うぅ…」ポロポロ



 私の気持ちが伝播したのか、先輩達も泣き出してしまった。
 このあとすぐにライブなのに。とても楽しめる気分じゃないのに。
 それでも…



唯「私ね~」



 唯先輩は1人だけ微笑んでいた。



唯「この3年間、凄く…すご~く楽しかったよ」

唯「あずにゃんは知らないかもしれないけど」

唯「私、初めは他のみんなと違って真剣に音楽をやるためにこの部に入ったんじゃなかったんだ」


梓「え…」


唯「高校に入るまで、ずっとぼぉ~っと過ごしてきたから」

唯「高校生になったら何かやらなきゃって」

唯「軽い気持ちで軽音部に入部しようと思ったんだ」


律「あぁ…はじめ唯のやつ、軽音部のことをカスタネットとか叩く部だと思ってたんだぜ」グスッ

澪「そうだったな…でも私たちの演奏を聴いてくれて」

紬「入部するって言ってくれたのよね……凄く嬉しかった」


唯「今でも思うんだ~。あのとき帰らないでよかったって」

唯「ムギちゃんのお菓子が本当に美味しくてね。帰ろうと思ってた気持ちが飛んでいっちゃったんだー」

紬「唯ちゃん…」

唯「ムギちゃんはいつも優しくて」

唯「みんなが暗い気持ちでも、ムギちゃんの入れてくれるお茶とお菓子で元気になって」

唯「まるで魔法みたいだった」

紬「うっ……ぐすっ…」



唯「りっちゃんはいつも明るい声でみんなを引っ張ってくれた」

唯「ふざけて見えるけど、誰よりも部員のことを考えて行動してた」

唯「よく他の部の人から部長っぽくないとか言われていたけど」

唯「私達の部長はりっちゃんだった」

律「……ッ」



唯「澪ちゃん」

澪「唯…」

唯「全然ギターが弾けない私に、文句も言わずに色々教えてくれてありがとう」

唯「声がでなくなったとき、セリフを忘れたとき」

唯「いつも助けてくれた」

唯「それなのにいつもふざけて澪ちゃんを困らせちゃってごめんね」

澪「いいんだよ……私も凄く楽しかったから…」ポロポロ





唯「ねぇ、あずにゃん。覚えてる?」

梓「え…?」

唯「あずにゃんが初めて軽音部にきた頃のこと」

梓「……はい…覚えてます」コクン


唯「あの頃のあずにゃんは今以上に凄く生真面目さんで」

唯「私達が練習しないでお茶してたら、凄く怒ってたよね」

梓「………」

唯「あの時私達凄く心配だったんだー。あずにゃんが辞めちゃうんじゃないかーって」

梓「え…」



唯「私達こんなだから。あずにゃんが愛想つかせて他の部に行っちゃうんじゃないかって」

唯「でも、いてくれた」

梓「……」

唯「新入部員が集まらないときも、バンドの演奏が全然うまくいかないときも」

唯「あずにゃんはいつもふてくされた感じだったけど、ずっといてくれたよね」

唯「本当に嬉しかったんだー」

梓「うっ……ぐすっ…」ポロポロ


唯「ごめんね。みんな」

唯「ライブの前にこんなこと……でも」

唯「どうしても今伝えたかったんだ」

唯「いつもみんなに迷惑をかけてばかりだったけど」

唯「本当に楽しかったよ」

唯「ありがとう」ポロポロ


 声の調子で気づけなかったけど

 たった今 気づいた

 この中で誰よりも

 唯先輩が一番大粒の涙を零していた。



梓「先輩……卑怯です……」ポロポロ


梓「最後のライブでそんなこと……いうなんて」ポロポロ


唯「んーん。それは違うよ…あずにゃん。最後じゃないよ」

梓「え?」



唯「私達5人はこれから一人一人別々の道を進むことになるけど」

唯「もう一生会えないわけじゃないんだよ」

唯「集まろうと思えば、いつだって集まれる」

唯「だから今日の演奏は、みんながそれぞれの道を歩き出す」

唯「その最初の一歩」


唯「この歌は、きっと始まりの歌になるよ」


梓「始まり……」


 先輩の言葉が

 私に大切なことを気づかせてくれた気がした


唯「だから最高のライブにしようよ、みんな!」

律「まったく、部長を差し置いて目立ちやがってぇ~…」グスッ

澪「ああ、楽しもう。私達の3年間はずっとそうだったしな」

紬「ええ」

梓「……はい!」



 もう誰も泣いていなかった。私も。
 私が先輩達にしてあげられること。
 別れをいつまでも悲しむことなんかじゃなかった。

 そうだ。 

 笑顔で見送ろう。先輩達を。
 歌おう。「新しい私達の始まりの歌」を……



街の雪も解け始める3月


先輩達は卒業した




でも、私は寂しくない


離れていても 私達の絆は ずっと繋がっているって分かったから……





*********


「あ、部長~」

「中野先輩!」

梓「もう…梓でいいっていったでしょ」

「えへへ。梓先輩」




4月。
軽音部に新しい部員が入ってくれた。
卒業ライブで感動して入部を決めたらしい。

私は先輩達に色々なものをもらった。

今度は私の番。

目の前で微笑む、この子達が

【軽音部に入ってよかった】と心から思ってくれるように



「早速練習しますか?」



梓「……」

梓「……まずは、お茶にしよっか」クスッ


きっと歌えるはず

新しい軽音部でも




あの始まりの歌を……





おしまい



最終更新:2010年05月10日 22:41