唯「えーとっ、新しいのが、確かここに……」
梓「ああ、いいです、先に歯を磨いておいて下さい」
唯「え?でも……」
梓「いいですから」
唯「うん、わかった……」
唯「……」シャコシャコシャコ
唯「……」クチュクチュペッ
梓「あ、終わりました?」
梓「じゃ、これ借りますね」
唯「………!!?」
唯「私のハブラシ!それ!」
梓「……?そうですけど……」
梓「何か……?」シャコシャコシャコ
唯「え?だって、え……?あれ……?」
梓「あ、ひょっとして」クチュクチュペッ
梓「私が先に使った方がよかったですか?」
唯「いや、いや、いやいや!そーじゃなくてぇー!」
梓「まあいいじゃないですか。歯ブラシなんて消耗品だし、捨てちゃえばいいでしょう」
唯「うん、いや、そうだけど……」
梓「ああでもどうせ捨てるなら、私が貰っておきますね」
唯「え!?だ、だめ、それは!恥ずかしいよ!というか、おかしいよ!」
梓「使わないんでしょう?じゃあ別にいいじゃないですか」
唯「え……?いや、駄目だよ!使う、使うから!」
梓「……そうですか。じゃあ置いておきます、ここに」
唯「う、うん……あれ、なんか……あれ?」
梓「さて、歯も磨いたし、あとは寝るだけですね」
唯「う、うん……あ、お客さん用の布団が」
梓「……」
唯「えーと、……私のベッドで?一緒に?」
梓「わかってるじゃないですか」
唯「うん……」
憂「あ、もう寝るの?お休み、お姉ちゃん」
唯「うん、おやすみ、ういー」
梓「おやすみ」
梓「……」
梓「さて、と」
唯「さてと……!?な、何するの!」
梓「何もしませんよ、何も。ただ唯先輩の部屋に行こうと……何かされたかったんですか?」
唯「むうっ……ううーっ……」
唯「電気消すよ?」
梓「はい」
唯「……」
梓「……」
唯(うう、寝る時もほんとに抱き締められてる……あずにゃんがこんな近くに。ね、ねれない……)
梓「どうしたんですか?」
唯「わあっ!もうっ、いきなり目を開けないで!びっくりした!」
梓「じっと見つめられてたら気付きますよ。……寝れないんですか?」
唯「もう、あずにゃんのせいだよ!」
梓「私のせい。はあ、心当たりがまるでないですが」
唯「ええ、あれだけ私に、あ、あんなことやこんなことをしといて……どの口が言うのか!このこの!」
梓「ほっへはぐにぐにしにゃいでくらふぁい」
唯「うーっ。今日のあずにゃん、変だよ!へん!」
梓「変、というと、どのあたりが」
唯「どのあたり、って……全部だよ、全部!」
梓「なんだか全人格を否定されているような」
唯「変だよ、へん……私にくっついて離れないし、みんなの前でいきなりき、キスするし、憂の前でも……もうっ!」
梓「でも、どれも先輩はまるで抵抗しなかったじゃないですか。さすがに本気で嫌がられたら私も止めにしますよ」
唯「だって、それはあずにゃんが……」
梓「私が?」
唯「あずにゃんが……あずにゃんだから!」
梓「ふむ。……先輩、私達の関係はどんなものだと思います?」
唯「え?それは、えーと、同じ部活の、先輩、後輩……?」
梓「先輩後輩。間違ってはいないですけど、じゃあ同じ部活の後輩にならキスされても平気なんですか?他の同級生、例えば律先輩なんかにも?」
唯「え……?そんなの……」
梓「澪先輩でもムギ先輩でも、他の誰でもいいんですよ、憂や真鍋先輩でも。抵抗するんですか?しないんですか?」
唯「す……するよ。抵抗する……たぶん」
梓「じゃあ私には?なんで抵抗しなかったんです?」
唯「だからそれは……あずにゃんが、あずにゃんだから……」
梓「はっきりさせてください、唯先輩にとって、私を一言で表すと?なんですか、ただの後輩ですか?」
唯「うう、えーっと、す、……す。す!」
梓「……」
唯「………ひっく、ぐすっ」
梓「……泣かせるつもりは無かったんですが」
唯「だ、だって……だって、だって!」
梓「……いいんですよ……言わなくたって、ちゃんとわかることはわかるんですから」
唯「……」
梓「まあ嫌がられてないことは確かですし。あと48時間25分30秒の間ずっとくっついてわからせてやりますから」
唯「……どうして、あずにゃんは私に……?」
梓「どうしてここまでひっつくのか、ですか?さあ……きっとほっとけないからでしょうね」
梓「危なっかしいんですよ……憂はどんな苦労をしてたのやら」
梓「目が離せない、ずっと追いかけているうちに好きになった、ただそれだけですよ」
梓「好きだから追いかける、追いかけるから好きになる、その繰り返しでどんどん好きになって」
梓「暴走しちゃいました」
唯「……自覚はあったんだ」
梓「まあ」
唯「……私も」
唯「ずっと追いかけてた」
唯「目で追ってた」
唯「好きだった」
唯「好きでした」
唯「好きです」
唯「『好きな人』だ」
梓「ちゃんと言えたじゃないですか」
唯「馬鹿にしすぎ……」
梓「さてここで簡単な計算問題です」
唯「わお」
梓「好きな人の事を好きな人が好きだと好きな人が言ったら好きな人達はどうなるでしょう?」
唯「よくわかんないけど好きです」
梓「私も好きです」
唯「どうなるの?」
梓「恋人になるそうです」
唯「わあお」
梓「赤い糸で結ばれます」
唯「まあ」
梓「離れられなくなります」
唯「じゃあずっと前からコイビトだったんだね!」
梓「なるほど」
梓「恋に障害はつきものだそうです」
唯「ハードルとか平均台とか?」
梓「似たようなものでしょう」
唯「パンだといいなあ」
梓「苦いかもしれませんよ」
唯「……クルミパン……!」
梓「それでいいです」
唯「恋人はどんなことやるの?」
梓「キスとか」
唯「もうしちゃったよお」
梓「しこたまやっちゃいましたね」
唯「そういえば、いきなりファーストキスを奪われたんだから、あの時は泣いても良かったんじゃあないかしらっ!」
梓「あ、ファーストキスなら大分前にこっそり奪っちゃいました」
唯「えっ」
唯「い、いつ……?」
梓「いつだったか……部室で一人唯先輩が寝てるもんだから、ついつい」
唯「つ、ついつい」
梓「ごちそうさまでした」
唯「えーっと、おそまつさまでした……?」
梓「まあ、残りはおいおい進めていくとしましょう」
唯「残りって?他に恋人はどんなことやるの?」
梓「いずれのお楽しみ、ということで」
唯「ぶう」
梓「とりあえず」
唯「うん」
梓「つぎの休日はデートしましょう」
唯「いいねえ」
梓「二人きりで出かけたことってあまりないですよね」
唯「そういえばそうだねえー、デート、デートか……今度は楽しみで寝れないよぉ」
梓「遠足じゃないんですから」
唯「遠足なら、下見に行かないと!」
梓「下見なんて行ってたんですか?」
唯「ううん?でも、デートの下見ってなんか楽しそう!」
梓「絶対、一人で行かないでくださいね」
梓「危なっかしいですから」
唯「子供扱いしないでよう」
梓「駄目です、私の眼の届く範囲にいてください」
梓「私を一人きりにしないでください」
唯「大丈夫」
唯「ずっと目の前にいるよ、あずにゃん」
おわり
最終更新:2010年05月10日 00:57