私の名前は中野梓
軽音部でギターをやっています。

今日はその軽音部の皆さんと、唯先輩の家でお泊り会です。

梓「あつい……」

うなだれるような暑さ。
身体が重い。
背中は汗でぐっしょり。

なぜ私がこれほど暑がっているのか。
その原因はこれです。

唯「んへへ……むにゃ……」

唯先輩が、私に抱きついたまま寝ているせなのです。


なぜ私が唯先輩と寝てるのかというとグッパーで部屋割りを決めたからです。

私と唯先輩はグー。
他の皆さんはパーでした。

しかしおかしくないですか?
お泊り会の参加者は憂も合わせて六人。
なのに唯先輩の部屋は私と唯先輩だけなのです。

もちろん私はやり直しを要求しました。

なのにムギ先輩がかたくなにそれを拒み、仕方がなくこのような形になったのです。


しかし、部屋が同じだからと言っても寝る布団まで同じにするつもりはありませんでした。

最初は唯先輩がベッド。
私が床に敷いた布団で寝るはずだったのです。

唯先輩もしぶしぶそれを了承してくれました。
いえ、してくれたはずなのです。

なのに夜中にあまりの寝苦しさから目をさますと、唯先輩は正面から私に抱きついて寝ていました。


唯「もう食べれないよ……うへへ」

まさかリアルでこんな寝言を言うとは、さすが唯先輩です。

ってそんなことを考えてる場合じゃありませんでした。
どうにかして唯先輩から離れないと私が寝れません。

それに私もそうですが、もちろん唯先輩も汗がだらだらです。
このままでは二人とも風邪を引いてしまいます。


手でどけようにも私の手はガッチリと唯先輩にホールドされています。
なら足で……と思いましたが唯先輩が私と唯先輩の足を匠に絡ませているので動かすことができません。

仕方がないので声を使うことにしました。

梓「先輩!唯先輩!」

唯「……あずにゃん?」

やりました。
これで唯先輩による熱帯夜ともおさらばです。

唯「この鯛焼きおいしーねぇ……」

おかえり熱帯夜。


すっかり忘れてました。
熟睡した唯先輩は、声でなんか起きるはずがないのです。

梓「……どうしよう」

唯先輩をどかす方法を考えている間も私の身体からはどんどん汗ふぁ出てきます。
それは唯先輩も同じことです。

梓「うー……汗臭い」

自分のパジャマの中は汗の匂いで充満しています。


……もしかして、唯先輩も?


普段、数えきれないほど唯先輩に抱きつかれている私です。
唯先輩の匂いも抱きつかれた数だけ嗅いできました

シャンプーの、ほんわかしたいい匂い。
唯先輩にとても似合ったいい匂い。

だけど、今はどうだろう。
汗でまみれた唯先輩は、どんな匂いがするんだろう。

私は好奇心という言葉だけでは済まない何か別の感情に襲われました。



私はそっと、そっと唯先輩の胸元に顔を寄せました。
こんなことで唯先輩が起きるはずがないのに。

私は鼻を唯先輩の胸元に。
正確にはパジャマと胸の間の部分につけました。

そして深く、深く深呼吸をしました。
夏休みのラジオ体操のように。

すー。


くさい。

くさいです。

たとえいつもはほんわかしたシャンプーの匂いがしても、やっぱり汗臭い。

本来汗の匂いは嗅ぎたくない匂いの一つでしょう。
だから熱い日は皆スプレーを持ち歩くのです。

だけど私には。
この時の私には唯先輩の汗の匂いがこの上なくいい匂いでした。

私は、唯先輩の匂いに欲情していたのです。


梓「ふ……ふう……」

自然と息遣いが荒くなっていきます。
運動した後とはまた違う、荒さ。

梓「ふ……ふ……ふっ……」

私は何度も何度もむさぼるように、唯先輩のいい匂いを嗅ぎました。


何分……いえ、何十分たったでしょうか。

匂いを嗅いでいるうちに、どんどん私の欲求は大きくなっていきました。

梓「唯先輩……こんなに汗かいて風邪ひいちゃいますよ」

梓「だから私が舐めとって……あげます」

この時既に、私は自分を完全に見失っていました。


私はそう言うと、躊躇せずに唯先輩の首
元を舐めました。

しょっぱくて、おいしい。
初めて私は自分が猫に似ていると思いました。
牛乳を必至で舐める子猫みたいだな、と。

唯先輩の汗を、私はどんどん舐めとっていきました。
汗はなくなりますが、その代わり唯先輩は私の唾液まみれになりました。
これでは意味がないのですが、この時の私はそんなことも気にせずただひたすら汗を舐めたのです。


一時間はたったでしょうか。

私はすっかり満足して唯先輩の寝顔をボーッと見ていました。

もう、寝れなくてもいいや。
そんなことを思っていた時、悲劇は起こりました。


唯「……あずにゃん……おいしかった?」



梓「え、あ、唯先輩なんでっ」

いつ。
いつから起きてたんですか。

私が匂いを嗅いだときから?

私が汗を舐めた時から?

いずれにしても、絶体絶命のピンチです。

梓「あの、これはちがっ……うぁ」

私は既に涙目でした。


唯「……そっかぁ、鯛焼きおいしかったかー……むにゃ」

梓「……寝言」

そうですよね。
唯先輩がこんなことで起きるはずがありません。
朝になればまた、いつもの騒がしい毎日がはじまる。
いつものように唯先輩がからかってくる。

今日の出来事は私の中で留めておこう。

唯「……おいしかった?」

ってまたですか。

唯「私の……汗」


え?


ふと見ると、唯先輩は笑いながら私の顔を見ていました。

梓「なん、で」

唯「なんでって?」

梓「だって、寝てた……」

唯「起きてたよ。ずーっと」

こわい。
いつもの唯先輩の笑顔なのに。
今はどんな形よりもこわい。

梓「あ……あ……」

私が口を震わせながら涙を流すと、唯先輩はその笑顔のままこう言いました。


唯「……あずにゃんの涙、おいしそう」


終わり。



最終更新:2010年05月10日 01:27