――チーン

電子レンジの甲高い音が窓から差し込む夕日に溶けていった。

食材の調理などは身につけていない。そもそもそれについて深く考えたこともなかった。
だから、コンビニで弁当を買って来た後は、決まってレンジで温めていた。


律「あ、できた」

静寂の中「いただきます」の一言だけが虚しく響き渡る。
もっとも作りたての美味しさなど最初から望んでいない。


――もうからあげの衣は油を吸ってとっくに萎れているのだから。




その食事の後、律は決まって秋山澪の部屋を訪れることにしていた。
勝手知ったる澪の家だったが、彼女の部屋には入らず、代わりに戸をノックした。

律「澪……いるか?」

返事は無かったが、澪が自分の部屋で揚げ物をして
いることは既に判りきっていることだったので、構わずノックを繰り返した。

どれくらいそうしていただろうか。

不意に戸が開いた。

律「み……――!」

視界に何かが飛び込んで来る。

その何かがエビフライだと気づいた時には、口を
襲った強い幸福感と鋭い旨みに思わずほっぺが落ちる勢いだった。

澪「じゅわ~~~~~~~~!!!」

揚げ物を揚げる時の擬音が澪の口から発せられ、ドアが閉められたにも関わらず律の鼓膜を激しく震わせた。



口内を包む幸せに堪えてもう一度ドアの向こうに呼びかける。

律「澪、き――」

澪「じゅわわっじゅわっじゅわわ~~~~!!!!」

何かに取り憑かれたかのように
喚き立てる揚げ物の擬音の声に律の言葉はかき消された。

律「澪、頼むから……ほんのちょっとでいいから――」

澪「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! 油が跳ねたぁぁぁぁぁぁぁ!!」

最早こうなってしまっては為す術など無かった。
諦めるしかない。

律「……また明日も来るよ」

悲鳴は既に止んでいる。代わりに「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」という声が扉から漏れていた。

律は結局帰宅することにした。




最終更新:2010年05月15日 00:29