梓「唯先輩……」

憂「お姉ちゃん……」

唯「ごめんね……みんな……でも、私、後悔なんてしてないよ!」

律「ならいいんだよ。ささ、とっととこの回終わらせて、サヨナラといこうぜ!」

紬「ええ!」

唯「うん! いくよ! 和ちゃん!」

和「ええ!」


観衆「やーまーだ!! やーまーだ!!!」

ウグイス「5――微――」

実況「次の打者である微笑くんのコールがまったく聞こえませんね」

解説「まさにファンタスティックな勝負。甲子園の歴史に残る名勝負
でしょう」

微笑(くそー! 俺だって明訓の5番だぜ? 目に物見せてやる!)

審判「バッターアウト!」

唯「よし!」

姫子「ナイスピー!」

憂「お姉ちゃんナイス!」

さわ子「唯ちゃん」ぎゅっ

唯「あわわわ! 恥ずかしいよ、さわちゃん先生!」

さわ子「いいのよ。なんか、抱きつきたい気分だから」

梓「それはそうと私からです! 絶対に、絶対にムギ先輩に回します!」

律「おお! ムギ! 頼むぞ!」

紬「ええ! 私が逆転するから、必ず出てね!」


ウグイス「13回の裏。桜ケ丘高校の攻撃は、9番、センター。中野さん」

梓「ムギ先輩に回す! 絶対に!!」

実況「さあ、中野さんが左打席に入ります」

解説「!?」

里中(おいおい)

梓「……」

実況「すでにバントの姿勢をとっていますね」

解説「中野さんは俊足ですが、これでは内野は前進しますよ」

実況「とすると、バスターですかね」

解説「どうでしょう。とにかく、中野さんが出ないことには二点差をひっくり
返すのは厳しいでしょう」

山田(変化球でいくか……いいや、速い球ならバスターもしにくい。よし、
速球だ)

里中(オーケーだ山田!)


梓(速い! でも――)コン

岩鬼「そんなもん見切っとるわ!」

実況「岩鬼くんの猛ダッシュだ! 中野さんも懸命に走る!!」

梓(回すんだ! ムギ先輩なら打ってくれる! ムギ先輩なら!)

梓「うわあああああああああ!!!!」ズサー!!

審判「セーフ! セーフセーフ!!」

梓「やった!」

澪「よし! よくやった! よくやったぞ梓!!」

実況「中野さんのヘッドスライディング! 顔を泥だらけにして笑顔!」

解説「女の子とは思えない。素晴らしいプレイです!」

ウグイス「一番、セカンド。田井中さん」

律「梓に続くぞ!」


里中「打たせん!」

律「くそ!」

律(手が麻痺っちまって動かない……。でも……)

和「……」

律(私の次の和はもっと痛いんだ。唯の球を受けてたんだから)

実況「カウントはツーストライクです。田井中さん。追い詰められました」

律「私が打ってやるんだ!」カン

実況「打ちました! 打球はセンターへ」

香車「へへ。俺だってウリはあるんだぜ?」パシ!

渚「よっしゃ! センターを譲ってよかったぜ!!」

実況「夏の甲子園では怪我で欠場していた香車くん。ヒット性の当たり
を見事にキャッチ! これで1アウト!」

ウグイス「二番、キャッチャー。真鍋さん」


和「つつ……」

和(正直言って、バットも握れないくらいに痛いわ)

紬「……」

和「でも、ムギに繋げなきゃ――!」

実況「真鍋さんはスイングが泳いでますね」

解説「やはり平沢唯さんの球を受け続けたのが原因でしょう」

実況「150キロを受けるのは、かなり手に負担がかかりますからね」

唯(和ちゃん。私が本気で投げたせいで……)

澪「唯、余計なこと考えてる?」

唯「澪ちゃん……」

澪「和はキャッチャーなんだ。その和にそんな気遣いは逆に失礼だよ」

律「ああ。和は唯の球を受けられて、幸せだったと思うぜ?」

審判「バッターアウト!」

和「……憂。頼んだわよ」

憂「うん。任されたよ。和ちゃん」


ウグイス「三番、ショート。平沢憂さん」

観衆「あと一人! あと一人!」

憂「――」

里中「あと一人で終わりだ」

山田(だが油断はするなよ。3番だからな)

憂(お姉ちゃんのため……ううん。チームのみんなのために、今は紬さん
に回すことだけを考える!)

唯「うい……」

実況「平沢憂さんは左打席に入りました」

解説「緊張してますね。最後のバッターになるかもしれませんからね」

憂「うう……」

和「……やっぱり」

唯「?」

和「唯、タイムかけて、憂と少し話してきなさい」

唯「う、うん! タイム!!」


唯「うい!」

憂「お姉ちゃん!」

唯「いいんだよ。そんなに力入れなくって」

憂「で、でも……」

唯「うーん。じゃあこうしよう! 憂がムギちゃんに回せたら、私が明日、
晩御飯作ってあげる!」

憂「お姉ちゃん、お料理できないでしょ?」

唯「ま、まあそれはなんとかなるよ!」

憂「うふふっ。なにそれ」

唯「……憂」

憂「?」

唯「お姉ちゃんたち。みんな憂のこと信じてるからね」

憂「うん。それじゃあ、明日の晩御飯。考えておいてね。おねえちゃんっ!」

憂(頭、すっきりしたよ。……ありがとう。お姉ちゃん。和ちゃん)

審判「プレイ!」


里中(山田のサインはサトルボール。なるほど。打ち急いでいる彼女の
タイミングを外すか)

山田(そうだ。今の彼女に、サトルボールは打てない)

里中(今も昔もこれから先も打てはしないぜ!)

憂「――!」カン!!

実況「打った! サトルボールを見事に打ち返しました!」

解説「ライト前です。これは問題なくヒットです!」

梓「やった! やったよ憂!!」

憂「これで回った! 紬さん!!」

紬「ええ!」

ウグイス「4番、ファースト。琴吹さん」

実況「ついに主砲に回った! さあこの試合も、ついにクライマックスです!」


実況「琴吹さんは、今日、全打席で出塁しています」

解説「得点も彼女が叩きだしてますからね。間違いなく。明訓は最も注意して
いるバッターでしょう」

紬(梓ちゃん、憂ちゃん。二人とも、一生懸命私に回してくれた)

梓「ムギせんぱーい!!」

紬(梓ちゃん。女の子なのに、あんなに泥まみれになって……)

憂「つむぎさーん!!」

紬(憂ちゃんだって、私を信じてくれている。それに――)

澪「ムギー!」

律「頼むぞー!」

唯「お願いだよー!」

紬(チームみんなが、私を信じてくれている。これ以上のことはない!!)

里中(おそらく、このバッターが高校生活最後の対戦相手になる。悔いは
残さない!)

実況「里中くん。第一球を、投げました――!!」

紬「――!」カッ

岩鬼「!?」

殿馬「!?」

山田「!?」

里中「!?」

紬「――!!」ッキーン!!

観衆「!?」

実況「な、なななななんと!!! 場外! 甲子園球場バックスクリーンを
超えて、ボールは場外へと消えたああああああああ!!!!」

解説「サヨナラです! 文句なしのサヨナラ3ランホームランです! おつり
一切なしです!!」

唯「ヤッッッッッ」

姫子「タアアアアアアアアアアア!!!!!!」

純「勝った!! 勝ったよおおおおおおお!!!」

里中「……ウフフ。悔いなんてないさ」


里中「これでいいんだ。これで、俺の高校野球に悔いなんてないよ」

山田「里中……」

里中「これで、俺は来年は早稲田大学にでも行って、身体を作るよ」

岩鬼「なんでや……どうしてこの男・岩鬼がいて負けるんや! ワイは
主人公と違うんか!!」

殿馬「違うづら。主人公は……」

里中「だな。今日の主人公は、俺たちじゃないってことだ」

岩鬼「……せやな。ここできっちり切り替えるのが男や」

さわ子「ムギちゃーん!!」

紬「みんなー!!!」

律和憂紬澪姫子純唯梓さわ子「よいっしょっと!!」

実況「今、琴吹さんがホームベースをしっかりと踏みました。これで試合終
了! 勝ったのは、なんと私立桜ケ丘女子高等学校!!」

義経「ホントにやったな」

武蔵坊「ああ。だが、これで山田はさらにいい選手となるだろう」



審判「礼!!」

全員「ありがとうございました!!!」

サイレン「うううううううううううううううううううううううううううううう!!!!」

実況「さあ、選手の礼も終わり。桜ケ丘の校歌斉唱です」

さわ子「さあみんな! しっかり歌うのよ!」

唯「はい!」

律「おう!」

澪「はい!!」

紬「ええ!」

和「はい!」

姫子「はい」

梓「わかりました!」

憂「お姉ちゃん!」

純「はーい!」




桜が丘女子高等学校校歌

作詞・作曲:桜高同窓会

澄みし青空仰ぎ見て

遥(はる)けき理想結ばんと

香れる桜花(おうか)の咲く丘に

ああ励みし友垣(ともがき)が集う庭

連なる峰の懐に

慈愛の心を育(はぐく)みて

開けゆく未来を担わんと

ああ勉(つと)めし友垣が集う庭






――バスの中――

唯「くー」

憂「すー」

姫子「すぴー」

さわ子「ふふ。みんな可愛い寝顔ね。……ホントに、高校生のうちなんだか
らね。こういうふうに仲間を信じあって何かをできるのなんて」

紬「ゲル状……」

さわ子「楽しかったでしょう? それを知ってもらいたかったのよ。私は」

澪「りつぅ……」

律「みおぉ……」

さわ子「うん。これで、この子たちは大丈夫。これから先もしっかり生きてい
ける」

純「うぅん」

梓「にゃー」

和「んん……」

さわ子「おやすみ。私も寝るわ。疲れちゃった」すかー



――後日。グラウンド――

さわ子「さて! みんな、お疲れ様!」

澪「まだ肩が痛いよ」

さわ子「今回は見事大勝利だったわ!」

律「最高の試合だったな」

さわ子「しかし油断しちゃだめよ! 次はどんなことになるか――」

紬「?」

梓「まさか……」

さわ子「次も、やるかもね。野球」

唯「ふぇ? ふぇええええええええええ!!!!」

さわ子「十二支高校ってところからお誘いがあるんだけど……」

唯(私たちの野球は、どうやらまだまだ終わらないみたいです。)

唯「勘弁、してよぉ……」



おしまい!



最終更新:2010年05月15日 03:05