エピローグ

桑田佳祐とHTTが再会してから一年が経とうとしている。
しかし桑田佳祐は音楽業界の変革活動。
HTTは売れっ子実力はバンドとしての活動が本格化。

HTTメンバー個人と桑田が、ラジオ等で共演する事は何度かあったのだが、
あのMステ放送日以来全員で顔は合わせていない。


世間はバンドブームの再来。
バンドファンの多さはもちろん、
バンド活動を行っている若者達は日に日に増え、
‘バンド’はある種の社会現象となっていた。
特に‘ガールズバンド’が・・・


この日は朝から快晴で、
雲一つ無い青空が街全体を見下ろし人々の眠気と喧騒を交互に煽る。

澪「さて・・みんな、そろそろリハだな。」

HTTのメンバー、秋山澪が他の面々に声を掛ける。
今日はHTTとして非常に大きな、ずっと夢に見続けて来た大事な一日。

そう、夢であった‘武道館ライブ’の日だった。

唯「よーし!みんな気合入れて行くよー!」

紬「唯ちゃん元気ねぇ♪」

唯「うん!だって、とうとう武道館まで来たんだよ!ずっと夢だったんだよ!」

梓「でもまだリハですよ。気合入れすぎて燃え尽きないで下さいね。」

澪「・・まぁ、今の唯なら大丈夫そうだけどな。・・・あれ?そういえば律はどこ行ったんだ?」

 ガチャッ

澪「あ、律!どこ行ってたんだ!もうリハに行かないと・・・」

律「あぁ、悪い悪い。ちょっと迎えに行っててな。」

紬「迎えに?」

律「ああ。」

桑田「よう、みんな、武道館おめでとう。」

唯「くわっちょ!」


梓「先生!」

桑田「揃って会うのは久しぶりだなー。あ、コレ差し入れのマムシドリンク。」

梓「ま、マムシ・・・」

澪「」ガクガクブルブルブルブル

律「それで・・・くわっちょ、みんなに話があんだろ?」

桑田「あぁ・・・」

唯「?お話?なぁに?」

澪「改まった・・お話ですか?」

桑田「・・・あぁ、まだ家族にしか話していないんだけど・・・」


ワー!ワー!ユイチャーン!!ミオチャーン!コッチムイテー!!

唯『キミを見てるといつもハートDOKI☆DOKI』

澪『揺れる思いはマシュマロみたいにふわ☆ふわ』

ワーワー!!!


‘え!?くわっちょ・・それ本当なの・・・!?’

‘あぁ、本当だ・・わるいな、みんな、こんな大事な日に。’

‘私がくわっちょに頼んだんだ。話すなら今日、みんなの前で話してくれって。’



‘で、でも、でも、これからは・・これからはどうするんですか!?’

‘なに、やる事はたくさんある。何も変わらないよ。’

‘先生・・でも先生が活動を止めたら・・・’

‘・・・これからの音楽業界の第一線はな。’

‘・・・’

‘もう、お前達若手で走って行くべきなんだよ。’

‘くわっちょ・・・’

‘ネガティブな意味で言ってるんじゃないぞ?むしろ良い事なんだ。新しい、良い物に移り変わって行くって事はさ。それに俺は・・・’

‘先生は・・・?’


ワーワー!アズニャーン!ムギムギ―!!

唯・澪『ふわふわ時間(タイム) ふわふわ時間(タイム) ふわふわ時間(タイム)・・・』

‘そういう事だから、何も心配するな。じゃあ、ライブ頑張れよ。客席で見てるからな。’

‘くわっちょ・・・’

‘でも、先生、私達若手にこの世界の未来を託してくれたんですよね・・・’

‘そうね・・・’

‘・・・なぁ、みんな。’

‘なんだ?律。’

‘・・・提案があるんだ。’



ジャジャ、ジャーン!!

キャーキャー!ワー!!!

唯「みんな、ありがとー!!!」

最後の曲、ふわふわ時間の演奏を終え、メンバーは全員袖へハける。

アンコール!アンコール!!

しかし予想通り、客席からはアンコールの要望が大声援で響いている。


律「・・・じゃあ、良いな?みんな。」

澪「あぁ。」

梓「いつでもオッケーです!」

紬「ふふ・・久しぶりね。」

唯「・・うん!」

澪「・・まぁ、後で怒られるだろうけど、そんな事気にしなくていいだろう。」

唯「・・・よぉし!」

律「じゃあ・・・行くぞ!みんな!」

全員「おおおー!!!」


桑田(・・・お、来たな。アンコール。)

ワー!ワー!!!ユイチャーン!!リッチャーン!!コッチムイテー!!

桑田(やれやれ、本当に、凄い人気だよな。)


唯「みんなー!本当に今日はありがとうー!!アンコールいっくよー!!」

ワーーーーー!!!!!

唯「・・・でもね!みんな!!」

ザワザワ

唯「アンコールの曲は、私達が作った曲じゃないの。
    • でも、でもどうしても今日ここで歌いたいから、歌わせて下さい!!」


ザワザワ、ナンノキョクダ?ザワザワ

桑田(・・・)

澪「わ、私達には高校時代、すっごくお世話になった先生がいて・・・!」

梓「その先生のお陰で・・・その先生がいたから・・今の私達があります!」

紬「その先生が・・今日、私達に大きな転機の事を・・知らせに来てくれました。」

唯「私達お世話になってばっかりで・・うぅん、迷惑ばっかり掛けて・・・
どうしようもない悪い子だったかもしれないけど・・」

澪「私達に出来る事・・私達しか出来ない事で先生にお返しがしたいから・・だから・・」

紬「この曲を歌わせて下さい!」


桑田(あいつらまさか・・)

律「くわっち・・先生が私達の為に書きk・・・教えてくれた曲!!」

唯「・・・せーの!」

HTT「桑田佳祐で、‘明日晴れるかな’!!」

オー!!コノキョクシッテルー!!!

桑田(・・・はは、なにやってんだ、あいつら。怒られるぞ、後で・・)

桑田(・・・)


桑田佳祐とHTTの出会い。
その意味。
出会う筈のない両者が出会い、絆を深めてしまう奇跡。

それはこのライブに来ているファン達のように。
生まれた場所、時代、性別・・・
その全てを超越し、結束させる物、‘音楽’

彼女達のようなバンドが、この素晴らしくも恐ろしい‘音楽’の力を奮えるのならば、
日本の、いずれは世界中の音楽界の明日は明るいだろう。

HTTの演奏を聞きながら、桑田はそう感じていた。



澪『在りし日の己れを愛する為に』

唯『想い出は美しくあるのさ』

澪『遠い過去よりまだ見ぬ人生は』

唯・澪『夢一つ叶えるためにある』

桑田(そう、あいつらなら・・)

桑田(あいつらがこの世界にいるのなら・・)


唯『誰もがひとりひとり胸の中でそっと』

澪『囁いているよ』

桑田はこの不思議な出会いに、まだ正直気持ちの整理がつかない部分がある。
自分の世界に、彼女達‘放課後ティータイム’は存在しなく・・彼女達の世界に、
‘桑田佳祐’は存在しない・・・筈だった。
しかしその二つの世界はいつしか繋がってしまい・・・
今、自分と彼女達は同じ会場で音楽の揺りかごに揺られている。
これは、一体どんな言葉を使えば説明できるのか・・

HTT『明日晴れるかな・・・』

桑田(・・・ふふっ)

それも含めて、‘音楽の力’なのかもな・・と勝手に桑田は結論付けた。


彼女達の演奏する曲を聴いている事。
そこに難しい考えなどいらない。
そう、少なくとも今、ここにいる自分と彼女。
胸に残る美しい思い出達は、紛れもない事実なのだから・・


唯『遥か空の下・・・・』

いつの間にか目を閉じていた桑田は、
彼女達の演奏が終わるとこの会場の誰よりも先に大きな拍手を送った。
それにつられて、他の観客達も惜しみない拍手と声援をHTTにぶつける。



彼女達の目には、うっすらと涙が溜まっている。

桑田(・・あーあ、まーた泣いてるよ、あいつら・・・)

その涙の理由が何なのか、どこから来る物なのか、それは桑田はもちろん彼女達にもわからなかった。
何故、桑田とHTTの存在が交わったのか。それと同じくらい・・どこから来る物なのかは・・・。

桑田は心の中でただ一つ。

桑田(・・・さて、どんな後褒美をくれてやろうかな・・)

と呟き、ふと彼女達から送られた白いギターの事を思い出し、優しい笑顔を浮かべ会場を後にするのだった・・・。



唯「あ!けいちゃん!」桑田佳祐「はいはい。」
fin.



最終更新:2010年05月17日 23:26