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それは弟からの電話だった。久々の電話に僅かに胸を踊らせていたが、弟の話を聞いてそんな気持ちも消えうせた。

――トラックで人をはねてしまった。

そんな内容を聞いて、しかし、男の胸を過ぎったのは驚きなどではなく、むしろ、またか、というある種の呆れだった。

男は京都の港町で、兄弟十三人の長男として生まれた。
人数が多過ぎることにも驚きだったが、みんな男というのには、もはや驚きを通りすぎて感心してしまうほどだった。

そして更にすごいのが兄弟全員がトラックの運転手だということだ。
一番下の弟も大学を出て、クロネ●ヤマトに勤めはじめたということを聞いた。

もっとも、一番の驚きは兄弟の中で自分と一番下の弟以外全員、人をはねているということだ。
しかも狙いすましたかのように決まって女子高生をはねている。

しかもはねる相手はどの娘も茶髪にヘアピンをしているという共通した特徴を持っているというのだから
どうコメントをしたらいいのか、男には全然浮かばなかった。

そしてそんな弟の凶報の後に、仕事で受け持つ班を変わることになった。


最初は特に深く考えていなかった。ただ人員が代わるだけとしか思わなかった。

しかし、二週間もしないうちに男は頭を抱えるはめになった。
言ってみればその担当することになった班は問題のある人間の集まりだったのだ。

主任としてメンバーのシフトを組めば、必ず文句を言って、そのあげく逆ギレしだすものがいた。

仕事をまともにこなせない新人(と言ってもその新人は男よりも年上なのだが)のために男は、休日を返上して彼に仕事を教えた。

しかし、これで済むならまだマシだったかもしれない。

他の会社に漏れず不況の煽りを受けた佐●は容赦なく社員の給料を下げた。
そのせいでただでさえ人数の足りていないこの会社は、更なる人員不足に悩むことになった。

当然社員一人一人の労働時間は余裕で労働基準を破っていた。
休日返上は当たり前。更には労働基準法を守っていないことがばれないように
休日出勤時は自家用車での配達を強いられ、結果ガソリン代による出費までかさむという、最悪の状態が続いた。

そのことに怒った妻が本部に電話をかけたこともあったが、一日だけ早く帰らせてもらっただけで、結局なにも変化しなかった。

何日も家庭を顧みず働きづめの日々は、家庭に不和をもたらした。
最近は疲れているせいもあるだろうが、それ以上に家に漂う不穏な家族の雰囲気が男の口数を極端に減らしていた。

もっとも家に帰れるのもせいぜい一週間に一回程度だが。

ああ……疲れたな――またもやため息が出る。


そこで、男はふと気づいた。


自分がいつのまにか赤信号を無視して、交差点を渡ろうとしていることに。


男の視界に映ったのは横断歩道を俯いて歩いている長い黒髪の少女。


――まずい!


とっさに男はブレーキをを踏んだ。




♪街中

和『電話しても出ないわね……こうなったら』

紬『とにかく澪ちゃんを探しにいきましょう』

唯『うん!しょーしんの澪ちゃんをわたしたちで慰めてあげよー』

紬『大丈夫だとは思うけど……念のため手分けして探しましょ』

梓『そうですね』

律『よし、梓とムギ、唯と和に別れて探そう』

唯『りっちゃんは?』

律『私は一人でいいよ。三つに別れて探せばその分早く見つけられるだろ?』

佐々木『あ、あの……』

少女A『私たちにも秋山先輩を探すお手伝いをさせてください』

少女S『私たちも先輩のことが心配なんです』

秋山澪ファンクラブメンバー一同『お願いします!』

唯『みんな……』

律『よーし、そうと決まればさっそくみんなで澪を探しに行くぞー!』オ-


律(しっかしなかなか見つからないな)

律(あちらこちら回ってみたけど……収穫はなし、か)

律(たくっ、だいたいなんで澪は私なんかを好きになっちゃたんだよ……)

律(まあ……)

律(私も澪のことは嫌いじゃないし……大切だけどさ)

律(そもそもムギの沢庵のせいでおかしくなった澪をぶっ叩かなければこんなことにはならなかったんだよな……)

律(……気まずくて今日はあまり喋れなかったし、澪を見つけたら)

律(いっぱい話そう)

律(そんできちんと謝ろう)

律(あっ……そっか)

律(澪のやつのことだし、きっとどこかにぶらっとするぐらいなら家に帰ってるよな)


律「よーし、そうとわかれば澪の家に直行だ!」ピュ-ン





俺もついに人をはねてしまうのか――人殺しに成り下がってしまうのか。
男は運命を呪った。神様を怨んだ。そして――

ごめんな。

妻と自分の子供たちに心の中で謝った。

俺、犯罪者になるけど許してくれ。
ここんとこ構ってやれなくて本当にごめんな。
こんな情けない親父で本当にすまん。


最後に今まさに轢き殺そうとしている少女を気の毒に思った。

名前も知らないお嬢さん、本当にすまない。せめて苦しまないように死んでください。

兄弟、俺もそっちにいくぜ。

男が諦めて目を閉じかけたその時。


――必死の形相で、

――黒髪の少女に向かって手を伸ばして、


――晒した額に汗を浮かべた少女が――横断歩道に現れたのが、男の目に飛び込んできた。



間に合うか……っ!


田井中律がなにか考えがあって横断歩道に飛び出したのかと言えば、別にそんなことはなく
ただ幼なじみが――澪がトラックにひかれそうになっている、その事実が目に飛び込んで、それで気づいたらそうしていたにすぎなかった。

必死に手を伸ばす。

歯を食いしばる。


律「みおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


無意識に叫んでいた。

自分のところへ引き寄せようとして、しかしミスした。

勢いをつけすぎた結果、律は澪にタックルをかます形となってしまった。


律「…………」

律「私は死んだのか……

澪「りつうううううううううううううううううわわあああああああんん!!」ダキッ

律「うおお!?」ビックリクリ
澪「どぁい゛じょお゛ぶう゛う゛うううううぅぃ」

律「えーとどうなったんだ?」

澪「り゛づがあ゛あ゛あああわだじを……た、すけて……くれ、で」ヒック

律「……そういやそうだったな」ヨシヨシ

澪「うぅ~」

律「澪はケガないか?」

澪「わ、わだしは……だ、大丈夫」

律「とりあえず一旦ここからどこう、な?」

澪「……ぅん」コックリ


澪「……」

律「ようやく落ち着いたな」

澪「……うん」

律「…………」

律「澪」
澪「律」

律・澪「あ……」

律「……」

澪「……私から喋っていい?」

律「うん」

澪「昨日のことは……その、ムギの沢庵のせいとはいえ本当にごめん」

律「うん」

澪「でも、あんな風に馬鹿なことしたのは沢庵のせいでも、律のことがす、す、す、す、す」

律「…………」

澪「す、す、す、す……////」ボッ


律「…………」

ミオチャンガンバッテ-

澪「す、す、す、す、す…………す///」

ハズカシガッテルバアイジャナイワ

アキヤマセンパ-イガンバッテ

ミオチャンイマコソユウキヲフリシボルンダヨ-

澪「す、す、す、す、す、す、す、す、すk
紬「じれったい!!」ド-ン

唯「あー!ムギちゃんなんで勝手に出ちゃダメだよー!」

律「……」

澪「……え゛?」


律「……」フルフル

澪「え?え?どういうこと?なんで唯とムギがいるんだ?」アセアセ

和「私もいるわよ」ポンッ

梓「私もいます」ポンッ

さわ子「ついでに私もいるわよ」ハジメテノトウジョウヨ!

少女A・S「私たちもいます!」ポンッポンッ

佐々木「どうも。私もいます」ササキ-ン

秋山澪フ(以下略)「私たちもいます!!!!!!!!」

澪「」アゼン

律「……ふ、ふふ、あはは」

澪「いつからみんなそこにいたんだ!?」

律「いや、ずっとそばで私と澪のこと見てたじゃん」

澪「な……っ!?」ガビ-ン

律「いやーてっきりみんなの存在に気づいていたから緊張していたのかと思ったら……」

澪「り、律はとっくに気づいてたのか!?」

律「気づくもなにも、おもいっきり視界に入ってたもん」

紬「いいの澪ちゃん!私たちの存在はないものと思ってさっきの続きを!」シャララン

唯「ガンバって!」ファイト-!

さわ子「はい続き、続き、続き、続き」カモ-ン

澪ファ(以下略)「秋山先輩頑張って下さい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

澪「もうやだ……」トボトボ

律「おーい、澪。ひとりで帰ると危ないぞー」


梓「澪先輩、踏んだり蹴ったりですね……」

和「まあ、命があるだけいいんじゃない?」






男「あれ?俺の存在忘れられてね?」




♪帰り道

澪「……」デロ-ン

律「みーお、元気だせよー」

澪「うう、今日は私の人生で一番最悪な日だ……」ウウゥ

律「……私にとっては最高の日だったけどなあ」

澪「……?」

律「いやあ確かに踏んだり蹴ったりだったし、私も澪も死にそうになったけどさ」

律「私は嬉しかったな」

澪「どうして?」

律「澪の本音が聞けたかかな……いや、まだ完璧には聞いてないか……」ニヤリ

澪「な、なんだよそのやらしい笑いは!?」

律「うん?ただ澪の愛の告白をもう一度聞きたいなあ、ってさ」

澪「なっ……///」

律「なにを恥ずかしがってるんだよ?さんざん昨日私に愛のコトダマをぶつけてきたくせにぃ」ニヒヒ
澪「あ、あれは……///」カアアァァ

律「うんうん、あれは?」

澪「ぁレハ……」ウウゥ

律「まあ、澪イジメもこんくらいにしておくか」

澪「へ?」

律「いや~あんまりイジメると昨日のおバカな澪が夢に出てくるかもしれないだろ?」

澪「だからあれは……っ」

律「わかってるって。澪ちゅわんの愛の告白はまた今度の機会にとっておくよ」

澪「……」

律「じゃあこれにて解散!バイバイっ」ス-タコラサッサ-


澪(これで……これで終わっていいのかな?)

澪(律……)

澪(……)

澪(……そうだ!)ピコ-ン

澪「りいいいいつー!」スタスタスタ

律「うん?」クル

澪「律……」ハアハア

律「どした?もしかして私とお別れするのが寂しくなった?」

澪「それもあるけど……ってバカ!」

律「はは、それで?」

澪「こ、これを受けとってくださいっ!」ビシッ

律「これは……手紙?」

澪「詩だよ……律に私の想いを知ってほしくて書いた詩なんだ」

澪「私はあんまり口はうまくないから……言葉で伝える代わりにそれで……」

律「澪……」

澪「その……家で読んで。恥ずかしいから……///」

律「……うん」

澪「そ、それじゃ……」


律「ストップ」ガシッ

澪「な、なんだよ……///」カアアア

律「チューはさすがに私も恥ずかしいから、おでことおでこで、デコチューってことで」

澪「……バカ」


律「へへ……じゃあまた明日な」

澪「うん。また明日」




♪次の日・下駄箱

澪(……一睡もできなかった)

澪(というか、律のやつなんで今日に限って先に学校に行ってるんだろう?)

澪(一緒に登校したかったのに……バカ律……)

澪「ん……下駄箱になにか入ってる……」

澪「!」

澪(私の詩だ!)

澪(もしかして読んでくれてないのか?)

澪(……見てみよう)


澪「……」ヨミヨミ

澪「……あ」

澪「……律」

和「おはよう澪」

澪「……おはよう」

和「?」

和「どうしたの?珍しくにやけちゃって。それに顔も少し赤いわよ?」

澪「ふふ……朝からいいことがあったんだ」

和「?」

澪「♪」




『ニンニクにくにくにっこにこー』

ふたりっきりでたべる焼肉 会話はないけどあたたかい

きっとこのあたたかさは焼肉のせいだけじゃない

あなたとわたしがふたりでいるから ああ あたたかい

にんにくをすりつぶしましょう

にんにくを焼肉のタレにいれましょう

きっと口 臭くなるけど

それがふたりで食べた焼肉のあかしなの

ニンニクが生み出すあたたかさ

ニンニクのかおりのするふたりだけの空間

ニンニクが誘いだすふたりのえがお

ニンニクにくにくにっこにこー

二日目もきっと臭うだろうな けれどそれが二人が昨日一緒にいた あ か し

今日からまた ニンニクよろしく 明日からも ニンニクよろしく

ニンニクにくにくにっこにこー


作・秋山澪・田井中律



















おわり



※補足
『ニンニクにくにくにっこにこー』

作・秋山澪・田井中律
は律が微妙にいじったものぶっちゃっけ意味はまるでない

トラックの運ちゃんの話は親戚のおじさんの話からとってきた




最終更新:2010年05月25日 21:47