気が滅入る。
これから唯のケータイを渡して、それから家に帰って、宿題して……はぁ……明日は寝不足で一日大変になりそうね。
「ち、違うんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
何かしら、こんな夜中に大声出して……。
近所迷惑ね。
あれ?私の家の前に誰かいる。
澪と……律とムギ?
和「な、何やってるの?3人とも」
律「お、和」
ていうか……何コレ!?ポストの中に大量のポッキー!?
唯じゃあるまいし、何でこんな……。
律「ああ、それは澪がやったんだよ」
和「え?澪が?」
澪「あ、いや……その……」
顔を真っ赤にして、澪は目を泳がしている。
何かワケありみたいだけど……あまり詮索しないほうがいいかしら?
和「……よくわかんないけど、これ片づけていいかしら」
澪「う、うん……」
律「なあ和、こんな時間にどこ行ってたんだ?生徒会長が夜遊び?」
人の家のポストにポッキー詰め込んで置いてよく言うわね……。
和「唯の家に行ってたのよ。指ケガしたりお腹空かせたりで、大変だったわ」
紬「私達も色々あったの。でもこうやって集まったのも、何かの縁よねきっと!」
和「そうかしら……」
律「つーかこのポッキーどうする?こんなに大量に誰が食べるんだよ」
あ……そう言えば、唯がイチゴのポッキー欲しがってたっけ……。
唯ならこれくらいあっても……。
ついさっきまでトイレに籠もっていた私にとって、鬼ヶ島にも等しかった平沢家の居間で、私と唯先輩はくつろいでいた。
実に人間らしく。
梓「へえ!見直しましたよ唯先輩!」
唯「えへへ~もっと誉めて!」
昨日までまるで弾けてなかったフレーズを、唯先輩は手にケガを負っているにも関わらず、華麗に演奏してみせた。
唯「本当はすぐにあずにゃんに報告したかったんだけどね、色々あって忘れちゃってたよ」
私も色々あったな……。
一時は人間捨てるところまで行ったけど……唯先輩が今こうしてちゃんとギターを弾いてくれてるから、まぁ……いいかな。
唯「……でね、ご褒美ってわけでもないんだけどぉ~……あずにゃんにお願いがあるんだ~」
あ、嫌な予感がする。
すっごく嫌な予感がする。
こんばんは。平沢憂です。
ようやくお家に着きました。
私は今、自分の家の玄関のドアを開けるのを、躊躇っています。
憂「お姉ちゃん……私がポッキー持ってくるの楽しみにしてるんだろうなぁ……」
梓ちゃんも、約束忘れちゃってごめんね……。
憂「なんだか……情けなくて泣きそう……」
……ダメダメ!
泣いちゃダメ!
我慢しないと……!
憂「よし、入ろう……」
意を決して私がドアノブに手をかけた時、後ろから声がしました。
律「おーい、憂ちゃーん」
梓「い、一回だけですからね!」
唯「うんうん!」
梓「絶対に変な事しないでくださいよ!?」
唯「わかってるよ~」
よしっ!ついに念願のポッキーゲームができるよ!
それもあずにゃんと!
頑張ってギー太弾いてあげて良かった!
私は和ちゃんが置いていったイチゴのポッキーを開封し、袋から一本だけ取り出すと、端っこを口にくわえた。
唯「準備おっけー!」
あずにゃんは顔を赤らめて
梓「うぅ……失礼します……」
と行って反対側の端っこをくわえた。
かわいいなぁあずにゃん!
ふっふっふ……一度始めちゃったらこっちのもんじゃーい!
【PM9:59 平沢憂】
こんばんは!平沢憂です!
律さんに澪さん、紬さんに和ちゃ……和さんが、イチゴのポッキーを持ってきてくれました!
それも大量に!
私がいくら探しても見つけられなかったのに……どこでこんなに買ってきたんだろう?
憂「本当にありがとうございます!」
律「お礼なら澪に言いなよ。ぜーんぶ澪が買ってきたんだし」
澪「おい律!?」な、何言ってるんだ!違う!憂ちゃん、違うからね!」
なるほど、あの時澪さんが抱えてた買い物袋の中はこれだったのかな?
まぁいいや!
これだけあれば、何回でもお姉ちゃんとチュー……じゃなくてポッキーゲームが出来るし!
私はみなさんを家の中に招き入れました。
玄関には梓ちゃんの靴がありました。
やっぱりもう来てたんだ。謝らないと。
私は居間のドアを開けました。
唯「あずにゃ~んムチュウウウウ~」
梓「んーッ!んーッ!」
唯「ぐえっ!ポッキーが喉に突っかかった!」
なんだろうこれは。
ぶかぶかの服を着てギターを抱えた少女が、トイレの芳香剤の匂いのする少女を押し倒し、唇を奪い、私達が渡すはずのイチゴのポッキーを喉に詰まらせている。
今日、私達は色んな苦難を乗り越えた末、この場にいる。
ポッキーを買いにあちこち走り回り、友達を捜してほうぼう歩き、ケガの手当をして夕飯を作った。
その結果、私達はここにたどり着いた。
何も得るモノもないこの場所に。
私達は、家に帰った後の自分を想像して、絶望した。
私達には、ただ大量の宿題が残されただけだった。
【PM10:00 平沢憂】
こんばんは。平沢憂です。
唯「あずにゃ~んムチュウウウウ~」
梓「んーッ!んーッ!」
ごめんなさい。
やっぱり泣くのを我慢できそうにないです。
【翌日 PM5:02】
「いやー、結局みんなで宿題分担してなんとかなったな」
「私宿題のことなんてすっかり忘れてたよ~」
「全く、和も呆れ果ててたぞ……」
「唯先輩、今日はとことん練習しますからね!」
「あう……まだ怒ってらっしゃる……」
「あ、そうだ澪。もうご飯あげたー?」
「だから今週は唯が当番だろ?」
「そうだったそうだった!でももうご飯なくなっちゃったよ」
「あら、じゃあ私持ってくるね」
「あ、大丈夫だよ~昨日もらったイチゴのポッキーがあるじゃん!」
「はーいトンちゃーん!ご飯だよ~」
おい、やめろ。
完
最終更新:2010年05月27日 00:50