【PM9:50 真鍋和

気が滅入る。
これから唯のケータイを渡して、それから家に帰って、宿題して……はぁ……明日は寝不足で一日大変になりそうね。

「ち、違うんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

何かしら、こんな夜中に大声出して……。
近所迷惑ね。

あれ?私の家の前に誰かいる。

澪と……律とムギ?

和「な、何やってるの?3人とも」

律「お、和」

ていうか……何コレ!?ポストの中に大量のポッキー!?
唯じゃあるまいし、何でこんな……。

律「ああ、それは澪がやったんだよ」

和「え?澪が?」

澪「あ、いや……その……」

顔を真っ赤にして、澪は目を泳がしている。
何かワケありみたいだけど……あまり詮索しないほうがいいかしら?

和「……よくわかんないけど、これ片づけていいかしら」

澪「う、うん……」

律「なあ和、こんな時間にどこ行ってたんだ?生徒会長が夜遊び?」

人の家のポストにポッキー詰め込んで置いてよく言うわね……。

和「唯の家に行ってたのよ。指ケガしたりお腹空かせたりで、大変だったわ」

紬「私達も色々あったの。でもこうやって集まったのも、何かの縁よねきっと!」

和「そうかしら……」

律「つーかこのポッキーどうする?こんなに大量に誰が食べるんだよ」

あ……そう言えば、唯がイチゴのポッキー欲しがってたっけ……。
唯ならこれくらいあっても……。



【PM9:56 中野梓

ついさっきまでトイレに籠もっていた私にとって、鬼ヶ島にも等しかった平沢家の居間で、私と唯先輩はくつろいでいた。
実に人間らしく。

梓「へえ!見直しましたよ唯先輩!」

唯「えへへ~もっと誉めて!」

昨日までまるで弾けてなかったフレーズを、唯先輩は手にケガを負っているにも関わらず、華麗に演奏してみせた。

唯「本当はすぐにあずにゃんに報告したかったんだけどね、色々あって忘れちゃってたよ」

私も色々あったな……。
一時は人間捨てるところまで行ったけど……唯先輩が今こうしてちゃんとギターを弾いてくれてるから、まぁ……いいかな。

唯「……でね、ご褒美ってわけでもないんだけどぉ~……あずにゃんにお願いがあるんだ~」

あ、嫌な予感がする。
すっごく嫌な予感がする。



【PM9:57 平沢憂

こんばんは。平沢憂です。

ようやくお家に着きました。

私は今、自分の家の玄関のドアを開けるのを、躊躇っています。

憂「お姉ちゃん……私がポッキー持ってくるの楽しみにしてるんだろうなぁ……」

梓ちゃんも、約束忘れちゃってごめんね……。

憂「なんだか……情けなくて泣きそう……」

……ダメダメ!
泣いちゃダメ!
我慢しないと……!

憂「よし、入ろう……」

意を決して私がドアノブに手をかけた時、後ろから声がしました。

律「おーい、憂ちゃーん」




【PM9:58 平沢唯

梓「い、一回だけですからね!」

唯「うんうん!」

梓「絶対に変な事しないでくださいよ!?」

唯「わかってるよ~」

よしっ!ついに念願のポッキーゲームができるよ!
それもあずにゃんと!
頑張ってギー太弾いてあげて良かった!

私は和ちゃんが置いていったイチゴのポッキーを開封し、袋から一本だけ取り出すと、端っこを口にくわえた。

唯「準備おっけー!」

あずにゃんは顔を赤らめて

梓「うぅ……失礼します……」

と行って反対側の端っこをくわえた。
かわいいなぁあずにゃん!

ふっふっふ……一度始めちゃったらこっちのもんじゃーい!




【PM9:59 平沢憂】

こんばんは!平沢憂です!

律さんに澪さん、紬さんに和ちゃ……和さんが、イチゴのポッキーを持ってきてくれました!
それも大量に!

私がいくら探しても見つけられなかったのに……どこでこんなに買ってきたんだろう?

憂「本当にありがとうございます!」

律「お礼なら澪に言いなよ。ぜーんぶ澪が買ってきたんだし」

澪「おい律!?」な、何言ってるんだ!違う!憂ちゃん、違うからね!」

なるほど、あの時澪さんが抱えてた買い物袋の中はこれだったのかな?

まぁいいや!
これだけあれば、何回でもお姉ちゃんとチュー……じゃなくてポッキーゲームが出来るし!

私はみなさんを家の中に招き入れました。
玄関には梓ちゃんの靴がありました。
やっぱりもう来てたんだ。謝らないと。

私は居間のドアを開けました。




【PM10:00 秋山澪 田井中律 琴吹紬 真鍋和】

唯「あずにゃ~んムチュウウウウ~」

梓「んーッ!んーッ!」

唯「ぐえっ!ポッキーが喉に突っかかった!」

なんだろうこれは。
ぶかぶかの服を着てギターを抱えた少女が、トイレの芳香剤の匂いのする少女を押し倒し、唇を奪い、私達が渡すはずのイチゴのポッキーを喉に詰まらせている。

今日、私達は色んな苦難を乗り越えた末、この場にいる。

ポッキーを買いにあちこち走り回り、友達を捜してほうぼう歩き、ケガの手当をして夕飯を作った。

その結果、私達はここにたどり着いた。
何も得るモノもないこの場所に。


私達は、家に帰った後の自分を想像して、絶望した。
私達には、ただ大量の宿題が残されただけだった。




【PM10:00 平沢憂】

こんばんは。平沢憂です。

唯「あずにゃ~んムチュウウウウ~」

梓「んーッ!んーッ!」








ごめんなさい。
やっぱり泣くのを我慢できそうにないです。





【翌日 PM5:02】

「いやー、結局みんなで宿題分担してなんとかなったな」

「私宿題のことなんてすっかり忘れてたよ~」

「全く、和も呆れ果ててたぞ……」

「唯先輩、今日はとことん練習しますからね!」

「あう……まだ怒ってらっしゃる……」

「あ、そうだ澪。もうご飯あげたー?」

「だから今週は唯が当番だろ?」

「そうだったそうだった!でももうご飯なくなっちゃったよ」

「あら、じゃあ私持ってくるね」

「あ、大丈夫だよ~昨日もらったイチゴのポッキーがあるじゃん!」

「はーいトンちゃーん!ご飯だよ~」

おい、やめろ。





最終更新:2010年05月27日 00:50