唯「どうしたの?あずにゃん」

梓「なんかケースの下に…カセットテープみたいです」

律「カセット!!ふるっ!!」

梓「放課後ティータイム合宿 って書いてあります」

澪「それって…」

紬「そのテープがあるの、私も全然知らなかったわ」

唯「結局合宿で録音したテープ、こっちに忘れちゃってたんだ」

律「…聞こうぜ!」

紬「いまラジカセもって来るね」

律「ラジカセッ!!」ゲラゲラ


カチャ

……

ザーーーーーーーーーーーー

ザーーーーーーー…


梓「…ノイズしか聞こえないです…」

澪「ダメか…残念だったな…」

律「まぁ、よくよく考えりゃこんな長い間ほっぽかれちゃなぁ、しょうがないか」

紬「せっかく昔の演奏が聞けると思ったのにね…」

唯「…」

唯「じゃあさ」

唯「今の私たちの演奏が聞きたくない?」

澪「!」

律「はは…いや、さすがになぁ、今日はさんざん海で遊び疲れたからドラムなんて叩けるかどうか」

律「言いたくはないけど、さすがに私らもそこそこトシだし」

澪「…それに唯や梓と違って、私は卒業してからはほとんど楽器なんて触ってないぞ」

澪「ベースって一人で弾いても意味無いからな…」

律「いやいや私も、最後にドラムに触ったのはいったい何年前だったか」

律「プロの二人に合わせる腕なんか持ち合わせてないよ、昔も今も」

梓「そんなことないと思いますけど…」

紬「私は…」

紬「私はせっかくだからやりたいわ!」

紬「…卒業した後はみんなバラバラになっちゃって、五人そろうなんて滅多に無かった…」

紬「たまに会ったとしても、それぞれの生活があって、バンドやろうなんて言える感じじゃないし、出来るとも思わなかった」

紬「なんとなく、そういうのも卒業したのかなって思うようにしてたの、大人になったしね」

紬「でも違うの。正直に言えば、私はみんなと過ごした放課後を忘れたことは一日もないわ」

紬「あの頃の日々は、今でも輝いていて、でも、輝きすぎて少しまぶしくて…それで」

ポロポロ

紬「あ、御免なさい、お酒が入ったからかな、少し熱くなっちゃった…」

梓「いえ、そんなこと無いです、紬さん」

梓「私だってそうです。あの頃の思い出があるから、今でも音楽を続けているんです」

梓「あの頃の思い出のせいで…」

梓「だから、すこしでも昔の私たちを取り戻したいです」

律「…そうだな、二人の気持ちはよくわかったよ」

律「といっても、ま、そんな硬くならないで、気楽にやらないか?」

律「それが放課後ティータイム流じゃん?」

梓「ぶちょう…」

紬「りっちゃん…」

澪「そうだな、やろう」

澪「…といってもほんとに楽器には全然触ってないから、ミュージシャン二人には申し訳ないが…」

唯「そんなことないよー、澪ちゃん」

唯「それに私もうプロじゃないし」

澪「えっ!」

律「なに!?ギターやめるのか、唯!?」

唯「ううん、音楽はマイペースでやるよ、これからも。でも仕事としては、おしまい」

唯「あずにゃんには先に言ってたんだけどね」

梓「はい…」

梓「今回唯先輩がこんな長い休みが取れたのも、それが理由だったんです」

澪「そんな事情があったのか…」

律「うーん、まぁ、唯が自分で決めたんならしょうがないか、人生いろいろあるしな」

唯「ありがとう、りっちゃん」

紬(なんとなく、唯ちゃんに元気がないなとは思ってたけど…そうだったの)

律「ただまぁ、それはそれとしても、別に唯のギターの腕が下がるわけじゃないしな…」

澪「いったい何の曲だったらみんなで合わせられるか…」

律「ムギなんかはいまでも鍵盤弾けそうだけど、正直うちらは昔以下だからな」

澪「バンドの曲もひとつひとつはちょっと思い出せないかも…」

唯「それならだいじょぶだよ!」

唯「あの曲があるじゃない」


ガチャガチャ

パチッ

ジーーーーーー

トントン

唯「あーあーあー、マイクテスト」

キーン

唯「うわ、ハウった…」

ジャーーーン

唯(でもこれなら、ギー太に留守番なんかさせないで、連れてくればよかったな)

ジャカジャカジャカ

唯「たった一夜の恋だけど、よろしくねギータランティーノ」

ボーン ボンボン

澪「ちゃんとレフティを用意してあるとは…さすがムギ」

ボン ボン ボン ボン

澪(しかし、今になってこみんなでこの曲をやるとは…なんかちょっと感動的だ)

澪(でもちゃんと弾けるかな…まずはリラックスしなきゃ)

ポロ ポロ ポロロン 

紬「でも、そういえば梓ちゃんはこの曲弾いたことあったっけ?」

チャッ チャッ チャカチャカチャカ

梓「いいえ、でも、えーとたしか、活動記録で皆さんが演奏してるのを見たことはあります」

梓「だいぶ前ですけど、ムギさんの家で」

紬「ああ、そうだったわね、でも弾いたこと無くて大丈夫かしら?」

唯「だいじょぶ、だいじょぶ、あんまりうまくない方がいいやつだから」

紬・梓「?」

ドンッ ドンッ タタタッ ドッ タッ シャーン

律「ふーむ、よしよし、少しは勘がもどってきたな」

律(…にしても、みんなが後ろから見えるこのポジションなつかしーなー…ん?)

律「なにやってんだ、澪」

澪「へっ!!…いや、緊張したらいけないと思ってな…」

律「それで掌に人か?ガキじゃあるまいし」

澪「いいだろっ!!昔はよくやってたんだよっ!!」

律「べつに観客がいるわけじゃないんだしさ…あ、そうだ」

バサッ 

ギュッ

律「ほらほら、私はパイナップルー、これで緊張しないだろ?」

澪「もうっ、この歳になってからかうなよ!!」

唯「あれ、なんだっけ、それ」

律「いやほら、澪が小学生の頃、作文コンクールでさぁ…」

澪「いまはいーんだっ!!そんなはなしは!!」

律「じゃあ、運動会の話にするか?」

澪「いいかげんにしろ!」

律「はいはい、わかりましたよー」

律「…んじゃ、まぁ、軽く行きますか?」

唯「オッケーだよ」

梓「はい、私もです」

紬「…」コクッ

澪「ああ」

律「ほんとにいんだな?じゃあ、カウント行くぞ!」

カツッ カツッ

律「せーのっ!ワンツスリーフォー!」



「いま わたしの」


「ねがいごとが」


「かなうならば つばさが ほしい」



「こどものころ」


「ゆめみたこと」


「いまもおなじ ゆめに みている」


「この おおぞらに つばさをひろげ とんでゆきたいよ」


「かなしみのない じゆうなそらへ つばさはためかせ」





唯「ゆーきーたーいー♪」

澪「…お、懐かしい曲だな」

唯「あれ、澪ちゃん…」

澪「憶えてるか、最初にその曲をこの部屋で…」

唯「あたりまえじゃない、昨日のことよりよく憶えてるよ」

澪「…私もだよ」クス

唯「あの時は律ちゃんに無理やりつれてこられて…なぜかお茶になって…それで、ふふ」

澪「ばっさりだったよな」

唯「あのときはごめんなさいね、でも、あんまりうまくなかったから部に入れたんだよ?」

澪「確かに、唯が入らなかったら廃部だったからな…あれでよかったんだな」

唯「さわ子先生には会ってきた?」

澪「ああ、挨拶してきたよ。今年で退職だってな」

澪「まあそのおかげで、取り壊されるまえに、こうして自由見学できるわけだけどな」

唯「憂も来てるよ」

澪「うん、下で会った」

唯「教室は見てきた?」

澪「ああ」

唯「意外と変わってなかったね」

澪「うん、…ただこの部室はぜんぜん違うな」

唯「備品も何も全部とっぱらっちゃってるからね」

澪「こんな埃っぽいところで、あの優雅なティータイムを満喫してたとはとても思えんよ」

唯「でも、ほら」

唯「こうして窓から見える景色は変わってないよ」

澪「…そうかもな」

澪「律とか紬とか…他のみんなも来れればよかったのにな」

唯「うん」

澪「…梓も」

唯「…うん」

サーーーーー…


澪「最近は、結構風が涼しい季節になってきた」

唯「そうだね」

澪「…」

唯「…」

澪「なあ、さっきの歌だけど」

唯「うん?」

澪「最後に五人そろったときに演奏したのおぼえてるか?」

唯「ああ、紬ちゃんの別荘で?」

澪「そうだ」

唯「もちろん、憶えてるよ。でも結構前だよね」

澪「ああ…」

澪「あのときも、ここでの最初の演奏を思い出していたんだよ」

澪「バンドのメンバーが何年かぶりにみんなそろって、一番最初に弾いた曲をやるなんて…」

澪「ちょっと映画のエンディングみたいじゃないか?ってな」

唯「ふふ、そういえばそうだったかも」

澪「でも違うんだよな…あのとき感じていた懐かしささえ、今は懐かしいよ」

唯「うん…」

澪「本当に当たり前だけど、変わっていくよな、みんな、ずっと」

唯「たしかに…こんな歳になってもね」

澪「ああ、でも私なんか、おばあちゃんのやり方、まだ全然わからないぞ」

唯「あはは、私もだよー」

澪「エンディングはまだまだ遠いな」

唯「…でも、澪ちゃんの、そのちょっと詩的なとこ、ぜんぜん変わってないと思うけどねぇ」

澪「ん…そうかぁ?まあ、三つ子の魂百までっていうしな」

唯「ふふ…どっちなの、そのちょっといい加減なところは律ちゃんに似てきたかも」

澪「ええ…そうかぁ!?それはちょっと心外だな」

唯「律ちゃん聞いたらおこるよー」

澪「いいんだよ…それにしてもさっきから窓の外見てるけど、なんかあるのか?」

唯「え?ううん、たいしたことじゃ……あ、こけた」

澪「へ?」

唯「あ、ほら、さっきから校庭で子供があそんでるの。かけっこかな、かわいいと思って」

澪「ああ、なるほどな…」

唯「…」

澪「…」

唯「…あ、またこけた」

澪「……ぷっ…!!」

唯「へ?澪ちゃん?…かわいそうだよ、笑っちゃ」

澪「あはは、いやいや、そうじゃなくてな…」

澪「その子と、この季節と、律の名前も出てたんでおもいだしたんだろうけど…」





律「私がなんなんだよ」

紬「急に澪ちゃん、ふきだしたから、びっくりしたわ」

梓「だいじょうぶですか、澪先輩」

澪「いやいや、最近むかしのことよく思い出しちゃって」

澪「律のほうがよく話してたことだよ」

唯「あー、あの話かな?」

梓「ですね」

澪「ほら小学校のころ、運動会でさ…」

紬「澪ちゃん、昔はその話恥ずかしがってたのに」

律「ああ、澪の大暴走か?」

澪「憶えてるか?律」

律「あたりまえだろー」

澪「あれ、おかしかったよな」

律「そりゃー、あのときの澪のかおったら…」

澪「いや、顔はわすれろ」


律「いやだね」


律「一生わすれねーよ」









補足
ちなみに場面は10年ずつ、5から6回転換しています

場面が転換してるのは具体的には
17(※)
31(※)
67(※)
81(※)
(ラスト二行?)



最終更新:2010年05月28日 23:17