梓「なにやってんですか?」

唯「にらめっこ」

唯「ジー」

唯「目をそらしちゃダメだよ、猫さん」

梓「いえ、猫は基本的に人と目を合わせるのを嫌うんですよ」

唯「へえー。意外とシャイなんだね」

梓「まあそうですね」

唯「チューしちゃえ」

梓「な、なにするんですか、うちの子に!」

唯「え?チューだよ」

梓「猫は自分のお尻とかを舌でなめたりするから汚いんですよ」

唯「だって、猫さん」

梓「私もチューしてたら純に注意されましたから」

梓「……」

唯「へえー」

梓「うるさいです!」

唯「なにも言ってないよ?」


梓「ほ、ほかになにか聞きたいことはありませんか?」

唯「えーと、猫さんはお手とかおすわりはしないの?」

梓「きちんと訓練すればできないこともないですけど、基本的にそんなことしませんよ」

梓「猫は人じゃなくて、家になつくものですから」

唯「犬とは違うんだね」

梓「猫のほうがかわいいです!」

唯「あずにゃんもかわいいよ」

梓「……あ、りがとうございます」

唯「いえいえ、どういたしまして」


唯「あー!今日、宿題がたくさんあるんだった!」

梓「唐突ですね」

唯「うん。とにかく勉強しなきゃ」

梓「頑張って」

唯「あずにゃん、宿題は?」

梓「終わってます」

唯「手伝ってー!」

梓「お断りします」

唯「あずにゃんのケチー」

梓「その代わり、お菓子持ってきますから」

唯「やったー」


10分後!


唯「ううぅ」

梓「さっきからノートをにらみつけてるだけで、全然進まないですね」

唯「だって難しいんだもん。それに……」

唯「なんでか知らないけど、猫がノートに乗ってるし」

梓「この子、どうしてかわからないんですけど、人が勉強してると、ノートとか教科書に乗るんですよね」

唯「うージャマだよ~」


唯「どいてよー」

猫「ききっ」

唯「うわあ!怒った!?」

梓「違いますよ。威嚇してるんですよ」

唯「威嚇?なにに?」

梓「唯先輩の背後にある窓の外の鳥にです」

唯「鳥?」

梓「はい。猫は鳥が大嫌いなんです」

唯「それで、今猫ちゃんが威嚇したんだね」


梓「ちなみに鳥を威嚇するのは飼い猫だけなんですよ」

唯「野良猫はしないってこと?」

梓「はい」

唯「この猫ちゃんは、買ったの」

梓「違います。純から譲り受けたものなんです」

梓「純の猫がいつのまにか妊娠してて、それで……」

唯「あずにゃんが受けとったんだね」

梓「はい」

唯「にしてもあずにゃんは本当に猫に詳しいね」

梓「当たり前です。親と約束したんです」

唯「約束?なにを約束したの?」

梓「もし、猫を飼うなら自分一人できちんと面倒を見ることって」

唯「うわ、あずにゃんのご両親は厳しいね」

梓「そんなことないですよ。最初は飼うのすら賛成していなかったのに、最終的には猫用のトイレやねこじゃらしを買ってくれたり……」

梓「なんだかんだすごい面倒見てくれたりしてくれていますし」

梓「猫のしつけのために本まで私にプレゼントしてくれたり……」


唯「いいお父さんとお母さんだね」

梓「はい」

梓「だから私もこの子にとっていい親であろうと思って、たくさん猫について調べたんです」

唯「あずにゃんは素晴らしいお母さんだよ」

梓「ありがとうございます」

唯「ただ、さっきから気になってたことがあるんだけど」

梓「なんですか?」

唯「なんで一度もこの猫さんのことを名前で呼ばないの?」

梓「え、そ、それは……その……」

唯「?」

梓「この子の名前は親として私がつけたんです」

唯「うんうん、なんて名前?」

梓「……笑わないでくれますか?」

唯「笑わないよ」

梓「じゃあ、言います」




梓「あずにゃんV3です!!」


唯「へ?」

梓「だからあずにゃんV3です!」

唯「……」

梓「なんか言ってください」

唯「……なんでVなの?」
梓「いえ、それは……ヴィクトリーのVとかバリューとか、とにかくそんな感じの意味なんです」

唯「ごめん、こういうときどんな顔をしたらいいかわからないや」

梓「笑ってください!」

唯「笑わないでって言ったくせに」

梓「そ、そうですけど……」


梓「いや、他にもあずにゃんV3には深い意味があって……」

梓「仮面ライダーのように力強く、勇ましい、そんな猫になってほしくて」

梓「……いや、やっぱり純に考えてもらうべきだったのかな?」

梓「で、でも純よりはいいセンスしてるよね」

梓「してるよね?」

梓「ねえ、唯先輩?」

唯「……」

梓「唯先輩?」

唯「んにゃ……」

梓「あずにゃんV3と一緒に寝てるし……」

梓「もう……まだ宿題も終わってないのに」

梓「私はあずにゃんV3のお母さんであっても、唯先輩のお母さんじゃないのに……」

梓「唯先輩、こんなところで寝たら風邪引きますよ?」

唯「だい……じょうぶだよ、あ、ず……にゃん」

梓「大丈夫じゃないですって」

梓「……」

梓「憂も大変だなー」

梓「……」

梓「……」

梓「せめて毛布だけでもかけてあげよう」

梓「唯先輩」

唯「…………にゃん」

梓「あずにゃんV3」

猫「んにゃお」


梓「……ふふ」

梓「二人とも似たものどうしなんだから」

梓「でもまあ、たまにはこういう日があってもいいよね?」



梓「おやすみなさい、あずにゃんV3、唯先輩」



おわり



最終更新:2010年06月07日 18:23