和「そうなのよ、だから心配でね。
唯に、そんな人と付き合うのはやめなさい、
って言ったんだけど、全然聞いてくれなくて」
梓「そ、そんなこと言ったんですか」
和「言ったけど……何?」
梓「流石にそれはだめですよ。
友達と絶交しろなんて言われたら、
誰だって怒りますって」
和「だって心配なのよ。
唯が不良に染められて、
タバコとかバイクとかやったらと思うと……」
梓「大丈夫だと思いますよ、唯先輩なら」
和「でも」
梓「唯先輩は誰とでも仲良くなれちゃうタイプですけど、
相手に染められるとか、そういうのはないと思います。
むしろ相手を自分のペースに巻き込んじゃう人ですよ、唯先輩は」
和「……」
梓「その不良さんがどんな人かはよく知りませんけど、
唯先輩にとってはいい友達になるんじゃないですか」
和「でもねえ……」
梓「そんなに不安がらなくても。
唯先輩がタバコ吸ったりバイク乗ったりするように見えますか?」
和「……見えないわ」
梓「そうでしょう。
だいたい和先輩は唯先輩の幼馴染なんでしょう?
唯先輩のことは、和先輩がいちばんよく分かってるはずです」
和「……」
梓「和先輩が唯先輩のことを
理解しようとしてあげなくてどうするんですか。
親友なら、ちゃんと友達のことを信じて、
やりたいようにやらせてあげるべきです」
和「うーん、そうねえ……
梓ちゃんの言うとおりかも知れないわね。
私、唯のことを分かってなかったかもしれないわ」
梓「分かっていただけて何よりです」
和「そうよね、私が唯のことを
ちゃんと信頼してあげなきゃいけないのよね。
ありがとう、梓ちゃん。
私、今から唯の家に謝りに行ってくるわ」
梓「はい、頑張ってください。
じゃ私、こっちの道なんで」
和「ええ、またね……」
和(うん、私が間違ってた)
和(不良なんかと付き合っても、
唯が不良になったりするわけないんだ。
立花さんと仲良くしたいって言うんなら、
唯のことを信じてそうさせてあげるべきよね)
和(そして唯が選んだ立花さんのことも信じてあげなきゃ……
唯が仲良くなりたいっていうんだもん、
きっと良い人に決まってるわ)
和(そうよ、立花さんが非行に走って謹慎になったのは去年の話、
今年に入ってからは何も問題を起こしてないんだもの。
唯が彼女に影響されてタバコやバイクなんて、ありえない……)
とその時、
和の横を姫子と唯の乗ったバイクが通り過ぎていった。
和「ヘイタクシー!! 今すぐあのバイク追ってください!!」
一方その頃、唯と姫子は。
唯「わー、速い速ーい!」
姫子「どう、気持ちイイでしょ」
唯「うん、すごいよ!」
姫子「ホントは自分で運転するのが最高なんだけどねっ」
唯「私、卒業したらバイクの免許とるよ!」
姫子「うん、そうしなよ」
唯「でも今バイク乗ってるのが誰かに見つかったら、
やばいんじゃないの?」
姫子「大丈夫だよ、制服じゃないから
動物並の動体視力なきゃ誰が乗ってるかなんてわかんないって」
唯「そっかー、じゃあ大丈夫だね」
姫子「よし、もっとスピード出すよ!
しっかり掴まってて」
唯「うん!」
――
――――
――――――
キッ
姫子「着いたよ、唯」
唯「ここどこ?」
姫子「私のお気に入りの場所……かな。
ほら、見て」
唯「わー、すごい……街中見渡せるよ」
姫子「悩みがある時とか、落ち込んだ時とか、
よくここに来るんだ。
一人でこうやって街を眺めてると、
小さいことなんか気にならなくなってくるんだ」
唯「へえー……」
姫子「唯は、どう?」
唯「へ?」
姫子「唯の悩みに、決着はつきそう?」
唯「あー……
バイクに乗ってる間、ずっと考えてたんだけどね」
姫子「うん」
唯「やっぱり姫子ちゃんとは友達でいたい!」
姫子「えっ、でもそれじゃあ……
真鍋さんが」
唯「うん、和ちゃんとも仲直りしたい。
だから私、和ちゃんに信じてもらえるように頑張るよ!
姫子ちゃんは悪い子なんかじゃないって」
姫子「唯……」
唯「和ちゃんは分からず屋の石頭だけど、
ちゃんと分かってもらえるまで話してみる。
私に任せて、姫子ちゃん!」
姫子「うん……」
和「唯っ!!」
唯「の、和ちゃん!?
なななななんでここに……」
和「馬鹿、バイクの二人乗りなんかして、危ないでしょ!!
それに学校の人に見つかったら謹慎よ!?」
唯「ご、ごめんなさい……」
姫子「わっ、私が誘ったの! 唯は何も悪くないわ。
怒るんなら私を……」
唯「ち、違うの、姫子ちゃんは悪くないの。
私が悩んでるの知って、
姫子ちゃんが頭すっきりするからって
バイク乗せてくれて……
私のためにしてくれたことだから、
だから姫子ちゃんは……」
和「悩んでるって、何を」
唯「和ちゃんと、喧嘩したこと……」
和「唯……」
運ちゃん「お、お客さん、タクシー代……」
和「バカね、そんなこと気にしなくていいのよ。
それこそ全部私が悪いんだから」
唯「和ちゃん……」
和「ごめんね、唯。私、唯のことを信じてあげられなくて。
どんな不良と付き合おうと、唯は唯なのにね……
それを私は分かってなかったわ」
唯「ううん、私も悪いよ。
和ちゃんは私のこと心配してくれてたのに、
つい怒っちゃって……ごめんなさい、和ちゃん」
和「こっちこそごめんなさい、唯」
唯「仲直り、してくれる?
これからも姫子ちゃんと友達でいていい?」
和「当たり前じゃない……
唯が選んだ友達なら、きっといい人だものね」
唯「へへ、それは和ちゃんもだよっ」
和「唯……」
唯「和ちゃん……」
紬「うんうん」
翌日、教室。
ガラッ
和「おはよう、ゆ……い」
唯「あ、おはよー和ちゃーん」ぎゅーっ
姫子「ま、真鍋さん……おはよう」
和「なに、また抱きついてるの?」
唯「えへへー、姫子ちゃんあったかいんだよ」ぎゅーっ
姫子「あはは……」
和「もー、離れなさい。
立花さん迷惑してるでしょ」
唯「あっ、和ちゃん」
和「何?」
唯「その『立花さん』っていうのをやめよう」
和「は?」
唯「姫子ちゃんも!
『真鍋さん』っていうの禁止!」
姫子「えっ? な、なんで?」
唯「せっかくだから二人にも仲良くなって欲しい!
だから苗字で呼び合うなんて他人行儀なことはやめて、
下の名前で呼び合おう!」ふんす
和「いや唯、いきなりそれは……」
姫子「はは……」
唯「えーっ、いいじゃん!
ほら、和ちゃんは『姫子ちゃん』、
姫子ちゃんは『和ちゃん』って!
さんはい!」
和「……」
姫子「……い、良い?」
和「う、うん」
姫子「の……和」
唯「ほら和ちゃんも!」
和「う……ひ、姫子」
姫子「あはは……なんか照れるな」
唯「恥ずかしいのは最初のうちだけだよ。
これでもう二人は完璧に友達だねっ」
和「まだ名前を呼び合っただけなんだけど」
唯「そこまでいったらもう完璧に友達だよ!
ほら、記念に写真とろう、友達になった記念に!」
和「え~」
唯「ほら二人とも、もっと寄って寄って! もっとがしっと!」ぐいぐい
和「ちょっと唯、分かったから押さないで」
姫子「ふふっ……和も大変だね」
和「あ、分かってくれる?」
唯「じゃあいくよ、はいチーズ!」カシャッ
この後も色々あって和と姫子は友情を深めていくのだが、
それはまた別の話である。
お わ り
最終更新:2010年06月11日 23:33