夏の木々が鬱蒼と茂る山道を懐中電灯の明かりを頼りに登り行く澪と唯。
昼間は近くの小学生がハイキングで訪れる程度の簡単な道であるが
流石に明かりの乏しいこの時間帯に登るのは骨が折れる。
唯「フゥフゥ…疲れたよう…」
澪「山頂までもう少しだから頑張れ」
唯「澪ちゃん、わかるの?」
澪「小さい頃、何度か登ったことがあるんだ。」
澪(律と…)
唯「そっかぁ。よし、じゃあもう少しがんばろー!」
澪「あ、あんまり大きな声だすなよ」
唯「えへへ、ごめんごめん」
澪「まったく…」
―――ミオ
澪「!」
唯「どうしたの澪ちゃん?」
澪「いや…」
澪「…」
澪「悪いんだけど唯、ここからは一人で行ってくれるか?」
唯「え、どうして?一緒じゃなきゃやだよう!」
澪「ほ、ほら、ここからは山頂までもう少しだって言ったろ?」
澪「私はここで誰か追ってきたらすぐに知らせられるよう、見張っておくからさ」
唯「で、でも…」
澪「頼むよ、唯。私もすぐに行くから。」
唯「うう…わかったよ、でも必ず来てね!」
―――
再び登り始めた唯の背中が見えなくなる頃
澪「…お前と同じようなこと言って…ようやくお前の気持ちが理解できたよ」
澪「友達に心配させたくないんだよな」
澪「だから、お前の気持ちを無駄にするようなことはしたくない。…けど」
澪「やっぱり放っておけないよ、律」
律「……ヒヒッ」
山頂への道を外れて木々の間を走る。
背後からはかつての幼馴染が迫る音がする。
澪「こっちだ!律!」
以前共に幾度も訪れた場所を記憶を頼りに目指す。
澪「たしか、こっちに…」
突然視界が開ける。
澪「ハァ…ハァ…」
目の前には狭い広場があり、その奥は地面が突然途切れ、谷になっている。
小さな山なのでそれほど深くはない。
とはいえ、下は大きな石が転がる河原だ。落ちれば無事では済まない。
その割には危険防止の小さな杭とロープが張られているだけのため、今までに何人か死人もでている場所だった。
その谷の縁に立って振り返り、見据える。
澪「律!来い!」
木々の間から律が現れる。
澪「来るんだ…!」
奇声を上げ、律はこちらに駆け出す。
澪「そう、まっすぐ…まっすぐだ…!」
澪との距離が詰まる
両手を突き出し、澪の体を掴まんと突進してくる。
澪はそれをギリギリまで引き付け―――
―――受け止めて、共に背後の谷へと落ちていった
2人で落ちてゆく
時間にしては一瞬の間
澪「律…」
受け止めた体をギュッと抱きしめる
澪「約束、してたからな」
澪「これからもずっと一緒だ」
澪「ありがとう、律」
―――みおー!
懐かしい声が、聞こえた気がした。
―――終了条件達成
目の前に広がる山頂の広場
見渡すと小さな物置小屋と、聳え立つ鉄塔が見える。
唯「あれが…ムギちゃんが言っていた…」
唯「!」
鉄塔の前に人影を見つけ、急いで身を隠す。
いや、それは人影と呼ぶにはあまりにいびつな形をしていた。
首が常人の数倍長く、ブヨブヨと奇妙に肥大した脂肪のようなものがそれを覆っている。
腕も不自然に細く伸びていた。
唯「ひっ…」
唯「さわちゃん…」
終了条件:サイレンの停止
唯「うう、さわちゃんがいたら鉄塔に登れないよぅ…」
唯「あそこの小屋に何か役に立つものあるかな…?」
さわ子の目を盗み、こっそりと物置小屋に入る。
唯「わ、いろいろあるけど…どれも役に立たなさそう」
唯「あれ?これって…ガソリンだよね…」
唯「こっちにあるのは殺虫スプレー」
唯「…」
唯「…よし」
物置小屋の入り口に立ち、声を張り上げる。
唯「おーい!さわちゃん、こっちだよー!」
さわこ「イィー!!」
かつての彼女からは想像もつかないような声を上げてこちらに走るさわ子。
唯はポリタンクを構えながらドアのわきに潜む。
唯「えい!」
声に誘われたさわ子が小屋の中に入った途端、真横からガソリンを浴びせた。
そして素早くさわ子の脇を抜けて小屋の外に出る。
さわ子はその場のドラム缶をやすやすと持ち上げ、振り向いてこちらに投げつけてきた。
唯「うわっとぉ」
間一髪それをかわし、殺虫スプレーを構える。
近づいてくるさわ子。
スプレーの出力を最大にし、噴射口をさわ子に向けたままポケットからライターを取り出し構える。
さわ子の手が届くかどうかすんでのところで、噴射と着火を同時に行った。
火の手はガソリンに引火し、見る見るうちにさわ子の全身を包む。
さわ子「ギィィィィィィ!!!」
聞くに堪えない悲鳴を上げ、暴れまわるさわ子。
しかしやがて地面に倒れ、そのまま動かなくなった。
唯「さわちゃん先生…」
あたりにはなんとも言えない嫌な臭いが立ち込めていた。
唯「よし、あとは…」
鉄塔を見上げると、天辺付近にスピーカのようなものが見える。
唯「あれを壊すだけだよね」
近くにあった角材を拾い、鉄塔備え付けの梯子を上る。
―――
スピーカの周りは踊り場のように足場が巡らされていた。
ようやくそこまで上りきり、スピーカの横に立つ。
そして、手にした角材を思い切り振り下ろした。
ガツンという音が鳴る。手ごたえはあったがまだ壊れない。
唯「お願い…」
もう一度振り下ろす。
唯「壊れて…!」
唯「壊れてよ!」
何度目かの衝撃を与えたとき
相当老朽化していたのだろう、ついにそれは根元からポキリと折れて
眼下へと落ちていった。
唯「やった…!」
空が明るくなり始める。
どうやら夜が明け始めたようだ。
―――ようやく光の戻った町を見渡して、唯は愕然とした。
唯「え…?」
自分たちが住む町。
その町は、真っ赤に染まった海が四方を取り巻いていた。
唯「なに…コレ…」
見渡す限りの紅い海原。
その向こうから
忌まわしい、あの音が響き始めた。
唯「そんな…こんなの…」
唯「こんなの、どうしようもないよ!」
絶叫したその時、左足をガシリと掴まれた。
驚いて見ると、そこには、紅い涙を流した満面の笑みの―――
―――終了条件未遂
―
――
―――
「ねえ、やっぱり肝試しなんてやめて返ろうよぉ」
「何言ってんのよ、ここまで来て」
「だってヘンだよこの町。どうして家はあるのにだれも住んでないの?」
「え、あんた
ニュース見なかったの?この町も前はちゃんと人が住んでたんだけどね、
それが2年前のある日、一夜にして忽然と消えちゃったんだって。」
「え?住人全員?」
「うん。当時は『謎の集団失踪!』なんて随分騒がれたのよ。」
「そっか。だからこんなに人探しのポスターが貼ってあるんだね。」
「そうだね。ほら、このポスターなんて見てよ。…私たちと同じくらいの年の女の子。」
「ほんとだ…そう考えるとなんだか、怖い、というより…」
「うん、ちょっと悲しいよね。」
「帰ろっか。」
「うん。」
『 探し人
この姉妹を探しています。
平成22年の××町集団失踪事件以降行方がわからなくなりました。
もし見かけた方がいましたらご一報下さるよう、よろしくお願いします。
○ 平沢唯(当時17歳)
連絡先 □□□-△△△-××××
』
―――― 糸冬
唯「という夢を見たのさ」
律「どんな精神状態してんだよオマエ…」
梓「でも確かに徹夜でゲームするとそのゲームの夢みちゃったりしますよね」
律「それにしてもぶっ飛びすぎだろ!いくらムギでも部屋に銃なんか隠してないよな?」
紬「ギクッ」
紬「あ、あれ~?そういえば澪ちゃんは~?」アセアセ
梓「ああ、澪先輩ならさっきからずっとそこで…」
澪「あーあー聞こえない聞こえない聞こえない」
律「…」
律「ま、まあそういうわけで…」
唯律紬梓「サイレン新作よろしく!」
おしまい!
おまけ
憂「おねえ…ちゃん…フ、フフッ!」
包丁を握ったままゆっくりとこちらに近づいてくるが、立ち上がれなかった。
とめどなく涙がこぼれた。
目の前で包丁を振り上げるのを見ながら、この子になら殺されてもいいかな、と思った。
「破ああぁぁぁぁあああぁ!!!」
爆音とともに憂の体が青い炎に包まれる。
驚いて振り向くと、ひとりの少年が立っていた。羽生蛇育ちのSDKさんだ。
憂「おねえちゃん!」
唯「憂!正気に戻ったんだね!」
SDK「約束したんだ。美耶子と…」
そういって立ち去るSDKさんを見て、羽生蛇育ちってスゴイ、改めてそう思った。
最終更新:2010年06月15日 01:31