憂「お姉ちゃーん」


憂「もう」

唯「……」

憂「洗濯したいんだけどなあ」


実際にはこのようにペットの服を着ることで、ペットに
自分の全てのものを主人である飼い主に捧げなければいけないという刷り込みを行う。

飼い主には支配する力があるんだよ。


憂「お姉ちゃん、洗濯したいから服脱がしちゃうね」

唯「あんっ」


あるいはこんな場面。


唯「ゴロゴロ」

憂「お姉ちゃん」

唯「ゴロゴロ」

憂「今、掃除中だからどいて」

唯「ゴロゴロゴロゴロ」


妹が掃除しているのに、無視して姉はゴロゴロしているという全国の妹が怒りそうな場面。


まあ、しかし、しかし、しかしっ、しかし!


唯「ゴロゴロゴロゴロ」

憂「お姉ちゃん」

唯「ゴロゴロゴロゴロ」

憂「……」

唯「ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ」


状況の読めない飼い主を半面教師に、ペットに人格の形成に努めさせます。

できた妹はこうして作りあげます。


憂「ういーん」

唯「うひょっ!?」

憂「ういーん」

唯「やあ、掃除機で吸わないでー」


まさかこのような場面でも。


唯「ういー」

憂「なあにお姉ちゃん?」

唯「今日あずにゃんと遊びに行くはずだったんだけど、ゴロゴロしすぎて疲れたから代わりに行ってきて」

憂「え?」

唯「大丈夫、大丈夫。髪型変えて、服私の着てけばだーいじょーぶ」


自己チュー極まりない発言をする姉に戸惑う妹。

ちょっとお姉ちゃんを叱りたくなるような場面。


だけれども!


憂「でも、梓ちゃんに悪いよ」

唯「大丈夫だよー」

憂「それに梓ちゃん、お姉ちゃんと一緒に遊びに行きたいから今日遊ぶ約束したんでしょ?」

唯「誘ったのは私」

憂「尚更悪いよ!」


実際にはペットに飼い主の変装をさせることにより
飼い主の苦労をペットに知ってもらうという、計画であります。


少しは苦労しなくちゃね。

憂「じゃあ行ってくるね」

唯「おみやげヨロシクー」

お菓子がいいなあ。


もしくはこんな場面。


唯「行ってきまーす」

憂「いってらっしゃい」

唯「修学旅行のおみやげ楽しみにしててねー」

憂「楽しみにしてるよー」

唯「楽しんでくるよー」


修学旅行へ行く姉を見送る妹というありきたりな場面。


けれどもーしかし。


唯「おはよー皆ー」

唯「昨日は楽しみだったけど全然寝れたよー」

唯「えへへ、憂に修学旅行の用意してもらっちゃった」

唯「うん?荷物多い?そんなことないよー」

唯「え?忘れ物?実はデジカメ家に置いてきちゃったなあ」


修学旅行でデジカメを忘れました。いいえ、わざと忘れました。

こうすることで飼い主が忘れ物や他のトラブルに巻き込まれても、すぐペットが対応できるようにします。

さあ、妹よ!デジカメを持ってこい!


唯「あ、憂からメールだ」

唯「『忘れものあったみたいです』」


まあ、さすがにここまで家から来いというのも大変ですね。

許してあげます。



あるいはペットがお友達とおでかけしていて一人という場面。


唯「一人だ」

唯「ゴロゴロ」

唯「ゴロゴロゴロゴロ」

唯「……暇だなあ」

唯「そうだ!」


たまには憂の代わりに掃除機をかけてあげましょう。

飼い主としてペットの仕事をやってあげるのもいいでしょう。


おでかけしたペットがなかなか帰ってこないという場面。


唯「掃除機もかけたしなあ」

唯「ゴロゴロするのも飽きたしなあ」

唯「ギー太は……まあいいや」

唯「テレビもつかないし……」

唯「……お腹すいたよぉ」


ぷるるるるるるるる


電話です。

もしかしたらペットからかもしれないので出てあげましょう。



私は電話に出ました。



























平沢憂さんが交通事故でお亡くなりになられました」


………………


飼い主とはなんなんでしょう?

私は憂の飼い主を自称していたのに。

自分でも面倒をきちんと見ていたはずなのに。


気づいたら私の知らないところで勝手に憂は死んでしまいました。


飼い主の知らないところでペットは死んだのです。


唯「憂……」



妹のいない風景。


私は飼い主失格です。

最後の最後までペットの面倒を見届けなければいけないのに。

飼い主にはその義務があるのに。


憂が交通事故で亡くなってから一週間。

私は抜け殻のような生活を送りました。

いえ、もはや生活なんてそんなものですらありませんでした。


私はずーっとずーっと妹のことを考え続けました。


そうして飼い主として自分がペットに何ができるのか見つけました。


どこかわからないどこかの一場面。


憂「お姉ちゃん、本当にこれでよかったの?」

唯「うん、いいんだよ」

憂「でも……皆が悲しんでるよ……」

唯「そうだね、でも……」

憂「……」

唯「いいんだ、これで。いつまでも二人でいよう。二人きりで」

憂「……お姉ちゃん」

唯「なあに、憂?」


憂「どうして私を追ってきたの?」


泣き腫らしたペットからの質問はとっても簡単でした。

私は答えました。







たとえばこんな場面。


唯「……っていう話なんだけどどう?」

憂「……」

唯「なかなか面白いと思ったんだけど」

憂「……ない」

唯「憂?」

憂「面白くないよ!」

唯「え?え?」

憂「面白い話だって言うから聞いてたのに……そんな暗い話聞きたくなかったよ!」


ようやく帰ってきた妹に姉がちょっとした仕返し気分で不吉な話をしたあとの場面。



憂がなかなか帰ってこなくてお腹がすいてちょっとイライラして……
だからってあんな話しちゃうのはいけないよね、と私は憂の泣きそうな顔を見てようやく後悔しました。


憂「もう、お姉ちゃんなんて知らない!」

唯「え、えっ?憂ー!」

憂「お姉ちゃんなんて……っ」

唯「憂、ごめんなさいー」

憂「ふんっ知らないし、おみやげもあげないからっ」


一見ケンカしているようにしか見えないこの場面。

実際にケンカしてるだけなんだけど。


……私まで泣きそうだよー。


唯「ういー」

憂「……話かけないでっ」

唯「……」

憂「私、お風呂入って寝るから」

唯「……ういー」


私は頭を下げました。何も考えずに。ただ、憂に許してほしくて。

憂「……」

唯「ごめんなさいっ」

憂「……」

唯「ごめんなさいっもう二度とこんなヒドイ話はしないからっ」

ぐううううううう


必死で妹に頭を下げているのにお腹が空気を読まずに鳴り出しました。


憂「……」

唯「……」


ぐうううううう


沈黙が支配する空間にまたもやお腹の音が鳴ってこだましました。

ただし、私のお腹じゃなくて。

憂のお腹からですけど。

憂「……」

唯「……」

一見姉妹がケンカしたせいでお互いにむっつりを決め込んでいるようにしか見えないこの場面。


でも。


憂「……ふふ」

唯「憂?」

憂「……私も実は何にもまだ食べてなくてね」

唯「うん」

憂「本当は今日はもっと早く帰るつもりだったんだ」

唯「……」

憂「けれど、本屋で美味しい料理の作り方についてすごくいいことが書いてある本があって。
それで思わずずーっと立ち読みしてたんだ」

唯「うん」

憂「お姉ちゃんにいつもよりもっと美味しい料理をご馳走したく……」


憂の言葉は最後まで続きませんでした。


私は気づいたら憂に抱きついていました。


憂「お、お姉ちゃん!?」

唯「ごめんよおおおぉ!許じでええええうええん」

私は今さらにしてどこまでも自分のことしか考えない自分が情けなくなって
そして憂が自分のことをすごく考えてくれていることがとんでもなく嬉しくて。

私は憂に思いっきり抱きついていました。


唯「ううぅ……ボンドにごめんなざいいぃっ」

憂「私も遅くなってごめんね、お姉ちゃん」

ようやく憂が微笑んでくれました。


唯「ううん全然だよ」


憂の笑顔が見れたのが嬉しくて私はまた目頭が熱くなるのを感じました。

憂「今からご飯作るからっ」

唯「私も手伝うよっ」


二人で一生懸命にお互いのことを思って作った料理は
いつもよりもちょっぴり美味しくなくて、いつもよりもはるかに美味しかったのでした。

二人で一緒にお風呂に入って、いっぱいはしゃいで、洗いあっこして、からだも心もキレイにしました。


そして。

憂「じゃあ寝よっか」

唯「そうだね」

憂「……」

唯「憂」

私は姉として妹が一瞬寂しそうな表情をしたのを見逃しませんでした。

もちろん妹が何を考えているのか私はすぐわかりました。


唯「今日は一緒に寝よっ」

憂「うんっ」



というわけで。


唯「……うーい」

憂「お姉ちゃん……」

唯「……いつも、ありがと……」

憂「どう……いたしまして……」


一見、仲良く一緒のベッドで寝ているように見える二人の姉妹。

実際にどこまでも仲良しでいつまでも仲良しな私たちは。


仲良しらしく二人、抱き合ってすやすやと眠りましたとさ。


おわり



最終更新:2010年06月15日 22:44