唯「まよったー!」

唯「どうしよう。店員さんの姿も周りにいないし……」

客「ドンッ」

唯「あたぁ。す、すいません」

唯「うう、せめてあずにゃんについてきて貰えばよかった……」

唯「……って、あれ。この辺りさっき来なかったような」

唯「――!? こっこれはっ!」

律「唯のやつ遅いな……」

紬「やっぱり迷っちゃったんじゃ」

梓「みたいですね。電話で呼び出してみますか」

 プルルル プルルルル ガチャ

梓「あ、もしもし唯先輩。アイスには辿りつけましたか?」

唯『酷いよあずにゃん! こんな大事なものを隠してたなんて!』

梓「え、大事? とりあえず、目の前に何が見えます?」

唯『――――だよ! 教えてくれたら絶対にカートに入れてたのに!』

梓「あー……。とりあえず今行きますから待ってて下さい」

唯『むうううぅ』

 ガチャ

梓「と、いうことなのにちょっと行ってきます」

梓「会計する人が増えてきたみたいですから、とりあえずレジに並んどいて下さい」

律「あいよー」

紬「いってらっしゃ~い」


澪「……なんだか凄いものまで持ってきたな」

唯「あずにゃん酷いんだよ! ケーキを私たちに見せないようにしてたんだよ!」

梓「いえ、故意じゃないです。ただ……」

紬「ただ?」

梓「少し前に一ホールまるごと買ってしまって、それで食べ過ぎで気持ち悪くなって……」

澪「無意識に目を逸らしていたってことか」

梓「かもしれないです。すいません……」

紬「わざとじゃなかったんだから、唯ちゃん許してあげて」

唯「むー。じゃあそのかわり」

梓「……ごくり」


唯「またコストコに連れてきて欲しいな!」

梓「え、そんなことでいいんですか?」

唯「うん。普通のお店にないような輸入品? っていうのをいっぱい見れたし」

唯「それだけじゃなくて、活気とか、大きさとか、とにかく一日じゃ全てを見切れないと思うし」

唯「普段じゃ見れないようなみんなの一面が凄い新鮮だったし」

唯「何より、今日は特にあずにゃんに色々教えてもらったから、今度は私が……」

梓「唯先輩……」

唯「あ、そうだあずにゃん! 今度、憂と一緒に三人で来よっ。私の会員カードで二人を招待してあげる!」

唯「それまでにコストコのいいところ、他にもいっぱい見つけておくよ!」

澪「まぁ、梓が会員だったから五人入れたんだけどな」

律「いいところでちゃっちゃ入れるなよー」

澪「え? イイトコロ?」

紬「澪ちゃんもそのうち分かるようになるわぁ」

梓「唯先輩……」

唯「あずにゃん……」

店員「商品はベルトコンベアにお願いしまーす」

律「……ということらしいな」

紬「レジの順番が来ちゃったみたいね」

梓「ッハ! レジ! レジは店員さんが一人で動かすところもありますから、自分でコンベアに乗せるのが基本です」

梓「左に人間、右にカゴ。カゴを動かすのは店員さんにお任せしましょう」

梓「前の人との商品の区別は三角の棒を使います。さぁ早くのせちゃいますよ!」

澪「梓が正気に戻ったみたいだな」

唯「なんだか悲しい感じ。ぐすん」

店員「ありがとうございましたー」

律「会計はとりあえずムギが一括してくれたけど、後から個々で払うってことでいいんだよな」

梓「ですね。これだけの混雑で一人一人は流石に迷惑ですから」

梓「そして、いよいよ……」

唯「ねぇ見て見て! あのホットドック凄い大きいよ!」

律「いや待て。よく見ろ、ただ大きいだけじゃない。何やらトッピングが人それぞれ違うような」

梓「そうです。これがコストコが人気たる所以の一つ」

梓「低価格でボリュームたっぷり! トッピングもドリンクも自分好みで!」

紬「わぁ。好きなだけ食べてもいいのね」

梓「まぁまぁ。詳しい説明は買いながらにしましょう」

梓「とりあえず席を取って、カートをその席から一番近い通路の端に寄せることからです」

梓「ここの目玉はズバリ、さきほど話題に出たようにホットドックです」

梓「カウンターの横にサラダバーみたいなところがありますよね。あそこで好きなようにトッピングできるんです」

唯「私マスタード苦手なんだけど、それもトッピングで変えられるの?」

梓「はい。マスタードもケチャップも、自分で機械を使って量を調節すればいいんです」

律「タマネギなんかもトッピングに入ってるのか。私は野菜たっぷりでいくかな」

紬「私はとりあえず全部乗せてみようかしら♪」

店員「ご注文はお決まりですか?」

唯「はい! 目玉ドッグください!」

店員「ホットドックですね。ドリンクバーが付きまして、260円になります」

律「ドリンクバーまで!?」

店員「はい。こちらセットでの販売価格となっております」

梓「あれだけ大きなホットドックですよ。ドリンクがつかないでどう食べるっていうんですか」

律「……なんという有り難さ」



澪「留守番寂しい……」



唯「澪ちゃんお待たせ~」

澪「お、遅いぞ。結構人多いし、いつになった来るかと」

律「スマンスマン、ついトッピングに張り切っちゃって。はい澪の分。野菜たっぷりな」

澪「あ、ありがとう」

澪「……あれ。梓だけ違うもの買ったのか?」

梓「ええ、ホットドックはメインメニューですが、こっちも食べてみてくて」

唯「これ、店内で売ってたピザだね! それともう一つは……スープ?」

梓「クラムチャウダースープです。ピザにはこれがついてくるんですよ」

梓「プラス付属されるクラッカーをこうやってスープに砕いて入れて」

紬「パンをスープ浸して食べるみたいで美味しそう~」

梓「皆さんで飲んで下さい。あさりのいい味が染みてますよ」

唯「わーい♪」


唯「ぷへぁ、お腹イッパイ……」

律「私も、ホットドックをなめてた……」

紬「とっても美味しかったわ。ごちそうさま」

梓「食べ終わったのならぼちぼち行きましょうか。席が空くのを待ち始める人もでてきた頃ですし」

律「んだなー。にしても、まだ半日しか経ってないなんて思えないわー」

梓「午前で買い物。午後から練習、ですよ」

唯「なんかもう動きたくないぃ」

梓「だーめーでーす。ハイ、立って下さい。ここは部室じゃないんですから」

紬「二人とも立って。行きましょう」

唯「らじゃあぁ」



澪「…………」

律「って澪? いやに静かだったな。ほら立つぞ、行くぞ」

澪「ま、待って! あの、その……」

澪「ちょっと、お手洗いに……」

澪「ごめん。ちょっと待ってて! だっ!」



唯「ありゃー……」

紬「大丈夫かしら、澪ちゃん」

梓「澪先輩やけにドリンクおかわしてしましたよね。そのせいでしょうか?」

律「みんな聞いてくれ、実は私は」

梓「な、なんですか突然……」

唯「実は、りっちゃん……?」

律「自分用のホットドックを間違えて澪に渡してたかもしれん」

律「私マスタードたっぷりにしたはずなんだけど、いやに辛くないとは食べながら不思議に思ってたんだよー」

律「はっはっはー。はっはっはー」

梓「……後で澪先輩に言いつけときます」


澪「りーつーぅ!」

律「あいたぁ!」

紬「三回目ね」

澪「まったくもう、酷い目にあった」

律「ごめんごめん。じゃあ次は、澪のお好みの配合で一緒に食べようぜ」

澪「え、それって、つまり……」

紬「ニヤニヤ」

店員「こちらでレシートチェック行っておりまーす」



店員「……ありがとうございましたー」

唯「レシートチェック?」

梓「はい。レジから出口までは結構なスペースがありますし、時間帯によって人も多いですから」

梓「盗難チェック、ということです。買った物から目を離したまま食事しちゃう人もいたりしますから」

律「なるほどなぁ」


さわ子「……それにしても、随分とまた買い込んだわね」

唯「でへへぇ。それほどでもぉ」

さわ子「褒めてないわよ。いいから車に詰めちゃいなさい、今トランクあけるから」

紬「すみません、先生」

さわ子「まぁ、私がたまたま! 暇でよかったわね」

律「そーですねー、たまたま」

さわ子「……それで、例の約束覚えてるわよね?」

紬「はい。向こうの殿方も合う日を楽しみにしてると仰っていました」

唯「二人で何こそこそ話してるの?」

さわ子「……コホン。何でもないのよ。それより午後は練習するんでしょう、ティータイム付きで!」

律「最後を偉い強調しますなぁ……」


さわ子「発進するわよー」


 ぶろろろろろろ どるるるるるるるる


澪「……うっ」

律「澪?」

澪「いや、ちょっと、少しだけお腹がぶり返してきたみたいで」

さわ子「あら、大丈夫? もう一度トイレに行ってくる?」

澪「いえ、それは平気です。家につくまでくらいなら平気ですから」

澪「それに、何故だか分からないんですけど男子トイレが凄い込んでて」

律「男子トイレなのにそんなに?」

澪「うん……。列が凄い長く伸びてて、そのせいでさっきも中々辿りつけなかったし」

紬「奇妙なこともあるのね」

律「大方、澪みたいにドリンク飲みすぎてトイレ入り浸りが何人かいたんだろ。気にするほどでもないよ」

さわ子「ま、平気なら行くわよ」

 ぶろろろろろろろろろ…………




 ―― 夕方 平沢家 ――


唯「たっだいまー!」

憂「おかえりお姉ちゃん。お昼に戻れなくてごめんね」

憂「たくさん買い物してくるなら、本当は家にいて冷蔵庫に入れるの手伝おうと思ってたんだけど……」

唯「大丈夫だよ。みんな手伝ってくれたから」

唯「前から純ちゃんと遊ぶ約束してたんでしょ。楽しかった?」

憂「うん、とっても楽しかったよ。お姉ちゃんは?」

唯「とーっても! あのね、コストコって凄い広くて大きくてビッグで、とにかく面白かった!」

唯「今度は憂も一緒に行こうね。コストコの先人として色んなこと教えてあげる!」

憂「お姉ちゃんが色んなこと……。うん、楽しみにしてるね!」

唯「練習の合間のティータイムも、コストコで買ったケーキとか食べたんだぁ」

憂「へえぇ。そうなんだぁ」

唯「あのね、コストコについて話のすれば色々と長くなるだろうけど」

唯「まずはアレだね。会員登録について!」

憂「……え? 会員登録って、お姉ちゃんは和ちゃんからの招待券で入ったんじゃないの?」

唯「ううん。結局使わないでおいたんだ。会員登録した方が安くなるんだよ」

憂「え、でも、会員は年間4200円かかるはずじゃ……」

唯「確か、会費保証なんとかがどうとかで……ちょっと待って、紙見てみる」

唯「コレ! 会員の皆様に万一ご満足いただけない場合には、メンバーシップ有効期間中であればいつでも年会費を全額……」

唯「ご満足いただけない場合……あーっ!」

憂「お姉ちゃんもしかして」

唯「……退会するの忘れてきちゃった」

憂「あはは……」

憂「あれ? でも結果的に退会しなくてよかったんじゃないかな」

憂「また次に行くなら……。退会はその時にでも」

唯「あ、期間内ならいつでもいいんだった」

唯「あははは……」

憂「あははー」

唯「でも、なんか途中退会するのも悪い気がしてきたなぁ」

憂「そういう心理的なものもあってのシステムだろうけど……」

唯「私決めたよ! コストコを極める! それで、4200円分いっぱい楽しむ!」

憂「……お店の策略に乗っちゃってるお姉ちゃんも可愛い……」

唯「そうと決まればさっそく講義の続きだよ! 憂!」

憂「うん! お姉ちゃん!」



終わった!



最終更新:2010年06月19日 18:26