今から7年ほど前…
私は親戚のお姉さんの通う桜高の文化祭に連れていってもらった。

そこで私は衝撃的な出会いを果す。

キャサリン「お前等が来るのを待ってたぁ…ヒャァァァァアア!」

講堂に激しく響くシャウト。
全身に電流が流れたかのような感覚、そして脳を直に打ち付けるそれは私を魅了した。

姫子「すごい…かっこいいかも!」

姫子「私、桜高にいく!そして軽音部にはいるんだ!」


1年の春。

さわ子「ごめんなさい、軽音部は部員がいなくてね…もう廃部になっちゃうのよ」

姫子「えっ、そんな…」

そこに憧れの軽音部はなかった…


他にやりたいこともなかった私は学校をさぼるようになっていた。

俗に言う不良ちゃんだ。

もともと真面目な方でもない。

それにこんな高校生活でもそれなりに楽しかった。


文化祭の日。
なんとなく来てみたものの、思ったよりつまらない。

一通りまわり疲れたので講堂のパイプイスに座り、演劇部の陳腐な寸劇を見ながらあくびをしていた。



ナレーター「次は軽音楽部による演奏です」

唯「こんにちは~、けいおん部です」

姫子「!!」

そこには廃部と聞かされていたはずの軽音部の姿があった。

姫子「軽音部、廃部にならなかったんだ…」

唯「それでは聴いて下さい、ふわふわ時間!」

そして彼女たちが奏でる、なんともふわふわと甘ったるくメルヘンな楽曲に私は絶望した…

かつて憧れた桜高軽音の面影はなく、あまりにかけ離れた演奏に私は怒りを覚えざるを得なかった。

姫子「これが桜高軽音部だなんて…ふざけてる!こんなの絶対認めない!」



そして次の日、私は音楽室の扉を叩き開けた。

律「うぉ、びっくりした」

澪「もっ、もしかして入部希望の方ですか?」

唯「わぁ、文化祭の演奏聴いてくれたのかなぁ?」

紬「あらあら。今お茶をいれますのでどうぞ座って下さい」

彼女たちの脳天気な態度に私は憤怒した。

姫子「ふざけんな! なんだよあれ!」

澪「ひぃ!」

律「な、なんだよいきなり」

姫子「あんなの桜高軽音部じゃない。あんた達DEATH DEVILを知らないの?」

澪「そんな…確に昔の軽音部とは方向性は違うかもしれないけど…」

律「そうだよ、そんなにやりたけりゃ自分でやればいいじゃんか」

姫子「うるさい!あんた達は桜高軽音部を汚したんだよ!」

私は目の前にあったキーボードを蹴り飛ばした。



紬「私の…キーボード…が…」ペタン

やってしまった…。
いくらカッとなったと言ってもこれはマズイ。

律「お前ふざけんなよ!いくら気にいらないからってやっていいことと悪いことがあるだろ!」

姫子「っ!!」

理不尽極まりない私、ほんとサイテー…。
私は逃げるように音楽室を後にした。


それから月日は過ぎ2年の秋。
桜高祭の季節がきた。

昨年の記憶が蘇る。

出来れば行きたくない、憂鬱だ。

しかし今年はクラスの出し物の手伝いがある。
行かない訳にはいかない。

そんな重い気分で溜め息混じりに目の前のたこ焼きをひっくり返していた。


あかね「姫子ー。交代だよー」

姫子「あっ、うん…」


去年と似たような店が並ぶ。

私はひとり気だるくもフラフラと見て回っていた。


なんだか講堂の方が騒がしい。


「ねぇねぇ軽音部の平沢さん、本番前なのに家にギター忘れちゃったらしいよ」

「えー、そうなの!?かわいそー」

「もう間に合わないんじゃない?」


彼女達の顏は見たくない…。
でも私はいてもたってもいられなくなり、講堂へと向かっていた。


私が講堂に入ると既に演奏は終わっていた。
平沢さんもなんとか間に合ったみたい。

ホッとしたのも束の間、彼女達をみると罪悪感が込み上げてきた。

すぐにその場を立ち去ろうとしたその時


唯「みなさん聞いてください。今じゃこんな軽音部ですけど、昔の桜高の軽音部はメタル?ってゆうもっと激しいバンドだったんです」

唯「そんなバンドに憧れて桜高に入った女の子がいました」

姫子「あ…」


唯「私達が入部する時はメンバーがいなくて昔とは全然ちがう感じになっちゃって、その子はガッカリしちゃってます」

唯「聴いてくれてるかわからないけど…今日はその子のために歌います!」

唯「Maddy Candy!」


秋山さんの力強いボーカル。
それは私の古い記憶の中にある曲だった。


演奏後、私は舞台裏に駆けて行った。

姫子「あ、あのっ…」

唯「あっ、姫子ちゃん」

姫子「…」


姫子「みんなごめん。自分が悪いってわかってて…ずっと謝らないとって思ってて…」

姫子「でもあんなに酷いことしちゃって、みんなと顏を合わせるのが怖くて…」

姫子「なのに私なんかのために…もう私、なんて言ったらいいか」ポロポロ

紬「もういいのよ」ニコ

彼女達はみんな笑顔だった。


姫子「琴吹さん…あんなに酷い事してホントにごめんなさい」

姫子「私バイトでお金貯めてて、それで足りるかわからないけど…」

紬「ううん、こうやって立花さんがみんなに謝りに来てくれただけで十分よ。ねっ、みんな?」

律「まあムギがそう言うんだったら、なっ?」

姫子「ありがとう…ごめんなさい…」ヒック


琴吹さんはいいって言ってくれたけどキーボード代は少しづつだけど返しています。

私はきっと嫉妬していたんだ。

自分がやりたかったことを、とても楽しそうにやっている彼女たちに。


あれからみんなは軽音部に誘ってくれたけど私は断わった。
今更楽器なんて弾けないし、なにより今の彼女たちの演奏が大好きだから。

今や私は彼女たちの大ファン。




がんばれ、放課後ティータイム。


おしまい



※途中で出てきたあかねは『斉藤あかね』



最終更新:2010年06月21日 23:20