律が死んでからの私はミスの連続だった
以前の私なら無心で瓶の傷を確認していたのだが、今はふとした時に律のことを考えてしまう
後日、私は律の葬式に参列した
普通は喪服を着ていくべきなのだけど、なぜか私は律と買い物に行った時の服装で葬式に行った
まわりからどう思われようが、どうでも良かった
律と会うのはこれが最後だと思うと、どうしてもこの格好じゃないとダメな気がした
最後の対面、律の顔はキレイに化粧されていて事故の傷などどこにも見当たらなかった
花にかこまれた律はすごくキレイで、周りの花が見劣りするくらいだった
律の微笑を見ていると涙が止まらなかった
葬式の帰り道、私は死ぬ決心をした
高校を卒業してからずっと親とも誰とも関わらず生きてきた
死ぬまでそうしようと思っていた
それでいいと思っていた
だが、律との出会いが私の心を変えた
自分でも驚きなのだが、私は律なしには生きられそうになかった
次の日、私は初めて仕事をずる休みし駅のホームで次の列車が来るのを待っていた
ホームにいる人達は、私が今から死ぬことなど興味ないと言わんばかりに、携帯を見たり新聞を読んだりしていた
やはり私のことを見てくれていたのは律だけだったんだな
律、早く会いたいよ律
今からそっちに行くからね
プアアアアアア!
「危な~い!」
ドンッ
誰かに引っ張られた私は盛大に尻餅をついた
と、同時に電車が停車する
周りの人は私達を怪訝そうに見つめながら電車に乗り込んだ
「大丈夫~?」
私を助けた女の子が顔を覗き込む
なんで邪魔をするんだ
頼むから律のところへ行かせてくれ
私は命の恩人を睨み付けた
「ここだとアレだし喫茶店お茶でもしようか~」
随分あっけらかんとしているものだ
今から自殺しようとしていた人間の前だと言うのに
私は命の恩人を軽蔑した
喫茶店
「さあ!何があったのかお姉さんに話してみなさい!」
恩人はえっへん!と言いながらどや顔をしてみせた
お姉さん?
幼く見えるが結構歳上なのか?
自称お姉さんのどや顔に負け、私は大切な人が亡くなったことを話した
やっぱり律以外の人との会話はうまくいかない
途中何度も何度も言葉に詰まったが、なんとか最後まで話すことができた
自称お姉さんは驚いたり笑ったり泣いたりしながら私の話を聞いていた
よくもまあ、コロコロと表情が変わるものである
ひょっとして馬鹿にしてるのかな、とも思ったが自称お姉さんの顔は本気だった
澪「もう、私には何もないんです」
唯「その子との思い出も?」
唯「私にも大切な親友と妹がいるけど、二人が死んでも私は死のうと思わないな~」
澪(あなたの意見などどうでもいいのだが…)
唯「だってぇ、例えば私も憂も死んじゃったら二人の思い出も死んじゃうでしょ?でもどっちかが生きてる限り思い出の中に私も憂も生きてるんだよ!あれ?」
なんてことだ
自称お姉さんは電波さんだった
お姉さんの言葉はだいぶ解りづらい日本語だったが言いたいことはなんとなく解った
唯「私ね~高校を卒業して今までずっとゴロゴロしてたんだ~。憂はそれでいいって言うんだけど、なんか悪くって~」
唯「だから今一生懸命バイトを探してるんだ~。でも私バカだからもう10社も落とされてさ(笑)」
澪「10社も…」
唯「こんな私でも頑張ってるんだからキミも頑張って生きていこうよ!ね!」
何かうまくまとめられた気がした
唯「あ!そう言えば今からバイトの面接だったんだ!遅刻遅刻~!じゃあまたね!」
律とは違う意味で台風みたいな人だった
自称お姉さんの言葉で生きる勇気が沸いた
とは言わないが自殺しようとしていた自分がひどく馬鹿馬鹿しく思えたのは事実だった
きっとあのお姉さんは悩んでる人に元気を分け与える妖精か何かなのだろう
私はそう納得し、自ら命を絶つのはやめることにした
お姉さんの言うように律は私の思い出の中で生きていてもらうことにした
ありがとう妖精のお姉さん
バイトの面接頑張ってください
唯「へっきし!あれ~風邪かな~?」
翌日、私はいつものように瓶の傷を確認する仕事をこなした
そして、昼休憩には積極的に人に話しかけるよう努力した
自分で道を切り開かなければ、律や自称お姉さんのような人達と出会うことはできないと感じたからだ
努力のかいあり私に新しい友達ができた
友達の名前は
琴吹紬さん、この会社の親会社勤務でここへは現場研修に来たらしい
彼女は、口下手な私の話をニコニコしながら聞いてくれた
律とは違ったタイプの優しい女の子だった
ちなみにむぎさんとは今だに友達関係で休みがあえば買い物に行ったり、お茶をしたりしている
10年後、私は職場で知り合った男性と結婚し、娘も授かった
夫はさしずめ男性版律と言ったところか
寡黙な私を優しくリードしてくれる
そして私を笑わせようといつも試行錯誤している
そんなところも律そっくりだ
娘も素直に育ってくれた
私はあまり親から愛情を注いでもらえなかった
娘にはそんな不幸を味あわせたくなかったので、私達夫婦はたっぷりの愛情を持って娘と接した
その代わりに娘からはたっぷりの笑顔をもらった
娘「おかーさん」
澪「ん?」
娘「にわにおはながさいてたよ!」
澪「うん」
娘「おかーさんにあげるね~!はい!」
幼い娘の手には大きすぎる一輪の花
澪「ありがとう」
娘「うれしい!?うれしい!?」
澪「嬉しいよ」
娘「わーい!じゃあもっと摘んでくるね!」
娘は私に似ずとても元気な女の子だ
願わくば律のような優しい女の子に育ってほしい
それからさらに50年後、私はたくさんの管に繋がれ白い天井を見つめていた
娘を無事に嫁がせ、孫の顔も見ることができた
孫たちも私に似ず元気いっぱいだ
5年前に最愛の夫を見取り、もはやあとは自分の死を待つだけである
今、私の周りには娘夫婦や孫たち、そして長年の友人が大勢囲っていた
一人で生きていけると思い込んでいた昔の私がこれを見たらどう思うだろうか?
びっくりして腰を抜かすんじゃないだろうか?
そんなことを想像すると自然と笑みが溢れた
そして私は一人ではなかったことを実感し、嬉し涙が溢れた
私の人生はいいことばかりだった
あの工場に就職して良かった
律と親友になれて良かった
自称お姉さんと話せて良かった
むぎと知り合えて良かった
夫と結婚して良かった
娘が産まれて良かった
こんな人生をくれた両親に、生まれて初めて感謝した
律「み~お」
澪「…」ペコリ
律「ったく、散々待たせやがって」
澪「ごめん」
律「いいよ。それより楽しかったか?」
澪「うん」
律「そりゃ良かった」
澪「うん」
律「これからはずっと一緒だな」
澪「うん」
そんなやり取りを続けているうちにどちらからともなく笑い出した
それは私達の笑顔がキラリと光る、ある晴れた天国での出来事だった
律「めでたしめでたし」
唯「うっうっう…ええ話や…」
紬「すごいわねりっちゃん紙芝居を作るなんて」
律「はっはっは、隠れた才能ってやつかな」
梓(なんだかなぁ…)
ガチャ
澪「ういーす」
律「!?やべぇ!澪には見せるな!隠せ!」
バサバサ
律「あ」
澪「…」プルプル
澪「こんなオチはみとめな~い!」
fin
最終更新:2010年06月22日 02:14