律「ぷはー、食った食った!」

紬「ごちそうさま、憂ちゃん。おいしかったわ」

澪「ごめんな、突然家に押しかけて夕飯までごちそうになっちゃって…」

憂「いいんですよ。みなさんと一緒にお食事ができて、私嬉しかったです」

唯「ういー、アイスー」ゴロゴロ

梓「行儀悪いですよ、唯先輩」

憂「ふふふ、ちょっと待っててねお姉ちゃん」

憂「みなさんの分も持ってきますね」スック

律「おお、サンキュー!」

フッ

「あれっ?」

「きゃあっ!」

「おりょ?」

「あら?」

「真っ暗だぁ」

「停電ですね」

「ていうか澪、そばでおっきい声出すなよ」

「だ、だってビックリしたんだもん…」

「相変わらず澪ちゃんは怖がりだなぁ」

「うぅ…」

「それにしても何も見えませんね」

「これじゃあ誰が喋ってるのかわかりませんよ」

「町中停電みたいね」

「うーん、非常用の懐中電灯が向こうの部屋にあるけど…」

「こんなに真っ暗じゃあぶないよ!」

「そうよ憂ちゃん!」

「きっと、少し経てばすぐに戻るんじゃないかしら?」

「それに、こういうのって…なんだかワクワクしてこない?」

「おお、わかるよムギちゃん!こんなに真っ暗なのめったに無いもんね!」

「そうそう♪」

「ふふ、そうですね。じゃあこのままでいましょうか」

(携帯の明かりを使えば危なくないけど…言わない方がいいよね)


「…」サワサワ

「ひゃう!」

「澪ちゃんどうしたの?」

「い、今誰かが体を…」

「ぷ、くくくくくく…」

「ひゃうって…くくく」

「お、オマエかバカ律!」ブン

「おっと、こんな暗闇でそんなことすると…」

「あうっ」

「机殴っちゃった…」

「澪先輩…(ひとんちの机を…)」


「うぅ…痛い…」

「わ、悪い悪い」

「そういえば…」

「どうしたの?梓ちゃん」

「停電といえば、こういう話知ってます?」

「前に漫画で読んだんですけど」

「どこかのマンションの一室である家族が暮らしてるんですね」

「たしか、両親と姉、弟の四人家族だったと思います」

「ある夜、ちょうど今の私たちと同じように町中が停電になって部屋が真っ暗になっちゃうんです」

「そこでお姉ちゃんの方が面白がって、暗闇の中家族の写真をカメラで撮ろうとするんですけど」

「シャッターを切ってフラッシュを焚いて部屋が明るくなったその時」

「笑顔の家族の後ろに異形の大男が―――」

「きゃあああ!!」


「あっ」

「あーあー聞こえない聞こえない聞こえない…」

「す、すいません、ついうっかり」

「大丈夫よ澪ちゃん。みんないるから、ね?」

「うー…」

「…」

「写真、撮る?」

「絶対イヤ!」


――
―――

「…」

「…」

「…」

「梓の貧乳ー」

「な!」

「いきなり何を言うんですか澪先輩!」

「え!?今の私じゃないぞ?」

「ええー?」

「澪ちゃん、いくら自分が胸に自信あるからって…」

「ほ、本当だって!」

「…」

「お姉ちゃんの貧乳!」

「ええ!?」

「う、ういー…」

「ち、違うよお姉ちゃん!私じゃないよ!」

「プ…」

「く…くっくっく…」

「またオマエかバカ律!」


「アハハ…いやあ、ごめんごめん憂ちゃん」

「私にも謝れ!」

「それにしても、暗いと意外と誰の声かわからないものね」

「そうですね」

「…というか」

「りっちゃんも人のこと言えないよね」

「ぐっ」

「りっちゃんの貧乳」

「律先輩の貧乳」

「ち、ちくしょう…」



――

―――


「なかなか復旧しないな、電気」

「割と暗闇にも目が慣れてきちゃいましたね」

「そうだな」

「あ、夜風が涼しい…」

「虫の声も聞こえるね」

「風流だねぇ」

「これぞ夏!って感じだねぇ」


「ところで唯」

「なあに?澪ちゃん」

「進路は決まったのか?」

「ううん…まだ決めてないんだあ」

「そろそろ決めないとまずいだろう?」

「うん、そうなんだけど…」

「ある程度は決まってるんだけどね」

「なんだか、それで本当に良いのか分かんなくて」

「自分が選ぶ道が、本当に正しい道なのかなって…」

「そう考えると、なんだかためらっちゃって…」

「…」

(お姉ちゃん…)

(私と梓ちゃんも来年になったら悩むのかな…)

「…」

「あのさ、唯」

「なーに?澪ちゃん」

「いったいどれが正しい道かなんてさ、わかんなくて良いんだよ」

「選んだ道が正しいかどうか判断するのは今じゃないよ」

「人間万事塞翁が馬、って言葉知ってる?」

「サイオーガ…ウマ?」

「人生ってのは、何が良くって、何が悪いことに転がるかなんてわかんない、って意味だよ」

「未来のことなんて誰にもわかりっこないんだ」

「自分が選んだ道が正しかったかどうか判断できるのはきっとずっと先…」

「1年後か、10年後、ひょっとしたらしわしわのおばあちゃんになってからかもしれない」

「それではじめて『ああ、あの時この道を選んでよかった』って思えるんだ」

「もちろん、だからってテキトーに進路を決めろって言ってるわけじゃないよ?」

「ただ、今は悩んでもしょうがないから」

「自分が今、正しいと“思える”道を選べばいいんだ」

「他の誰でもない、唯自身が決めた道ならみんな応援するよ」

「澪ちゃん…」

「…」

「うん、わかった」

「私、決めるよ!」

「頑張ろうね、唯ちゃん!」

「うん!」

「あ、そうだ」

「ねえみんな、外に出ない!?」

「へ?」

「なんですか突然?」

「えへへ、良いから良いから」

「はやくはやくー♪」

「ちょ、ちょっと待って、早いって!」

「いくら目が慣れてきたとは言え、この暗闇で他人の家の玄関まで行くのは大変ですよ」

ガツン

「てアイタッ!」

ガチャリ

「ホラホラ、はやく出てきなよぅ」

「外もやっぱり真っ暗だな」

「まったく…急に外なんかに出てきてどうするつもりだよ?」

「えへへー、みんな、上見てみて?」

「え?」

「おおっ…」

「わぁ…!」

「キレイ…!」

「満天の…星空だな…」

「スゴイ…都会でこんな星が見られるなんて…」

「停電で民家の明かりも、電灯も…みんな消えてるからだな」

「…」

「ねえみんな」

「どうした?唯」

「私ね、さっき澪ちゃんが言ってくれたこと、すごくよくわかるんだ」

「だってね」

「今が、こんなに楽しいんだもん!」

「私、高校に入学したての頃」

「なんだか漠然と『何かしなくちゃー』って焦ってて…」

「それで、本当に軽いノリで軽音部に入部したって言ったよね」

「でもそこでりっちゃんや澪ちゃん、ムギちゃんと出会って」

「熱中できるものを見つけて、一年後にはかわいい後輩のあずにゃんと出会えて…」

「みんなでお茶したり、練習したり、ライブしたり」

「毎日がすっごく楽しくて」

「はじまりは本当に小さなきっかけだったけど」

「でも今は、あの時軽音部に入って本当に良かった、って思えるんだ!」

「だからみんな」

「10年経っても20年経っても…」

「やっぱり軽音部でよかったって思えるよう」

「今を精いっぱい楽しもうよ!」

「唯…」

「…そうだな」

「おーし!」

「最後の夏だ!あっそぶぞー!」

「おー!」

「練習もです!」

「ハア…先が思いやられるな…」

「大丈夫だよ澪ちゃん!」

「明日もきっと、良い日になるよ!」


唯「大停電の夜に」    ―――おわり



最終更新:2010年06月24日 17:54