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唯「りっちゃん、安心して!」

律「ううぐすぐす……どうせ私はバカだ……いかにも留年しそうなキャラなんだ……おしおきされてもしかたない……」めそめそ

唯「りっちゃんっ!」ゆさゆさ

唯「大丈夫!卒業してもみんな一緒だよ!」

律「ぐすっひっく、ゆ、唯」

紬「どういうことかしら……」

梓「話の流れから察するに……」

澪「律のやつ……」


唯「5人ともいつまでも一緒だよ!寂しがる必要なんてないんだよ!」


そう、私が思うに、りっちゃんは卒業がイヤなんじゃないかな。

そういえば1時間目のガイダンスは進学・就職に関することだった。
演説の中で講師の人は、
「今は友達かもしれないけど、みんなライバルだ。自分以外は敵だ。どうせ卒業したら関係なくなるやつらなんだから、けり落とせ」
みたいなことを言っていた。

だから、ムギちゃんに抱きしめられたら切なくなって泣いちゃって、
あずにゃんが「これからのことで悩んでる」って指摘したら図星で、
澪ちゃんに帰されそうになっても、嫌がったんだ。
貴重な部活の時間を途切れさせたくないから。

さわちゃん先生と話してたのも、このことだったんだね。


唯「ね、だから安心して。怖いことなんてないよ?悲しいことなんてないんだよ」

律「う、うぞだ……だってみんな、バラバラじゃなひか……もう、こうやって……ぐすっ、毎日会えない、んだぞ」めっそり

唯「うん。確かにみんなそれぞれバラバラになっちゃうけど……同じ国にいる限り簡単に会えるよ!」

梓「国って……」

澪「唯らしいな」

紬「ふふ、そうね」

唯「私だってやだよ……りっちゃんとも澪ちゃんともムギちゃんともあずにゃんとも、離れたくなんてないよ」


それは私とりっちゃんだけじゃない。
澪ちゃんもムギちゃんもあずにゃんも同じはずだ。

見れば分かる。みんな目をうるませているから。


澪「バカ律……そんなくだらないことで泣いてたのか」

律「くだらなくて悪かったな……だって、考えれば考えるほど寂しくて仕方ないんだ」

澪「寂しくなんてないように私がいつも遊びにいってやるよ。律が寂しくなんてなる間もないようにさ」

梓「メールや電話だってできます」

紬「お手紙だって書けるわ」

唯「講師のおじさんは、卒業したらみんな離れ離れとか言ってたけど、あれは間違いだよ」


だって私もみんなも、りっちゃんが寂しいときはいつも傍にいてあげるもん。

今まで部長として頑張ってきてみんなが大好きなりっちゃんだから
元気に振舞ったり構いたがりなりっちゃんだけど、だからこそ人一倍寂しがりやなんだね。

そんなりっちゃんのことがみんな大好きなんだよ。だから、心配する必要なんてない。


唯「だからりっちゃんも約束!私たちが寂しくなったら、りっちゃんも私に会いに来てね」

澪「私は寂しくなる前に律のとこ行くけどな」

紬「卒業してもお茶会しましょうね」

梓「バンドも、できるだけ続けましょうよ」

律「うん…………うん!みんな、ありがとう!」ぐすっえへへ


ずっと寂しそうな顔をしていたりっちゃんが、久しぶりに笑う。
今日初めて見る笑顔。みんなが大好きな。


唯「うう……う……りっぢゃああああん!!」びえーー

律「うおっ!何だよ唯ー」

唯「りっちゃんがそんなにも私たちのことを好きだったなんて!嬉じいよおおおおお」ぐしゅぐしゅ

梓「もう……せっかく格好良かったのに」

澪「ま、いいじゃないか」

紬「ふふ、2人ともいい子いい子」なでなで


もらい泣きみたいに泣いてしまってちょっと恥ずかしかったけど、みんな慰めてくれた。
りっちゃんが泣いたときにみんな慰めてくれたように、私が泣いた今も同じだった。
嬉しくてさらに泣いてしまった。

ムギちゃんが頭を撫でてくれて、あずにゃんが仕方なさそうにハンカチを差し出してくれて、
澪ちゃんが慰めてくれて、そしてりっちゃんが抱きしめてくれる。
そこに確かなつながりというか縁のようなものを感じて、どうしようもなく幸せな気持ちになった。

卒業まであと半年くらいしかないけど、それを悲しむことはあっても寂しがることはもうないだろう。


律「へへっ!みんなありがとな!これで、みんなずっと独身仲間ってことだな!」

澪「え?」

梓「え?」

紬「え?」

唯「え?」


今のは聞き間違えかな?おかしいなー、話の流れ的にそんな言葉が聞こえてくるわけ……

律「だーかーらー、みんな結婚しないで私の傍にいてくれるんだよな!」テレッ

紬「え?」

澪「お前、何言ってるんだ?」

律「え、だってそういうことだろ?だって言ってくれたじゃないか、みんなずっと一緒だって」

唯「う、うん。確かに言ったよ。でも……」

梓「それとこれと何の関係があるんです?」

律「ん?」

唯「りっちゃん……卒業が寂しくて泣いてたんじゃないの?」

律「お前こそ何言ってるんだ?」

澪「おい律、今日一日のことを朝から詳しく話せ」

律「え、何でまた」

梓「いいからお願いしますっ」

紬「私からもお願い」

律「ああ、うん?いいけどさ……」



事の顛末はこうだった。
これはりっちゃんが1時間目の後、珍しくきちんと書類を出しに職員室へ寄ったときの話だ。



―――――――――――――――――――――――

律「失礼しまーす」がら

さわ「おはよう、りっちゃん」

律「さわちゃんおはよー」

さわ「今日も雨ね、嫌になっちゃう」

律「あはは、毎日これじゃ憂鬱になるよなー」

さわ「そうね。しかもね私、6月って大嫌いなの」

律「なんで?あ!祝日が一日もないからだろー」

さわ「それもあるけどね……聞きたい?」

律「遠慮します」

さわ「よくぞ聞いてくれたわ!6月と言えばジューンブライド!幸せな花嫁なんて、滅びればいいよのよぉっ」


―――――――――――――――――――――――

律「とまぁ、いつもみたいにさわちゃんがヒステリーでさぁ。私が絡まれたわけだよ」

梓「あの人スイッチ入りやすいですよね」

唯「それでそれで?」

―――――――――――――――――――――――

さわ「りっちゃんもね、気をつけたほうがいいわ」

律「おいおい、私に絡むなよー」

さわ「女子高生なんてあっという間なんだから。とくにりっちゃん!いつまでもさばさばしてると、あっという間に売れ残るわよ!負け犬よ負け犬!」

律「そんな極端な……」

さわ「考えても見なさい。まずムギちゃんは心配ないでしょうね」

律「うーん、確かに。ムギならあっという間に結婚しそうだな。っていうか許婚とかいそう」

さわ「澪ちゃんなんて争奪戦が起きるわよ。あのプロポーションよ?男が放っとかない訳ないわ」

律「う……まぁ……わかるかも」

さわ「唯ちゃんや梓ちゃんも、プロポーションは劣るけど二人とも女の子らしくてとても可愛いわ。結婚なんてすぐよ、すぐ!」

律「そ、そんな……」

さわ「りっちゃんだって素材は悪くないのよ。でも、いつまでもアグラかいたり乱暴な言葉遣いしてるとね……」

律「してると……?」

さわ「あーっという間に20後半!どうしようって焦ってる間にも時は過ぎ……30超え……35超え……そしてそのまま40代に……」

律「そ、そんなバカな話」

さわ「あるのよ、これが……。ね、私のこと、他人事じゃなくなってきたでしょ……?笑ってられないのよ……?」

律「みんな先に結婚しちゃって……私だけ……」

さわ「その劣等感ったらありゃしないわ。おまけに子供ができていくとね……話に入れないのよ。自分は幸せそうな様子を見てるだけ」

律「嫌だぁ……」

さわ「寂しいわよ~……売れ残った女っていうのは。耐えられないわよぉ~」


律「ひいい!」うるっ

さわ「驚かせちゃってごめんなさいね。とにかく私、りっちゃんが心配なの。みんなが嫁いだ後のりっちゃんがね……」

律「さわちゃん~」ぐすぐす

さわ「私からの忠告は以上よ」

さわ「(ま、りっちゃんは元気でがさつなのが魅力的だし、そもそも澪ちゃんがりっちゃんを放って男と結婚するとは考えがたいけどね。すっきりしたからいいや)」


その後りっちゃんは教室に戻っても悲しさが増すばかりで、授業なんて耳に入らず、どんどん最悪の未来を想像してしまう。
そしてどんどん涙が溢れてきて、止まらなくなってしまったということだった。

―――――――――――――――――――――――

律「でも今は大丈夫だ。結婚するときはみんな一緒だって聞いて安心したぜ!」

梓「唯先輩……どうしてくれるんですか」

唯「ううっ……私てっきり、りっちゃんは卒業が寂しいのかと思って……」

紬「でもりっちゃんの嬉しそうな笑顔を見てると本当のことは言いにくいわね」

澪「…………」


つまり、今日一日ずっと売れ残りを気にしてりっちゃんは泣いてたってこと……か。


ムギちゃんに抱きしめれて泣いたのはムギちゃんの優しさを実感してさらに自分がダメだと思っちゃったのかな。
そんで、学校を出たくないって言うのはそのまんま、大人になりたくないってことだろう。
なんか拍子抜けだよ……

どう考えても、みんなで同じ時まで独身でいるなんて……ムリに決まってる。
おまけに、なぜか私にはりっちゃんが優しくていい人と恋仲になって幸せを掴む未来が簡単に想像できる。
澪ちゃん、りっちゃんの順に、さっさとお嫁にいってしまうような未来が……


梓「とにかく……ちゃんと現実を説明してくださいよ。女はいつかは結婚するんだって」

唯「えっ、でもあんなに嬉しそうなりっちゃんにそんなこと言えないよ……」

紬「満面の笑みだわ……」

澪「……………………」

梓「澪先輩、さっきから静かですけどどうかしましたか?」

澪「……せない」

紬「澪ちゃん?」

澪「許せない!」

澪「こんのバカ律!!」がごん

律「いってぇえ!何するんだよ!」


澪ちゃんはいきなり、いつもの倍のスピードでりっちゃんにげんこつを落とす。
りっちゃんの目にまた涙が溜まる。今度は痛みによる涙みたいだけど。


澪「お前、なんにもわかってないみたいだな……」

律「わかってないって、何がだよ」

唯「み、澪ちゃんそれくらいに」

紬「しっ!黙って唯ちゃん」きらきら

梓「……またこの展開ですか」



澪「もういい。お前には口で言ってもわからないみたいだな。来い」ずるずる

律「え、なんで、私何も悪いことしてな」

澪「そう思うこと自体が悪い。もう一度、一から教育してやる!」


澪ちゃんは怒りながら嫌がるりっちゃんを引きずると、かつてみんなの私物があった準備室に入っていった。
なんだか怖かったな、澪ちゃん。
きっと、りっちゃんの話を聞いて潤んじゃったのが悔しいんだね。


梓「いや、あの人はただ自分のものだと思ってたのが全然なってなくてイラついただけだと思いますよ」

紬「ふふ、澪ちゃんも可愛いわ。独占欲が強いのね」


唯「うーん、よくわかんないよ!まぁいっか」

梓「それより……練習どうしましょうか」

唯「うーん、2人とも閉じこもっちゃったね」


澪『えーい、道具などなくても成敗してくれる!』

律『み、澪落ち着けよ、やめて、そこだけは!!いやだああああ』




紬「…………」ギラギラ



梓「ええ」

紬「りっちゃんたら……心配しなくてもすでに嫁いでるようなものなのにね」うふふ

唯「帰るよームギちゃん」ぐいぐい


ムギちゃんを呼んでも引っ張っても全然動こうとしないので、仕方がないからあずにゃんと二人で帰ることにした。
夕方になってもまだまだ外は蒸し暑い。
でも、雨が降ってないからよかった。


唯「それにしてもりっちゃんには参ったね~」

梓「まさか、あの律先輩がそんなことを気にするなんて……」

唯「心配しなくても、りっちゃんほど可愛かったらきっとすぐお嫁にいっちゃうよ」

梓「澪先輩が阻止しそうですけどね」


澪ちゃんはだいぶ怒ってたみたいだけど、りっちゃんのことが大好きだからこそだろう。
些細なことで怒る澪ちゃんも、些細なことでボロ泣きしたりっちゃんも、息が荒いムギちゃんも、とても可愛かったな。


梓「まぁ、軽音部にしめっぽい空気は似合いませんから。あの人たちらしいっちゃらしいです」

唯「あはは、そうだね!」



私たちの心配は杞憂だったけど、でも、私が感じた縁のようなものまで勘違いだったとは思えない。
形は違うけど、みんな繋がってるんだよ!


梓「あ……じゃあ私こっちなんで」

唯「うん、また明日ねー!」


一人になって考えると、なんだか拍子抜けした以上にすっきりした。
本当は私もどこかで卒業を寂しく思ってたのかもしれない。

最終的に勘違いだったけど、確認できたからりっちゃんには感謝だね!
明日改めてお礼言おう。

私は水溜りを飛び越すと、ドアを開けて元気に叫ぶ。


唯「ういー、ただいまー!」



おわり



最終更新:2010年06月24日 20:40