エピローグ


よく晴れた空の下、私達は歩いていた。
途中、唯が靴ずれを起こしたこと以外は、なんら学生時代と変わらない。

「りっちゃーん、足痛いよー」

右足を引きずるようにして歩く唯。
慣れないヒールなんか履くからだ。

「普通のかかとが無い靴でも良かったんだぞ?」

澪が呆れたように言う。

「えー、だってせっかくのムギちゃんの晴れ舞台だよー?オシャレしないと」

「唯先輩の晴れ舞台じゃないんですから…」

呆れる梓。
未だに私達の事を「先輩」と言うので少し恥ずかしい。


「ほら、ここだここだ」

大きな式場を前に、唯が興奮する。

「おおー!!良いなぁ、私も早く結婚したいなあ」

「憂ちゃんに先越されちゃうぞ?」

軽音部の中で、一番早い結婚がムギ。
だから、その結婚式に呼ばれたわけだ。

「ムギちゃんキレイなんだろうなぁ!真っ白なドレス着て…」

ムギのドレス姿。
金髪だし、確かに似合ってそうだ。


式場の中に入ると、たくさんの人がいた。
やっぱり琴吹家の娘の結婚、とあってかお偉いさんが多い。

「わ…私達場違いじゃないでしょうか…」

少し緊張している梓。
そんな中、私達に声をかける人がいた。

「田井中…律様達でいらしゃいますか」

びっくりして振り向くと、優しそうなおじいさんだった。

「これは失礼。私、紬お嬢様の執事の斎藤と申します。お嬢様はこちらです」

やっぱり執事がいたのか…。
そう思いながら付いて行った。


「お嬢様。ご友人方がお見えですぞ」

大きなドアを叩くと、中から入れて、と声がした。
執事さんはドアを開けると、私達を中に入れた。

真っ白な部屋の中、真っ白なドレスを着ているムギがいた。

「ムギちゃん!」

唯が呼ぶと、ムギはゆっくりと振り向いた。
その美しさに皆が言葉を失ったのは言うまでもない。

「みんな、久しぶり」

あの時と変わらないおっとりとした声で、ムギは笑う。
長い髪を後ろに結って、キレイな花の飾りが付いていた。

「ムギ、キレイだよ」

正直に私が言うと、ムギはゆっくりと笑った。
昔と比べて、少しゆったりとした気がする。


「ムギ先輩、すごく素敵です!!」

梓がキラキラしながら言う。
もしかしたら、ウェディングドレスに憧れているのかもしれない。

「あずにゃんはベールの代わりに猫耳を付けなきゃね!!」

唯の一言で、梓以外がどっと笑う。
懐かしい感覚。みんなでこうして笑うなんて、久しぶりだ。

「みんな、変わってないわねぇ」

ムギが笑いながら言う。
そういうムギも、あまり変わってないけれど。


しばらく話すと、時間はあっという間に過ぎた。

「あ、私そろそろいかなきゃ…。」

ムギが立ち上がった。
色々と準備があるらしい。

「そっかー。じゃあ私達も会場に行ってるね!」

唯の言葉で、みんな部屋を出る。
私も出ようとしたけれど、

「あ、待ってりっちゃん!」

というムギの言葉に引き止められた


「どうしたの?」

近寄ってみると、ムギはにっこりした。

「付けて?」

そう言って私に渡したのは、あの時あげたネックレスだった。
まだ、とっといてくれていたんだ。

「これ、結婚式でつけるの?」

思わず聞くと、ムギはうなずく。
こんな安物で良いのか?

「だって、私の宝物だもの」

私がムギにネックレスを付ける最中、そんな事を言った。

「これはね、私にとって婚約指輪みたいなもの」

「私があげた、これが?」

意外すぎて、驚いてしまう。

「うん。りっちゃんからもらった、大切なプレゼントだもん」

鏡を見て、嬉しそうにムギは言う。


「とってもキレイ」

うっとりと言うムギこそキレイなのに。
多分自分の美しさに気付いていないのかもしれない。

「りっちゃん」

私を見て、ムギが言う。

「今でも大好きだよ」

大人っぽくなったムギの顔が、一瞬少女みたいな顔になる。
あの時の公園の顔に似ていた。

「抱き締めさせて?」

あの時の様に。
懐かしくて切なくなり、私は手を伸ばした。
あの時と同じように、私はムギより背が小さかった。

「りっちゃんて暖かい」

「ムギも暖かいよ」

温もりにあふれたムギ。
きっと旦那さんも優しい人なのだろう。


しばらくして手を離すと、ムギは優しく笑った。

「幸せになるね」

きっと、優しくて強いムギならやっていける。

「時間だよ、ムギ」

私が言うと、ムギはうなずいた。
そして、立ち上がるのと一緒に言った。

「りっちゃんは、あの日の事覚えてる?」

「…うん」

ムギが、少し不安げに聞いてきた。

「あの時言った、ありがとうの意味がまだ分からないの」

なんだ。
意味が伝わってなかったのか。

「それはね…」

ムギにそっと耳打ちした。
その時の彼女の顔がどんなものだったのかは、私しか知らない。


今度こそ終わり。



※律は斉藤と電話で話したことあるから執事がいるって知ってるよ
(凡ミス失礼しました)


最終更新:2010年06月28日 03:18