いちじかんまえ!

梓「ごめん、帰りまでなんかつきあわせちゃって」

純「いーっていーって。私の迫真の演技に魅了されちゃったならしょうがないさ」

梓「一言よけいだよ」

純「はー、澪先輩かっこよかったねー」

梓「……そうだね」

純「ぶっちゃけ澪先輩にコクったんでしょ」

梓「いいいいまきくの?!」

純「私も澪先輩とセッションしたいなあー」
梓「だだdだめだよお! 私とセッションするんだもん!!」

純「じょーだんだって。…あー、私も澪先輩みたく凛としてたいなー」

梓「ほんとは恥ずかしがり屋で怖がりさんなんだけどね、ふふっ」

純「澪先輩になりたーい」

梓「ぷふ、純が澪先輩になるなんて想像できないよ…!」

純「わらうなあっ!」


梓「純、あのさ」

純「おほーい、恋の相談は小悪魔系女子の鈴木先生にまかしとけっ」

梓「そうじゃないよ」

純「ええー? せっかく小悪魔系タカラジェンヌの大人のいろけを」

梓「ありがとね、いろいろ」



純「……そ、その笑顔だよっ!」

梓「へ?」


純「そんな風に解放されたみたいに、油断したみたいに、でも分かってるってみたいに笑えばイチコロだよ!」

梓「どうしたの? なんか急にテンション変わったね、ふふ」

純「澪先輩もイチコロだといいねっ」

梓「そうだね……決めた。私、がんばる! もう一度ちゃんと告白するよ!」

純「おおっ、思春期だね。青春してるじゃんあずさぁっ!」

梓「えへ、なんかキャラじゃないかもね」

純「そんなことないよ。あっじゃあ青春ということであの夕陽に向かって今から――」

梓「ちょ…やっぱ純のセンスって昭和だねっ」

純「笑うなあ! もう私一人で行ってくるからっ」

梓「あ、純まってよお!」


純(……あっぶないなー私。まったく演技派がすたるっての)




りつんち!

ヴーヴー
澪「お、ムギからだ。…あー輸血間に合ったって」

律「そっかーじゃあ明日には学校来れるかな」

澪「……なんかつっこめよ」

律「だっていつものことじゃん、それが私たち桜高軽音部だよ」

澪「いい話にするなっ」

律「ってか音楽室に輸血パック常備って見栄えわるくね?」

澪「なかなかないよな、そんな高校…」

澪「まったく…人のベッドで寝てないでちゃんと考えろよな、明日どうするか」

律「えーなるようになるんじゃーん」

澪「でも…………気まずいだろ。その、変にふるまっても」

律「梓も気にしてるだろうし、普通にしてたら合わせてくれるっしょ」

澪「で、でも、あれって――その、」


律「っだあーっ! めんどくせーっ!」

澪「めんどくさいいうな!」

律「だってめんどくせーじゃん、答え決まってるのにあたふたするとか」


澪「……きまってなんか、ないよ」

律「私は行き方の話なんかしてない、行き先の話をしてるんだって」

澪「行き先だって…わかんないよ」

律「分かるのが怖いんなら、ずっとそうしてれば」

澪「そういうんじゃなくて…」

律「…なんか私までわかんなくなってくるんだよ、さっきから」

澪「ごめん」

律「嫌いとかそういう意味じゃ、ないけどさ」

澪「思ってないよ、そんなこと。律だもん」

律「……ああもうっ」


ドンドン
聡『ねーちゃん? そろそろ部屋開けてくんない?』

律「ああごめんごめん! いっやー私の部屋テレビ壊れちゃってさあ」

聡『ゲームしてないんなら早く部屋返せよ』

律「うっせ! みおーおこしてーだるいーねむいー」

澪「はぁ…律が一番わけわかんないよ」

律「うっせ」

聡『ねえちゃんあけろおー』ドンドン

律「うっせえっての! てめえはチューニングでもしてろっ」

澪「ちょ、りつ!」

聡『はぁ~?』

律「新しいフォルダ(4)」

聡『なっ!!おいこら開けろ!!』

澪(な、なんの話だろ…)


澪「じゃあ、帰るから」

律「ぅい。まあがんばれ、逃げんじゃねーぞ」

澪「分かってるよ。梓だって本気なんだしな」

律「…じゃ。あした、学校で」

澪「あ、最後にさ」


律「んー?なんだよ」

澪「ふふっ。律、勘違いしてるよ」

律「……あー、チューニングって別にエロい隠語じゃないとか?」

澪「……ばかりつ」

律「なっ、私は最初っからわかってたぞ?! あれは唯が――」

澪「はは、じゃあおやすみな」
バタン

律「ったく…なんだよ、最後にいきなり」
律「…見守ってようと思ったのに、むかつくなー」

律「……明日、澪のことちゃんと見てなきゃだよな」

律「ってか、唯ってなんであんなこと言い出したんだろ…?」

聡「うわ!壁紙がおっぱいになってるし!…あれ、直せない?!」
聡「……え? ああーかあちゃんおふろはあとではいるからまってー!!」




ゆいのへや!

唯「うう…あの空気は気まずかったよう…」

ヴーヴー
唯「あ、純ちゃんからメールだ」


唯「……そっかあ」

唯「でも、あずにゃんは澪ちゃんのことが好きなんだよね」

唯「うーん、私またよけいなことしちゃったかな…」

唯「でも、あずにゃんと居るとき楽しそうだったからなあ」


唯「はあ……おんなのこ、かあ」

唯「私もいつか人をすきになったり、あいされたりするのかなあ」

唯「…おとといは純ちゃんかわいかったし、きのうはあずにゃんかわいかったんだよね」

唯「私って浮気性?!」

唯「…はぁ~。ダメダメだなあ、気まぐれだもん、私」

ヴーヴー
唯「あ、澪ちゃんからだ」

唯「えーっと……ええっ?!」

唯「で、でもそしたらあずにゃんが…」

唯「あーでもそれだと純ちゃんが…」

唯「……ううぅう」


コンコン
憂『お姉ちゃん? おふろわいたよ』

唯「あー…うん、はいるー」

ガチャ
憂「あーまた散らかしてる…だめだよ、ちゃんと食べたものはしまわなきゃ」ガサガサ

唯「はんせいしましゅ…ぅー」

憂「お姉ちゃん、元気ないね。どうしたの」


唯「…ねーういー。だれかが絶対つらくなっちゃうときってどうしたらいいのかなあ」

憂「うーん…よくわかんないけど、絶対にそうなっちゃうって決まってるのかな?」

唯「うん、かたっぽの願いごとがかなうともう一人の子が悲しくなっちゃうんだよね」

唯「私、どうしていいかわかんなくなっちゃって…」


憂「…そういうお姉ちゃんのやさしいところ、好きだよ」

唯「やさしくなんかないよ、優柔不断なだけだもん」


憂「お姉ちゃんは本当に優しいんだよ。私なんて…自分のことしか考えてないもん」

唯「そんなことないよ! 憂はみんなのこと考えてて、ちゃんとしてて、えっと、その…かわいくて、」

憂「そっそんなにあわてなくていいから!」

唯「もー。憂はみんなのためにいろんなことしてくれてるじゃ~ん」

憂「だけどそれも……気に入られたい、大事に思われてたいってだけなのかもしれないよ?」

唯「うーん…」

憂「私は、そんな優しくなんかないよ。お姉ちゃんの方が絶対優しいもん」

唯「むぅ…」



唯「えいっ」ポコン

憂「きゃ」


憂「お、お姉ちゃん?」

唯「だめだよっ、憂は自分のことも平等に大事にしなくちゃ」

憂「ご、ごめんなさい…」

唯「みんな憂が好きなのに、憂のことちゃんと見えてない人がいたらさみしいよ」

唯「それに、それが憂本人だったら…よけいどうすることもできなくて、」


唯「…いちばん、つらいもん」

憂「……うん。そう、だよね」

唯「そうだよ~。ほら、おいで」ギュッ


憂「なんか……こうされるの、久しぶりかも」

唯「えへへ~。よしよし」


唯「…ごめんね、ぶったりして」

憂「いいよ。それに、ちょっとうれしかったかも」

唯「え? ぶたれたのがうれしいの?」

憂「そ、そうじゃなくて…その、梓ちゃんや純ちゃんだけじゃなくて、私も見てくれてるんだなって」

唯「あったりまえだよお~! だいじなたった一人の妹だもんっ」

憂「えへへ///」


憂「あのね、みんな大丈夫だと思うよ」

唯「…え?」

憂「もう、お姉ちゃんは純ちゃんと梓ちゃんの話をしてたんでしょ?」

唯「……あ。わすれてたっ」


唯「どどどどどうしよぉ…! 私、どうしていいかわかんなくてっ」

憂「私ね、思ったんだ」

唯「?」

憂「好きな人が好きな人のことは、ちゃんと大事にしようって」
憂「大好きなお姉ちゃんやみんなが私を大事にしてくれる分、私もそうしなきゃって」

唯「そうだねっ」

憂「純ちゃんも梓ちゃんも、たがいにみんなを大事に思ってるよ」

憂「だから…もしかなわなかったとしても、気持ちを伝えられたことで満たされると思う」
憂「大事な人の気持ちだったら、ちゃんと伝わるものだもん」

唯「そう…いう、ものなの…かなあ?」

唯「うううーーん…私にはまだわからないや」

憂「もうっ、お姉ちゃんが教えてくれたことなのにっ」

唯「そ、そうだっけ? 私、一人のことしか考えられないからよくわかんないや、えへへ」

憂「ふふ、知ってるよっ」


唯「憂、ありがとね。なんか私もだいじょぶそうな気がしてきた!」

唯「――って、メールの返事忘れてた! どうしようどうしようっ」

憂「もう、お風呂さめちゃうから先はいってねー」

唯「ええぇええぇええ?! どっどれから先にしていいかわかんないよぉっ」

憂「……しょうがないなあ、お姉ちゃんは。ふふっ」




つぎのひ!

律「おはよ」

澪「おはよう」

律「はぁ…どうしてこうなったのかな」

澪「どうもこうも、お前が唯と悪ふざけするからだろ」

律「いや、そうじゃなくて…悪ふざけしてたのに、なぜか重い話になってた」

澪「それは私もすごく思う…」


澪「まあしょうがないよ、どのみちどっかで出てくる話だったんだろ」

律「……あー。そう思うとやぶへびって感じだなー」

澪「たまってたんだろ、いろいろと」

律「そしたらチューニンg」
澪「やめろ、無限ループになりそうで怖い」



おひるやすみ!

純「でさーそのとき梓が」

梓「もうやめてってばっ」

憂「梓ちゃん顔あかくなってるよ?」

梓「う、憂まで…! ちょっとトイレいってくるっ」

純「あ。逃げた!」

梓「あ…ムギ先輩」

紬「梓ちゃん、待ってたの」

梓「えーっと、なんでしょうか…」

紬「この教室空いてるから、ちょっとだけここで話していい?」

梓「あっはい」

梓(……ムギ先輩、変なところでするどいからなあ)


純「梓おっそいなー、どうしたんだろ」
憂「だれかと話してるのかな?」

純「ちょっと行ってくるよ」
憂「うん、だいじょうぶ?」
純「いいじゃんいいじゃん、銀幕デビューして女スパイ役やるときの予行練習だよ!」
憂「う、うん。がんばってね!」


純(あ。いた)

梓「なっ…///」

紬「―――――でしょ?」

梓「…そうです。だから、それだったら…って」
紬「でもそれは―――――」

梓「……でも、やっぱり、」
紬「梓ちゃん、よく聞いて。私は―――――」

純(……なに言ってるんだかぜんっぜん聞き取れないなー)



梓「そう、ですよね」

純(やば!出てきそう)

梓「やっぱり、私、澪先輩にちゃんと気持ち伝えます」


純(……っ!)




おくじょう!

律「ああー、わざとらしいぐらいの青空だぜえーっ」

澪「おい、寝転がると制服汚れるぞ。ってか唯起こさなくていいのか?」

律「今寝かさないと授業中また寝るよ。ってか3限からぶっ続けで寝てたしな…」

澪「4限で先生に指されたときはさすがに笑っちゃったよ」

律「あれだろ? 現代文で和が後ろから“暗中模索!”って耳打ちしたのに」

澪「唯、絶対まだ英語の時間だと思ってたよな!」


 唯『あ… Aren't you Mosaku?』


律「ははははは!ww 発音よすぎだろ唯!」

澪「誰だよモサクさん!ww」


律「下手したら唯のあだ名モサクになってるよな、あれ!ww」

澪「唯ってなんであんな絶妙なんだろうな…」


律「ってかさ、なんであんな寝不足だったんだろ」

澪「夜更かしでもしてたんだよ、きっと」

澪(さすがに…言えないよな、昨日のメールのことは)


律「あー、なんかドラマに出てきそうな空だなあ」

澪「ほんとだな」

律「…なんか、うしろめたくなるぐらい青いよな」

澪「うしろめたくなる?」


律「キャラじゃないこと言いそうだからやめとくー」

澪「ったく。キャラとかドラマとか、今さらいいだろ」

律「……なんかつかれたー。みおー。おんぶー」


澪「――えいっ」ピトッ

律「ひゃ?!く、くびつゅめたいっ!」

澪「あはははっ、昔これポカリでやったの律だろ?」

律「わたしそんなひどいことしてないやい!」


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最終更新:2010年07月01日 23:28