波乱があったものの二人のデートは無事に終わった
寧ろ波乱があった事で澪と梓の関係は良い方向へ向かったといっていいかもしれない
唯ほどではないにしろ澪もスキンシップを取るようになり、先輩後輩という垣根も小さくなったようだ
そして澪と梓の恋人期間最終日
今日も二人は手を繋いで一緒に下校していた
澪(ふぅ、今日で最後なんだなぁ……)
梓「……」
テクテク
澪(このまま帰ったらすぐに家ついちゃう…そうだ)
澪「なっ梓、今からちょっと公園でも寄らないか?」
公園
ベンチに座った二人はぼんやりと夕焼け空を見上げている
澪「今日で終わり…だな…」
梓「そうですね…」
何となく言葉数が少なくなる二人
澪はしばらく梓の横顔を見つめていたがゆっくり口を開いた
澪「梓、ありがとな」
梓「えっ?」
澪「こんな恋人期間とかってのに付き合ってくれたこと」
梓「いえ……それは…」
澪「梓と一緒にいれてさ、何かちょっと変われた気がするよ」
澪「だから、有難う」
梓「澪先輩……」
そのまま二人はまた同じように空を見上げた
ベンチの上、二人の指先が重なっている
澪「ん?」
梓「綺麗ですね、空」
澪「そうだな」
澪(凄く綺麗だ)
澪(この景色、私絶対忘れない…)
夕陽が完全に沈む前に梓と澪は別々の帰路へとわかれた
家までの距離を歩きながら、梓は暗くなりかけの空を一人で見上げる
梓(あ、一番星)
梓「………」
そうして唯と澪、二人との恋人期間が終わった
数日後
昼休みの屋上
紬「それで、どうだったかしら恋人期間は」キラッ
梓「!!」グッ
梓「いきなり核心ついてきますね、むぎ先輩…」
紬「うふふふふふ」
梓「んと…最初はどうなんだろって思ってたんですけど。でもやっぱり…」
梓「やってみて良かったです。唯先輩とも澪先輩とも前より仲良くなれたし」
紬「うん、それは良かったわぁ」ニコ
梓「………」
紬「………」
梓「………」
紬「………気持ちは、固まった?」
梓「……!」ドキ
紬「その顔は……もう梓ちゃんの中で答えが出てるって事だよね」
梓「……」コクン
紬「そっか」
梓「でも…でも、むぎ先輩…」
紬「…?」
梓「私やっぱり…どっちかを選ぶなんて出来ないです。そんなの怖いです」
紬「…怖い……かしら?」
梓「だって…だってどちらかを選んだらどちらかを振る事になるんですよ…そんなの、私……」
紬「そっかぁ…どっちかを傷つけるのが嫌なのね、梓ちゃんは」
梓「嫌に決まってます!私にはできないですっ」
紬(梓ちゃん……)
梓「私…どうしたらいいのか…分かんなくって…」
紬「……ううん違うよ、梓ちゃん」
梓「………えっ?」
紬「梓ちゃんのそれは優しさじゃない。二人にとって一番酷いことなんだよ」
紬「どちらかしか選べないのは最初から分かってるもの…唯ちゃんも澪ちゃんも、それを覚悟で今までやってきたんだから」
梓「……でも…」
紬「ね、梓ちゃん思い出してみて。唯ちゃんも、澪ちゃんも、きっと梓ちゃんに対して全力でぶつかってきてくれたはずだよ」
梓「……あっ…」
紬「だから今度は梓ちゃんの番。二人に全力で気持ちを伝えてあげなきゃ、ね?」
梓「私の…全力の気持ち…」
梓(わたしのきもち……私の一番大切な気持ちは…)
紬「ほら、行ってきて?お昼休みはまだまだ時間があるもの」
梓(伝えなくちゃ……私の気持ちを…!)
梓「有難う御座いますむぎ先輩っ。私…いってきます!」ペコッ
タッタッタッタッ
紬「………」
紬(頑張れ、梓ちゃん…)
ザッ…
紬「あら?」
律「よ…よぉむぎ!ここにいたのかー探したぞー」
紬「りっちゃん……どうしたの?こんなところまで…」
律「え、えーっとだな…別に用ってほどじゃないんだけどなっ」
紬「ふふふ、変なりっちゃん」
律「あははははぁー」
律「………」
紬「………」
律「あのさ、むぎ」
紬「うん?」
律「………弁当食べるか。一緒に」
紬(……!)
紬「………うんっ!」パァァ
―――-タッタッタッ
梓(教室にはいなかった……音楽室にいるって言ってたけど…)
教室を訪ねたがそこに姿は無く、教えられた行き先へ駆け足で向かっていく
梓はぁ、はぁ………ついた、音楽室」
何度も何度も深呼吸して気持ちを落ち着ける
そして心の準備を済ませると音楽室の扉に手をかけた
梓「………先輩っ」
思いきって声をかけると机に向かっていた先客はゆっくり振り向いた
開け放した窓から吹く風が長い黒髪を揺らしている
澪「…梓……どうしたんだ?昼休みにくるなんて珍しいじゃないか」
梓「み、澪先輩こそ…何してたんですか?」
澪「私はここで歌詞を書いてたんだ」
梓「そうだったんですか……」
澪「梓は?」
梓「えっ」
澪「私に用事があったんだろ?」
梓「あ、は、は…はいっ!」
澪「うん、聞くよ」
ガタ
澪は席から立ち上がりじっと梓を見た
梓もまっすぐに澪を見つめ返す
澪「………」
梓「………」
しばらくそうしていたが、やがて梓は深く頭を下げたのだった
梓「―――ごめんなさいっ!」
澪「――――……」
一瞬の沈黙が降りる
それは一秒にも満たない時間だったがとても長く感じられた
梓「わたし、私は……澪先輩の気持ちには答えられません」
澪「………」
梓「澪先輩は優しくて、かっこよくて…お姉ちゃんみたいで憧れてて……」
梓「街で絡まれた時もに守ってくれて凄く嬉しかった、先輩に頭撫でられるのも全部全部、大好きだけど…っ!」
澪「もういいよ梓。顔上げて」
梓「でもっ……でも…」
澪「私は梓がそう言ってくれただけで充分だから」
梓「でも……!」
澪「梓…」
深く俯いたままの梓の肩に澪はそっと手を乗せた
そして梓と同じ目線の高さまで合わせて屈み、優しい目で梓を見つめる
澪「そんなに泣くなよ。目が腫れちゃうぞ」
梓「……!」
澪は困ったように眉を下げたが親指でそっと梓の涙を拭った
澪「梓が気に病むことなんてひとつもないんだ。梓には私よりも大好きなやつがいた、それだけなんだから」
梓「澪せんぱい…」グスッ
澪「…それに梓のことだ、どうせまだ肝心の相手には伝えてないんだろ?」
梓「……」コク
澪「なら早く行ってこないと。きっと待ってるぞ」
梓「はい……」
澪「ほら、昼休み終わっちゃう。言うなら早いほうが良いんだから急がなきゃ」クイクイ
梓「ちょ……ちょちょ、澪先輩」トテトテ
澪「それじゃ梓、頑張れよ!」
澪「梓が幸せなら私も嬉しいんだからな!」
澪「ちゃんと伝えてくるんだぞーーっ!」
澪に音楽室から送り出され梓はもう一度深く頭を下げた
ごめんなさいじゃなく、今度はありがとうの気持ちを込めて
ひとり音楽室に残った澪は梓が行ったのを確認するとその場にズルズルと座り込んだ
澪「……」
澪(フラれちゃった…)
澪(でも梓は精一杯伝えてくれた…)
澪(私も……精一杯伝えてたから)
澪「―――-ありがとう…」
―――タッタッタッ
梓(澪先輩ありがとう……私頑張って伝えるよ)
タッタッタッ
梓(伝えなくちゃ…)
タッタッタッ
梓(伝えたいのに…)
タッタッ…
梓(………のに…)
タ…
梓「~~~~~っ」
梓「もーーっ、一体どこにいるんですかーーっ!!」
梓「………」ハァハァ
梓(何で見つからないんだろう)ガックシ
梓(って、諦めてちゃ駄目だよね!言うって決めたし、今すぐ伝えるんだもん!)
梓「でもホント一体どこに…」
梓(………)キョロキョロ
梓(……あ)
梓「いた…」
中庭の向こうに見える木の下に、ギターを抱えて座っている人物が見える
足は考えるより先に駆け出していた
梓「先輩…」
タタタタッ
梓「唯先輩っ!!」
唯「あれっ、あずにゃ……ののおぉぉっ」ドサーー
飛びつくように唯の首に抱き着いた梓の勢いに押され二人共々倒れこんだ
唯「い、い、いたた……あずにゃんが急に大胆にぃ…」
梓(勢いつきすぎちゃった…)
唯「あずにゃーん?どしたのぉ」
梓「………」ギュウゥ
唯「…あずにゃん??」
唯(なんか様子がっ)
唯(ど、どしたんだろぉ)
唯「あずにゃ……」
声をかけようとして気付いた
抱き着いたまま離れない梓の体が小さく震えている
唯「あずにゃん?」
ゆっくり体を起こして梓と一緒に起き上がる唯
唯「あずにゃん…どして泣いてるのぉ」
梓「なっ泣いてないですよっ。…泣くわけないもんっ」
唯「でも…」
梓「…唯先輩のせいです!」
唯「ななんとおっっ!!」ガーン
梓「どうしてどうでも良い時はいるのに会いたい時いないんですか!」
唯「え…えと…それは私喜んでいいやら悪いのやらぁ?」
きょとんと不思議そうに首を傾げる唯
どう答えるべきか一瞬悩んだ梓は心の中で意を決した
梓「よ……喜んでください。喜んでくれないと……困ります…」
唯「えっ……?」
チュッ
軽い音がして唇が触れ合った
すぐに顔を離した梓は真っ赤な顔で唯をじっと見つめて言った
梓「わたし唯先輩が好きです」
唯「………」
梓「………」
唯「………」
梓「・……・」
梓「あ、あの、何か言ってくださ」
ドサァーーッ
梓「…って、ゆゆ唯先輩!?」
唯「ほっ…ほんとに?ほんとのほんとっほんとにっ」
梓「ほ、本当ですってば!こんな嘘言えませんっ」
唯「ほ、ほ、ほほほほんとうなんだぁぁ…!」ギュウウウ
梓「ちょっ…唯せんぱい重いし苦しいですよ…」
唯「やぁだぁ離したくないぃぃ」ギューッ
唯「私もあずにゃんが大好きだよぉぉ」
梓「………ほんとにもう…///」
…ギュウ
梓は恥ずかしそうにしながらも、しっかりと唯の体を抱き締め返した
ずっと与えられ続けてきた気持ちをようやく返していく事ができる
それだけで嬉しい
暫く二人で抱き合ったままいたが、不意に唯が思いついたように言った
唯「ねぇあずにゃん、ちゅーしよっか」
梓「……///」
梓「……はいっ」
おわり
最終更新:2010年07月03日 04:51