教室

律「なあ、梓全然こないじゃん。1週間以上休んでるぞ」

澪「……この前のやりすぎたかな?」

律「そんなことないだろ。私達はただ唯を変な目で見るのを止めろって言っただけじゃん」

澪「それが梓にとって大したことだったんじゃ……。それにアレ、勝手に捨てちゃったし」

律「だって唯に渡すわけにいかないだろ。あんなの見たら気持ち悪いに決まってる」

律「だからって梓に返したら意味ないし、私達が持ってたって……つーか捨てたのは梓にはわからないだろ」

澪「うん……」



紬「……」


紬(この手帳、梓ちゃんに返してあげようと思ってたけど)

紬(その前にもう一度唯ちゃんに見せたい)

紬(私が出しゃばるのはおかしいかもしれないけど……)

紬(これには梓ちゃんの気持ちがいっぱいつまってるんだもの。唯ちゃんだってわかってくれるよ)

紬(梓ちゃんが告白した?あの日から大分時間が経ったし、今なら唯ちゃんも落ち着いてるはず)

紬(唯ちゃんを呼び出してみよう)




空き教室

唯「ムギちゃん」

紬「ごめんね、突然こんな所に呼び出しちゃって。びっくりした?」

唯「ううん……」

唯(あずにゃんに告白された教室だ。寄りによって同じ所を選ばなくても……)

紬「梓ちゃん、こなくなっちゃったね」

唯「えっ!?う、うん。どうしたのかな」

紬「やっぱり唯ちゃんに振られちゃったからかな?」

唯「な、何で知ってるの!?」

紬「やっぱり。本当に告白したんだ」

唯「え……あ!」

紬「ごめんね、カマかけちゃった♪」

唯「でもどうして気づいたの?」

紬「私、梓ちゃんが唯ちゃんを好きって事は教えてもらってたから」

紬「その時に、梓ちゃんのしている恋は難しいから焦らないでねって言ったんだけど……」

紬「その翌日に突然こなくなっちゃうんだもの。あんなに唯ちゃんの事好きだった梓ちゃんが」

紬「これは絶対おかしい!って思ったの。唯ちゃんとの間に何かあったに違いないって」

唯「……」


紬「梓ちゃんが来なくなって、どう?」

唯「どうって……。寂しいに決まってるよ」

紬「そっか。よかった」

唯「よかったって何が?」

紬「唯ちゃんが寂しいって言ってくれたから」

紬「梓ちゃんの事嫌いになってないってわかって、安心しちゃった」

唯「私はあずにゃんの事好きだし大切だよ。嫌いになんてなってないよ」

紬「唯ちゃんの好きと梓ちゃんの好きが違う種類の物だっただけだもんね」

唯「……」

紬「でも、おかしいよね。なんで部活にまで来なくなっちゃうんだろう」

唯「それは、私があずちゃんを振ったから……」

紬「そうかな?私は違うと思うんだ」

紬「だって振られただけだもの。それで皆の前からいなくなるのは極端じゃないかな?」

唯「その私が振ったっていうのが、あずにゃんにとって」

紬「ショックだったと思うけど、梓ちゃんはわかってたと思うの。うまくいく可能性が低い事は」

紬「それを覚悟で告白したなら、こんなことになるのは変じゃないかな」

唯「……」

紬「梓ちゃんって、私達先輩にもどんどん意見を言ってくるから強気な子に見えるけど」

紬「本当は臆病で、素直になれない女の子な気がするの」

唯「あずにゃんが?」

紬「梓ちゃんって、いつも唯ちゃんに注意したりスキンシップを嫌がってたけど」

紬「それでも唯ちゃんと一緒にいると嬉しそうだったもの。周りから見ればすぐにわかるんだから」

紬「唯ちゃんに構ってもらえて嬉しいのにあんな事言って。意地っ張りで照れ屋さんだよね」

唯(そうだったんだ……。私には全然わからなかった)

紬「そんな梓ちゃんが、突然唯ちゃんに素直に好きですって伝えるなんて……ちょっと不自然だなって思ったの」

紬「どうして突然告白したのかは、梓ちゃんじゃないとわからないけどね」

唯「……」

紬「それでね、唯ちゃんに見せたいものがあるの」

紬「はい」

唯「これ……あずにゃんの手帳。なんで持ってるの?」

紬「ゴミ箱に捨てられてたの」

唯「ゴミ、箱?なんで……」

紬「わからない。でも、梓ちゃんは絶対にそんなことしないと思うの。それに、捨ててあったのは……」

紬「私達の教室だから」

唯「え……?わ、私じゃないよ!私知らないよ!」

紬「うん、唯ちゃんはそんな事しないって信じてる」

唯(……)

紬「唯ちゃんが好きっていうのを教えてもらった時、梓ちゃんとお話したんだけど」

唯「うん……」

紬「唯ちゃんの事本当に好きなんだなっていうのが伝わってきて、すごく可愛かった」

紬「すぐに抱きついてきて困ります!なんて言ってたけど、顔は微笑んでてね……」

紬「唯先輩は私の事どう思ってるんでしょうか?なんて私に聞いてきたりね」

紬「私が2人は恋人みたいに見えるねって言ったら、顔真っ赤にして照れてたの」

紬「こんな些細な事で喜んじゃう梓ちゃんを見てたら、なんだか私までポカポカしてきちゃった」

唯「そう……なんだ」

紬「ねえ、その手帳もう一度見てくれる?」

唯「うん……」

ペラッ

唯「……あ」

唯「なんかたくさん書き込んである……」

紬「うん。私もこの前はシールにばかり目がいって気づかなかった」


『唯先輩との初写真』

『×月×日、唯先輩と二人で……』

『唯先輩かわいい♪』


唯「……」

唯(絵も描いてある……。ヘアピンしてるのが私で、ネコ耳つけてるのがあずにゃん?)


紬「どう?」

唯「……」


紬「梓ちゃん、どんな気持ちだったのかな……」

紬「どんな表情で書き込んでたのかな……」

唯「……」

紬「その手帳には梓ちゃんの想いが詰まってる気がして」

紬「だから、もう一度唯ちゃんに見てもらいたくなって、持ってきたの」

唯「……」

紬「梓ちゃんの事受け入れてって強要してるみたいになっちゃったね……ごめんね」

唯「うっ……ひっ……」グスッ

紬「あ……」

唯「うぅぅ~……うっ……」

紬「唯ちゃん、どうしたの?」

唯「わ、わからない……。けど」

唯「見てたら……涙が、出て……うぅ」

紬「梓ちゃんの気持ち、伝わってくるね……」グスッ

唯「どうしよう……。ボロボロになっちゃった」

唯「あずにゃんの、大切なの……ボロボロになっちゃったよぉ……」

紬「……」

唯「うっ……うぅ……」ヒック


紬「落ち着いた?」

唯「うん……。ムギちゃん、あのね」

紬「何?」

唯「私、あずにゃんのこと振ってないんだ」

紬「え?どういうこと?」

唯「告白の返事しないで、逃げ出したから……。でも、振ったようなものだよね」

紬「どうして逃げちゃったの?気持ち悪かったから……?」

唯「違うよ!なんていうか、突然告白されて、わけわかんなくなっちゃって……」

紬「そうなんだ……。そういうことなら、もう一度きちんとお話したほうがよくないかな?」

唯「うん……」

紬「付き合うか付き合わないかは唯ちゃんが決めることだけど、ちゃんと答えてあげよう」

唯「そうする。ムギちゃんありがとう、色々教えてくれて」

紬「ううん、私こそ出しゃばってごめんね。……元の軽音部に戻れるといいね」

唯「……うん」


ブブブブ

梓(メール……唯先輩から!?)

梓(もう一度話がしたい、明日の朝部室で……)

梓(ああ……。そういえば、はっきりと振られたわけじゃなかったもんね)

梓(明日きっぱりと断ろうってことなんだろうなあ……)

梓(ちょうどいいや。そしたら私も退部するって伝えて、お別れしよう)



翌日

唯「……」

梓「……」

唯「あずにゃん」

梓「は、はい」

唯「この前はごめんね。いきなり逃げちゃって」

梓「いえ……いいんです。こちらこそ、先輩を不快にさせちゃってすみませんでした」

唯(あ……)

唯「ち、違うよ。この前はそういう意味で逃げたんじゃなくて、気が動転しちゃって」

梓「あはは……。そんなに気を使ってもらわなくて大丈夫ですよ」

唯「ほんとだよ!」

唯(前レズが異常とか、鳥肌が立つとか言っちゃったからだ……)

唯「その、前女の子同士が変とか言ったのは、考えなしに言ったっていうか、本当に嫌なわけじゃないんだよ」

梓「はい……」

唯「えっと……。あずにゃんと話したいことっていうのは、この前の返事の事なんだけど」

梓「はい。お願いします」

唯「……」

唯「ごめんなさい」

梓(ああ……)

梓「……はい。結構すっきりしました。えへへ」

唯「私、今はあずにゃんと付き合えない」

梓「はい……え?」

梓「あの、今ってどういう意味ですか?」

唯「あ、それは今から言おうと思って……」

梓「あ、はい。すみません」

唯「私、今まであずにゃんの事恋愛対象として考えたこと無かったの」

唯「だからあずにゃんに告白された時、すごくびっくりしたんだ」

梓「……」

唯「それで、あの時逃げ出しちゃったんだけど……。その後であずにゃんの気持ちを知って」

梓「私の気持ち?」

唯「あ、えっと……怒らないでね?あずにゃんが持ってた写真と手帳見ちゃった」

梓「……」

唯「ご、ごめん」

梓「いえ、続けてください……」

唯「それ見たり、ムギちゃんからあずにゃんがどれだけ私の事好きなのかって事教えてもらって」

唯「……嬉しかったよ。すごく」

梓「……」

唯「あずにゃんがどれだけ私の事を想ってくれてるのか伝わってきたよ」

唯「それにあずにゃんの気持ち考えたら、胸が苦しくなってちょっと泣いちゃった」

梓「……」

唯「好きって言ってくれてありがとう。本当に嬉しいよ」

唯「私もあずにゃんのこと大好きだよ。でも、まだあずにゃんと同じ気持ちじゃないと思うんだ」

梓「私と同じ、ですか?」

唯「うん。私はあずにゃんの事好きけど、この気持ちってまだ恋じゃないと思うんだ」

梓「……はい。あくまで後輩、友達としてって意味ですよね」

唯「あ、そうじゃなくて……。あずにゃんの気持ちに応えたいって思ったの。だからただの好きじゃないよ」

唯「うー、うまく説明できないよ」

梓「つまり……唯先輩は私の事が好きなのか自分でもよくわからないって事ですか?」

唯「そういうことなのかも……あはは」

梓「今みたいな半端な気持ちじゃ私と付き合えない……」

唯「そういうことだよ!」

梓「……」

唯「あずにゃん、怒ってる……?」

梓「いえ、どちらかというと呆れてます」

唯「あうう……」

梓「そんな保留みたいな事されて、私はどうすればいいんですか」

唯「とりあえず、今までどおりでいいんだよ!また皆で一緒にいようよ!」

梓「でも、私が行ったら部内の雰囲気が……」

唯「澪ちゃんやりっちゃんは、私とあずにゃんの関係が悪くなるのを心配してたんだよ」

唯「だから、私とあずにゃんが仲良くしてれば大丈夫!」

梓「ええっ……仲良くって言われても、私はついさっき振られたばかり……」

唯「だから、今は付き合えないっていっただけじゃん!そのうち付き合うかもしれないよ?」

梓「えっ……」

唯「じゃあ早速教室へ行こー!私達はラブラブだよってりっちゃん達に教えなきゃ!」

梓「ちょ、ちょっと唯先輩引っ張らないでください!」




教室

澪「……」

梓「……」

紬「わぁ♪」

律「どういう事?」

唯「こういう事です!」フンス

紬「ラブラブねー♪」

澪「何があったんだ?」

唯「あずにゃんに告白されました」

澪「は……?」

唯「交際目前です!」

律「はぁ!?」

唯「ということで、今まで通りでよろしく!」フン

梓「よろしくお願いします……」

律澪「……」


律(梓のやつ、唯に告白したのか……)

澪「唯、本当にいいのか?」

唯「うん。2人とも心配しなくて大丈夫だよ」

律「まあ、本人が良いなら私達は何も言わないよ」

澪「……」

律「梓、悪かった。唯を諦めさせようとして」

澪「わ、私もごめん」

唯「え?」

梓「……えっと、何の事ですか?よくわからないです」

紬「これでまた皆一緒ね♪」



こうして私は軽音部に戻ることになりました。
唯先輩には振られちゃったけど、交際目前なんて言ってるし期待しても良いのかな?
私の我侭で皆には迷惑かけちゃったけど、告白してよかった。ムギ先輩に憂、純、ありがとう。

あの後律先輩と澪先輩が謝ってくれて、仲直りできました。昔よりもっと仲良しになりたいな。
そして唯先輩とも、違う関係になれますように……





最終更新:2010年07月08日 22:07