梓「はい、一ヶ月ぶりの休みです」

澪「そんなに働いてるのか。辛くないのか?」

梓「まあ自分で選んだ道ですし、これくらいは普通だと思ってますよ」

澪「すごいな・・・」

律「今や若者に大人気のバンドだもんな。お前が出演する番組、私もいつも見てるよ」

梓「ありがとうございます」

梓「・・・」

梓「最近の私たち、どう思いますか?」


澪「どうって言われても。すごいと思うけど」

梓「どういう風に?」

澪「いい歌詞だし曲もいい。相変わらず梓のギターはうまいしな」

梓「そうですか・・・」

澪「何か納得いってない感じなのか?」

梓「売れれば売れるほど、やりたいことができないんです」

梓「弾きたい曲、歌いたい歌詞そんなものはひとつもありません。av○xが用意したものを私たちが演奏するだけ」

梓「言ってしまえば私たちが演奏する必要なんてないんですよ。売れればいいんですから」


梓は澪達には理解し難い悩みを打ち明ける。

梓「私たちはロボットと同じです」

澪「そんなこと・・・」

梓「なんだったら本当にロボットに歌わせればいいんです。どうせ売れるんだから」

澪「そんなこと言うなよ。梓のおかげで給料をもらってる人だっているんだ。事務所の人たちとか」

梓「その人たちのおかげで自由を奪われるんですから皮肉ですよね」

澪「梓・・・」

梓はメジャーデビューしてからというもの、荒んだ考えを持つようになった。


それまで黙って梓の言葉を聞いていた律がゆっくりと口を開いた。

律「実るほど頭を垂れる稲穂かな」

突然わけのわからないことを言い出した律に、澪と梓は呆気に取られる。

律「お前が毎日毎日、うまい飯を食べられる理由をもう一度よく考えてみることだな」

梓「え・・・?」

律「お前が暖かいスタジオでぬくぬくと練習してる間にエイベ・・・なんとかの人たちは汗水たらしてお前らのバンドを売り込んでるんだ」

律「梓は知らないかもしれないけど、全国のCDショップではわざわざお前のためにコーナーを作ってくれてるんだ」

律「CDが売れるように、違法にダウンロードされないようコピーガードを改良してる技術者もいるだろうさ。あまり効果は上がってないみたいだが」

律「お前のCDを一枚売るために、一体何万人の人間が寝ないで働いてるんだろうな」

律が話終えると、屋台は静寂に包まれた。


静寂を打ち破るように、梓が立ち上がる。

梓「ご馳走様でした」

澪「お、おい!今日は休みなんだろ!もっとゆっくりしてけよ!」

梓「いいえ、帰ります」

澪「律も言いすぎだぞ!梓に謝れ!」

梓「謝らなくていいです」

澪「え?」

梓「今から営業行ってきます」

律「そうか」

梓は深々と頭を下げた。

梓「律先輩、ありがとうございました」

律「いいから早く行け。もう6時だぞ」

梓「はい!澪先輩もありがとうございます!ではまた!」

律の言葉で梓が心を入れ替えたのかどうかは定かではないが、
次に出したCDの売り上げが200万枚を超えた。
梓にとって初のミリオンどころかダブルミリオンである。



澪は相も変わらず、屋台に通っていた。
今日はやけに賑やかな声が響いている。

澪「よっ、今日も来たぞ」

唯「あー!澪ちゃん!」

澪「唯!さっきから騒がしかったのはお前だったのか!」

唯「ぶーそんな言い方ひどいよー」

澪「相変わらずだなあ唯は」

律「少しは落ち着きを持ってもらいたいものだ」

唯「えへへ」


澪「唯は今何してるんだ?確かFラン大を卒業したんだよな」

唯「ふふふ、澪ちゃん。わたくし平沢唯はなんと来年から国家公務員なのです!」

澪「嘘だろ?」

律「マジだよ」

唯「はっはっは、今はフリーターだけど来年からは国のために働くんだよ」

律「調子のいい奴め。半年前は死にそうな顔してここに来たくせに」

唯「あれは勉強が大変だったからだよー!」


澪「国家2種か?まさか、1種・・・?」

唯「ふふふ、自衛官幹部候補生だよ澪ちゃん」

澪「自衛官?唯、自衛官になるの?」

唯「うん」

澪「無理だろ」

唯「無理なことないよ!愛国心、国を守りたい気持ちは誰よりも強いんだから!」

律「まあ、そう気張るなよ唯」


唯「別に気張ってないよ!」ふんすふんす

律「肩の力を抜けってんだよ」

律「大体お前みたいなぺーぺーに国を守れるとは思えないな」

唯「ひ、ひどいよりっちゃん!」

律「いいか唯。お前みたいな新人に国を守ってもらおうなんて誰も期待しちゃいないよ」

律「まずは家族を守れるようになれ」

唯「家族を?憂とか?」


律「そうだ。家族を守れるようになったら次は恋人、親友、友だち、親戚、知り合い、そうやって自分が守れる範囲を広げていくんだ」

律「それがどんどん広がっていって、ついには国を守れるようになる。まあ、これは10年やそこらでできるようなことじゃないだろうけどな」

唯「まずは家族・・・うん、わかった」

唯「ありがとうりっちゃん。今日はもう帰るね。来年のためにトレーニングしとかなきゃ!」

律「ああ、それと唯。愛国心だけは絶対に忘れるなよ」

唯「合点承知の助」

唯「それじゃあね澪ちゃん!よーし頑張るぞー!おー!」

このときの3人には知る由もなかったが、
30年後唯は一般大学卒女性自衛官として、初の陸自幕僚長となる。
今だ男尊女卑、防衛大卒支配が強い自衛隊の中では異例のことだった。





最終更新:2010年10月05日 01:23